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海京神社の地下を探索する:page04


地下迷宮を進む生徒たちの同期期は、まさに多種多様といえた。
「なぜ、パラミタのモンスターが地球に居続けられるのだ?」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)の調査目的は、巨大ネズミなどのモンスターと地球での活動に関する謎の解明だった。
 しかし――
「ですが……事前調査以上に有力な情報はなかなか得られませんわね」
 パートナーの島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が言うとおり、彼女が地下迷宮探索の直前に海京神社の歴史や地下の様子についてネットや文献で基本情報を調べたのだが……それ以外に有力と言える手がかりは未だ皆無と言えた。
 と、そこへ――
「二人とも、周囲警戒。この先、十四時の方角から敵襲の恐れありだ」
 クレーメックたちの元へ駆けてきた相沢 洋(あいざわ・ひろし)が、モンスターの接近を注意する。
「本来、海京にいるはずのないモンスターがなぜいるのか? 定番だと誰かが召喚術式を使ったか? はたまた神社の結界が弱まっているかだな」
 彼も、彼なりに偵察兵としての機敏さを活かして前衛で情報収集活動にあたっていたのだが……やはり、良い結果は得られていないようだった。
 しかし、わざわざ洋が敵を排除せずに戻ってきた理由は――
「洋さま、見てください。対象がこちらの存在に気づいたようですわ!」
 洋のパートナーである乃木坂 みと(のぎさか・みと)が、巨大ネズミの襲撃を伝える。
 実は、地下のモンスターたちは多数の生徒達が掃討していたせいで、その数を徐々に減らしていたのだった。
 そのため、クレーメックたちの進むルートではモンスターとの遭遇率が減っていて、直接的な調査することが出来なかったのだ。
 しかし、モンスターが現れた今――クレーメックの指示で戦闘が始まる。
「巨大ネズミに関する行動パターンは、文献から把握している。まずは、助走後3秒で跳びかかって来る……ヴァルナ、跳躍が頂点に達した瞬間に【適者生存】で威嚇だ」
「了解ですわ!」
 クレーメックの冷静な分析と銃よる威嚇射撃が行われると、すかさずヴァルナが殺気によって巨大ネズミへ食物連鎖上の不利を実感させた。
 作戦は見事に成功し、巨大ネズミの身体が一瞬強張る。
 そこへ――
「洋、みと。今だ、生け捕りにするぞ」
「了解っ!」
「わかりましたわ」
 洋の放った矢が巨大ネズミの前足を貫き、みとによっての絶命しない程度の氷術が炸裂し――ついに、巨大ネズミを生け捕りにすることに成功した。
「これで、モンスターと海京に関する謎を調べることができるな」
 クレーメックはあくまでも冷静に、モンスターから謎解明のヒントを得ようとしていくのだった。

 地下迷宮を進む多種多様な理由の一つには、王道のトレージャーハントという生徒たちもいた。
「ねぇねぇ、キティ! お宝はどこにあるのかな!? ねぇねぇ!」
「背中の上で暴れるな、転倒するぞ!」
 迷宮の雰囲気にテンションアップ中の寿 司(ことぶき・つかさ)と、豹へと完全に獣化して司を背に乗せながら地下を駆け抜けるキルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)
「絶対に、何か凄いイコンパーツがあるんだって! 私が一番に見つけるんだよ!」
「イコンの部品はともかく、価値のあるモノでも手に入れば……まぁ、ラッキーかな」
 目をギラギラと輝かせた貴宮 夏野(きみや・なつの)と、豹へと変身して夏野を背に乗せて駆けるカルシェ・アサッド(かるしぇ・あさっど)
 この4人が地下を疾走することとなった発端は、夏野が最初に――
『イコン関連メーカー勤めだった小谷友美が神社に出没しているってことは、きっと地下迷宮にイコン関係のパーツか部品が眠っているに違いない!』
 という推測のもとに彼女は地下へ潜り――
「なつのんとカティだけでは不安だし……もしかしたら、地下迷宮でお宝が手に入って上質な剣が帰るかも」
 という、心配とちょっとした欲望の元に、司も地下へ潜ったのだった。
 だが――
「いいか!? 最初に潜ったのは私だからな! パーツは絶対には譲らない! あ、カティ。次の十字路は右で」
「イコンパーツなんかどうでもいいけど、お宝だった場合はあたしが売却するからね。あ、キティ。あたし達も次の十字路は右に曲がろっか」
 並走するニ人は、ゴール直前でデットヒートを繰り広げるライダーさながら、互いに闘志をむき出しにして先を急いでいた。
 しかし――
「「あれ?ここはどこ?」」
 司と夏野たちは、通路の行き止まりに差し掛かった所で、はじめて『自分達は今ドコにいるのか?』という疑問に気づく。
「お前ら……ちょっとは周りに気を配って指示は出してくれ!!」
 通路に虚しく、響くキルティの的確なツッコミ。
 司と夏野はマッピングも何もせず、ただただ感覚に任せて指示を出していたので……いつのまにか完全な迷子になっていたのだった。

 噂の真相をたしかめるべく、地下迷宮を進む生徒もいた。
「小谷さん! 貴方、どこに行く気ですか!」
「私達は敵ではありませんわ。何故逃げるのです」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)とパートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)
「こんなところにいてボクたちから逃げるってことは、何か知られたくない秘密でもあるの?」
「もしかして……噂の女の子と何か関係があるのかしら」
 桐生 円(きりゅう・まどか)とパートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)
 彼女達は、逃げるように地下を進んで行く友美へ何度も呼びかけていたのだが……友美には、まるで小夜子や円たちの声が聞こえていないかのようだった。
「……こうなったら、無理やりにでも捕まえるしか無いみたいだね」
「円。だったら、私が『空飛ぶ魔法』で先に回りこむから、後ろは任せたわよ」
 円とオリヴィアは、一向に止まる気配を見せない友美に対して強硬手段を取ることにした。
「行くわよ!」
 友美がT字路になった通路を右に曲がった瞬間――オリヴィアが『空飛ぶ魔法』で一気に加速し、それに円が続いた。
 しかし――
「!! ニ人とも、待ってください!」
「罠ですわ!」
 小夜子とエノンが止めたときには……既に手遅れだった。
「な、何これ!?」
「トラップだわ!」
 地下に響く、円たちの困惑した声。
「どうやら……わざとトラップを発動させて、私達の行く手を阻んだみたいですね」
 T字路を曲がった彼女達の前には――通路を塞ぐ鉄格子と、巨大サソリの集団が待ち構えていたのだ。
「小谷さんは、何者なんでしょうか? まさか、トラップの位置まで把握してるなんて……」
 広大な地下迷宮に張り巡らされたトラップを把握している上に、それらを利用して追っ手を振り切る謎の新入生。小夜子と円たちの疑念は深まるばかりだった。