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リアクション
海京神社の地下を探索する:page03
パートナーと二人、あるいは即席のパーティーで歩む者も少なくなかったが、大半の者は、あらかじめ集まった数人以上のグループ単位で行動している。
そして――その中に、特筆すべき大集団があった。
ベテランあり、中堅的ポジションの経験者もあれば駆け出し、新人の姿もあるという集まりだ。戦争や商売を目的とせず、魔法の研究と遺跡の調査に使命感を燃やす者たち、彼らは『イルミンスール調査隊』という御旗の下に結集していた。そのうえ、イルミンスール所属以外のメンバーも受け入れているので、多様多彩な顔ぶれである。
そして、この大集団を率いるのは――
「ヒャッハー! 神社の地下にナニカがあるだって? ヒャッハー! そこにある宝物は俺のもんじゃい! ヒャッハー!!」
イルミンスール武術部部長のマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)だった。
「「諸君! これより調査隊の調査ミッションを始めるぜっ!」
未知の領域を全く恐れずに突き進んでいくマイト。
そんな彼のパートナーであるマナ・オーバーウェルム(まな・おーばーうぇるむ)も――
「なんだかワクワクしてきたよ! 楽しみだね!」
マイトよりは多少落ち着いているものの、やはり冒険に血が滾っている様子だった。
そして――そんな二人にはそれぞれ護衛するためにペアを組んでいる生徒がいた。
「地下迷宮に隠された神社と宝剣……いやぁ〜是非調査したいものです。マナくんお手数ですが護衛の方よろしくお願いしますね」
マナとペアを組む月詠 司(つくよみ・つかさ)と――
「ふぅ〜ん。先頭でハイペースね……まぁ良いわ。ワタシは水路のマッピングと、何かオブジェクトが在れば配置をチェックしながら進むわ。マイト、護衛は任せたわよ」
司のパートナーでもあり、マイトとペアを組むのはシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)だった。
「ヒャッハー! イルミン武術奥義!! 突撃槍(ブリッツランス)!! どうした、ネズミしかいねぇのか? もっと骨のあるヤツ、掛かって来い! ヒャッハ!」
武術部部長であるマイトに掛かれば、迫り来る巨大ネズミたちは紙屑同然に蹴散らされていく。
そんな彼らの奮闘ぶりを見るシオンは――
「本当、元気ね。まぁ、細かい所はツカサとか他に任せてれば良いから大丈夫だろうけど、暴れすぎて通路を破壊するのだけは避けてよね?」
ほとんど呆れかえっていた。
一方で、司とマナのペアは――
「とりあえず、ここには何もないようですね。マナくん、先に進みましょうか」
「了解! それじゃあ、行く手をさえぎるネズミたちに……バーストダッシュで突撃!!」
お互いの呼吸が合うのか、順調な足取りで調査と護衛をこなして先へと進むのだった。
マイトたちが破竹の勢いで地下迷宮を進んでいく中、広大な地下を効率よく調査するために別ルートを選んだ調査隊員たちは、それぞれのペースで地下迷宮を進んでいた。
「それじゃあ次は……あの別れ道を右に行ってみようか?」
「え〜っと、それじゃあ壁にマーカーで目印をつけて……籠手型HCにマッピングしておくのだよ」
八神 誠一(やがみ・せいいち)とパートナーのオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)。
「な、なんだか不気味なところだね……」
「でも、こういうのをフロンティアスピリッツって言うのかな? 凄くワクワクするね」
羽南 渉(はなみ・わたる)とパートナーの紫陽 灯舞(しよう・とうま)は、4人でフォーマンセルを組んで地下迷宮を進んでいた。
彼らは、他の生徒が調査に専念しやすいよう、あらかじめ敵を排除するために索敵していたのだった。
そして――
「みんな、敵が来るよ!」
殺気看破で周囲を警戒していた誠一は、いち早く迫り来る敵意に気づいた。
「よ、よしっ! 負けないぞ!! 僕は、生きて雪だるま王国に帰るんだからっ!」
巨大ネズミの集団が暗闇から飛び出すと同時に、白兵攻撃で肉迫する渉。
しかし――
「なっ!? しまった……」
渉が巨大ネズミたちを倒して一息をついた瞬間……その屍を乗り越えて別の巨大ネズミたちが雪崩のように押し寄せてきた。
襲いかかる巨大ネズミたちを前に自分の未熟さを痛感した渉だったが、もはや攻撃は避けられそうになかった。
だが――
「無駄なのだよ!」
巨大ネズミが渉に牙を剥く寸前、オフィーリアの放った殺気によってその動きを止まる。巨大ネズミは、食物連鎖の上でオフィーリアに敵わないことを悟ったのだ。
「リア。時間稼ぎ、ありがとうっ!!」
次の瞬間――誠一は、動きを止めた巨大ネズミたちをサイコキネシスで操ったワイヤーの包囲網で絡め取った。
そして――
「まったく……帰れないフラグは止めてよね」
灯舞が放ったショットガンの一撃によって、身動きの取れない巨大ネズミたちは一掃されたのだった。
「うぅ……みんな、ごめん。守られてばかりじゃ面目無いし、パラミタに来た以上は戦い慣れもしなくちゃって思ってたんだけど……」
戦闘が終了して、自分の不甲斐なさに落ち込む渉。
しかし、そんな彼に誠一たちは――
「大丈夫。最初から失敗せずに戦える人なんていないんだよ?」
「もしもの時は、今のように俺様たちがバックアップするのだ。思う存分戦って失敗して戦えばいいのだ」
パラミタに生きる先輩として、優しく渉を導くのだった。
こうして、今回の戦闘は、渉が独りで戦う必要性が無い事に気づくための良い経験となったのだった。
「……どう? 何かみつかった?」
ナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)が放つ光術が暗闇の迷宮を照らし出すなか――
「ふむ。今のところ、特筆するようなものは見つかっていないな」
パートナーのウィリアム・シェイクスピア(うぃりあむ・しぇいくすぴあ)は、歴史・考古学に造詣が深いことを活かし、丹念に地下の調査を進めていた。
だが、そこへ――
「また、敵襲……」
八神 誠一たちが索敵しているルートとは別の場所から、ナナリー達の下へ巨大ネズミたちが押し寄せてきた。
しかし、ナナリーには巨大ネズミに対して一切と言って良いほど臆した様子が見られない。
「……これで、5度目」
むしろ何度も現れる巨大ネズミの学習能力の低さに呆れてすらいるようだ。
そして――
「ウィルさんの邪魔をしないで」
彼女が手馴れたように放ったブリザードが巨大ネズミたちを一瞬で包み込むと、その醜悪な身体を完全に凍りつかせてしまった。
「ふむ、まさに有象無象の巣窟だな。独りで飛び込めば命はなかったな」
「……大丈夫?」
「あぁ。私にはお前が居るからな」
こうしてナナリーとウィリアムは、互い信頼あって順調に地下の調査を進めていくのだった。
しかし、イルミンスール調査隊の全員が地下迷宮を順調に進んでいるわけではなかった。
宇喜多 陸(うきた・りく)はパートナーのマルティン・ミード(まるてぃん・みーど)と共に、黒洞々とした通路で呆然と佇んでいた。
「見失ったか……」
「しかし、小谷友美は確かにここを通ったはずです。隠し通路でも使ったのでしょうか?」
彼らは、調査隊の後衛として同行していたのだが……あるルートに小谷友美が入っていくのを偶然見かけ、彼女の後をつけて来たのだった。
しかし、とあるT字路を右に曲がったところで、その姿を完全に見失ってしまった。
そのうえ――
「しまった、いつの間に!」
陸は、前後から現れた巨大ネズミの集団に囲まれてしまったのだ。
だが、今さら後悔しても遅い。
「いや、仕方ない。自分たちで蒔いた種だ!」
敵は陸たちよりも遥かに多かったが、二人は覚悟を決めて戦闘態勢をとる。
雑食性の巨大ネズミたちは、陸たちを餌としか見ていない。正直なところ、勝算は限りなく低いと言えた。
そして――
「くっ……さすがに厳しいか」
やはり、巨大ネズミたちの猛攻を前にして、陸たちは苦戦を強いられてしまう。
しかし、そこへ――
「お前ら、大丈夫か!?」
突然、巨大ネズミの包囲網が吹き飛んだかと思うと、その奥から天城 一輝(あまぎ・いっき)がやって来て、ポリカーボネートシールドで猛攻から陸たちを守ったのだった。
更に――
「ネズミどもよ、散れっ!」
一輝のパートナーであるユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)がフェザースピアを投擲すると、次々に巨大ネズミたちを貫いていった。
「ど、どうしてここに?」
タイミングよく現れた一輝たちに驚く陸。
「天城様たちは、私が呼ばせていただきました」
陸が振り返ると、そこには風森 望(かぜもり・のぞみ)と――
「望。増援を連れて来ましたわよ」
パートナーであるノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が、高峰 雫澄(たかみね・なすみ)とシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)、泉 椿(いずみ・つばき)と緋月・西園(ひづき・にしぞの)を引き連れてやって来た。
「海鎮の儀の真相は気になる……けど、まずは護衛対象である調査員を護りきることが先決かな〜。行くよ、シェスティン!」
「海鎮の儀も、宝剣も関係ない……我はただ戦えればいいだけだ」
雫澄とシェスティンは、それぞれに武器を構えると陸を囲む巨大ネズミたちを一掃していった。
「悪いけど、陸さんには指一本触れさせないよっ」
雫澄の鉄甲による一撃が巨大ネズミの歯牙を砕き――
「遅いっ!!」
シェスティンのウォーハンマーが巨大ネズミの骨を破砕する。
更に――
「緋月っ! 歓迎会もいいけど、やっぱりこういう探検の方が絶対に楽しいよな!」
「私は椿が楽しいんだったら、どこだって楽しいわ」
椿と緋月も武器を構えると、巨大ネズミたちへ迫撃をかける。
「今日はワクワクしてるから、暴れるぜっ!」
椿が放つ鳳凰の拳が次々と巨大ネズミたちを薙ぎ――
「誰かが傷つくと、椿が悲しむの。だから、絶対にここは通さないわ」
緋月の卓越したワンド裁きに、巨大ネズミたちは成す術もなく倒されていった。
「どうして……どうしてみんな、ここに俺がいるってわかったんだ?」
望たちに保護された陸は、自分以外の調査隊員がこの場に集結した理由を不思議におもっていた。
「簡単なことです。私は調査隊の伝令役ですから、アナタが単独行動を取りはじめたのを見て、護衛をつけるためにお嬢様から借りた金糸雀で伝書を回しましたんです。そして、たまたま近くにいた天城様が駆けつけてくれた……というわけです」
望は、新人である陸の単独行動を気に掛けていたのだった。
「その後は、望から緊急の連絡を受けたわたくしが、増援を連れて来たんですわ」
ノートが得意げに『でのどこでもバリ3携帯電話』と自分の活躍を自慢した。
「まぁ。焦る気持ちはわかりますけど、同じ調査隊なんですから、目的を目指すときはもっと仲間を頼ってもバチはあたりませんよ?」
望みの一言に、何かを感じたのか、陸は小さく頷いた。
「みんなぁ、とりあえず巨大ネズミは倒したよ〜!」
「次の巨大ネズミがやって来ない今のうちに、安全圏まで退いた方が身のためだと思うぜ」
あらかた巨大ネズミを倒し終えた雫澄と椿は、この場からの撤退を提案した
そして――
「それだったら、殿は俺達が勤める」
「さぁ、時期に別の巨大ネズミが死体を漁りに来るだろう。急ぎたまえ」
身を挺して殿を務めるた一輝たちの活躍によって、その場にいた全員は安全圏まで脱することに成功したのだった。
小谷 友美を見失った陸にとっての調査は失敗だったかもしれない。だがその失敗は、ある意味では仲間の大切さを知る良い機会となったのは間違いなかった。
「さ、これでもう大丈夫だ。次からは、くれぐれも気をつけて探索してくれよ?」
イルミンスール調査隊の医療班である伊坂 紅蓮(いさか・ぐれん)は、怪我を負った調査員たちの治療のために、地下迷宮を忙しく奔走していた。
そして、パートナーのナズナ・シザンサス(なずな・しざんさす)も――
「皆さん勇気があるというか……本当に元気ですね。私も最大限お役に立てるよう、頑張ります」
紅蓮に同行して、彼の医療を手伝っていた。
実際のところ、イルミンスール調査部隊は上手く連携が取れているため、怪我人などは少なかったのだが……
「ん? そこの君。もしかして怪我してるんじゃないか? 少し見せてくれ」
地下迷宮を調査しているのはイルミンスール調査隊だけではなかったので、けが人は後を絶たないのだ。
そして――そんな怪我人たちを目の前にして『イルミンスール調査部隊では無い』という理由で放っておける紅蓮はなかった。
「よしっ、これで大丈夫だ。気をつけて進むんだぞ」
調査隊に加え、あらゆる生徒に治療を施すことは、決して楽ではなかった。しかし、紅蓮とナズナにとっては、価値のある一日となったのだった。