空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この希望ある世界で 1


 ラズィーヤと花音の相手は、その説得へと動く仲間達が引き受けてくれている。
 その間に、光の中心点である創造主へと、金 鋭峰(じん・るいふぉん)とその部下達が突き進んでいた。
「ゆけっ!! 世界の命運を変えるのだ! 運命は我らの手にある!!」
 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が部隊を率い、創造主へと突撃をかける。
 そのパートナーのレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)は、彼女をサポートするべく様々な作戦を打ち立てていた。
「リブロ様、敵の動きは一定しています。こちらへの陽動が肝要かと」
「うむ……レノアの言う通りだな……。よし、我が部隊よ、全軍進め! 臆するでない! 世界は我らが創るのだ!!」
 リブロはそう言って、部下の隊員達を引き連れると、陽動へ回るために動き出した。
 その間に、金団長は中心部隊で前方へ歩む。
「私達にはまだまだやるべきことが残されている。生きて戻るぞ、皆の者!」
「おおおぉぉっ!!」
 金団長の決起の声を受けて、教導団の部下達は士気を高める。
 光り輝く人型の敵が放つ、強烈な波動や、炎の嵐と氷の突風を受けながらも、彼らは負けじと応戦した。
「団長……!」
 董 蓮華(ただす・れんげ)は我が身より、金鋭峰団長のことを案じて口を開いた。
「ご無事ですか……!」
 ともすれば視界は氷の飛礫や、火焔混じりの熱風によって遮られていた。
 彼らのいる位置は突入集団の最後方部隊、すなわちしんがりにあたる。それでこの状態なのである。最前線の者たちが陥っている苦境はどれほどのものだろうか。
「案ずるな。私はここで倒れるわけにはいかない」
 しかし鋭峰の力強い声、そして不屈の精神の体現たる鷹のごとき視線は蓮華を鼓舞した。
「これは私、金鋭峰ひとりの意志ではない。教導団を率いる者としての責務だ!」
「団長……!」
 蓮華は言葉を喪った。どんな風に畏敬の念に打たれたか、それを表現するすべはもうないと彼女は思う。ただ、現在自分は、愛する男性のそばにいるのではなく、息吹く歴史のそばにいるのだと、そんな風に感じている。
 このとき蓮華の頭上を越え、燦然と輝くロケット弾が次々と尾を曳いていった。
 ロケット弾には標的をとらえるものも、外れて空中で四散するものもあったが、その絶え間ない勢いは蓮華を勇気づけるものがあった。
「煤払いは任せろ、と言いたいが、実際はままならないもんだな」
 ロケットランチャーを担いだ状態で、スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)が言った。
「鋼鉄の獅子本隊と羅参謀長から連絡が入った。イーダフェルト防衛戦もとっくに始まっていて、かなりの激戦になっているようだな。おっと、リュシュトマ少佐からも、シャンバラ儀式場の戦況が伝わってきている。まあ一言で言えば『どこも大変』ってことになるかな」
 スティンガーとて苦しい状況である。今は元気でも、数秒後は死体になって足元に転がっているかもしれないという生死のはざまにある。されどスティンガーは、飄然とした普段の口調を崩さなかった。まるでちょっとした買い物にでも出てきたというかのような。
 それがどれほど、蓮華にとって心強いものであったかは言うまでもないだろう。
 気づけば、蓮華はスティンガーに微笑んでいた。
「………………珍しいな」
「えっ……?」
「お前さんがそんな顔を俺に見せるなんてな。普通、そういうのは団長向けだろ?」
 からかうように笑うスティンガー。
 蓮華も自分では何故かはよく分かっていなかった。
 だが、恐らくは、その刹那の瞬間、これまでの全ての冒険と日々を思い出していたのだろう。
 それはスティンガーと出会ってからの日々だった。教導団に入団してから、彼と導かれるように出会い、契約し、パラミタに降り立った。いま思えば些細な出来事だったかもしれないが、それが今の蓮華を形作っている。団長とこんなにも近く、共に戦う事が出来るようになったのも、スティンガーのおかげだった。
「……ありがとう」
 その言葉はささやかな雨粒のような声だった。
 だから、スティンガーには届かない。けれど、それだけで十分だった。
 蓮華の気持ちはいま、形になったのだから。
「よし、まだまだ先は長いぞ。気合い入れていこうぜ」
「ええ……!」
 二人は頷き合った。


「董大尉っ!? オレ達はこれからどうすればいいですかっ!?」
「そんなこと、私に聞かなくても分かるでしょう! とにかく向かいなさい! 一歩でも近く! 創造主のもとへ!」
「あ、あいあいさーっ!」
 そんな事を言って、董蓮華にお叱りを受けていたのは橘 カオル(たちばな・かおる)だった。
 しかし、彼は何も真面目にやっていないわけではない。彼とて、信ずるものがある。その為に、この戦いを生き抜く所存だった。
「よっしゃー! お前ら、オレについてこいー!」
 馴染みの部下達を引き連れ、カオルは無数の戦火の中を突っ走る。
 先手必勝。イナンナの加護で味方の防御能力を高めたカオルは、そのまま敵陣へと突っ込んでいった。
「ちょ、ちょっとちょっとカオルぅっ! 大丈夫なの〜っ!?」
 カオルの後をついてくるマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が心配して尋ねる。
 彼女に向けて、カオルはぐっと親指を立てて見せた。
「大丈夫だって! なんせオレには勝利の女神様がついてるからな!」
 キランッと白い歯を光らせるカオル。
 マリーアは呆れた目で彼を見返した。
「それって、もしかして梅琳のこと? まったく、結婚が決まったからって浮かれてるわね〜」
「なはははは! オレは勝つ! そして梅琳と結婚式をするんだ! その為の準備はもう整ってるのだー!」
 カオルは拳を握って、勝利の宣言をした。
 そう。彼にとて信ずるものはある。それが婚約者となった李 梅琳(り・めいりん)だ。彼女は今ごろ、カオルとの初夜の為にベッドインの準備をして待っているはずだった――もちろん、彼の妄想に過ぎぬが。
 しかし、人間、信じるものがあれば強くなれる。それはカオルも例外ではなく、彼の心はいま、梅琳との明るい未来へ向けて、前へ前へと突き進んでいるのだった。
「まったく、カオルもお気楽よね〜。でもま、それがいいところなんだけどさ」
 マリーアはそう言ってカオルの後ろ姿を眺める。
 彼女にとってカオルは信ずるべきパートナーだ。互いに結び付き、そうしてここまでやって来た。
 仲間、家族。そしてそれは、これからやって来る未来への希望に通じている。
「オレ達の未来に! この世に梅琳がいたから、梅琳と出会えたからここまでこれた! そして、これからもずっと一緒だー!」
「はいはい……」
 カオルの求愛の叫びを聞きながら、マリーアはやれやれと肩をすくめた。


 その李梅琳のパートナーであるエレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)が何をしているかというと……。
 ――ただいま、絶賛、戦闘中だった。
「エレーネ、お互い機晶姫同士……。最後まで生身の皆を守ろうな」
 そんなエレーネに声をかけたのは、ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)である。
 彼は同じ機晶姫という種族であるがゆえに、エレーネとも心が通い合うような気がした。
 それは決して間違いではなかったようだ。
「…………」
 エレーネはディオロスのほうを向き直ると、無言であるがこくんと頷いた。
 それは了承の印だ。二人は飛び出すと、仲間達を守るために行動を開始した。
「うーん、さすがディオロス。もう友達になってるな」
 相棒の友好能力に感心しつつ、エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)が言う。
 彼の役目は、敵の早期発見にあった。双眼鏡で敵陣を覗きつつ、ブースターで加速してそこに突っ込んでゆくディオロスと、ロケットランチャーをぶっ放すスティンガーを見る。
 ディオロスとエレーネは同時にミサイルランチャーを発射し、敵の人型達に爆発が広がった。
「さて……、俺は俺の出来ることをするか」
 そう言ってエルシュは、近づいてきた敵に光の閃刃を放ちつつ、後ろへとさがった。
 彼が目指すは董大尉と金団長のもとである。二人に創造主のもとへ向かうルートを報告しなければ。
 彼は味方の戦いを見守りながら、最善のルートを発見して伝えていたのだった。
「なにっ!? それは本当か!」
 エルシュから報告を受けた金団長は驚きの様相でそう叫ぶ。
「団長、エルシュさんの教えてくれたルートで向かいましょう。創造主はもうすぐそこです」
 董大尉が進言。金団長はしばし考えた末、彼女の言葉に頷いた。
「よし、では、部隊を分ける。戦闘に特化した者は、私達の道を守るのだ。そして、敵の気を引きつける役目も、他の部隊に担ってもらう」
「分かりました。では、そのように」
 エルシュは頷き、団長の指示を伝えるため、仲間達のもとに動き出した。
 創造主の光に、手を伸ばせば届く。そこまではあともう少しだった。