空京

校長室

浪の下の宝剣

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浪の下の宝剣

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ボウリング会場の喧騒:page01

 ロック・バロック(ろっく・ばろっく)は一人思考を独走させていた。

(ボーリングでいっちょ良いトコ見せてやろう)

赤いカラコン、青白塗った肌に紫の唇。デザインの奇抜さはあるものの、似合っていない黒いスーツ。どこから見ても失敗したヴィジュアル系なのだが、本人は全くそれに気づいていない。
パートナーのアルム・アー・シー(あるむ・あーしー)は歓迎会会場を見渡して、新入生なら感じるような、軽い不安と緊張感を感じていた。

(新入生だからって甘えてないですぐに馴染めるようにしないと。
 同じ新入生や先輩達と話したり、学んだりしなくちゃ)

それからロックを見やって、眉根を寄せた。

(わたしのロックに近づくような女は容赦しないんだから
 ……ああでもロックも浮気性だからね)

 桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)は、白地に青いラインの入ったシャツに超ミニのスコートという衣装で、バトン・チアリーディング部のチーム『Sky Angels』のメンバーと、デモンストレーションを行っていた。次はボウリング会場で、という移動時間。合間を見ての一休みである。綾乃が舞香に言う。

「人が大勢居る前でちょっと緊張するね」

「そうね。でもがんばろ?」

レイシャ・パラドクス(れいしゃ・ぱらどくす)イデア・エイドス(いであ・えいどす)がそこへやってきた。どう見ても小学生くらいの愛らしい少女二人連れである。

「あら、可愛いね」

舞香が声をかけると、レイシャが振り返った。

「私はレイシャ・パラドクス。こう見えても18歳よ。じゅーはっさい」

「ええ、そうだったんだ。ごめんねー。あたしは桜月 舞香って言うの、よろしくね」

「私は桜月 綾乃よ、よろしく〜」

レイシャはイデアをつついた。せっかくきた歓迎会、少しでも知人を作るいい機会である。イデアは目いっぱい背筋を伸ばした。なかなか人となじめないイデアを思いやって、ここに連れて来てくれたレイシャの厚意を無駄にしてはいけない。大きく息を吸い込み、やっと言った。

「えと……イデア・エイドス、です……よろしくお願い……します」

そこへロックがやってきた。

「君も新入生かな? 実は僕もなんだよ、よろしくね〜」

「よろしくね」

胡散臭げな表情を貼り付けた少女4人は、それでも一応礼儀正しく応えた。それを見たロックは思った。

(ステキな俺に声をかけられて、きっとメロメロのドキドキでこんな表情になっているに違いない。
 よし行け俺!……今度こそふられたりするんじゃない!!)

そこへ背後から意稲妻の飛び交う雷雲のごとき怒気をはらませたアルムがゆらりと現れた。すさまじい目つきで舞香ら4人を睨みつけている。

「ロックったら……浮気しちゃダメなのよ。……叱ってあげないとかしら、ね?」

片手にはいつの間にか、包丁が握られている。

「あ、ちょ、ちょっと待て、話せばわかる、な?、な?」

ゆっくりとアルムが4人を睥睨し、言った。

「……忘れてちょうだいね」

大慌てのロックはアルムの腕を掴んで、その場から立ち去った。

「忘れるような事象なんて、あってもなかったのと同じことね」

立ち去る二人を見て、レイシャがつぶやいた。

「あたしたち、少し時間があるから、ちょこっとボウリングで遊びましょうか」

舞香が言った。イデアがはにかんだような笑顔を見せ、言った。

「う……うん。遊びたい」

「じゃ、行きましょ」

綾乃がイデアの肩を抱いた。レイシャはにっこりして、舞香と腕を組んでレンタルカウンターへと向かったのだった。

 伊凪 遥(いなぎ・はるか)は、とにかく思い切り歓迎会を楽しみたいと考えていた。そこで、ボウリング場に入って、ものめずらしげに辺りを見回していた猫森 ちびにゃ(ねこもり・ちびにゃ)鈴村 りん(すずむら・りん)に元気よく声をかけた。

「はじめましてー伊凪遥です! あたしは百合園よ。ねぇねぇどこの学校の人?」

「猫森ちびにゃですぅ。葦原明倫館なのです〜。この子は鈴村 りんって言うの。
 よろしくねぇ」

遥のリーチェ・ハーランド(りーちぇ・はーらんど)が静かに言った。

「はじめまして。リーチェ・ハーランドと申します。よろしくお願いします」

霜月 雪(しもつき・ゆき)が、グラム・インベル(ぐらむ・いんべる)と一緒にやってきて声をかけた。

「あら、私も百合園ですわ。霜月 雪と申します。よろしくお願いします」
 
「自分はグラム・インベルです」

雪がついで言った。

「あの、よろしかったら、ボウリング、ご一緒させていただけません? 不慣れで……」

リーチェがうなずいた。

「もちろんです、何かのご縁ですもの」

「じゃさっそくゲームしようよー」

遥が元気よく言って、一式をレンタルしてレーンのほうへ移動した。

「あんまり遊んだことがないのだけど、だいじょぶかなぁ」

ちびにゃが言った。グラムがにこっと笑った。

「とにかくボールを転がして、ピンを倒せばいいだけですからね」

リーチェも言う。

「そうそう、大丈夫ですよ。皆さん不慣れ同士、のんびりやったら良いのです」

「まあ、ルールはそれだけなのですね。でしたら大丈夫そうですわ」

雪もほっとしたように言った。

……その日、このレーンではガーター連続新記録が出たという。

 一之瀬 大輔(いちのせ・だいすけ)は近くにいたシオン・グラード(しおん・ぐらーど)に声をかけてみた。

「俺は一之瀬 大輔、イルミンスールなんだ。……良かったらボウリング一緒にやらないか?」

「おう、いいね。俺はシオン・グラード。ヨロシクな」

二人は屈託なく意気投合した。

 レン・カースロット(れん・かーすろっと)は一之瀬のパートナーのリディア・バンクリーフ(りでぃあ・ばんくりーふ)を見た。リディアもジッとレンを見ている。その目つきで、双方ともパートナーが他の女の子の存在を気にしているのがわかった。

「私はレン・カースロットよ。よろしくね」

「私はリディア・バンクリーフよ」

小学生の少女といったイメージの奈岸 要(なぎし・かなめ)が声をかけてきた。

「あ、知らない人がいる! 初めまして、奈岸要だよ! よろしくね。
 ……なみにぼく男だからね」

要は余所見をしていた大崎 海人(おおさき・かいと)を突っついた。

「……ほら、海人も挨拶して!」

「……大崎海人だ。よろしく頼む」

海人はぶっきらぼうに言って、要の顔を見た。

(挨拶とはこの様な感じでいいのだろうか?
 ……まぁいいか)

「海人……まったく無口なんだから……ごめんね愛想がなくて」

要は口に出してはそれだけ言ったが、内心海人のことを心配していた。

(こんなんで海人の友達って出来るのかなぁ……)

だが、一之瀬もシオンも全く気にかけていないようだった。

「よぉ、初めまして、よろしくな」

「よろしく〜。一緒にボウリング、やるか?」

「ありがとう、嬉しいな」

レンとリディアも、輝くような笑みを浮かべた。

「よろしくね」

レンとリディアはひっそりと同じことを思っていた。

(良かった。男の子だった!)

キオ・ルーニー(きお・るーにー)がギクシャクとやってきて、唐突に言う。

「やあ……はじめまして。ボクのことを知りたいのならば友達にでもなるがよい」

そしてゆがんだ笑みを浮かべる。ポポン・ルーニー(ぽぽん・るーにー)がすっと出てきていった。

「スマンでござるな。キオは口下手なのでござる。
 わてはポポン・ルーニー。良かったら一緒に遊んで欲しいでざるよ」

「ああ、いいぜ〜」

一之瀬がうなずき、シオンも軽く応じた。

「おう、人数は多いほうが良いだろ」

レンとリディアはキオを値踏みしていた。

(女の子……だけど、変わってるから大丈夫かしら……ね)

わいわいとボーリングが始まった。ポポンはすっかり皆となじみ、なんとかキオも前にだそうとするのだが、キオは相変わらずギクシャクしたままだ。それでもシオンらは特に気にする様子もなく、普通に会話していたので、ポポンはちょっと安心した。
リディアとレンは、隅のほうでひそひそとやり取りしていた。

「レンさん、シオンさんが好きなのね」

「あなたも一之瀬くんが好きなのね」

「一之瀬くんは、人懐っこいから心配で……」

「分かるわ。シオンもそうなの。……こういう男性って、変な女に誤解されやすいのよね……」

「そうそう、そうなのよ! お互いがんばろうね」

二人の間に片思い同士の、連帯感が生まれたのであった。