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リアクション
歓迎会場立食パーティ:page06
「おいおい、もうちょっとゆっくり行こうよ。
あまり参加する気はなかったとはいえ、こうして来たんだからオレだって楽しむつもりだしさ?」
黒田 明人(くろだ・あきと)目を輝かせて半ば走るようにしてあちこち見ているシャメーツ・アンゲネヒメス(しゃめーつ・あんげねひめす)に手を引っ張られ、苦笑しながら言った。
「あ、すみませんマスター。……つい夢中になってしまいました」
「ははは。気持ちはわかるよ。すごいもんな」
「あ。あの、えっと……田舎ものっぽかったでしょうか……いろいろ珍しくて、つい……」
シャメーツは顔を赤らめてもじもじしている。
盲目のテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)の手を引いたマナ・マクリルナーン(まな・まくりるなーん)が、そこへ通りかかり、黒田とシャメーツに気づいた。
「お嬢様……いえ、ここではテスラ、と呼んだ方が宜しいですね。
近くにに新人さんと思しき方々がおられます。通る人をぼんやり眺めておられるようです。こちらに」
優雅な仕草で、テスラは黒田らのほうへ手を差し伸べた。
「まあ、壁際で眺めているだけでは、勿体ないですよ? どうぞこちらにいらして?」
「やあ、すみません。初めまして黒田 明人です〜」
「シャメーツ・アンゲネヒメスでございます。はじめまして」
「テスラ・マグメルと申します。こちらがマナ・マクリルナーン。
私、目が不自由ですので、マナに助けてもらっているのです」
「そうでしたの……」
シャメーツが言った。
「目が不自由で引っ込み思案だった私も、この一年で手を取ってもらいながら、ここまで来れた。
それを、今度は新入生の皆さんにお返ししたいのです」
テスラに続き、マナが言った。
「一年前にはこのようなお嬢様の姿は、想像もできませんでした。
私自身も、彼女の成長と共に成長させてもらっているのです」
斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が、すっと4人のそばにやってきた。
「そこで立ち話もなんだろう。こっちに座るところがある」
静かに声をかけ、4人をそばのテーブルに誘導した。ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)がビュッフェからサンドイッチと飲み物を持ってすぐにやってきた。
「さあ、軽い食事と、お茶でも飲んで一休みしたらいいよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
和やかに話す4人を置いて邦彦とネルは静かに引き下がった。邦彦が4人を見つめて言う。
「たまにはこんな仕事も悪くはない。地球の暮らしを思い出す。
新入生歓迎会……もうそんな季節なんだな。一年ってのは早いな。」
「確かにたまには悪くないね。
邦彦、一年を早く感じるのは歳を取った証拠らしいよ」
ネルはにやっと笑った。
「蒼空学園OBとして新入生と話したい気持ちはあるが、今の私は臨時従業員だからな……」
つぶやくように言う邦彦に、ネルは言った。
「契約者の先輩として後輩達にいろいろ教えてあげるのも大人の仕事だと私は思うよ。
ま、本音としては私も新入生と話してみたいっていうだけなんだけどね」
「そうだな。機会があればというやつでいこう。さて、仕事仕事」
二人はすぐにまた、巡回の続きをすべく、その場から足早に立ち去って行った。
長良 京(ながら・けい)は、カレーの皿を前に困惑していた。
「うーん……カレーライスって、白いところがあったんだった」
体質的に白い食べ物を受け付けられない京は、とりあえずソースの部分だけ食べると、残ったライスをぼんやりと見つ目、ため息をついた。普段ならパートナーのジャック・クラウン(じゃっく・くらうん)が注意してくれるのだが、とにかく食べることを最優先と考えたため、置き去りにしてきてしまったのである。
そばで食事をしていた黒木 カフカ(くろき・かふか)が声をかけてきた。
「どうかしたの?」
京が事情を説明すると、黒木はにーっと笑った。
「なるほど〜。それ、食べられないのね? 貰っていい?」
黒木のパートナー、白鳥 鷺(しらとり・さぎ)が言う。
「とにかく大食漢で……いつもだったら人の物を勝手に食べちゃダメってところなのですけど……
……この特性がお役に立つのでしたら使ってください」
商談成立である。
「全く。俺様を置き去りにしていくなど、京は何を考えておるのだ」
ジャックはぶつぶつとこぼした。先だってこの歓迎会にに参加表明したときに、
「ご飯が出るなら料理せずに済むじゃあないか」
と言っていたのを思い出し、京が食事を提供するエリアにいることは見当がついたものの、かなりの範囲にわたってコーナーが続いているのだ。それでも何とか京の姿を見つけ、そちらに歩み寄ろうとしたときだ。突然腕をがしっと掴まれ、驚いて振り返った。腕を掴んだまま、青葉 旭(あおば・あきら)が、京の瞳を覗き込む。
「キミ。新入生だな」
「う……なんだ貴様」
「キミはこの学校のあり方についてどう思うか?」
ジャックが何か言う前に、青葉は熱弁をふるい出した。
「いいか、冒険の依頼が単位になるからといって、学生の本分をおろそかにするのはどうなんだ。
実業高校や軍学校以外で依頼遂行が実習扱いで単位になるなど論外だろう。
百歩譲って野山を駆け回るのが地理の単位になっても、数学の単位にはならん。
依頼遂行の合間に座学の単位を履修するのが本分といえよう?」
「それが俺様にどう関係するんだ?」
掴まれた腕を必死に振りほどこうとするジャック。
「何を言う。キミも学生だろう。そもそもだな……」
青葉のパートナー、山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)がそっと耳打ちした。
「旭くんの言ってる事を真に受けると、可哀想な子になっちゃうわよ。
話半分、ううん、話1割くらいに聞いといたほうがいいわよ、うん」
「聞いてなどおらぬ。ええい放せ!」
一番避けたかった面倒ごとに、巻き込まれてしまったジャックであった。
宇津木 笹児(うつぎ・ささじ)はパートナーのリコリス・クラスター(りこりす・くらすたー)に、ポニーテールを引っつかまれ、会場へと引っ張られていた。
「イタイイタイイタイ、放さんか。面倒ごとや厄介なことは嫌いなのは知っておるだろうが!
嫌な予感がするのだ」
「笹児ったらダメよそんなことじゃ。せっかく楽しそうなニオイがするのに。
楽しいことを全力で楽しまないともったいないでしょ」
「食事だけならいいだろう」
「えー、それだけじゃつまらないでしょ」
筑摩 彩(ちくま・いろどり)は鼻息も荒く、新入生の様子を伺っていた。
「ふっふっふ、『女子』と書いて『すき』と読むのさ!」
イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)はひっそりと思った。
(語学5としては奇跡の発見よね)
彩は笹児を引っ張るリコリスをみつけ、すっとそばに寄り、鬼眼を発動した。イグテシアは抜かりなく、即座に消耗しないようギャザリングヘクスを補給した。
(愚かな娘ほど可愛いと言いますしね)
彩は強持てでリコリスに声をかける。
「ちょっと。制服、改造してるの?」
「えー? してないけどー?」
「見るが良い、早速トラブルではないか!」
笹児がぼやくが、誰も聞いてはいない。返答にも制服の改造の有無にも全く目もくれず、彩は鬼眼を解き、言ったのだった。
「そういうのが好きなら手芸部に来ない?」
イグテシアはそんな彩を見て、つぶやいた。
「策を弄するようになったのは成長ですかしら?」
実里はラーメンを堪能し、次にちょっと違ったものを食べようと、洋食のコーナーへとやってきた。
「人がいっぱいね……」
大勢の人々の笑いさざめく様を見て楽しんでいたリシャール・ヒューバート(りしゃーる・ひゅーばーと)とルーカス・パルバス(るーかす・ぱるばす)だったが、そろそろ食事をしようと実里と同じビュッフェにやってきた。
「うわあ、あんなにたくさん。おいしそう!」
「あ、待て、走るな危ない」
眼を輝かせ、はしゃぎ声を上げたルーカスが駆け出していくのを、リシャールは手をさし伸ばして静止しようとしたが、一歩遅く、ルーカスは実里に衝突してその場に派手に転んでしまったのであった。ルーカスを黙って実里が助け起こす。
「あっ、ごめんなさい……」
「ルカ。危ないと言っただろう。申し訳ない、ルカがご迷惑を」
「いえいえ」
「あー、実里じゃない!」
超ミニスカのウェイトレス衣装に身を包んだ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が声をかける。すぐそばにコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)もひかえていた。
「あ、なにか食べに来たんだよね? そちらのお二人はお知り合い?」
コハクが声をかける。
「……えっと」
言いかけて黙ったルーカスのあとを引き取り、リシャールが言う。
「俺様はリシャール・ヒューバート。こちらはパートナーのルーカス・パルバスだ。
ルカがこちらの方にぶつかってしまってね」
「なるほど。これも何かの縁でしょう。僕はコハク・ソーロッド、よろしく」
コハクが言うと、美羽が続けた。
「私は蒼空学園生徒会副会長の小鳥遊 美羽!
で、こっちは天御柱学院新入生の佐野 実里だよ。
実里はもともと蒼学の生徒だったんだけど、よかったら天学でも仲良くしてあげてね」
「まずはお食事に来たんでしょうから、どうぞ」
手早くコハクが料理をいくつか選んでとりわけ、ルーカスに手渡した。
「わあ、ありがとう」
実里には山盛りの料理を載せた皿を2つ持って、美羽が戻ってきた。礼を言って実りは皿を受け取り、黙々と食べ始め、眼を丸くするルーカスに美羽が言った。
「……まーだまだ、ちょっとした前菜程度よ、あれで」
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