空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この希望ある世界で 4


 創造主に一歩、また一歩と近づきながら、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は歯を食いしばっている。
 急流を逆行しているような気分だ。いや急流どころか、重力に逆らって滝を昇っているような、といったほうがいいか。
 それほどに激しい抵抗があり、それほどに厳しい状況下に置かれているということだ。
 そんな中アルクラントが思うのは、残してきたカスパールのことだった。
 ――カスパールには手紙を残してきた……。
 短い手紙だ。『勇気を』とだけ書いたものであったが、きっと伝わるはずと彼は思っている。
 光弾がアルクラントの頬をかすめた。命中していたら致命傷だったろう。幽霊の悲鳴のような音が、彼の耳にこびりついて離れない。
 それでもアルクラントは、いや、彼のみにとどまらない、アルクラントと志をともにする戦士たちは進軍を止めない。止める気などなかった。
 ――どうか、未来へと踏み出す勇気を。君にも、私たちにも。
 以心伝心というものだろうか、このとき彼の妻シルフィア・ジェニアス(しるふぃあ・じぇにあす)も、やはりその手紙のことを考えていた。
 ――勇気、か。時間を越えても護りたかったもの……。結果として戦うしかなかったけれど、その想いは無駄にはしちゃいけないよね。
 進軍は続く。
 想いを乗せて、続く。


 ついにアルクラント・ジェニアスは、創造主を間近で見る場所まで到達した。
 すでにアルクラントは満身創痍、銃弾は尽きかけており、軍服のほうぼうは裂け、細かい傷と汚れで赤黒いものに覆われていた。これで五体満足というこの現状こそ、奇跡といっていいだろう。
 だがアルクラントの眼の光はいささかも曇っていない。いや、死線をくぐり抜け目標に到達したことにより、研ぎ澄まされた剣のように輝きを増している。
 今にも膝を追って崩れてしまいそうなほど疲労しきっていたが、生命力ではなく魂が燃えるような思いが、彼の肉体を突き動かしていた。
 そんなアルクラントをアルティメットクイーン……グランツ教の教祖が冷ややかに見おろしていた。
 クイーンはやや高い位置に浮遊し、アルクラントからシルフィアへ、そしてまたアルクラントへ、それぞれを見比べるように数回視線を動かした。
 値踏みしているようであった。
 確かに現在、アルティメットクイーンはアルクラントたちの協力者となっている。ラズィーヤ救出に手を貸すと公言もしている。
 されどその視線は氷よりも冷たい。いうなればクイーンの美は、液体窒素で凍らせた薔薇の美だ。
 ひとたび落とせば、この同盟関係は瞬間で砕けるのではないか。
 アルクラントは顔を上げ、クイーンの視線をまともに受けた。
「手を貸すに値すると認めた者でなければ、手助けはしないというのか……アルティメットクイーン」
 ならば示そう。
 このときアルクラントは胸を張り、不敵な面構えで、されど長年の友人に語りかけるように言ったのである。
「……さて、クイーン。少しは、未来を信じる気になってくれたかな? 私は当然信じてるさ。そして、未来に伝えなければいけないこともあると思ってる」
 アルティメットクイーンは返事をしない。だが視線を止めたところからも、アルクラントの話を聞いていることはわかる。
「ところで、カスパールの名前に覚えは? ……ないはずは、ないよな。今どうしているかを、あえて語るつもりはないが……カスパールのことを少しでも気にかけるのであれば、力を貸してほしいんだ。彼女が未来を信じられるように!」
 カスパールの名前を出したのは効果があった。
「それは……」
 ほんのわずか、それこそ、体感できぬ電気信号レベルの揺れに地震計が反応する程度にかすかではあったが、アルティメットクイーンはたじろぎを見せたのである。
 ならば迷う必要があろうか、アルクラントは大きく一歩踏み出した。
「私が未来へ伝えるべき言葉。それは、きっと、希望だ。素敵な未来を想う、希望」
 クイーンに目をそらすことを許さない。すでに彼我の眼力は逆転している。アルクラントは万力のごとき眼の力で彼女をとらえ、祈念を送った。
 それは“滅びを望むもの”への祈り。されど、クイーンに向けてのメッセージでもある。
【希望は、必ず継がれていく。人が生き続ける限り。人が死に行く限り。素敵なことだと思わないか?】
 シルフィア・ジェニアスはためらった。
 クイーンとアルクラント、両者が対峙したまま動かなくなったのだ。
 ――クイーン……分かって、くれたのかな?
 この両者の間に割って入ること、それを行うのに逡巡があった。
 されどシルフィアは考え直した。
 これは、対決ではない。
 討論でもない。
 互いにわかりあおうとする意思……共生への道なのだと。
 ――ううん、そうじゃなくても。
 シルフィアは心を決めた。
 ――私は、あなたとも一緒に未来を見てみたい。それだけじゃ、駄目かな?
「私が伝えなきゃいけない言葉……」
 いつしかシルフィアの想いは、口をついて血の通った言葉へと結実している。
「それは……ちょっと恥ずかしいけど、愛」
 シルフィアは祈った。一心に祈った。“滅びを望むもの”に届くように。
【隣にいる人、遠くにいる人。誰かを愛することがつながっていけば、どこまでも届くはず。世界を、愛して】
 アルティメットクイーンは、すべてを理解したようにうなずいた。
 そして彼女は、アルクラントやシルフィアではなく、創造主と対峙するために正面を向いたのである。
 
 アルクラントとシルフィアに知るすべはなかったが、このとき、パラミタに残されたカスパールもまた、両手を握りあわせて祈りを捧げていた。
【ゆうきを……】
 カスパールは祈る。ベッドから半身だけ起こして。
【ゆうきを……ください。わたしに、みんなに……】

◆   ◆   ◆


 ゴッドスピードで創造主のもとまでたどり着いた匿名 某(とくな・なにがし)は、そのまま仲間の契約者達が創造主に心を開くよう呼びかけているのを聞いていた。
 彼はその間、周りを飛び交う、光の人型達を相手にする。
 燃えさかる炎の渦や氷の嵐をくぐり抜けて、某は『潜在能力』を解放させた。
「うあああぁぁぁぁぁっ――――!!」
 それは彼の手にするフェニックスアヴァターラ・ブレイドの力を全開にまで引き出す。
 金属の腕輪であるヴィサルガ・イヴァが光の塵となって弾け飛んだとき、彼は人型を切り捨て、創造主へと突入した。
「食らえ、創造主! これが俺達の力だ!」
 最大のパワーを秘めた一撃は、創造主へと叩き落とされる。
 それを創造主が受け止めたと同時に、ブレイドを通して、その意識や過去の光が某へと飛びこんできた。
 それは、無数の某の記憶だった。いや、あるいは、通り得たかもしれない可能性の世界。見たこともない記憶。
(こいつはっ……!!)
 創造主の中にある、いくつもの某の記憶が、彼へと逆流してきたのだった。
 激しい力に某は押し潰されそうになる。その時、彼を助けたのは結崎 綾耶(ゆうざき・あや)だった。
「某さんっ!」
 吹き飛んだ某を、アブソリュート・ゼロやショックウェーブの衝撃で受け止める。
 爆風にひしゃげ、絶命の表情を浮かべる某を守るために、彼女はセラフィックフィールドを発動。
 『聖詩篇』で防御結界を作りだした。
「大丈夫ですか!? 某さん!」
 心配そうに涙目になった顔でのぞき込む綾那。
「あ、ああ……大丈夫だ……」
 某はそう言いながら、どうにかこうにか身体を持ちあげた。
「くそっ! でも、すぐに奴が……!」
 某は創造主の追撃を警戒して動き出そうとする。
 だが、その時、彼らに降り注いだのは、あの冷徹なグランツ教の主の声だった。

「そこにいなさい、某。でなければ、死にますよ」

 はっと、某と綾那は顔をあげた。
「あんたは……!」
「――クイーン様っ!」
 二人が声をあげたと同時に、創造主が放った光の波動砲を、アルティメットクイーンが受け止める。
 すさまじい爆発音と共に、クイーンはそれを剣の刃で弾き返した。光が消え、残されるクイーンと二人。
 彼女は某と綾那のもとに、悠然と降り立った。
「クイーン様……来てくれたんですね……」
 綾那は感動のあまりに声を震わせてクイーンに話しかける。
 アルティメットクイーンは剣を一太刀振るうと、某達のほうに視線を転じた。
 彼女にはもう迷いがなかった。契約者達を助ける。その事が、今のアルティメットクイーンには成すべき事だというように思えたのである。
「クイーン様……一緒に戦えて、嬉しく思います……」
 綾那が気恥ずかしそうに言う。クイーンは微笑んだ。
「私もですよ、綾那。思えば、あなたはいつも私の傍にいてくださいましたね」
「クイーン、俺も、俺もだよ」
 某が仲間外れはごめんだというように口を挟む。
 クイーンは愉快なものでも見るよう笑った。
「ええ、もちろんですよ、某。あなた方には感謝しています。今の私を教えてくださったのは、あなた方に他なりませんからね」
「とんでもないです、クイーン様……」
「もう、『様』と呼ぶのはおやめください。今は私も一人のパラミタの民……。あなた方と共に戦う、仲間です」
「…………はいっ……!」
 綾那は涙を浮かべながら、笑顔で頷く。
 クイーンはそんな彼女を見つめながら、静かに呟いた。
「その事を……もう一人の友が、教えてくれました……」
「え……?」
 呟かれたその声がいったい何だったのか。それを尋ねる間もなく、クイーンは空を飛んで先に行ってしまった。
 けれど、ともかく……綾那は嬉しかった。彼女とまた戦えること。また横にいられることが。
「行きましょう、某さん。クイーンさんのもとへ……!」
「……ああ!」
 二人はクイーンを追って、駆け出していった。