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リアクション
この希望ある世界で 8
「…………ここは……」
早川呼雪は自分が見知らぬ世界に立っているのに気づいた。
知っているはずのパラミタなのに、けれど、知らない場所だ。
そしてそれは単なる記憶で、歩く度、無数の悲しみや、喜びの声が飛び交った。
ここはパラミタなのか? いや、そうでないのか?
彼には分からない。しかしやがて、彼は一つの場所にたどり着いた。
そこは、創造主の核だったのか。
光の渦巻く空を越え、海を越え、たどり着いたその世界には、一人の少女だけがうずくまっていた。
今や、誰もその世界にはいない。光だけがあって、無数の記憶と感情だけが、巡り廻っていた。
(ああ……)
このとき、呼雪はそれが誰であるかを悟った。
知らされた、というべきか。伝えられた、というべきか。
世界にはその子だけがいて、個が集であり、集が個だった。
少女はずっとそこで泣き続けていたのだ。今まで、ずっと。
(俺達の悲しみを、この子が背負ってる……)
全ては彼女に委ねられ、それが故に、一個の核となった。
創造主は生まれた。記憶のもとに。悲しみのもとに。希望の思い出とともに。
でも――
「もう、大丈夫だよ……」
呼雪はその子を抱きしめた。
強く、支えるように、包みこむように。そうして、少女の心を解放しようとした。
「もう、苦しまなくていいんだ……」
そう、全ては――
喜びも悲しみも、全てはこの時の為にあったのだ。
そしてこの瞬間もまた、いつかの時の為にある。それが繰り返される。
新しい未来へ向けて。未知なる世界へ向けて。
……終焉は訪れない
呼雪がそう願い、そう祈りを届けたその時。
光の世界の膜は崩れ、弾け飛び、閃光が眩く辺りを包みこんだ。
そして一瞬の世界。その時、呼雪は自分の腕の中で泣いていた少女が、そっと離れ、静かに微笑んだのを見た。
(これで良かったんだな……これで……)
少女は消え去り、この世は眩く輝く。
◆ ◆ ◆
そして、呼雪は赤子を連れて、仲間達のもとに帰ってきた。
「ちょっとちょっと呼雪、その子、いったい何なわけ?」
彼のパートナーのヘル・ラージャが尋ねる。
呼雪は赤子の頬を撫で、眠たそうに身じろぎするその子に微笑みながら、こう言った。
「この子は『ミライ』。俺達と契約した、新しい子どもだよ」
「え…………?」
目が点になる契約者達。
そして。
「えぇぇ――――――――――っ!!??」
目が飛び出さんばかりに仰天する彼らの前で、呼雪は微笑む。
彼の腕の中で、小さな赤子はすやすやと穏やかな寝息を立てていた。