空京

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浪の下の宝剣

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カラオケ会場その:page03

 ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)はうきうきとカラオケコーナーへやってきた。

「私は新入生じゃないけど、新入生歓迎会ってあるくらいだし?
 歓迎する側がいてもおかしくないかなってことで!」

ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)が疑わしげな目でパートナーを見やる。

「新入生を歓迎する側……と、いうのはわかる、わかるけどね
 ……ターラの場合は自分が楽しんでるだけな気がするなぁ……」

「何言ってるの! 引っ込み思案な子を誘って、楽しくやるのよっ!」

「……心がけはすごくよさそうに聞こえるけどね」

如月 もなか(きさらぎ・もなか)は誰かに声をかけたものかと逡巡しつつうろうろしていた。東 悠歌(あずま・はるか)が言う。

「そんなに迷わなくっても大丈夫よ。結構みんな同じような気持ちでいると思うの」

「……そうかなぁ。でもなんだか緊張しちゃって……」

「気持ちはわかるけどね」

そこへターラが声をかけてきた。

「あ、ねえ、そこのあなた、一緒にカラオケ行かない?」

「あ……え、私……あ、はい!」

おずおずと答えたもなかに、悠歌がそっと囁く。

「ま……上出来かな? はい、って言えたしねっ」

躑躅 ことの(つつじ・ことの)のパートナー峰野 終真(みねの・しゅうま)、が声をかけてきた。

「ああ、引っ込み事案さんなのかな? 
 自分は引っ込み思案のことのが自ら参加したいと言い出したので一緒について来たのですよ」

「はい……」

ことのがはにかむような笑みを浮かべて言った。

「私もなの。思い切って参加してみたんです」

「そうだったんですか!」

ジェイクがそばにいた金髪の少年大神 嘉辰(おおがみ・かしん)と猫系の獣人アリシア・アロ(ありしあ・あろ)にも声をかけた。

「貴方たちもよかったらご一緒に」

「ありがとう、喜んで。大神です、よろしく。
 こっちはパートナーのアリシアです」

「よろしくね」

ターラがマイクを掴んで言う。

「さーーあ! 歌うわよっ!」

ことのがカスタネットを取り出した。峰野が横目でそれをチラッと見て言う。

「……小学生じゃないんだけどな」

「まあ、いいじゃないですか。楽しめさえすれば」

大神が言った。ノリノリで歌うターラを見つつ、ジェイクがつぶやく。

「ま……他の皆も楽しんでるようだし、今回は大目に見よう」

 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)はカラオケに誘った6人の生徒たちと一緒にブースに入った。シェイドが言う。

「さすがに、会ったばっかりだし緊張するよな」

「今年も……沢山の新入生が……入学したんですねえ……」

紫翠がピントのずれたことを言う。織田 俊(おだ・しゅん)が言う。

「俺は歌うのが好きなので本気で歌いますよ! デュエットも可!」

相方の相川 沙耶(あいかわ・さや)はボソッと言った。

「ワタシは歌うのは絶対いやです。聞いてるのはいいけど」

橋本 佑一(はしもと・ゆういち)が言った。

「じゃさ、歌ももちろん歌うけれど、他に、なにかゲームしましょうよ」

「あ、いいですね。どんなのがいいかなー」

泉 卓也(いずみ・たくや)が同意の声を上げた。パートナーのオフィーリア・ヴァンス(おふぃーりあ・う゛ぁんす)も、うなずいて賛意を示す。シェイドが言った。

「俺と紫翠は調理側にも入れるから、ロシアンルーレットゲームとかはどうだ?
 プチシュー10個の中に、一個だけわさびとか、クジ引いてはずれは青汁とか?」

「おお、それは! 当たると恐ろしい事になりそうだけど、盛り上がりそうですね」

織田が言った。橋本のパートナー、セレス・ワトキンス(せれす・わときんす)が言う。

「歌わなくて良いなら……良いと思うわ」

「そこが重要だと思うの!」

沙耶が頷いた。

しばし後。

12個のプチシューがトレイに並べられ、紫翠によって運ばれてきた。

「2個がワサビクリームですよ〜」

橋本が言う。

「紫翠さんは当たり……というかハズレがわかっちゃってるんですよね」

泉が提案した。

「だったら……並び順をみんなでトレイを順にまわして、見えないように一人ずつでまず動かそう」

「ああ、それなら全員参加だ! いいね」

織田が応え、皆はわいわいと後ろを向いてトレイのプチシューを並べ替えた。泉がトレイをテーブルに置き、言った。

「じゃ一個ずつとってね」

全員がいっせいにシュークリームを口に入れた。

「……!!!!」

涙目になったのはセレスだった。わあっと歓声が上がる。橋本がすぐさまコップを手渡した。

「はい、これ、お水」

「……あ、ありがと」

その後もカラオケの合間に、タバスコチーズルーレットや青汁クジなどで、大騒ぎとなった。紫翠が言った。

「にぎやかに盛り上がって……よかったです」

「……楽しんでいるようだが……良かった……のか?」

シェイドが言って、チーズを何気なくつまんだ。

「!!!! ……み……水」

顔を真っ赤にしてコップの水を一気にあおった。

「……シェイドも楽しそうですねえ」

ピントのずれた紫翠の言葉に、ソファで熟睡しているセレス以外が、わあっと笑い声を上げたのであった。

 ファング・クラウド(ふぁんぐ・くらうど)影月 襲護(かげつき・しゅうご)とビュッフェで一緒になり、おのおののパートナー、空城 天音(そらしろ・あまね)ファレン・ゴソン(ふぁれん・ごそん)とカラオケに行こうという話しになった。

「しかしここの飯美味いよな〜」

影月が言った。

「うんうん、どれもすごく美味しかった」

天音が頷く。影月も頷いて言った。

「すごい食った〜。ちょっと腹ごなしにカラオケはちょうど良いぜ」

「あの肉料理は私でも作れそうですわ」

ファレンが言うと、影月が目をきらめかせた。

「おお、それは期待!」

西城 拓巳(さいじょう・たくみ)レナ・スカイラー(れな・すかいらー)を伴ってファングに声をかけてきた。

「すいません、カラオケコーナーへ行ってみようと思ったんだが……
 どっちにあるか知ってる?」

「あら、私たちも行くところよ」

天音が言い、ファングがあとを引き取った。

「お、誰かと待ち合わせとかじゃないなら、一緒に行かないか?」

「あ、よかったらぜひ。俺は西城拓巳だ、こっちはレナ・スカイラー。よろしくな」

「俺は影月 襲護。これも、何かの縁だ……まぁ、よろしく頼むよ」

「私空城 天音、よろしくね」

「私はファレン・ゴソン、影月さん、こう見えてとても優しいんですよ」

「よせよ、照れるじゃねえか」

一渡りみなで歌ったりおしゃべりに興じたりで、時が過ぎた。西城が言った。

「今日は楽しかった、良ければこれからもよろしくな」

「もちろん」

「もちろんよ」

明るい返事が返ってきた。

 ロード・アステミック(ろーど・あすてみっく)龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)に宣言した。

「歓迎会に参加しますぞ」

「……ああ、いいよ。否やはない。少しずつでも学校の雰囲気に慣れなくてはな」

乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)はいまひとつ乗り気ではない白泉 条一(しらいずみ・じょういち)を連れて、やっとカラオケコーナーへとたどり着いた。

「歌とか馴れ合いとか好きじゃないんだよな〜……」

「私、人に慣れないといけないと思って……」

「……ああ、わかってるよ」

乙川はやっとのことで廉に声をかけた。

「お、乙川 七ッ音です……歌や演奏が好きなのです……よかったら一緒に……
 その……カラオケに行っていただけませんか?」

「ああ、いいよ。俺は龍滅鬼 廉。よろしく」

「内気なお嬢さんなのですな。私はアステミック。そちらはパートナーさんかな?」

「俺? 俺は白泉 条一。ゲームが好き……だと思う。多分。あと七ッ音も」

アステミックはそばにいた、やはりおとなしそうな志筑 唯(しづき・ゆい)にそっと声をかけた。

「そこなお嬢さん、よろしかったらご一緒にカラオケへ行かれませぬかな?」

もじもじする唯に、シリル・イグレイア(しりる・いぐれいあ)がそっと後押しする。

「せっかくの機会だ。ご一緒させてもらいなさい。
 俺はシリル・イグレイア」

「あ、は、はい。ありがとうございます……
 私は志筑 唯といいます。……先生ですか?」

廉がぷっと噴き出した。

「いや……俺のパートナーで、同じ生徒だよ」

「す……すみません!!」

「いやいや、かまわんよ」

「私も先生かと思ってた」

乙川が言って、微笑んだ。6人はおのおのちょっと歌ったり、軽食を注文したりしていたとき。アステミックがふと足元に目をやって、固まった。家においてきたはずの子猫が、丸くなっている。唯と乙川がそれを見て歓声を上げた。

「うわぁ、可愛い」

「ホントだ〜」

これがきっかけで一気に緊張感が取れ、にぎやかなおしゃべりと歌が始まった。途中調子に乗りすぎた白泉を乙川がいさめたが、皆の気にしなくても、という反応に、白泉も少し気持ちを改めたようだった。

「いやぁ、とても良き時間ですなぁ。まるで若い頃に時間が戻ったようですじゃ」

アステミックがしみじみと言う。白泉がボソッと言った。

「唯さんって歌、上手いのな」

乙川が言った。

「みなさん、本っ当にいい人ですね……これからもどうぞよろしくね」

「うんうん、こちらこそ」

廉が子猫の頭をなでて、言った。

「……怪我の功名、かな」