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リアクション
*
「ヒュ〜♪ いいねぇ、カジノ。バニーにウェイトレス、皆、美人ちゃん揃いで」
「やれやれだ。ガキには刺激が強すぎるぜ」
「伊勢島のオッサンだって胸躍るだろう、可愛い子ちゃんが揃々ってのは」
壁にもたれ、ロンドの瀬島 壮太(せじま・そうた)と伊勢島 宗也(いせじま・そうや)はカジノの様子を眺めていた。
各々のマフィアが勢揃いしている現状、いつ抗争が起きてもおかしくないのだが、そもそもこんな状況で属している者が暴れてはよろしくない。
喧嘩を売るなら、喧嘩ができる状況が好ましい。
要はきっかけが欲しいのだが、風船を見ているようだ。
パンパンに膨れ上がったゴムはいつでも破裂するのだが、結局は宙を揺蕩う。
「で、瀬島のガキんちょはどんな算段で仕掛けようってんで?」
「……ノープラン?」
あきれ返り半分イラつき半分で壮太を睨む。
「冗談。オッサン煙草ある? 一服つけようぜ」
宗也が煙草を一本取り出し、壮太と共にそれを咥えた瞬間――、
「あまり騒ぎは起こさないよう、お願いします」
ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)がやってきて突然の言葉と一緒に火をつけてくれた。
「……お、おう……」
ヴィゼントの見た目と圧迫感に思わず2人とも目を丸くして頷くしかなかった。
それを見て、更に彼は苦悩する。
カジノで働き、あわよくばカクテルなんて作ってこの空気――ボーイとして全うできれば良かったのだが、これは何だ。
服装こそウェイターなものの、まるで警備員のようにフロアを巡回し、女を侍らせていないマフィアに注視しては煙草を咥える瞬間に近寄って火をつける。
雇い主がヴィゼントの見た目で決めつけた仕事に腹立たしかったが、火をつけられたマフィアも彼の顔を見るなり一瞬真剣な表情を向け、次に笑顔でわかってるよなんて向けられれば、満更でもないと思ってその場を去ってしまう。
この繰り返しだ。
「こんなことなら1人でくるんじゃありやせんでした。おっと、独り言です。気にせず楽しんで下さい」
と言ってもパートナーであるシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はエデンに来るには気乗りせず、
「ムっ」
ヴィゼントは新たな煙草を咥えたマフィアを見つけて、職務を全うしに行った。
『……』
2人は一瞬殺られるのではないかとさえ思ったが、色々と苦悩するボーイであった事実に再び眼を丸めて見合った。
「ま……釘を刺されたって騒ぎは起こしたいよな……チャンスだもの」
壮太はゆっくりと眼球を動かし、誰もこちらを見ていないのを確認すると、咥えたばかりの煙草を放り投げた――壁の上に丁度設置してある換気の空調、その穴に向かって。
そして、少し遠くで酒を配るウェイター――レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)を呼びつけ、上を指差した。
「どうかしましたかお客さ――」
細い煙ではあるが、換気の口からそんなものが内に向かって吹いていれば青ざめてしまう。
「か、火事――。お、お客様落ち着いて行動してください」
落ち着くのはどっちか――である。
「こんな時に従業員の不始末で火事なんて起きちまったら、いやぁ、あんたら全員ロッソに殺されちゃうわな」
「ああ……そうに決まっています。間違いなくボスは『カンカン』です」
何を言ってるんだコイツは――と思う宗也でレイヴが少々かわいそうにも見えるのだが、肘で小突かれ渋々話を合せる。
「俺が見てきた拷問の中でこいつぁ耐えられないと思ったのは、玉を串刺しにして焼かれる拷問だったな……。ありゃ痛いなんでもんじゃ……。好色共はその後喜んでそれを食べるんだぜ……」
「ヒィッ――玉って――男のあれですか――」
想像してしまったのだろう。
ならばもう、押せば全てに頷く。
「俺が見てきてやるぜ。こんな具合に……いいな?」
「お、おお、お願いしますっ」
レイヴは壮太の影――密偵が換気の穴に滑り込むのを見て頷いた。
鎮火出来るなら何でもいい、それが契約者でさえも――。
そうしてレイヴが一安心と胸を撫で下ろして職務に戻ると同時に、2人もまた、ゆっくりとホールから姿を消したのだった。
*
そんなカジノ・パーティーの中、最も近づかれたボスはマルコだった――。
もっとも金があり、そして、武力の無さから最も近づきやすいマフィア・ボスだったからだろう。
*
「マルコは常に鍵を持っている。それは服の裾から窺えた」
久我内 椋(くがうち・りょう)は密偵を遣わせた結果を浴槽の公爵 クロケル(あくまでただの・くろける)の耳元で報告した。
その傍ではモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)がカジノにもマフィアにも興味がないといった佇まいをしていた。
だからこそ、頼れるのはクロケルだ。
クロケルもそれを意気に感じ、1人ゆったりとした足取りで幾人かの女の子に声をかけられて既にホクホク顔のマルコの元へ向かった。
「マルコさん? 初めまして、クロケルと申します」
恭しく頭を垂れると、マルコは顎を指の腹で摩りながら言った。
「ほぉ……これはこれは可愛い天使――否、小悪魔がやってきたもんだ。して、何用かな?」
「あら、お近づきになるには何か用がないとダメでしょうか?」
「いいや、直感でいい。それも燃えるほどの熱い気持ちを持って来られれば、こちらも『ほぐし甲斐』がある」
「なあ、椋」
モードレットは退屈のあまり首の運動をしながら、万事快調なクロケルの様子を傍目に訊ねた。
「要するに、クロケルが色仕掛けでマルコの傍に居続け、最終的にどこかの機で鍵を奪うんだろ?」
「そうなるね。皆の注意を引く何かが起きれば――」
いいんだけど、と椋が続けようとして、モードレットは顎で示した。
「鍵――握らされてるぞ、あれ」
「……え……?」
椋は勢いよく首を動かしクロケルの方を見ると、既にマルコはクロケルに手を挙げて去っていくところで、彼女もまた手を振って応えていたのだが、その顔は明らかに引き攣っていた。
想定外だ――。
「……マルコ……近寄ってきてモノになりたいと訴えかけるような女の子全員に……鍵を配ってるみたい」
「……」
椋は鍵を見ながら、きっとレプリカだと思いながらも、マルコなら本物さえも捨てているのではないかという疑いが頭を離れなかった。
*
「今ので何人目だ……マルコの考えが読めないねぇ」
お気に入りの黒スーツと眼鏡でビッと決めたキルラス・ケイ(きるらす・けい)は、クロケルも鍵を貰う様子を物陰から見ていた。
「……鍵に目が眩んで裏切りって線もあるのかねぇ。いや、そもそもそれが罠かもしれないし」
これまでのマルコを見る限り、カーズ以外のマフィアでも寄ってきた女の子――それも関係を持とうと試みた女性全員に鍵を渡していた。
ロメロの遺産の正体を掴んでいる者などそう多くいないだろうし、0に近いだろう。
だからもし、ロメロの遺産が莫大な金銀財宝だった場合、金に憑りつかれたマルコが早々本物の鍵を手放すとは思えない。
それでももし、誰かに手放していたとしたら、それはマルコが鍵を巡って争う戦線への参加を辞退したことになる。
即ち、非戦闘――。
彼の性格にも合致するし、無いとは言い切れない。
しかしながら、鍵を渡した者を眩ませて、裏切りに満ちた状態を作り上げるという罠も拭えない。
誰しもが金の魔力に贖いきれないからだ。
「やれやれ……まさかマルコ相手に悩まされるとはねぇ。真っ先に潰れるマフィアだと思っていたけど、見誤ったかねぇ」
ふぅと大きくため息をついたキルケスは、マルコの鍵を中心に情報収集するのだった。
*
「ボスゥ、モテモテですね」
近すぎず離れすぎず――そんな距離感でカジノに入ってから護衛していたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、改めてマルコに言いよる女の数を見てそう言わざるを得なかった。
「醜い俺に女が寄るわけないと?」
「まさか――! 現に今もワタシが付きっきりですよ」
「ベッドまで付き添えない護衛は正直いらんがね」
「……何人かはボスの後ろまで見てますね、金色に光るそれ欲しさに――」
マルコに言い寄るのは男も女も大抵は金を狙っているのはアリアリとわかった。
そして見る限り、金で引き込めそうなマフィア達はチラホラ窺える。
今日、一同に会したこともあってか、いつもより皆大胆なのだ。
敷居がなくなれば、エデンという街はこうなのだろう――。
「これは使えそうね、司」
「……(カタカタ)」
ノートパソコンは入口で没収されずに済んだ月詠 司(つくよみ・つかさ)は、シオンの言葉に耳を傾けられないほどに画面に没頭していた。
「聞けッ」
「いだッ――!?」
耳を引っ張られ、現実へ引き戻された司だが、これでも幹部でシオンよりは立場が上なのだ。
しかしながら現実は悲しいかな――。
「まだデマの事を調べてるわけ?」
シオンはロメロの遺産をロッソが流した嘘で、抗争を引き起こす罠の1つだと思っていた。
「いや、だって、そうじゃなかったら、奪えないのは全部私のせいにするでしょ」
まあ、確かにそうだ、とシオンは思ってが、やはりここはロッソの嘘やデマだと信じ、一つそれに乗って他マフィアを潰せばいいと考えるのだ。
司は自分のババ引きを呪うのだが、しっかり調査は続ける。
あるにせよ無いにせよ、最終的に必要になる金庫の在り処は重要だった。
迷彩塗装を施し視認性を空間と同位されたデジタルビデオカメラを式神にし、ノートパソコンにカジノの内部を映像として送らせ続けた。
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