空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この希望ある世界で 2


「ここは大真面目にいかないとね……!」
 パンパンっと、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は自分の頬を叩いた。
 彼女が買って出たのは、仲間達の道を切り開く壁役だった。
 自分は攻撃をあまり得意としていない。
 だからこそ、皆の役に立つ為にどうしたらいいかと考えたとき、ミルディアの答えは皆を守ることだったのだ。
「いくよ、真奈!」
「ええ、この世界に関係があるのでしたら、私も黙ってはいられませんわ!」
 ミルディアの声に、和泉 真奈(いずみ・まな)はそう受け答える。
 彼女もまた、このパラミタの世界で生きる一人だ。決して、無関係であると目を逸らすことはしなかった。
 防御を固め、スキルでバリア能力を底上げして挑む、防御陣形。人型の放つ波動を受け止め、盾で光の剣とぶつかり合った。
「くっ……!! うあぁぁっ!!」
 相手を押し返して雄叫びをあげるミルディア。
(負けられない……! 負けられないんだから……っ!)
 決死の覚悟で挑む彼女を、真奈の回復術が癒した。
 無論その時、ミルディア以外にも、仲間のために壁になろうとする者がいた。
(創造主への説得を考えるにしても、武力行使は避けられない……。ならば! その為の道を自分が作るまでであります!)
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)その人である。
 彼はパートナーのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)と連携し、銃剣銃を用いて戦闘を射撃戦に持ちこんでいた。
 もちろん、それには二人の息がぴったり合ってることが不可欠だ。銃撃の雨を避けて現れた敵には、ヒルダが白兵戦を挑む。
 彼女の剣技が炸裂し、人型は無残にも光条世界の無へと散った。
「丈二、ここはヒルダに任せて。あなたは向こうの加勢を」
「ええ、分かりましたであります!」
 ヒルダに目線を飛ばすと、丈二はミルディア達のほうへと向かっていった。
 残されたヒルダは人型の攻撃を一手に引き受ける。が、旋風のように回転したヒルダの剣は、人型を次々と断ち切った。
 丈二は戦いの寸前、エリュシオン皇帝の新皇帝 セルウス(しんこうてい・せるうす)にメッセージを送っていたことを思い出した。
 それは、「後日、お互いに見た景色を語らいながらお菓子でも食べましょう」というお誘いのメッセージだった。
 果たして返事はどうなるか……。今のところは、定かでない。
 だが、丈二はその返答を楽しみに、今の戦いと向き合っていた。
(これが望みだとすれば、そうなのでしょう。心の中にその希望を閉ざし、目の前の事に臨むのも、悪くはないです……!)
 いま、この景色を、同じ空の下で、セルウスも見ているのだろうか。
 丈二はその事を尋ねたいと思い、生きるべく思い、ミルディアのもとに駆けつけた。
「大丈夫でありますかっ!?」
「丈二さんっ! 来てくれたのっ……!?」
 すでに盾もぼろぼろになりつつあるミルディアのもとで、丈二は人型を撃ち貫いた。
「二人とも、大丈夫!?」
 追いかけてきた真奈が、二人に回復術を施す。
 自然が与えてくれる治癒の力に癒されて、ミルディアと丈二は再び元気を取りもどした。

◆   ◆   ◆


(グィネヴィアは無事だろうか……?)
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はふと、そんなことを思った。
 戦いの最中、不謹慎であると感じるかもしれない。しかし、彼の心はその一瞬、別の場所で同じようにこの世界の為、戦っているはずのグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)へと飛び、その恋慕にも似た気持ちに思いを委ねた。
 宵一はこの戦いで死を覚悟していた。
 すでに身体はボロボロで、満身創痍である。
 たった一人、部隊の特攻役を申し出て、仲間達の為に道を切り開いた。
 だがその為に、宵一の身体はすでに限界に達しつつあった。
「リーダぁ〜……大丈夫でふかぁ……」
 宵一の援護に務めていたリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、涙ぐみながら尋ねる。
 どうにか笑顔を浮かべ、宵一はその小さな相棒を見た。
「ああ、大丈夫だ……」
「うぅ……で、でもでもっ……全然、そんなふうに見えないでふぅ〜……」
 リイムは、宵一が無理をして笑顔を作ってることに気づいていた。
 まるで、宵一がこのまま消えてしまい、遠くにいってしまうような。そんな感覚さえ覚えた。
 彼が愛用していた神狩りの剣をリイムに掲げて見せたのは、その時だった。
「リーダー……?」
「リイム……、もし俺に何かあったとき、その時は、お前がこいつを使うんだ……」
「そんなっ……! リーダーっ……!」
 リイムは信じられないというように目を見開く。
 しかし、宵一は最初からそのつもりだった。
 その為に、リイムにこれまで、数多くのことを教えてきたつもりだ。
 それは戦い方だけでなく、戦いにおける心の在り方さえも――。
 だが……
「そんなのダメでふ! リーダー!」
 リイムは宵一に向けて、初めて強い怒りを向けていた。
「リーダーには生きてもらわないとダメなんでふ……! 何を弱気になってるでふかっ! それでも……! それでも、賞金稼ぎの十文字宵一なんでふかっ!?」
「リイム、お前……」
「リーダーが弱気になったらダメなんでふ! みんな、生きるために希望を持って戦ってるでふ! だからリーダーも戦わないといけないんでふ! 死ぬためじゃなく、生きるために!」
 リイムは強い眼差しで宵一を睨みつける。
 その時、宵一は悟った。
(もしかしたら……教えられてたのは……俺だったのかもな……)
 リイムと共に歩み、共に生き、教えられてきたことがたくさんある。
 救われてきたことも、たくさんあった。それがいま、息づいている。彼の心の中で。
「…………分かったよ、リイム……。俺は……!」
 宵一は剣を支えに立ちあがり、二本の足で地を踏みしめた。
「俺は生きるよ、お前と一緒にな……」
「……はいでふっ!」
 リイムは笑う。その目に、嬉し涙を浮かべながら。
 そして二人は戦った。リイムは二挺のアイオーンの拳銃を手に。そして宵一は神狩りの剣を手に。
 その互いの獲物は、絶対に離しはしなかった。

◆   ◆   ◆


「邪魔する奴はぶっ倒す! 文句あるならかかってきやがれ!」
 そう言って気合いを入れて敵を斬り倒すのは、柴崎 拓美(しばざき・たくみ)のパートナーのアース・フォヴァード(あーす・ふぉう゛ぁーど)だった。
 彼の戦いはまさに猪突猛進である。何の小手先のまやかしもなく、ただひたすらに、真っ直ぐに突き進む。
 そんな彼の戦いを、拓美が傍でサポートしていた。
「アース、あまり無茶はしないようにね。僕も怪我人が増えると大変なんだから」
 そう言いながら、拓美は周りの怪我人に対して治癒の術を施す。
 光の魔法は相手を包みこみ、その傷を力強く癒していた。
「わぁってるって! そりゃあぁっ!」
 果たして本当に分かっているかどうかははなはだ疑問だが、アースは迷いなく敵を斬り倒す。
 光の人型は叩き斬られると霧散して消えて、残るは数体のみになっていた。
「さてと、連中、どう出るもんかな……」
 アースはそう言いながらにやりと笑った。
 戦いは好きだ。こんな時でも、身体が動かせるというのは喜びに結び付く。
 拓美は創造主のほうに目をやり、色々と逡巡するような顔をした。
「どうやら話し合いは通じないみたいだね。人型はまだまだ出てくるよ」
「うへぇ……勘弁してくれよな……」
 げんなりとするアース。
 拓美はそんないつも通りの彼に、ふと笑みをこぼした。
(アースとの出会いも、その他の仲間達との出会いも……僕にとっては宝物です……。どうか、この宝物がなくなりませんように……)
 祈りは、光に乗せて世界産みの儀式へと届く。
 その力は、誰もが希望と呼ぶものだった。