空京

校長室

浪の下の宝剣

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浪の下の宝剣

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●海京神社の地下を探索する:page09

 通路の先に待ち構えていたのは巨大甲殻類、すなわちカニだった。ただのカニではない。ずんぐりした見かけながらイコンに匹敵する大きさをもつ恐るべきヘイケガニである。黒っぽい胴体は丸みを帯び、鋭い爪を持つ足は左右に長い。背の甲羅には人の顔のような模様があり、その顔は怒りの表情をたたえているように見えた。
 カニは素早くはないようだが、一行が近づくを察するやわしゃわしゃと振り向き、左右の小さな鋏脚を振り上げ近づいて来た。こちらを外敵と見たか餌と見たか、それともその両方か。いずれにせよ戦う気らしい。
「やや、敵はカニであったでありますか!」
 子幸はすらりと抜刀した。栄光の刀は子幸の意識を反映し、ぎらり鋭い光を放った。しかし直後、
「うう、腹が減ったであります……」
 子幸はふるふると首を振ったのである。茹でたカニの身をほっくり食べるところ、これを想像したとたん腹の虫が暴れ出したのだ。あるいはカニ鍋あるいは網焼き……想像がとまらない。
「子幸! いきないボケッとしてんじゃねえよ!」莫邪は子幸の背をどやした。「こんな状況でまた腹減ってんのかお前はっ! ったく、今はこれで我慢しろ! ほらっ!」
 実はヘイケガニは食用にならないのだがそれを指摘している暇はない。常に持ち歩いているおひつを開き、莫邪は光の速さで塩むすびを作って子幸の口に投げ込んだ。
「うぐ……むむ、これでしばらくは戦えるであります!」
 かくて再起動した子幸は、戦士の目を取り戻していた。
「どうやらカニ殿に話し合うつもりはないようでござるな。しからば武力行使!」
 義理に熱くやるときはやる男、リーゼント忍者『ザ☆マホロバ』も威勢良く斬り込んだ。まったくもって忍者らしくない派手さだが、その真っ直ぐな心情は本物だ。
 明日香とノルン、ハーティも続く。さらに、
「ううっ、あの背中の模様……怖い……」
 沢ガニの類は『かわいい』と追いかけるエリスだが、お化けヘイケガニは愛せないようだ。後衛位置から美春を支援する。
 石造りの床板が砕けた。カニの長い脚が槍のように突いてきたのだ。美春はバックステップしてこれを紙一重で避けると、
「ふぅ、近くで見るとますます凄いね! 巨大モンスターとの戦い、これぞ冒険って感じ!」
 大鎌を横薙ぎしてカニ脚に切りつけた。ガッ、と鋭い衝撃が手に返ってくる。鋼鉄の柱を殴りつけたよう、強烈な手応えだ。激しい反動が走って両腕が痺れ、美春は武器を取り落とし後ろに倒れそうになった。そんな美春の危機を救うべく、
「フォロー入ります!」
 オルタンシアが飛び込んだ。彼の背のマントがふわりと浮き上がった。跳躍が起こした風のためだろうか。いや、それだけではない。ほとばしるサイキックパワーがオルタンシアの周囲に力場を形成しているのだ。そしてサイコキネシス、目に見えぬ力の塊をオルタンシアは巨大モンスターの脚にぶつけた。ぴしっ、と鞭で叩くような音がして、脚にヒビが入った。
「やった……!」
 だがその喜びもつかの間、「危ない!」と美春は叫んでいた。別の脚がオルタンシアの頭上から襲いかかってきたのだ。刃物のような爪が振り下ろされる。オルタンシアの柔らかな肌を、爪はたやすく切り裂くだろう。
「気を抜くな! オル!」
 しかしその一撃はロータスと、彼が振り上げたダガーによって防がれていた。
「ロー兄さん!」
「俺に構うな! ちょっと離れてろ!」
 獣人としての毛がすべて、逆立つほどロータスは腕に力を込めていた。カニの爪がぐいぐいと押してくる。骨が砕けそうな重さだ。噛みしめた歯の間から、生温かい血が流れ落ちるのをロータスは感じていた。瞬間、彼は大きく息を吸い込んだ。そして、
「負けるかよ! 蟹野郎!」
 渾身の力で両腕を上げ、カニの爪を押し返す。カニは脚をバタバタさせて無様に転倒した。
 ロータスは腕に鈍痛を感じていた。この痛みは数日は消えないだろう。しかしオルタンシアを救えたことを思えば平気だった。
 これぞ好機、倒れたカニに次々と、戦士たちが向かっていく。
「総攻撃であります!」子幸が声を上げた。
「子幸殿に続け! かくなるザ☆マホロバも参らん!」
 リーゼント忍者というのはいかにもイロモノだが、意外や意外、ジョニーの動きはまさしく正統派忍者のそれである。敵の弱点を突き、ピンポイントで攻撃を行う。
「リーゼント忍者さんカッコいいですぅ〜」
 レオンは目を輝かせ、ポカポカとメイスでカニを叩く。カニは泡を吹きかけてきたがなんとか回避した。
「レオンさん大丈夫ですか!」
 メイドの雪花、その武器は竹箒だ。逆さに握って戦いに加わった。これに、
「甲種焼酎……じゃなくてコーカクルイ、覚悟するんだよっ!」元気一杯のエルーサと、
「待てそんなに慌てるじゃない! 危ないぞ!」彼女を従えつつ的確な攻撃する五摘が続いた。
 さらに別方面からは、櫻姫と千瀬乃が滑り込んできた。
「千瀬! カニじゃカニカニ! 巨大カニ退治じゃ! 行って加勢するのじゃ!」
「行って加勢しろ、って……姫様は?」
「わらわはここで見ておる」
「またですか! ……って、行ってきます!」
 千瀬乃の刀が一颯すると、カニの鋏脚は斬り落とされ吹き飛んだ。
 さりげなくエースがバックアップする中、ついにヘイケガニは活動を停止したのだった。

 倒したカニが護っていたのは牢だった。そこには年老いた禰宜が一人、正座していた。
「あんたがたは……あんたがたは……?」
 老人はくすんだ衣冠姿で、光の衰えた目を一行に向ける。