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リアクション
*
「シェリーさん、こちらですっ!」
襲撃部隊の1人、羽切 碧葉(はぎり・あおば)は、敵の殲滅よりも退路の確保を優先し迎撃していた。
「正面入り口は契約者が塞いでいて厳しいので。従業員の出入り口から逃走しましょう。既に制圧はできています」
「――助かる――」
「こちらですッ!」
碧葉が道案内と同時にルートを作り、そこへシェリー達一向も続いた。
*
「ボディ・チェックに厳しい契約者も混ぜるべきだったね」
桐生 円(きりゅう・まどか)は光学迷彩で隠し続けていた武器を視覚化させ、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)にも手渡した。
それはオリヴィアの手にも渡り、3人はシェリーを囲むように防衛に徹した。
銃弾飛び交う戦場でソードほど不利な武器はないが、それは使い手による。
ただのマフィアと契約者を比べてはいけない。
「踊るよー。レッツ・パーティー……なんちゃってー」
シェリー目掛けて襲い掛かってくる有象無象――その津波の前にミネルバが降り立つとソードを槍、否、それ以上の長さまで自身の力で引き伸ばし、ブオンッと風斬り音が遅れて聞こえるほどの速度で薙ぎ払った。
「よゆーよゆー。かもーん」
「距離を取れェッ! 奴の獲物はソードだ。カモ撃ち以外のナニモンでもねぇだ――ガハッ!」
叫んで指示したものの銃は鮮血と共に吹き飛んだ。
「僕の獲物も銃なんだよね」
ウワッ、グワッ――と円が引き金を引くたびに彼らは構えた銃を貫かれた手の平から零していった。
「ミネルバに気を取られているキミ達こそ、僕に狩られ撃たれるだけだと思うんだよね」
円とミネルバがシェリー達の退路を生み出すのだが、四方八方360度三次元、全てから敵が襲い掛かってくる感覚を覚える戦場では流れ弾の1つや2つ、平気で身体を貫くことになる。
どれほど強固な幹部で周りを固めようともやはり、シェリーに流れ弾が飛び込んできた。
しかし、オリヴィアの剣が銃弾を届かせなかった。
2発の弾丸を真っ二つに先、1発の弾丸は剣先で受け止め弾いて見せたのだ。
*
「――フッ!」
影が伸びた――。
オールドが雇った殺し屋の葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が殺気を消してシェリーの命を取りに背後から襲ったのだが、それは強盗 ヘル(ごうとう・へる)が済んでの所でシェリーの身体を引いて避けさせた。
「やりますねッ!」
「おいおい、シェリーさんよォッ! アンタはボスで常々狙われてるんだから守られててもボーッとしなさんな!」
ヘルが更にシェリーの護衛に加わるが、吹雪はお構いなしと剣を振り上げ――、
「ですが、こちとら殺し屋としての名声を上げるためにもシェリーの首を頂戴せねば――ならないのですッ」
全てを纏めて叩き斬るように落としたのだが、
「フッ――!」
光学迷彩で姿を消して隠れ、横から流れてきたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)に腕を取られ、虚空を斬るにも至らず後方へ飛んだ。
「マフィアのボスの前に堂々と姿を見せて来たという事は、殺して下さいと言っている様なもの――と捉えていいですね?」
「そうは易々と――!」
そうザカコは言うものの、戦いにおいて、誰かを守りながら戦うことほど不利なものはない。
円を描くように攻撃を仕掛けていく吹雪が圧倒的に有利で、戦うことのできないシェリーを守り続け後退という選択肢を一切とれずに後手を踏んで凌ぐしかなかった。
「くそ、せめて目眩ませ代わりになれよっ!」
ヘルが隠し持っていた機晶爆弾を投げつけ、爆風と煙で逃げる機を作り出そうとしたのだがその直前――。
「ガハッ――」
一気に9人に分身した吹雪がザカコもかわし、更に護衛していた無能力者達もオリヴィアさえもかわしてシェリーを突き刺した――。
そしてヘルが投げた爆弾が爆発――。
『シェリーが死んだッ!』
その重なる叫び声と結果は、一気にカジノ全体へ広がっていき、主を失った護衛達は一目散に逃げ出し、彼の死に場所は爆発の衝撃で崩れ落ち、天井から降り注ぐ塊にも押し潰されたのだった。
*
煙と共にロッソが非常用の出口から出てくると、真司の銃弾がロッソの足元を撃った。
ロッソを護衛する1人に、進行を遮られたせいだ。
彼が素直に煙にやられた目と喉を開放しようとして赴くままに進めば、今頃仕留められていたはずだった。
「仕留められなかったなら、せめて鍵だけでも――ッ! あるんだろう、おまえの懐に――。だから――ッ」
護衛が真司の位置を捉え、銃撃戦となったからにはもうロッソに飛び込めない。
しかし、
「食っちまえ、リーラッ!」
「ぐあっ!?」
これほどまでに爆発しても建物の形は絶対に崩さないカジノの骨格の強さが仇となった形だ。
突如、ロッソの頭上から伸びてきた一撃に彼は肩口から二の腕までを裂かれた。
一体何に裂かれたのか――。
建物の屋上にはリーラの姿があり、そのヘリ――靴先を既に宙に晒しているような寸での場所からロッソに向かって腕を伸ばしていたのだ。
龍――というよりも鋼鉄のヘビが天上から口を開けて襲ったのだ。
「次は外さないわ」
右腕を眼下のロッソに向かって突き出すと、それはみるみる伸び、再びロッソに襲い掛かった。
今度は龍の大口で、リーラはそのままロッソを噛み砕くのではなく、クレーンのように捕まえて持ち上げたかったのだ。
そうすれば2人きりで、最高の身体検査が出来る。
が、何度もその龍の口に護衛は銃弾を発砲し、流れ弾がリーラの頬を霞めると、それは叶わなかった。
揺らいだ身体に、発砲の限りで位置を微妙にずらされた腕は無情にも地面を噛み砕き、掬う様に腕を薙ぎ払っても、ロッソが逃げ足の速さを見せ届く距離から逃れていたのだ。
「ダメか、逃げろッ!」
真司が地上から護衛達に牽制し、彼らが屋上のリーラを捕まえにいけず取り逃げる隙を作り出すのが精一杯で、屋上から姿を消した瞬間、真司も脇目を振らずこの場を後にしたのだった。
背後で一際通る銃声が聞こえた気がしたのは、何だったのだろう――。
それはまるで、終焉をつげる鐘の音のようにエデンの空に長く響き渡った。
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