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エデンのゴッドファーザー(前編)

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エデンのゴッドファーザー(前編)

リアクション

 カジノでの一件が終わると、街は再び火がつくように動き出した。

*

「やれやれ……」

 ヴラディレーナ・モロゾワ(富永 佐那(とみなが・さな))は、自身のロンド直属の個人経営事務所『オフィス・クレムリン』に舞い込んだ仕事を見て頭を振った。
 ロンドのマネーロンダリングを一手に担い、違法DVDで小遣い稼ぎをする彼女か、今度の仕事の『危うさ』に街を離れたい気持ちすら湧き起っていた。

「私はマネロンであって、武器の買い付け商人じゃないって」

 莫大な資金と共に命じられたのは大量の武器、兵器の購入で、それはロンド――否、ベレッタが戦争を起こす気マンマンということなのだ。
 ベレッタがこの街にやってきた時のことを思い出すと、新しい住家とここを離れる手段を早急に探したくなる。
 リングは吹っ飛ばさないと言っても、あくまでリングの形が残っているだけで、中身がどうなっているかの保証は全くないのだ。
 核攻撃でも受けた方がマシとさえ思う。
 だが――好機だ。
 ロンドに所属しながらもマルコ並みに金持ちになる好機なのかもしれない。

「この街の武器、密輸・販売の太いパイプはマルコが握っている。だから――余所に行かずマルコとうまく立ち回れれば――。ああ、ダメ、ロンドの動きを教えにいくようなものね……」

 それでももし、カーズを潰しても街が廻っていくように仕込めたら自分がどこまでゴッドファーザーとか関係なく登りつめられるかを考え出すと、自然と気持ちは落ち着き、前を見据えられるようになった。

*

 エデンで商売しているマネキ・ング(まねき・んぐ)は、商人としてのプライドがこの機に乗じれないかを巡らせていた。

「ようやく師匠のあわびがエデンを救うのですね!」

 マネキの元、物流シェア獲得のため日夜働くメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が声を上げるのだが、そう簡単な話なら今頃自分がエデンの『マルコ』だ。

「……そうか、あれはアワビを蓄えた腹なんだな……」

 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が荷作業をしながら、メビウスに悪戯っぽく言った。

「アワビ! アワビ!」
「まあ、待て。アワビはまだ早いだろう」
「……で、悩んでる所悪いんだけど……。あれ以来武器を売ってくれ、売ってくれってマフィア共がうるさいんだ――」
「迷惑な話だ。そんなのがバレたらカーズの連中に目をつけられるだけだろう。奴ら金の亡者だからな。それよりも今こそアワビの流通を一手に担う大商人にだな!」
「師匠! マフィアも腹が減っては戦ができぬ――ってことですね! 流石です♪」

 ロンド以外にも武器を揃える動きが起きている。
 戦いの前兆は痛いほど目に見える――。

*

 エデンの住民区画にある教会――。
 街の中央にある冒涜した磔とは違う、真に清く正しい教会である。
 神父であるディカルド・オーランド(レン・オズワルド(れん・おずわるど))は哀れな子羊たちを前に高らかに授かった言葉を口にした。

「俺たちは長いこと耐え、マフィアの顔色を伺いながら生きてきた。それがどんなに惨めな生き方か判るか? 毎週行われる集会には、彼らに家族を殺された住民が集まってくる。ここは教会であって、そういう集会じゃねぇんだ――! それでも、心に傷を負った人間が救いを求めて集まる。10人――20人――! 顔なじみの家族がどんどんと死んでいく。もうウンザリだッ!」

 聴衆の1人が立ち上がり、そうだ、と叫ぶとそれがウェーブのように広がり、全員が長椅子から立ち上がって声を上げた。
 それをディカルドは手で制し、再び話し始めた。

「俺達は知っている――どの組織がトップに立っても変わらない、と。弱い奴らは利用され、踏み躙られて死んでいく。残された連はもう――銃を手に取って反旗を翻すこと。これしか残されていない。さあ、立ち上がろう、立ち上がる時だッ! この街をマフィアの手から住民の手に取り戻す為に! 俺達の『声』を聴かせてやれッ!」

 教会の床が、壁が、天井まで震え、それは神が戦いを前に武者震いしているような気持ちにさえした。
 そんな中、ディカルドの後ろから落胆したザミエルが寄ってくる。
 こうも住民の堪えていた爆発の気持ちを感じると、自分の失敗がひどく堪えた。

「ザミエル、おまえには酷な事を頼んでしまったな。判っている。神父が人の死を願う事の愚かさくらい――。だがそれでも願わざるを得ないッ! 俺は神父として街の住民たちの声を聞いてきた。自分の娘が殺された時でさえ『仕方ない』って俺は俺に言い聞かせ続けた。妻にもなじられたさ。まるでスラれた財布と娘を同じにしているってッ! それでも俺はずっと神父として生きてきた」

 ディカルドは唇を噛みしめ、天を仰いだ。

「妻が死んで一人になった時に気付かされたんだ――俺は一体この教会で何を守ってきたんだと。そして、何を守っていくんだと――!」

 ディカルドの決意は後押しする住民がいる限り変わらない。
 今、住民区画も大きく揺れていた。

*

 ロメロの墓の前――。
 佐野 和輝(さの・かずき)は花束を置いて、地面に座り込んだ。

「……そろそろ動くよ。今日はその報告だ」

 アニス・パラス(あにす・ぱらす)が和輝の肩に手を置く――。
 サポートはすると、彼の背中から訴えたのだ。

「いつまでも悲しんでいる暇はないわ。まあ、人間というのは感情があるからこそ、気持ちを固める時間が必要なのもわかるけど……。だからといって久秀がやることも、和輝がやることも――いつもと変わらないわ」

 松永 久秀(まつなが・ひさひで)の言葉に和輝は頷く。

「なあ、リモン。こうやって地面に埋もれているってのはどんな気分なんだ――」
「医者の私に聞く事かね? まあ、そうだな。地面に埋もれて死ぬ気持ちってのは『地面に埋もれて死ぬ気持ち』でしかないだろう。惜しい人物を亡くしたが、私達は契約を守らなければならない。どれだけであろう」

 リモン・ミュラー(りもん・みゅらー)の当たり前の言葉に納得し、和輝は立ち上がる。

「まったく、アンタは面倒ごとを俺に……。まあ、いいさ。そこでゆっくり新しいゴッドファーザーの誕生を見ていればいい」
「よぉし、やろう、和輝!」

 最後にロメロの墓の前に、一本のワインを置いて4人はその場を後にした。

*

 カジノでの一件が落ち着いた後、アリシアの特戦隊が住民に偽装して当事者達にとってしか知りえないような確度の情報が流され、まるでゴッドファーザーになるための情報統制が行われた。
 エデンにやってきて、各々のマフィアで適度に通訳と書記をしていたフリー・ライターはこの出来事を後世に残すための本でこう述べていた。

* * *

 突如やってきたロメロの息子「シェリー」の歓迎会も兼ねたオールドの権力拡大のカジノ・パーティーは久しく起こっていなかった複数での抗争という事態にやはり発展した。
 原因の2つにシェリーと権力拡大があるのは勿論の事だが、大きなうねりを伴った要因はロメロの遺産に他ならない。
 噂話のように拡散したその遺産が夢物語ではなく事実であることは、それぞれのボスが生前のロメロから渡された鍵をもって、彼らの中で証明済みだった。
 我々には関係のない話だ。
 住民区画の者は誰しもそう考え、また夜中にカーニバルが行われるという風にしか思っていなかったが、ブラック・ボックスの中で起きた出来事を誰かが誠しやかとしか思えぬ情報を流したことで、興味を持たざるを得なくなった。
 誰かが言った。
 まるで街の長を決める選挙だな、と。
 だったら銃を持たずに演説をして欲しいと誰もが思う。
 情報の中身はこうだ。
 正解の鍵など存在しない、と最初の一文から全てを否定していた。
 それにも関わらず続いた言葉は、だからこそ全ての鍵が正解と成り得る。
 それだけを見て、下らない宗教の本を見ているようだと吐き捨てた者もいるが、成る程、要するに1つしか開錠できるような『当たり』は存在しないわけで、ロメロの遺産が必ずあるという前提から語るならば、何かしらの要素を持って『どれかの鍵』で開錠できるとも捉えられた。
 そこから続くのは各マフィアの内情とボスの性質だった。
 ニューフェイスが全く持って一枚岩に成りきれないこと――。
 マルコは争いを好まないため、わざとレプリカの鍵を作り、それを自分のお眼鏡に叶った女に手当り次第渡しているということ――。
 他の鍵はオールドの2人のボスがそれぞれ持っており、ベレッタは肌身離さず持ち歩いている。
 それは全てマルコが既に莫大な金を抱えて『弱虫毛虫』の性格をしていることが原因だろうと。
 ロンドはゴッドファーザーへの興味よりも戦う事にしか興味がないと言う一文は、彼女が街にやってきた時のことを思えば誰もがそう思う。
 そして肝心要のオールドの情報はロッソの死から始まった。
 ロメロ、ルチから続く『寝首物語』にロッソも名を連ねる事になったのは、仕方がないことなのかもしれない。
 新たにオールドを仕切っているのは2名というのも驚きだ。
 どうやってオールドという最古最大のマフィアを統制していくのか、懸念事項は多いものの、1つの首をとったところでオールドが滅びないという点は住民を落胆させた。
 そしてニューフェイスのシェリーも死を迎えたという話だが、こちらはカジノの崩落によって遺体の確認ができず『アンノウン』として処理すべきだという忠告もあった。
 最大の問題は、既に第5、第6の契約者を中心にしたマフィアが産声を上げ始めた点だろう、と締めくくられ、私達はいつの間にか名探偵張りの口調と推理合戦を始めていた。
 ロンドは間違いなく戦争に動くだろう。
 今頃部下は武器・兵器の調達に走り、ベレッタは自身と味方の士気を高め戦場に赴くはずだ。
 そして彼らは『聖戦』に臨むわけだから、徹底的に内部の裏切り者を排除する動きを見せるだろう。
 少しでも不安材料を取り除きたいはずだ。
 カーズは相変わらずだ。
 この機に乗じて武器を高値で売りつけて儲けに走るし、心がガンガン昂る『お薬』も調達し、死を恐れぬ兵隊のサポートに徹するはずだ。
 鍵も分散させていて、間違いなく自分だけが狙われる状況は回避しているだろうし、自由に動いてくる。
 オールドはボスが変わって幾らかは構成員が離れるだろうが、それでも彼らには『次』の機会が必ず訪れることが確定している。
 次に戦争をし、更に続けざまの連戦に持ち込めれば勝機がある。
 そのための『二頭体制』だ。
 不安材料はボス間での対立で早々に『次』の機会を最初の戦争に充てることだろう。
 ニューフェイスはもうガタガタで、建て直しを図るにももうマフィア稼業を遠慮する者が多く出るだろう。
 それでも何人かは、オールド、ロンド、カーズを敬遠してニューフェイスを選んだのだから、契約者が立ち上げるマフィアに移るのではないだろうか――。



(つづく)




担当マスターより

▼担当マスター

せく

▼マスターコメント

皆様、お疲れ様でした。
今回で通算9作目と相成りました、せくです。
半年振りのGM業ということでご無沙汰しておりました。

今回は特別ルールを設けていまして、裏アクションを裏リアクションで返信しており、また、私個人の判断でこっそり返信した方が良いかなと思った通常アクションも裏リアクションとなっております。
そのため通常リアクションの描写ですが、普段――もしくは他GM様、同カテゴリーシナリオ――より大なり小なり文量が少ないプレイヤーの方がおります。
しかしながら、その分は裏リアクションでしっかりと執筆しておりますので、プレイヤー様個々の総文量としましては通常通り、通常以上となっていますのでご安心下さい。
また裏リアクションを見やすくするため、個別コメントでは過去のシナリオ全てにおいて謝辞を述べているところですが、今回に限り無しとさせて頂いております。ご了承ください。

次回のため、現在のマフィア状況、鍵、金庫を簡単にご説明させていただきます。



【オールド】

SFM0002413 ラルク・アントゥルース様
SFM0039286 キアラ(新風 燕馬)様

上記2名をボスとした二頭体制となっております
NPCオールド・マフィアは無条件で2人(どちらか片方でも)に従って動きます

【ロンド】

ベレッタが引き続きボスとして君臨しております

【ニューフェイス】

ボスが不在です

【カーズ】

マルコが引き続きボスと君臨しています

【鍵】

スペードの鍵保持者 SFM0002413 ラルク・アントゥルース様
クローバーの鍵保持者 SFM0039286 キアラ(新風 燕馬)様
ハートの鍵保持者 ベレッタ(肌身離さず持ち歩いています)
ダイヤの鍵 マルコ、他女性多数(契約者から娼婦までマルコに気に入られた女性(表裏含めて鍵を譲り受けた描写がない方でも宣言して頂ければ持っていたということにします)は全て鍵を渡されました。本物はレプリカかは現時点で証明のしようがありません)

【金庫】

カジノにて『とあるPC様』の言葉に『あの人』は妙に怒っていましたね――



以上

この場を借りまして皆様への謝辞と共に、私、せくは皆様に楽しんでいただけますよう願い、これをマスターコメントとし、この項を埋めさせて頂きます。

後編にて会える日を心からお待ちしています。
それでは、失礼します。