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リアクション
同時刻 フラフナグズよりいくから離れた地点
「“シュベールト”の反応ロスト……! いったいどうして……!」
“シュピンネ”のコクピット内。
いつもは冷静な彩羽は珍しくうろたえていた。
機体の性能。
パイロットの技量。
それらが並のイコンどころか各校のエース機を凌駕するようなレベルであることは幾度となく見てきた。
味方として同じ戦場に立ち、共に戦いながら。
そんな彼が撃墜されるなど、彩羽には俄かには信じ難かった。
『反応ロストはこちらでも確認した』
うろたえる彩羽の眼前でウィンドウがポップアップする。
ウィンドウに映っているのは来里人だ。
『既にシュバルツタイプを除く“シルト”は破壊されている。つまり、この地点に留まる理由はないということだ』
落ち着き払った様子の来里人。
彩羽はそんな来里人の本心を察する。
「ええ。その通りよ。行きたいんでしょう――“シュベールト”の反応がロストした地点に?」
落ち着きを取り戻し、問いかける彩羽。
それに対し、来里人は首肯で答える。
『機体を破棄して脱出したあいつが潜伏している可能性もある。あの地点は敵勢力圏内だ。ならば救助が必要だろう』
それだけ言うと、レーダー上に表示された光点の一つ――来里人の機体を表すものが動き出す。
キャタピラが土を踏みしめる音がマイクを通じて伝わって来るのに混じり、来里人の声がコクピットに響いた。
『それと彩羽。お前は撤退しろ』
落ち着きを取り戻した彩羽だが、そう言われては再び驚きをあらわにせざるを得ない。
「どういうこと!? 私も行くわ!」
対する来里人はやはり落ち着き払っている。
『“シュベールト”が撃墜された可能性がある――それほどの状況だ。当然、俺達の機体に比肩しうるほどの高性能機やエース級のパイロットがいる可能性が高い』
「だったら尚更よ!」
『これ以上シュバルツタイプを失うわけにはいかない。ましてや彩羽、お前はかつて九校連にいながら俺達についた身だ。ことさら捕虜として捕縛させるわけにはいかない』
淡々と告げる来里人。
彩羽は我知らずのうちに声を上げていた。
「なら来里人……貴方はどうするのよ! 貴方の技量が劣っているなんてことは決してない……でも、“シュベールト”を撃墜したかもしれない相手がいる場所にたった一機でなんて危険だわ! それに……鹵獲や捕縛の危険なら貴方にだって――」
説得しようとする彩羽。
その言葉を遮るように、来里人はたった一言だけ言い放った。
『もしもの時は、機体を自爆させる――それだけだ』
思わず絶句する彩羽。
彼の言葉が苦渋の決断の末のことなのか、躊躇ない決断の結果なのかはわからない。
だが、一つわかることがある。
それは、あの自爆装置で機体を吹き飛ばせば、来里人もただでは済まないということだ。
敵勢力圏内の真ん中で機体を喪失、それどころか自爆に巻き込まれるかもしれない。
彩羽は半ば無意識に操縦桿を倒していた。
護衛機として近くにいた来里人の機体。
それに“シュピンネ”は足早に歩み寄る。
そのまま“シュピンネ”は来里人の機体の肩を掴む。
その時だった。
突如、眩い光が辺りを照らしだす。
同時に“シュピンネ”から数メートルと離れていない箇所に凄まじいエネルギーが炸裂。
瞬時に巨大なクレーターが穿たれる。
「荷電粒子砲による狙撃……!? でもどうやって……!?」
彩羽の疑問ももっともだ。
レーダーを確認しても、近距離に敵機はいない。
中あるいは遠距離ともなればいるにはいるが、システムによる補正なしでまともに当てられる距離ではない。
ましてや現在、“シュピンネ”と彩羽は常に得物を探しているのだ。
レーダーやサポートシステムの類を使っていれば、すぐに“シュピンネ”の知る所となるはずだ。
だが、今撃ってきた相手は“シュピンネ”にすらその存在を悟らせなかった。
「まさか……!」
何かに気付いた様子の彩羽。
思い当る理由は一つだ。
「全部オフラインにして……オールマニュアルで撃ってきてるっていうの……!」
外因の影響を受け易い荷電粒子砲をシステムの補正なしで撃つなど、普通はやらない無茶な戦い方だ。
ただ、“シュピンネ”を相手にするというこの状況ならば、あながち悪手というわけでもない。
すぐに“シュピンネ”を離脱させようとする彩羽。
しかし、それよりも狙撃手の方が速い。
再び、眩い光が辺りを照らす。
そして荷電粒子砲の光条は、漆黒の二機を呑み込んだ。