空京

校長室

浪の下の宝剣

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歓迎会場立食パーティ:page05

 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、一軒のレストランの厨房を借りて、ラーメンを調理していた。

「ワタシのコンセプトは闇ラーメンなのですっ!」

ミレイユは忙しく手を動かしつつ、渋井に向かって解説をしていた。

「麺はイカ墨を練りこんである黒麺。
 スープはホタテなどでダシをとった塩味で、これは無色透明なの。
 トッピングはたっぷりの生のりよ。味は魚介系で統一しているので美味しいはず」

ミレイユのパートナー、モス マァル(もす・まぁる)が周りをぴょんぴょんしながら歌うように言った。

「まっくぅ〜ろ♪ う〜まっう〜まっ♪ らーめん キュー♪」

「なるほどなるほど。オレのほうはごく普通に塩ラーメンだ。
 ミレイユさんのラーメンもオレのほうで呼び込みさせてもらうよ。一緒にやろうぜ」

「わあ、ありがとうなのです」

渋井のパートナーのヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が、遠慮がちに声をかけた。

「私も調理何かお手伝いしましょうか?」

「いや……呼び込みの方を頼む。できたのあるから持ってって食べててくれ」

マァルがそこで、ラーメンスープに杓子を突っ込んで味見しようとした。

「あ、こらぁ」

「まぁるちゃん もうしない だから 抱いてクレ」

「じゃあマァルちゃん、私と一緒に行きましょう」

「はぁい」

二人は表に出て、ちょうど通りかかったラック・カーディアル(らっく・かーでぃある)と、イータ・エヴィ(いーた・えびぃ)に声をかける。

「ようこそシャンバラへ。いらっしゃい。良かったら食べて行ってね」

「食べてねー」

イータがヒルデガルドが手にした塩ラーメンを目にして、目を輝かせた。

「あ、どんなラーメンがあるのかなあ。ワタシは醤油が好き! 
 あ、でもトンコツも、ミソも、塩も……やっぱり全部好き!」

ラーメンを幸せそうに食べるイータを横目に、ラックは言った。

「俺はシャンバラ教導団の新入生、ラック・カーディアル。よろしくな」

そこへミレイユが闇ラーメンを2つ手にやってきた。

「完成〜♪ 新作なのです!!」

そこへ実里 がやってきた。

「……あ、ラーメン。美味しそう」

渋井は実里の前に闇ラーメンを置いた。

「あ、いらっしゃい! ミレイユさんの新作新入生歓迎ラーメンだよ! 食べていってくれ」

「……美味しい」

「ミレイユはそれを聞いて、満面の笑みを浮かべた。ラックが華麗な手さばきでタロットをすっと並べ、一枚を取り上げる。

「ザ・ワールド、か。
 この世界に来て早々に会えた縁を大事にしたいね」

イータが言った。

「楽しくお話しながら食べるご飯は格別だよねっ。
 いくらでもお腹に入っちゃう。これなら毎日歓迎会でもいいよー!」

楽しげにラーメンを食べる実里を見ながら、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)は姿勢を正した。

「新人の士官候補生として、プライベートとはいえ政府の要人を見つけたからにはガードも役目だ」

パートナーのセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は、どちらかと言うとラーメンの方に興味があるようだった。渋井からラーメンを受け取り、実里の近くへ座る。

「ラーメンは美味しいね。麺類最高。……ふむふむ、塩味か〜。
 僕は八丁味噌味も好きだな」

「ラーメンと言えは塩に限るぜ」

実里が言う。

「うーん。ラーメンはラーメン。どれも捨てがたい魅力が……」

応えてクローラが言う。

「濃い目のスープには太い平麺、海鮮スープには細いちぢれ麺ってな
 佐野さんはラーメン好きなんだなぁ」

すぐ隣にクローラも座る。そこへ七瀬 八重子(ななせ・やえこ)がふらふらとやってきた。

「あの……はじめまして。新入生の、七瀬八重子です。
 あたし……」

おなかの辺りからグググググ〜……と聞こえる。

「お、おなかすいた……」

ぺたりと椅子に座り込む。すぐにクローラがまだ手をつけていないラーメンを八重子の方へ押しやる。

「よかったらこれどうぞ。まだ箸をつけていないから」

すっと別の手が出てきて、ラーメンを受けとった。八重子のパートナー、マナ・カラミティ(まな・からみてぃ)である。

「まぁ、私に? ありがとう」

「あ……あたしのラーメン……」

マナは華やかな笑みを浮かべた。

「はじめまして。マナ・カラミティと申しますわ。
 こちらの八重子さんの貸主……いわば主人みたいなものですわ」

そこへ百々目鬼 迅(どどめき・じん)シータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)が、おでんをどっさり盛った皿を持ってきた。

「うっす、俺はパラ実の百々目鬼迅だ、よろしくな! よかったらおでんも食ってみてくれ」

「ウチはシータ、迅の契約相手だ。よろしくな!」

マナは思った。

(ま、このへんで食べさせてあげますか)

「ああああ、ありがとう」

八重子は涙を流さんばかりにして百々目鬼からおでんを受け取り、猛烈な勢いで食べ始めた。

「どれどれ」

実里もラーメンを食べ終わり、シータがテーブルに置いたおでんを食べ始めた。

ぎぎぎーっと音がしそうなぎこちなさで、百々目鬼が実里に話しかける。

「リ、リフ……あ、いや、佐野……んと、えっと、その……ゲフンゲフン……いやその。
 な、……なんでもない」

シータがオリジナルの干し肉をセリオスとクローラに手渡しながら言った。

「アイツさ、いかにも不良!って格好してるだろ?
 なのにやたらと家庭的なトコあるわ、告白はドキドキしちまってろくに出来ないわ。
 ……しかも女装まで似合うんだぜ? 面白ぇだろ?」

セリオスが言う。

「僕が強化人間になって、クローラを引張って来たんだよ
 ……女名なのは気にしてるから言わないであげてね」

「あらぁ、面白そうですわね」

獲物を見つけたヒョウのごとき危険な光を湛えて、マナの目が光った。
クローラと百々目鬼が異口同音に憮然と言った。

「ほ、放っとけ!」

 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、ビュッフェの料理を少しずつつまみながらも、料理の給仕量や種類にまでチェックを入れていた。

(ふむ。量的にやや控えめな量を盛ることで、選び手がもう少し食べたいと思えるようにしているな。
 油ものやボリュームのある肉類のわきにサラダ、酢の物やゼリーの皿を配置。
 バランスも取られているな。素晴らしい)

パートナーのイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)は、もっぱら美味しいものを探す方にに気を配りつつも、料理を堪能していた。

「いやぁ、楽しいどすなぁ、どれも美味い。これは料理を紹介する際に迷いまんなあ。
 好みを聞いてみて、紹介するのが良さそうどす」

「ふむ。肉類にはさっぱりとウーロン茶が良いかな。……ラーメンにはやはりジャスミンティか……」

おのおのの料理に合う茶を思い、道明寺はしばし考え込んだ。

渕上 裕(ふちがみ・ゆたか)は料理を手に、ビュッフェテーブルから少し下がった。背後で静かに控えているフレデリカ・シーゲル(ふれでりか・しーげる)に話しかけた。

「どれも美味そうだなー。
 しかしよ、パラミタにゃまだ知り合いいねぇから、ダチになれる奴がいたら嬉しいな」

「ええ、お兄様」

それを聞きつけた神無 弥雲(かんな・やくも)が声をかけてきた。

「よう、俺は今年蒼空に入学した神無 弥雲だ。
 ここにいるってことはお前も新入生なんだよな? どこの学校?」

「お〜、俺も蒼空だぜ。渕上 裕ってんだ、よろしくな!」

「俺たちなんか気が合いそうだな」

「おう、俺も今そう思ったぜ」

フレデリカが控えめに言う。

「初めまして。裕お兄様のパートナーで剣の花嫁のフレデリカと申します。
 ……私は昔の事を覚えていなくて、自分の事もよくわからないのですが、よろしくおねがいします」

「おう、そりゃあたいへんだろうな……」

弥雲が言った。彼のパートナー朝比奈 夕雪(あさひな・ゆき)が、フレデリカに微笑みかけた。

「初めまして。私は朝比奈 夕雪と申します。私もフレデリカさんと同じ剣の花嫁よ。
 よろしくね」

少女二人は静かに親睦を深めている。道明寺がすっと淹れたてのハーブティを差し出す。

「良い出会いに、カモミールティをどうぞ」

「まぁ、ありがとう」

二人の少女は異口同音に言って、カップを受け取った。

「このステーキ、うまいでっせ?」

イルマがいって、渕上と神無に皿を差し出す。

「おー、うまそう」

楽しげな面々を見つつ、道明寺は笑みを浮かべた。