校長室
リアクション
◆ ◆ ◆ (グィネヴィアは無事だろうか……?) 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はふと、そんなことを思った。 戦いの最中、不謹慎であると感じるかもしれない。しかし、彼の心はその一瞬、別の場所で同じようにこの世界の為、戦っているはずのグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)へと飛び、その恋慕にも似た気持ちに思いを委ねた。 宵一はこの戦いで死を覚悟していた。 すでに身体はボロボロで、満身創痍である。 たった一人、部隊の特攻役を申し出て、仲間達の為に道を切り開いた。 だがその為に、宵一の身体はすでに限界に達しつつあった。 「リーダぁ〜……大丈夫でふかぁ……」 宵一の援護に務めていたリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、涙ぐみながら尋ねる。 どうにか笑顔を浮かべ、宵一はその小さな相棒を見た。 「ああ、大丈夫だ……」 「うぅ……で、でもでもっ……全然、そんなふうに見えないでふぅ〜……」 リイムは、宵一が無理をして笑顔を作ってることに気づいていた。 まるで、宵一がこのまま消えてしまい、遠くにいってしまうような。そんな感覚さえ覚えた。 彼が愛用していた神狩りの剣をリイムに掲げて見せたのは、その時だった。 「リーダー……?」 「リイム……、もし俺に何かあったとき、その時は、お前がこいつを使うんだ……」 「そんなっ……! リーダーっ……!」 リイムは信じられないというように目を見開く。 しかし、宵一は最初からそのつもりだった。 その為に、リイムにこれまで、数多くのことを教えてきたつもりだ。 それは戦い方だけでなく、戦いにおける心の在り方さえも――。 だが…… 「そんなのダメでふ! リーダー!」 リイムは宵一に向けて、初めて強い怒りを向けていた。 「リーダーには生きてもらわないとダメなんでふ……! 何を弱気になってるでふかっ! それでも……! それでも、賞金稼ぎの十文字宵一なんでふかっ!?」 「リイム、お前……」 「リーダーが弱気になったらダメなんでふ! みんな、生きるために希望を持って戦ってるでふ! だからリーダーも戦わないといけないんでふ! 死ぬためじゃなく、生きるために!」 リイムは強い眼差しで宵一を睨みつける。 その時、宵一は悟った。 (もしかしたら……教えられてたのは……俺だったのかもな……) リイムと共に歩み、共に生き、教えられてきたことがたくさんある。 救われてきたことも、たくさんあった。それがいま、息づいている。彼の心の中で。 「…………分かったよ、リイム……。俺は……!」 宵一は剣を支えに立ちあがり、二本の足で地を踏みしめた。 「俺は生きるよ、お前と一緒にな……」 「……はいでふっ!」 リイムは笑う。その目に、嬉し涙を浮かべながら。 そして二人は戦った。リイムは二挺のアイオーンの拳銃を手に。そして宵一は神狩りの剣を手に。 その互いの獲物は、絶対に離しはしなかった。 ◆ ◆ ◆ 「邪魔する奴はぶっ倒す! 文句あるならかかってきやがれ!」 そう言って気合いを入れて敵を斬り倒すのは、柴崎 拓美(しばざき・たくみ)のパートナーのアース・フォヴァード(あーす・ふぉう゛ぁーど)だった。 彼の戦いはまさに猪突猛進である。何の小手先のまやかしもなく、ただひたすらに、真っ直ぐに突き進む。 そんな彼の戦いを、拓美が傍でサポートしていた。 「アース、あまり無茶はしないようにね。僕も怪我人が増えると大変なんだから」 そう言いながら、拓美は周りの怪我人に対して治癒の術を施す。 光の魔法は相手を包みこみ、その傷を力強く癒していた。 「わぁってるって! そりゃあぁっ!」 果たして本当に分かっているかどうかははなはだ疑問だが、アースは迷いなく敵を斬り倒す。 光の人型は叩き斬られると霧散して消えて、残るは数体のみになっていた。 「さてと、連中、どう出るもんかな……」 アースはそう言いながらにやりと笑った。 戦いは好きだ。こんな時でも、身体が動かせるというのは喜びに結び付く。 拓美は創造主のほうに目をやり、色々と逡巡するような顔をした。 「どうやら話し合いは通じないみたいだね。人型はまだまだ出てくるよ」 「うへぇ……勘弁してくれよな……」 げんなりとするアース。 拓美はそんないつも通りの彼に、ふと笑みをこぼした。 (アースとの出会いも、その他の仲間達との出会いも……僕にとっては宝物です……。どうか、この宝物がなくなりませんように……) 祈りは、光に乗せて世界産みの儀式へと届く。 その力は、誰もが希望と呼ぶものだった。 |
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