空京

校長室

浪の下の宝剣

リアクション公開中!

浪の下の宝剣

リアクション




歓迎会場立食パーティ:page04

 南部 豊和(なんぶ・とよかず)は緊張した面持ちで、棒を飲んだように突っ立っていた。

「今まで誰かと会話する機会なんて殆ど無かったから、緊張しちゃうな……
 ……緊張し過ぎてお腹空いてきちゃいました」

レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が静かに声をかける。

「少し何か食べたらいい。人見知りが激しいんだから、あまり無理をするな。何かとってきてやる」

レミリアが料理を取り、飲み物を取りに行きかけたとき、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)に声をかけられた。

「こ、こんにちはー。良かったら占い、してみませんかー?

遠慮がちな結和に、占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が、かぶせるように言う。

「さぁそこのおにーさん、トルココーヒーはいかが?
 あんたのこれからのパラミタ生活、どうなるか占ってやんぜ!」

すぐそばで料理をひたすら食べていたエリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)アラクネー・リューディア(あらくねー・りゅーでぃあ)が、巨大な蜘蛛の下半身を狭いスペースで不自由そうに向きを変えて、占卜のほうに向き直った。エリセルがおずおずと声をかける。

「あ、あのう……人見知りするのでこういうのは経験したことがないんですが……
 私……見た目が蜘蛛いので……気にしない人と仲良くなりたいんですけど……観てもらえますか?
 あ、そちらのお方のあとでもちろん結構なのですけど」

レミリアは首をかしげ、彼らを見た。

「「ちょうどいい機会かもしれないな。すまない。人助けだと思って、頼まれてくれないか?
 私のパートナーも人見知りがひどくてな。
 今つれてくるから、占いと少しのおしゃべりを頼みたいんだ」

「もちろんもちろん」

占卜と結和がうなずく。アラクネーもしずかに言った。

「わたくしたちの見かけを気になさらないようでしたら、もちろんです」

それを見ていたセルフィーナ・クレセント(せるふぃーな・くれせんと)がおずおずと声をかける。

「あ、あの……わたしもシャンバラに来たばかりで知っている方が居ないから……
 よかったらご一緒させてほしいのですわ。」

エリセルがうなずいた。

「は、はい」

そこへ豊和を連れてレミリアが戻ってきた。豊和が緊張の面持ちで叫ぶように言う。

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……っ! あ……占いは先にどうぞ」

「ありがとう」

占卜がエリセルにコーヒーを差し出した。

「んじゃ、コーヒー滓は残して、このコーヒーを飲んでくれ。
 飲み終わったら皿に伏せてちょいと俺に見せてくれよ。」

アラクネーはセルフィーナに話しかけた。

「エリセル程ではありませんが、わたくしの見た目も下半身が蜘蛛なので……。
 見た目で判断して嫌う人は嫌ですわね」

「そうですわね……わたくしも緊張しやすくって……」

「あ、ぼ、僕もです」

小声で豊和が言って赤くなる。

そこへセルフィーのパートナー、エルフィ・フェアリーム(えるふぃ・ふぇありーむ)が料理を山盛りにした皿を抱えてやってきた。

「セルフィー、いっぱいゴハンとってきたよ〜!
 なんだっけ、働かざるもの食うべからず? だったかなー……。
 わかんないけどそんなのがあるんだよー。しっかり食べて元気出さなきゃダメー」

「あ、こちらわたくしのパートナーのエルフィです」

「セルフィー?  わー、新しい友達さん出来たのー?
 わたし、エルフィー。皆さんよろしくねー」

おもむろにエルフィーはアラクネーの背中によじ登った。

「うわあ、ステキ」

「ちょっと、エルフィー。迷惑になるからだめですわ」

「あら、かまいませんのよ」

結和がそこへ、温かい飲み物を運んできた。

「よろしかったら、順番待ちの間に、これをどうぞ」

「ありがとう」

その一角では和やかなおしゃべりが始まったのだった。

 ジア・アンゲネーム(じあ・あんげねーむ)は斜に構えて、ビュッフェから離れた位置でダンケ・シェーン(だんけ・しぇーん)を伴ってお茶を啜っていた。

「ジア、少し他の方と話したらどうです? 友人もいないのだし……」

「……何ですダンケ? 私には友達がいないのですって?
 聞き捨てなりませんね、友人くらい私にもいますよ。お前が知らないだけで」

「あ、ほらジア、あっちから美味しそうな匂いがします。これは何の匂いですか?」

「ご飯?  あちらで食べてくれば良いでしょう。
 ……ああ、分かりました。分かりましたよ。 一緒に行けば良いのでしょう?」

移動しかけたジアは、フィリア・グレモリー(ふぃりあ・ぐれもりー)に軽くぶつかった。彼女の頭の上にいたアシーネ・パルラス(あしーね・ぱるらす)が衝撃で落ちかけ、それに気づいたジアはすばやくアシーネをすくいあげた。フィリアが優しい声で言う。

「あ……ごめんなさい」

「いえいえ、こちらこそ不注意でした、すみません」

宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)と、たまたまそばにいた八日市 あうら(ようかいち・あうら)が、アシーネを見て歓声を上げた。

「うわあ、可愛いですね」

フィリアがとにかく挨拶をしなくてはとあせって、叫ぶ。

「え、ええと……こういうときは……ヒャッハァー♪」

彼女はこの妙な掛け声を、正式な挨拶と思い込んでいるのである。あわててアシーネがジアらに言う。

「ちょっと、フィリア。ダメよそれ他の人に言ったら。
 ごめんなさいね、フィリアは目が見えない上にいろいろ素直すぎるものだから……」

抉子のパートナー、瞼寺 愚龍(まびでら・ぐりゅう)が言った。

「ああ、それじゃあ料理を取るのも大変でしょう」

抉子がすかさず言う。

「じゃあたしがお料理を取ってきますよ」

「めんどくせー……けど、オマエがやるともっとめんどくさくなるからなぁ。俺が行く」

言い終わらないうちに愚龍はてきぱきとビュッフェのほうへ向かった。おもむろに抉子が言う。

「これも何かの縁ですし……スプーンをどうぞですー♪」

ジアは黙ってスプーンを受け取り、フィリアがわかりやすいようにさりげなくサポートしつつ、手渡す。

「まあ、ありがとうございます」

八日市が元気よく声をかける。

「みんなどんな気持ちでパラミタに来たのかな? 慣れない所で不安もあるよね?」

八日市のパートナー、ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)があわてて言う。

「おいおい、どうしてパラミタに来たかなんて皆さんそれぞれ事情もあるだろうし、詮索すんなよ。
 まぁあうらはこんなだけど、俺にもし、出来ることがあるなら」遠慮なく言ってくれ」

愚龍が料理の皿をたくさん手にして戻ってきた。

「さあ、みんなの分も持ってきたぞ、好みはわからないからテキトーだが、食べてくれ」

「ありがとう」

ダンケはひっそりと歓談する面々を見やりながら思った。

(寂しがり屋の癖に、意地っ張りのジア。何とか溶け込めたようでよかったです)


 ビュッフェから少し離れた、広めのスペースに即席の小さなステージがあつらえてある。そこでは今皇祁 璃宇(すめらぎ・りう)が、かわいらしいミニのワンピースドレスに身を包み、ぬいぐるみそっくりの愛らしいトクミツ・オヅカ(とくみつ・おづか)を肩に乗せ、ポップサウンドに合わせて歌と踊りを披露していた。

松田 杏(まつだ・あんず)ティル・ミストレアス(てぃる・みすとれあす)はそのステージを眺めていた。

「みんな楽しそうですね……まあ歓迎会ですから当たり前ですか」

ティルがうんうん、と微笑む。

「にぎやかだねー。あの歌ってる子、男の子だって。言われなきゃわかんないわねー」

ステージを下りてきた璃宇が、ニコッと笑った。

「俺さ? 正々堂々、自分男だけど女の子になりたいとかいう人の希望になればと思ってるんだ」

「じゃが、可愛いじゃろ?」

ぼそっとトクミツが言った。

「うん、……なるほど」

こそっと杏はティルに囁く。

「これを機会に一人くらいは友達を作った方がいいんでしょうか?
 知り合いがティルだけって、流石に寂しいですし」

「面倒とか言わないでちゃんと交流しなきゃダメだよー。せっかく話しかけてくれているんだしさ?」

「そ……そうね」

崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、崩城 理紗(くずしろ・りさ)に言っていた。

「理沙も4月で13歳、パラミタに来て2年が経ったわ
 今まではいろいろ考えて家に置いたままにしてあったけど……
 やっぱり私や他のパートナー以外と関係を持つのも大事よ」

「厳密には私先輩だから、色々教えられるよっ!
 でも、今日はホントに楽しいな」

亜璃珠はステージに目をやりながら頷く。

「学院の中等部で、少し普通の学校生活も経験できるといいわね」

「私剣の花嫁だから、こういうのはいらないと思ってたんだ。
 全然覚えてないけど、兵器として生きて、死ぬときもそんな感じかな、って」

すぐそばでぐすっと音がした。
 
「な……なんという……」

千都世 蓮(ちとせ・れん)が目に涙をいっぱい湛え、理紗を見つめていたのである。

「あ、辛いとかはないよ、多分それが普通だから」

「け……健気だ」

蓮のパートナー、遠野 悠理(とおの・ゆうり)が、料理の皿を2つ手に戻ってきた。

「美味しいものが、いっぱいあったよ〜。
 蓮にも持ってきた」

「あ、ありがとう。でも今胸がいっぱいで……」

「んー、じゃあまた取りに行くから、俺がこれ食べちゃう?」

「ちょっと待って」

蓮は皿を受け取って、理紗に手渡した。

「よかったら、これ……」

「わあ、ありがとう」

理紗は笑って皿を受け取ったのだった。