空京

校長室

浪の下の宝剣

リアクション公開中!

浪の下の宝剣

リアクション



ゲームセンターにて

 如月 和馬(きさらぎ・かずま)は、エトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく)に言った。

「……面白そうな小娘がいるんだ。歓迎会に来ているらしい」

「ほう」

「ちょっと考えていることがあるんだ。行こう」

エトワールはひっそりと思った。

(新入生とはいえ年齢はばらばらだけれど、小娘というからには若いんでしょうね。
 ……気に入らないわ)

イングリット・ネルソンは人ごみを外れ、ゲームセンターの人のあまり居ない片隅で、ぼんやりとゲームのデモを眺めていた。

「あんたがイングリットだな」

「……なにかご用?」

イングリットは冷たく応じた。

「野党程度を相手にいい気になっている小娘風情か」

イングリットは肩をすくめただけで、挑発には乗らなかった。エトワールが不機嫌そうに言う。

「小生意気な娘ね」

「まあ、いい。いいか小娘。
 恐竜騎士団の圧倒的なまでの暴力が相手では貴様のの古武術など児戯に等しい。
 それだけは覚えておけ」

それだけ言うと和馬はそびらを返した。エトワールはすれ違いざま、イングリットのわきで足を止め、囁いた。

「大荒野の掟は弱肉強食よ。
 今ならまだ引き返せるわ。恐竜騎士団の統治下のパラ実には来ない方が良い。
 ……これは警告よ」

イングリットはもう一度肩をすくめてため息を一つつくと、黙って二人の姿を見送った。

 魅世 蓮(みよ・はす)はゲームセンターのほうへやってきた。連れていた琴兎 麗蘭(ことと・れいらん)とは、立食会場内でいつの間にかはぐれてしまっている。蓮は普段から言葉を発することがあまりないが、今回せっかく歓迎会に参加したので、何とか友人になれそうな人を探そうという意思は持っていた。
 ……人に慣れなくてはいけない……その思いだけが彼女の頭を占めていたのだ。
ゲームセンターの少し静かな一角で、月森 詩音(つきもり・しおん)は、自分と同じくらい小柄な蓮に気づいた。どこかぼんやりした様子で、何か探しているようだ。パートナーの上織 怜奈(かみおり・れいな)に声をかける。

「ちょっとあの子、何か迷ってるのかも。声をかけてみるね」

子供っぽい動作でつかつかと蓮に近寄る。

「どうしたの? キミ?」

「……!!!」

おもむろに話しかけられた蓮はパニックに陥った。心の準備が出来ていない。何か言葉を返すべきだとはわかっているものの、言葉が出てこない。思考が停止した。

「あ、大丈夫??」

その場で硬直している蓮を見てあわてて月森が声をかける。通りかかったシラウィ氏 ティカオ(しらうぃし・てぃかお)アルマニス・ランパート(あるまにす・らんぱーと)が、駆け寄ってきた。

「どうした? 具合でも悪いのでござるか?」

ティカオが声をかけ、すぐにアルマニスが蓮を抱えるようにして、そばの椅子に座らせる。

「これは……軽いショック状態ですわね」

「僕が話しかけたら、急に……」

「大丈夫。もう落ち着いたようよ」

「たいしたことはないでござるか。良かった良かった」

蓮がぽつんと言った。

「……ありがと」

一方、蓮とはぐれてしまった麗蘭は涙目になりながら、ゲームセンターのほうへやってきていた。

「蓮様が迷子に……どこですか、ここ……」

どこから見ても、のほうが立派にしっかり、正統派迷子である。ふと見やると、蓮が椅子にかけており、その前に少年が二人立っている。

(なんで蓮様が男と一緒に!!!)

何か勘違いをした麗蘭。その場から泣きながら逃げ出そうとした。

「……麗蘭!」

かすかに蓮の呼ぶ声がして、麗蘭は振り返った。アルマニスが近寄ってくる。

「あの子のパートナーですわね? おいでなさい」

従わざるをえない物腰。麗蘭はおとなしくついていった。月森が話しかけてきた。

「よかった。はぐれてたパートナーさん、見つかったんだね。
 折角の機会なんだし、一緒に遊ぼうよ」

「そうでござるな」

うんうん、とうなずくティカオ。アルマニスが言う。

「そこの……クレーンゲームをやってみたいわ」

6人はクレーンゲームにしばし興じた。ヌイグルミは大して取れなかったが、なにか通い合うものは得られたようだ。

 レイ・コスモス(れい・こすもす)は不安を感じていた。そう。彼はこういう団体で楽しむこのに良い思い出を持っていなかったからだ。リリィと出会ったことで運命が変わったのだから。

「みんながみんな俺の敵というわけではないはずだ……せっかくの新しい機会だ」

リリィ・アズール(りりぃ・あずーる)もまた同じ思いを抱えていた。彼と共にいる……それは彼女の勇気となっている。レイはリリィと出会ったことで運命が変わり、救いとなったと言っている。だがそれは彼女にとっても同じこと。リリィにとってレイの存在は何より大きい。

二人はあまりにぎやかに騒いでいるところは避け、格闘ゲームの一角にやってきた。少年が一人熱中している。

件の少年、平塚 卓真(ひらづか・たくま)は一人格闘ゲームに熱中していた。パートナーの子安 留美(こやす・るみ)が心配して声をかける。

「ね、他の人たちとも交流しなきゃ」

「ん〜」

そこへレイが対戦を申し込んできた。

平塚はにやりと歯を見せた。

「負けないぞぉ」

「俺もだ」

二人の間に何かが通いあった。一渡りの勝負。引き分け続きである。

「なかなかやるなぁ。俺は平塚 卓真」

「俺はレイだ。よろしくな」

東雲 桜花(しののめ・おうか)と、アリス・イヴリス(ありす・いぶりす)がそこへやってきて桜花がリリィ、留美に声をかけた。

「あたしたち、ゲームであまり遊んだことがないんだけど、何かお勧めのって、ある?」

「オラはよくわかんないや」

留美が言い、リリィも首を振った。

「私も……あまりよくは」

「そうですかー」

アリスが言うと、卓真が言った。

「女の子なら、クレーンゲームが良いかな。ヌイグルミとか取るやつ」

「俺、それなら得意だ」

レンが言った。

「わあ、教えて?」

桜花が言った。

「うんうん、私も行きたいです」

アリスも微笑んだ。

比較的静かだったクレーンゲームの一角の人口が一気に増え、にぎやかになった。