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エデンのゴッドファーザー(前編)

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エデンのゴッドファーザー(前編)

リアクション



*

「ヒィッ!? これじゃあ建物が持ちませんなッ! お、オレは先に失礼しますぜ、旦那方――」

 冷静沈着に揺れが収まるまで葉巻を吸い続けるベレッタとは対照的に、マルコは椅子からひっくり返る様に慌てて逃走し出した。

「マルコォッ!」
「ヒ、ヒィッ!」

 シェリーがマルコの背に言葉を浴びせる。

「逃げた所で命の保障はできんぞォッ! 死んだら後でゆっくり身体検査をしてやるから、精々その汚い腹ワタをぶち撒けないようにしておくんだなッ!」
「こちらへッ!」

 マルコの影に忍んでいたエアハルトはその姿を晒すと、すかさず密偵を走らせ退避ルートの確認作業をさせ、煙幕ファンデーションを放った。
 重要なのはマルコを生きて逃がすことで、マフィアを血祭りにすることではない。
 イカれたシェリーの声に竦んだマルコの肩を抱き、逃げ出した。

「やはり事が起きるか――ッ」

 爆発、そして停電と同時にカーズの源 鉄心(みなもと・てっしん)はマルコとイコナラチャン――それにシェリーの3択を迫られた。
 守るのか殺すのか。

「鉄心、俺はマルコの護衛に行くぞ」

 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が薄暗い中、肩を掴み、宣言する。

「ならレギーナにも護衛が行くと伝えるッ」

 わかったと二度頷き、これで選択肢は2つに絞られる――。

「房内はイコナラチャンだ――ッ、行けッ!」

 その貴仁はパートナーの医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)に指示し、マルコの退路確保と護衛のために先陣をきった。

「では、そなたもわらわと共にイコナラチャンの護衛じゃ――ッ」

 房内はコクイード・ミスタ(鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう))の手を引く。

「1は良いっ! 5も大丈夫っ! だけど、4――4は駄目なんだよおぉッ! だからシェリーを殺るッ、シェリーを殺るッ! マフィアの数を減らすんだぁ!」
「阿呆ッ、味方が生きて伸びてなんぼじゃろうっ!」

 叱責され、それもそうだと理解したコクイードもすかさずイコナラチャンの元へ。

「行くぞ、レオーネ! シェリーに後悔させてやる――街に戻ってきたことを、腹から捻り出されたことをぉッ!」
「了解、マイ・ボスッ」

 鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)ことレオーネ・シラハッキオはカーズの一員であっても、オチャラティの部下である。
 その忠誠心はマルコに対してよりも深く、強い――。

「ロゼットの姉貴! オレ達ぁどうしますか」

 注射器もメスも入口のチェックで抜かれ、医療器具が大分心細くなったメディカル・ボックスを持つシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)ことシナ・コルレオーネは尋ねた。

「カーズに属してようがこっちは医者だよッ! 死線をくぐったって傷付いた奴を治しに行くんだよッ!」

 医者として名の通っているロゼット・ネエロ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))は自尊心を持って宣言する。

「へへ、流石姉貴」
「とにかく器具を増やさないと始まらない。カウンターまでいってナイフあたりを仕入れてくるよッ!」

 戦闘が始まった戦場を2人は一気に横切っていく。
 頼もしい面々に選択肢を全て埋めてもらった鉄心は、何とか隠し通してもってこれた機晶爆弾を2つ放って更に場を混乱させると、インビジブルトラップを仕掛けながら全員が逃げられる様に手を打ち始めた。

*

 武器がなくとも契約者は1人1人が『一騎当千』である。

「マフィアだろうと『産まれて初めてする喧嘩』は素手ゴロだろうッ! 獲物ばっかつかって訛っちまったのかッ!?」

 逃げるマルコに襲い掛かろうと試みるマフィア達を貴仁は1人、2人、薙ぎ倒しながら露払いをする。

*

 イコナラチャンを守り、退却していく房内が神降ろしで今倒したマフィアは『誰を襲っているか』理解していなかっただろう。
 逃げる者を追う本能で飛び掛かってきたに過ぎない。
 それは後ろから続々続くマフィア達も同じで、コクイードがサイコキネシスで倒れたマフィアを肉壁にし、イコナラチャンと共に退避していく。

*

 カウンターの作りが如何に頑丈であろうと、4つもマフィアが交錯する戦場で身を任せるには心細い。

「いやあっ!」
「ヒィィッ!」

 戦いを知る人間でさえそう思うのだから、カタギの人間には堪ったものじゃないだろう。
 このままでは怯えた彼、彼女らが一か八かの賭けに出、無駄な死を迎えると察したディーラーの1人、羽切 緋菜(はぎり・ひな)は銃撃戦が始まると同時に隠れたカウンターから姿を晒し、手近な死体を物質化した傀儡ので引き寄せ、文字通りの肉壁としてカウンターを更に固めた。
 それは壁としては一定の効果をもたらすのだが、精神状態にとっては逆効果だった。
 傍に死体があるとわかっただけで血生臭さが硝煙の臭いさえ掻き分け、彼らの鼻孔にまとわりついたのだ。

「あ、ダメッ!」

 緋菜が叫ぶが時すでに遅し――。
 恐怖に駆られパニックになった従業員の1人が賭けに出て――撃ち殺された。

「銃撃が収まるまで落ち着いて――そして、それまでは動けないと諦めなさい、死にたくないのならッ!」

 彼らの決意を試すように、緋菜は今しがた撃たれた従業員の死体を糸で引き寄せ、壁にこしらえた。

*

「うがぁッ、いてぇよぉッ!」

 一階のフロアまで下り、目的の場所まで辿りつくと早々に怪我人をこしらえており、押さえてろとシナに命じて、ロゼットはカウンターの裏で手に入れた一本のナイフをメスのように扱って、負傷し野戦病院となっているその場所でウェイターの1人の処置にあたっていた。

「こんな場所にくるからだ。自業自得だと思って痛いのは諦めな」

 銃弾を取り出し、リジェネレーションで傷を塞いでいく。

*

「どけッ!」

 オチャラティは羅刹眼でシェリーを守る無能力者の雑魚を相手にすることなく一直線に向かう。
 逃げようにもレオーナが逃げ道を遮る様に先回りし、対峙せざるを得ない状況を作りこんで、オチャラティが飛び掛かっては仕込んだ暗器で薙いだ。
 が、届かない――。
 自分が地面に体当たりで吹き飛ばされたからだ。

「どけッ!」

 同じ言葉を吐きだすが、今度の相手はレオーナだ。
 邪魔をしなければ仕留められたものを、と言葉にしようとし、レオーナの肩口から滲む血に気付いた。
 フロアではニューフェイスの襲撃だとの声が上がり、入り口から続々と侵入する者が見えた。
 オールドの防衛線は突破され、殺気立ったニューフェイス達の反攻が開始されたのだ。

「こいッ!」

 退路を作り出した鉄心が柱の影から叫ぶと、2人はもうシェリーを見ることなく走り出した。