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リアクション
*
「ねえ、寒いってばぁ」
カジノ外――。
人が蟻のような小さなで窺えるほどの距離のビル上にルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は数多くいる女の1人と共にしていた。
諸々の事情で上半身裸のルースと裸の女は毛布一枚で互いを覆っていたが、ルースの肩をきっちり被せて温めていた分も剥がされてしまった。
「おいおい、そいつぁヒデェ」
「何よ、興奮して人の下着を落っことしたくせして! 帰りどうすんのよ」
反論の余地はない――。
仕方なく煙草に火をつけると同時にライターで少々の温もりを得ようとして――ゴンッ!
カジノで爆発が起き、少しずつ崩落が始まった。
「あーあ、事が始まっちまったよ。毛布貸せ――ッ」
「ちょっと――!」
ルースは強引に毛布をはぎ取ると、それを屋上の冷たいコンクリの上に敷き、素早い手つきでスナイパーライフルをセットし、射撃体勢を取った。
崩落で崩れた壁の隙間から必死にスコープを覗いてベレッタの姿を探し――彼女に飛び掛かろうとするマフィアの1人目掛けて引き金を引き、頭を撃ち抜いた。
「ビンゴッ! 外にいるオレが殺れんだから、中にいる連中はもっとできるよナァ!?」
声も聞こえず、姿も見えぬ同士達にルースは檄を飛ばした。
*
「ようやく俺の出番だなッ」
モードレットは服に偽装させてボディ・チェックを逃れた流体金属槍を手に、ベレッタを狙う混戦の渦へ飛び込んでいった。
マフィアの腹に槍の柄を突き、めり込ませると、テコの原理と己の力1つで宙に放り投げる。
空中に放り投げられて無防備なマフィアの顔を薙ぐように殴り身体を横たわらせると、再び柄を横っ腹に突き刺して地面に叩き落した。
「次ッ!」
最高のデモンストレーションは渦を一気に霧散させた。
「おら、今のうちに逃げなっ!」
「よし、エグゼリカ、退路は万端か――?」
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)に問い、彼女もまた頷いて答えた。
「出口は4つ――。正面、従業員用、搬入口、VIP非常です。2階になるのは非常用だけで敵が待ち構えていることも予想されますが、ベレッタ様を銃撃の波に浚わせるわけにもいかないでしょう」
「仕方ない――。ベレッタ様、余計な事ではありますがご警戒を――」
「ああ、そうしよう。銃声がひどく耳に心地よくて、うっかりしてしまいそうだからな」
「ベレッタァッ!」
しかしその出口の方向から誰もやってこないはずもなく、葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)を鎧に纏ったニューフェイス幹部――三道 六黒(みどう・むくろ)が羽皇 冴王(うおう・さおう)と共に大剣を担ぎやってきた。
「一手仕合いたい。わしはそれで満たされよう」
「キャハハ、六黒もハッピーでシェリーもハッピーになる最高の展開だよナッ! あんたが死んじまうからよォッ!」
「ふん……。ボスの質は部下の質にもなる。教官が喜んで鞭と共に叩き込んでくれそうな例だ」
コォォッと忌々しく息を吸い込むと狂骨がアボミネーションを放ち、その圧倒的な気配に畏怖を覚えた幹部達の足が竦み、一歩前に出て肉壁となることすらできなくなる。
「なら、おぬしの部下は腰抜け故に、おぬし自身も同じなのだろう」
「そう――雑魚を蹴散らしたくらいで威張るアナタも大概だと思うけど」
オデットが一歩前に出ると、恭也も並ぶように進んだ。
「いくら契約者と言えど、『獲物無し』でわしを相手できると――思うなよ」
六黒が足を開き腰を落とすと、冴王のゴッドスピードを得た加速で一気にベレッタの首を狩りに跳ねた。
「踊りナァッ!」
冴王の援護射撃――その銃弾は恭也のアイスフィールドで受け止めるのだが、その通りなのだ。
攻撃するための武器を持たぬ自分たちにはこれが精一杯で、オデットも六黒の殺気を感じ取り回避を重視して飛び跳ねるしかなかった。
「どうしたぁッ――! 威勢が良かったのは最初だけかァッ!」
「オラオラァッ!」
武器を持ち合わせているモードレットを呼びたくもあるのだが、彼は彼で現状『殿』を務めているようなもので、多くの敵を相手にしている。
「ベレッタ様をはやく――ッ!」
「エグゼリカ、出口に突っ切れ――ッ!」
圧倒的に不利なのを察するからこそ、自らを肉壁にボスであるベレッタを逃がそうとするのだが、
「甘ェッ!」
冴王が機晶爆弾を放った。
恭也は反射的に盾を構え爆発から守ろうとするのだが、目的はその後――。
シャープシューターの射撃でもっと空中に放った瞬間起爆させ、とてつもない衝撃を伴う煙幕を張る。
ただでさえ薄暗い視界の中、いくら暗闇に対して平気であろうと、煙幕を伴ってはどうしても対処が遅れる。
殺気看破で六黒を追うオデットだが、間に合わない。
六黒が先にベレッタの首を跳ねようとするのが先で、大きく振りかぶった剣の風圧によって裂かれた煙の向こうでそれが見えた。
それでも平然とするベレッタは、
「貰ったァッ!」
死の間際にも関わらず指を鳴らし――、
「……呼んだよな?」
「――ああ。貴様など雇いたくもなかったが、部下を減らす失態はあまり演じたくないのでね」
「お互い割り切ってビジネスといこう」
一瞬の後、そこには紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が六黒の剣を受け止めベレッタを間一髪で救っていた。
「わしと同じ臭いをさせる者よ――邪魔をするでない……ッ」
「そいつは悪かった――だけど」
「邪魔ナンだよッ!」
冴王が六黒を撃つことも厭わず銃を乱射すると、鍔迫り合いの形から力でもって一気に押し返し射撃を回避すると、
「互いに悪党のビジネスをやってるんだ。ぶつかりあうのは日常茶飯事だろ」
柱、天井とつったって冴王までの距離を一気に詰め、垂直におりながら一太刀振るった。
「ッブネェ――! クソッタレ――!」
間一髪の所で回避した冴王は銃口を唯斗に向け引き金を引こうとしたが、また『人が飛んで』きた。
「仲間を届けてやってんだッ! 持って帰れよ」
モードレットが槍で吹き飛ばしたニューフェイスの襲撃部隊の1人がケチャップまみれで冴王に覆いかぶさった。
残念ながら潮時だ――。
このまま居座り続けても死を迎えるのは必然だと感じた六黒は自身の大剣を床にむかって振るい、自分たちの退路を床の崩落によって作り出して見せた。
「鮮やかな引きだこと――」
六黒の一撃を受け止めて痺れた手を押さえながら唯斗は呟き、もう目前の脱出まで最後のサポートを他の契約者や幹部と共にした。
*
「ベレッタさん、こっちですっ!」
非常口の外で待ち構えていた笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、既に中へ入りこもうと試みたマフィアの死体をこさえて脱出を待ち構えていた。
それでもゾンビの如く際限なく襲ってくるマフィアを撃ち、護衛に付き添っていた幹部達と共にベレッタのためのレッド・カーペットを作って車まで誘導した。
「ご苦労――」
「い、いえ、当然のことです」
紅鵡もベレッタと共に後部座席に乗り込み、カジノを後にした。
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