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リアクション
歓迎会場立食パーティ:page08
落ち着きを取り戻したステージでは予定通り、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)とフロッ ギーさん(ふろっ・ぎーさん)が演奏準備を始めた。
「ナナと一緒に新入生歓迎の音楽を奏でて、新入生のハートをがっちりキャッチってな。
ハートキャッチフロッギーさん……なんて言われたりな!」
「明るめの曲が良いでしょうか?
ナナ的には落ち着いた曲の方が得意なのですが。
今日、フロッギーさん様の演奏に合わせて歌ってみますね」
「最初は明るい陽気な曲、次いでちょっちハードな曲、落ち着いた曲といくぜ。
締めに希望の溢れる曲って感じで演奏を終えれば、演出的に完璧だろ?」
彼らの演奏はなかなかの盛況となった。後半実里もやってきて、誘われて一曲歌ったほどである。次の出演者で、盲目の歌姫の異名を持つ迦 陵(か・りょう)が、パートナーの禁書目録 インデックス(きんしょもくろく・いんでっくす)に誘導されてやってきて、声をかける。
「お疲れ様でした。すごく良かったですよ」
ナナとフロッギーがニコニコと応える。
「わあ、ありがとう」
「お〜! サンキュ!」
迦 陵の目は見えないわけではない。彼女はアルビノであるため、その色素のない紅の瞳は外光に耐えられず、目を閉じたまま生活しているのだ。そのサポートは全てパートナーの禁書目録が行っている。
迦 陵が凛とした花のような姿をステージ上に見せると、あたりは水を打ったように静まり返った。
歌姫の名に恥じない、透明な美しい歌声が響く。
「素晴らしいわ……」
一曲終わってナナがつぶやく。禁書目録がそっと言った。
「陵は歌が好きなだけで、ライブだとかを、意識しているわけではないのです。
誰でも気軽に音を楽しめるように、自身も楽しんでいるだけですよ」
再び歌姫の澄んだ歌声が響き、聴衆をしばしの別世界へと誘った。
歓声を上げ、走り出す硯 爽麻(すずり・そうま)のあとを追い、鑑 鏨(かがみ・たがね)が呼びかける。
「わあ〜! あれおいしそう!
「おいおい、一人で行ったら危ないって!」
人ごみの中に小柄な爽麻の姿はたちまち飲み込まれてしまう。
「……また見失った……しょうがないな」
鑑はため息をついた。誰かに聞こうにも、がっしり見える体躯とやや目つきが悪く、怖そうに見えるため、周囲の人はなんとなく彼を避けていってしまう。
アディシュス・ヘルブリザード(あでぃしゅす・へるぶりざーど)も、ビュッフェ目指して人波を潜り抜けたはいいが、パートナーにして保護者的役割でもある門守 黒徒(かどもり・くろと)とすっかりはぐれてしまった。
「く、くろと……くろとぉ〜……」
デザートの皿を手におろおろと黒徒を探す。爽麻がそんなアディシュスに気づき、声をかけた。
「どうしたの? 迷子になっちゃったの? お名前は? あたしは硯 爽麻よ」
「くろととはぐれちゃったの……私はアディシュス・ヘルブリザードって言うの」
アディシュスは今にもべそをかきそうだ。
そこへ案内の立て札を手にしたセレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)とシェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)がやってきた。
「あらどうしたの? 迷っちゃった?」
爽麻が言う。
「こちらのアディシュスちゃんが、迷子らしいの」
セレスが応える。
「そっか〜。迷子センターまでシェザーレが肩車してくれるわ……してくれるよね?」
「う……でも子供を肩車するのはちょっと乙女にはつらいわね」
きょろきょろと辺りを見回すシェザーレの目に、挙動不審な男の姿が写った。どう見ても強持ての男が、不審なそぶりできょろきょろしている。鑑である。
(もしや……誘拐??)
つかつかと傍によった。
「ちょっと、あなた。何してるの?」
「はぐれたパートナーを探しているんだが。10歳くらいの女の子を見ませんでした?」
セレスもやってきて言う。
「ちょっと挙動不審だわね」
そのときセレスの後ろから、爽麻が飛び出してきた。
「お兄ちゃん!!」
「おお、良かった。一人でうろうろしてはいけないと、あれほど言ったろ?」
「はーい」
セレスとシェザーレは異口同音に言った。
「不審者扱いしちゃってごめんなさい」
「いえいえ」
半べそのアディシュスがセレスの手にしがみついている。
「あそうだ、この子迷子なんです。迷子センターまで肩車してあげてもらえますか?」
「お安いごよう」
ひょいと鑑はアディシュスを持ち上げ、肩車した。突如怒声が響く。必死でアディシュスを探していた黒徒である。
「あ……アディシュスをどうするつもりだテメエ!」
「迷子センターへ連れて行くのよ」
足元のほうから爽麻が言った。
「あ……そ、れは……失礼しました。俺の連れです……お世話かけました」
「くろとぉ〜〜」
すぐにアディシュスを受け取って抱き上げる黒徒。
「……お互い大変だな」
鑑が同情的に言い、二人の男はため息をついた。
一方のセレスはコンサートを楽しみにやってきていたのだが、今のどたばたでくたびれて、椅子に座り込んだまま眠ってしまった。シェザーレが言った。
「張り切りすぎたね……」
シャンバラ教導団のザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)とボア・フォルケンハイン(ぼあ・ふぉるけんはいん)は、新入生らに愛想よく話しかけつつも、油断怠りなく彼らを観察していた。
歓迎会場に入る前に、ザウザリウスはボアに静かに言った。
「こういったハメを外すような場は参加者の人柄、本性を知る絶好の機会だからね」
うなずいてボアも応じた。
「不穏分子の炙り出し、ですね」
ザウザリウスはうなずいた。
「それもあるし、国軍に入隊する新入生の出来次第で作戦成功率から全てが変わってくるからね」
「……手を組むか、利用できそうな人材もね?
……まあ……歓迎会程度で尻尾を出すような人物は必要ないですが」
十野 依子(とおの・よるこ)は会場が開くなり、即座にビュッフェを目指した。
「うわあ、こんな御馳走いつぶりだったかな〜!!」
十野 麻子(とおの・あさこ)はパートナーをつついて言った。
「ちょっとちゃんとシャンバラ教導団の皆さんを探して、挨拶しとかないと駄目ですよ」
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)とフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)がそこへやってきた。松平が依子らに声をかける。
「私は君と同じ教導団のメンバー、松平 岩造。君達の先輩だ、今後ともよろしく」
フェイトはニコニコと笑いかけた。
「やあ、飲み物はいかがです?」
あたりを見回して依子はいった。
「あ、十野依子です。いただきます。じゃない、よろしくお願いします」
「あ、私は十野麻子です。よろしくお願いしますね。
……って依子さん、よだれ!よだれ!」
あわてて依子のよだれをぬぐう麻子。
小さな子供のように落ち着きなくうろうろするアニス・パラス(あにす・ぱらす)を追いかけてようやく捕まえた佐野 和輝(さの・かずき)は、アニスに言った。
「だめだよ一人で」
「……はーい……わあこれ美味しそう!」
アニスの返事はいいのだが、その素直さは長続きしない。すぐにまた何かに気を取られてしまうのだ。
ちょうどビュッフェについたところで、佐野は彼らの会話を聞きつけて声をかけた。
「あ、俺もシャンバラです。佐野 和輝と言います。
こっちはパートナーのアニス・パラスです。よろしくお願いします」
「おお。同じシャンバラの生徒としてこれからもよろしくね」
フェイトが応じ、麻子と佐野は会釈を返した。アニスはぴょこんと頭を下げ、また周囲をきょろきょろし始めた。佐野はため息をついて一人ごちた。
「……アニス……まぁ今日ぐらいは大目に見よう」
松平が簡単に自らの所属について解説をした。
「自分は戦闘科で、主に戦線で戦っている。
戦闘科は歩兵、騎兵、機甲、砲兵、航空、工兵、憲兵の7つあってね。
俺は歩兵科に所属しているんだ。よかったら君も戦闘科へおいでよ」
「なるほど」
佐野はおとなしく話を聞いている。麻子は食事以外眼中にない様子の依子をつついた。
「ちょっと依子。『学園デヴュウ』に失敗したら、その後ずーっと寂しい思いするんですから……」
「え、なに麻子、うるさいなあ。今の私は食事に集中してるんだよ。
邪魔すると君もオムライスにしちゃうよ」
「ちょ、何言ってるのよ……もう。イミフ……ああ……先が思いやられるなあ」
大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)とヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)はごった返す中、ひたすら料理を厨房から運んだり汚れた皿を下げたりと余念がない。
「新入生の方々は新任の士官となるわけですからね。二等兵ですからなんでもやりますよ!」
大熊は心意気をチーフに伝える際、こう言ったのが採用の決め手だったらしい。イッポウノヒルダは不満そうだ。
「どうして、ヒルダには階級がないの?
二等兵以下の三等兵? すごく納得いかないわ!」
いずれ軍の幹部候補生たちというものはいつか、大熊やヒルダのような兵卒の生死を握る配置をすることになるのである。
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