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リアクション
*
「……ふん、ロメロのガキが狂ってやがる。トランキライザーを清涼菓子みたいにガリガリ齧った奴とそっくりだ。やれやれ、カジノの建て直しか――。しかし、まあ――」
これでいいのだとロッソはほくそ笑んだ。
最も怖いのはロメロの再来、救世主だとシェリーが祀られて椅子に座る事なのだ。
だが、これでもうシェリーからロメロの残像を見ることは誰もなくなっただろう。
マフィアであるのに武力を否定する。
それがロメロで、ロメロほど街に精通し『寄合の長』のように心底人々から信頼を得ていた者などいないのだから――。
今のシェリーは復讐に駆られたただのキリング・マシンであって、これで再び街が1人の王――ゴッドファーザーによって落ち着くことはなくなった。
混沌とした世界が続く限り、ロッソも一王なのだ。
「後で修繕費を事務所の方に送っておくが、きちんと支払ってくれたまえ。では、失礼するよ」
「貴様だけは逃がすか、ロッソッ! 父殺しの男がッ!」
「では、キリのいい所で我々もお暇する」
「ベレッタァッ、貴女も逃がしやしない。ウォー・マニアのイカれたボスがいるマフィアは流れ弾で仕留めるんだ」
「ふ……シェリー坊や、骨があったらいつでもサシでロンドを襲いなさいな。マフィアごっこに付き合う気はないけど、戦争ごっこなら三日三晩と言わず、永遠に付き合うわよ。同士諸君、退路は確保してあるなッ! 下らんパーティーはお開きだ、戻るぞッ」
怒気を含んだベレッタの明らかに歴戦からくる余裕と鋭さに、イカれたシェリーも言葉を紡げなかった。
しかし、2人が去ろうとするそのタイミングで、ボスや幹部を狙う襲撃部隊がステージに上がってきたのだ。
「恐れるなッ! ベレッタとロッソを殺るんだッ!」
士気高揚のための言葉を残し、シェリーは2人よりも先に護衛を引きつれて唾を返した。
頭は自分なのだから、力もないのだから、これでいいのだと情けなさを噛みしめながら、逃げるために走り出す――。
『オオオオオオオオッ!』
ニューフェイスの襲撃部隊が勢力図の塗り替えの時を今と信じて、ロッソとベレッタに襲い掛かる。
*
「ニュゥゥフェイスゥッ! 手前ェ等から仕掛けてきたんだからなァッ!」
ラルクはフンッと気合一閃の掛け声と共に後ろ回し蹴りでロッソに近づく兵隊の1人弾き飛ばし、更にその影から飛びかかってくる兵隊に身体の回転を維持したまま飛び回し蹴りで首を圧し折った。
ボウフッ――!
更にラルク目掛けて襲い掛かるニューフェイスの兵隊だったが、契約者ではない彼にガイの仕掛けたインビジブルトラップは見えず、火柱の餌食となってしまった。
「俺達オールドの邪魔はさせねぇッ!」
が、契約者と無能力者の差は歴然たるもので――。
ロッソを殺ろうと背後から忍び寄るマフィアの1人だったが、泥沼に片足を突っ込んだかのような感覚を伴って動きが止まった。
薄暗い中、視線をゆっくりと足へ向けると、その足首が地面から生えた鎖によって絡め取られていたのだ。
「はぁい」
綺羅が捕えたマフィアの背後――その肩口から顔を出し、闇術を伴った彼女にマフィアは怯み、隠し持っていた拳銃一丁を地面に落とし、それを拾われた。
「何発目で命乞いするかしら。まあ、聞かないけど」
奈落の鎖で磔状態にして倒れることを許さず、彼女はそうして愉快なテンポで銃弾が尽きるまで彼の四肢を撃ち抜いたのだった。
「ロッソ様、今のうちに引き上げましょうぜ。退路は俺がお供します」
「助かる――」
「ネームレス! ネームレス!」
瀬乃 和深(せの・かずみ)が護衛を引き受けロッソと共に引き上げようとする中、ネームレス(上守 流(かみもり・ながれ))を呼びつけ指示を与えた。
「いいか、お前は俺の道具であり、俺達を助けるモノだ。ニューフェイスを全滅させろ。それが命令だ」
ネームレスはこくりと頷き、襲撃してくるマフィアに向き直って刀を抜いた。
「行きましょう、ロッソ様――」
「契約者ってのは……女でも腕がたつのか――?」
「そりゃあもう。奴は俺の道具です。最高のキリング・マシンですので、ロッソ様の助けにもなりますぜ。さ、長居は無用です。行きましょう」
「行かせるかよッ、ロッソォッ!」
襲撃隊の後方から倉崎 ヒロシ(御神楽 陽太(みかぐら・ようた))が声を上げて飛び――、
「ア゛ッ」
掛かろうとして階段に足先をひっかけて前のめりに転び、持っていた銃も手から離した。
「……なんだありゃ――。とにかく殺れよ、ネームレス」
コクリと再び頷いたネームレスは倒れたヒロシの元へ行き、刀の背で頭をコンコンと叩いてみた。
反応なし――。
しかしながら確実に殺すため、刃の部分を首先に当て振りかぶった。
(――ッ!)
が、ヒロシが突然息を吹き返したように動き、ホルダーからマシンピストルを抜いてうつぶせに倒れたまま連射した。
「クソッ、ダメかよッ! っつーか反則だろうが」
ネームレスは銃弾を刀の腹で受け止め、また軌道を変えて直撃を逸らし掠らせる程度に留めて後方に飛んだ。
その隙にヒロシは落としたハンドガンを拾って立ち上がり、まともに対峙した。
「シェリーをゴッドファーザーに押し上げるためにもロッソは早めに殺っておきたかったけど――まあ、契約者相手でもいいぜ。最終的にモノを言うのはオレ達の強さ、数だろ――?」
銃口を突きつけたまま、2人は機を窺うように弧を描く。
銃弾を近接武器で全て払うようなレベルの相手だ――しくじれない。
だから――、
「オオッ!」
慎重になりすぎたヒロシは一瞬のネームレスの間合いについていけず、回避したものの薄皮一枚腹に傷を負って――倒れた。
(……)
ネームレスがツンツンと再びその頭を小突く――。
反応なし――次こそは、と振りかぶって、
「だから甘ェってのッ!」
スペランカー魂を発揮してヒロシは再び近距離射撃を繰り出す。
しかも今度は2丁分だと息巻いたのだが、結果は同じで皮膚を裂く程度にしか傷を負わせられない。
当たらないショックをスパイハットを少し深めに被り直して隠す。
再び距離を取り、同じようにグルグルと回り出した2人――。
今度こそ――、
「食いつかせてェッ!」
一射目は見事に避けられ、一気に間合いを詰めたネームレスが伸びきった腕を斬り落とそうとする。
この状態でも2丁目を避けられるという自信、算段を持っての行動だったが、ヒロシは地面に銃口を向け引き金を引くと、跳弾を持ってそれは反射し、ネームレスの腕一本にトンネルを作った。
(〜〜〜ッ!)
それでもネームレスは片腕で薙ぎ、ヒロシは身体を仰け反らせて回避してたのだが――一歩後ろに踏んだ足は案の定階段で、ころころと1階まで転げ落ちて行った。
今度は素早くむくりと立ち上がったヒロシは、辺りをきょろきょろ窺いながら銃を乱射して弾幕を作っては逃げて行った。
残機が残り1になれば誰だって命を慎重に扱うものだ。
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