空京

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浪の下の宝剣

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カラオケ会場その:page02

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)七瀬 巡(ななせ・めぐる)は、巫女の格好に最後尾と書かれたプラカードを手にした竜ヶ崎 みかど(りゅうがさき・みかど)に声をかけた。

「ねね、何か並んでるの? ここ?」

みかどのパートナー、顔の上半分を覆う狐の仮面をつけたお紺さんが言う。

「あ、そういうわけじゃないんですよ」

「あはは、そうなの。これは装備なのよ。ボクは竜ヶ崎 みかどって言うの。
 こっちはね、お紺さん。よろしく〜」

「七瀬 歩です。こっちは巡っていうの。よろしくね」

ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)を連れた霧島 春美(きりしま・はるみ)が言う。

「標準装備ですか〜。春美の虫眼鏡と同じですねっ!」

クラーラ・リム(くらーら・りむ)とそこに来ていたアイ ゼス(あい・ぜす)が声をかけた。

「おお〜、その格好! シャーロック・ホームズですネ?」

「そうなのよっ! マジカルホームズ・春美ですっ。よろしくね
 こちらは助手のディオネアよ」

「拙者はアイ ゼスと言いマス。こっちはパートナーのクラーラネ。
 ヨロシクデス」

「せっかくここであったんだし、カラオケでも行きましょうか!」

みかどが言った。アイ ゼスがニコニコといった。

「いいデスね。いきまショウ」

霧島と七瀬も応じた。

「うんうん、行こう行こう」

「あたしも〜。いこー」

8人はにぎやかに喋りながら、空き部屋を探しに行った。

 女性としては相当長身で、妖艶な白人女性といった外見のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)と、一緒に、近くにいた生徒に話しかけた。

「私は波羅蜜多実業のガートルード・ハーレックです。
 こちらはパートナーのシルヴェスター・ウィッカー。カラオケに一緒に行きませんか?」

明治初期といった和装の篠宮 悠(しのみや・ゆう)が応えた。

「お、いいぜ。オレは葦原明倫館の篠宮 悠。こっちがパートナーだ、よろしくな」

篠宮に促され、毛利 元就(もうり・もとなり)が会釈をした。

それを聞いて色っぽい忍者といった格好の甲 賀四郎(かぶと・かしろう)が声をかけた。

「おお、我も葦原明倫館でござるぞ。甲 賀四郎と申す。
 ……葦原に入学したのはちょっとした手違いなのでござるが」

羌 蚩尤(きょう・しゆう)が後ろから言った。

「それがしは羌 蚩尤」

ゾルダート・クリーク(ぞるだーと・くりーく)を伴ったニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)が言った。

「私はシャンバラ教導団よ。ニーナ・イェーガーって言うの。
 こっちはゾルダート・クリーク。戦闘用機晶姫よ。ヨロシクね」

「なかなか渋いでござるな」

賀四郎が目を細める。ガートルードが声をかける。

「あら、よかったら甲さん、ニーナさんも一緒にカラオケ、行きませんか?」

「喜んで!」

「にんにん、もちろんでござる」

二人が応じ、羌がのっそりと立ち上がった。

「ほいじゃあ、場所探しに行こうかい」

どこかそこはかとない威圧感を当たりに漂わせてカラオケに興ずる8人であった。

 アリエル・シャーラ(ありえる・しゃーら)は辺りを見回した。

「……レジャー施設で新入生歓迎会なんて珍しいなぁ。
 ……とりあえずカラオケ会場に行って見よっかなぁ。音楽は得意だし。
 少し恥ずかしいけど…。だからと言って他はあまりね」

クラリッサ・フォークナー(くらりっさ・ふぉーくなー)がそれを聞いて言う。

「そういう所よりも、わしはファミレス辺りに行きたいのじゃが……
 ってちょっと、待つのじゃアリエル! おぬし一人で行ったら迷うではないか!」

アリエルの方向音痴の恐ろしさを、クラリッサは痛いほど知っていた。

そこへ施設に迷い込んできたらしい蝶が1匹ふわふわと飛んできた。

「きゃあああああ!!!」

アリエルが叫んだ。昆虫全てが苦手なのである。

悲鳴を聞いてすぐ近くにいた天城 綾(あまぎ・りょう)エリカ・コーンウォール(えりか・こーんうぉーる)のペアと、音無 終(おとなし・しゅう)銀 静(しろがね・しずか)らがびっくりして声をかけてきた。

「キミ、どうした? 大丈夫か?」

「どしたの??」

「なんだ? どうした?」

小さくなっているアリエル。

「あの……カラオケに行こうとしてたら虫が……」

「アリエルはとにかく虫が苦手なのじゃ。そこの蝶々でこの始末。申し訳ない」

「そうかそうか、なんでもないなら良かったよ」

クラリッサの補佐説明に、天城がにっこりする。エリカもうんうん、とうなずいて言った。

「ダメな人はダメだものね。気にしなくて良いと思いますよ」

音無が言う。

「ちょうど良いや。俺もカラオケに行こうと思ってたとこ。
 みんなで行かねえ?」

天城、エリカも賛同を示した。

「ああ、いいね」

「うんうん、一緒に行きましょう」

「……食べるものはあるかのう?」

心配するクラリッサに、天城が言った。

「大丈夫。食べるものも頼めますよ」

食べるものも十分。そしてはじめのうち恥ずかしがっていたアリエルも、天城、エリカのデュエットや、音無と銀の楽しげな歌を聴いているうちに、すっかり乗って、マイクを手にしているのであった。

 木崎 宗次郎(きざき・そうじろう)はその日、重大な決意をしていた。
その決意とは……あがり症に社会不安症、対人恐怖症の克服第一歩として、カラオケに人を誘って行ってみる! 妻の木崎 鈴蘭(きざき・すずらん)の手は借りてはいけない。

「……ひ……人がいっぱい……」

緊張のあまり生まれもってのツリ目に三白眼の強持てが、さらに凄みを増している。

「あの……その……よろしかったら……カ、カラオケにご一緒して……もらえませんか?」

鈴鳴 傑(すずなり・すぐる)は声をかけられて、ぎょっとした。黒装束の男が、怖い顔でにらんでいる。が、言葉つきはおどおどと丁寧だ。

「え、ええっと? ……はい」

「よ……良かった。僕は木崎 宗次郎です……上がり症なもので……」

「なるほど〜。俺は鈴鳴 傑といいます」

鈴鳴のパートナー、エミリエル・ファランクス(えみりえる・ふぁらんくす)が言った。

「わたくしはエミリエル・ファランクスと申します。
 人が大勢集まる場所はわたくしも苦手で……お気持ち、わかりますわ」

ノン・ギグ(のん・ぎぐ)のパートナー、フェイト・トウカ(ふぇいと・とうか)が、それを聞きつけて言った。

「ああ、わかるわ〜。私もちょっと不安だったの。フェイト・トウカって言います」

ノン・ギグが言う。

「俺はそういうの平気やけど、案外そういう人、多いんかもなぁ」

千垣 映孝(ちがき・あきたか)が声をかけてきた。

「あ、俺らもちょうどカラオケ行こうと思ってたんだ。一緒にいいか?」

千垣のパートナー、永田 英司(ながた・えいじ)があたりをものめずらしそうにきょろきょろしつつそこへ戻ってきた。

「空いてるブース、あったよ〜」

「おう、サンキュ」

千垣が応じた。ノン・ギグがにいっと笑って言った。

「ほな、みんなで行こか。せっかくやし、な」

「うんうん、そうしましょ」

フェイトが微笑む。エミリエルもうなずいた。

「おとなしい方でも、楽しめるようにしましょうね」

「そうだね。俺も会話サポートするようにするよ」

鈴鳴が言って、先にたって歩き出す。

「み……皆さんありがとう」

木崎は感動して涙を浮かべたが、しかめ面に近い表情になってしまい、さらに強持て度がアップしている。
……だが、誰もそれを気にしてはいない。8人は和やかにブースに入っていった。やがてエミリエルの美しい歌声が響き渡った。