空京

校長室

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歓迎会場立食パーティ:page02


 祥子のパートナー、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)は氷を詰めたバスケットに、ジュースのボトルを入れ、料理を取っている生徒たちに給仕して歩いていた。

「こちらのお飲み物をご遠慮なくどうぞ」

夢中で料理を食べていた月崎 秀(つきざき・しゅう)が顔を上げ、いそいそとリンゴジュースを受け取った。

「おお〜! どうもありがとう! 冷たいね〜」

イオテスの後ろから宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はぴかぴかの積み重ねた新しい皿を、秀に手渡した。

「ようこそ、シャンバラへ。新しいお皿はこっちね、どうぞ使って」

「ありがと」

蘇我 空(そが・くう)は、上の空で祥子から皿を受け取りながら、秀をいさめる。

「ありがとう……秀、あのね? あくまでも新入生歓迎会なんだから、少しは自重しなさいね」

「だいじょぶだよ〜。どっさりあるしさ〜、ね」

「それはそうだけど……ま……大丈夫なのかな」

どっさり料理の載ったテーブルを見ながら、イオテスは考え込む表情になった。

「残ったお料理はどうするのかしら……お持ち帰り? 
 飲み物は開けていないものは持ち帰りできますけど……」

そばにいた花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が優雅なしぐさで料理を取り分けながら言った。

「これだけあるしね。まだどんどん作っているのだろうけどね。
 秀君みたいにすごく食べる人もたくさんいるようだし心配ないさ」

その言葉を裏付けるように、秀が猛烈な食欲を見せている。蘇我はややあきれたような、あきらめたような表情でそれを見ている。
 和気藹々としたグループから目線をはずし、祥子はふっと窓の外の輝く海に目をやった。

(今日は実里が自分のやりたい事を自分で見つけて、自分自身の足で歩みだした記念の日でもある。
 直接会ったことはないけど、頑張って欲しいな)

 花京院と一緒に来ていたイランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)と、よいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)も、傍にやってきた。元気よくイランダが蘇我に声をかけ、そのあとからものすごく小さな声でももたろうが呟く。

「わあ! どれも美味しそうね、何がお勧め?」

「……美味しい?」

「美味しいよ〜。このローストビーフもお勧め。取ろうか?」

蘇我が厚切りのローストビーフと、付け合せのサラダを皿にとりわけ、イランダとももたろうに手渡す。

「わあ、ありがとう」

「……ありがと」

そこへ、リボンで留めた紙ナプキンの包みがすっと差し出された。ふわりと甘い香りが漂う。ミアンデリィ・イルスタリカ(みあんでりぃ・いるすたりか)が、包みのいっぱい入ったバスケットを手にニコニコしている。

「良かったら、これどうぞなのです〜。みなさん、どうぞ。
 お持ち帰りもできるのです〜」

ミアンディのパートナー、シャルル・イウリス(しゃるる・いうりす)が、もうひとつのバスケットを手に言った。

「これね、作るのはボクもお手伝いしたんだよっ!
 ミアのクッキーは本当に美味しいんだから!」


甘い香りに、内気なももたろうもニコニコと受け取った。

「あ……ありがと」

「ミアンデリィ・イルスタリカと申しますぅ〜。お気軽にミアとお呼びくださいですぅ〜」

「ももたろうったら人見知りがひどくって。
 よかったら、仲良くしてあげてくださいね」

イランダが言うと、ももたろうは真っ赤になった。花京院とミアンデリィ、シャルルが異口同音に言った。

「もちろんです〜」

「もちろんだよ〜」

ティアト・カーナ(てぃあと・かーな)リーセ・ティブテット(りーせ・てぃぶてっと)がそこへやってきた。ティアトが声をかける。

「あの、はじめまして」

花京院と蘇我が静かに応じた。

「はじめまして」

「あの……何か海鎮の儀の噂って、聞いていませんか?」

「さあ。俺は聞いていないね」

ひたすら食事に余念がない秀を見つつ、蘇我も言う。

「私も聞いていないな」

「そうですか……ここでなら地下にある神社での一件が、噂話として聞けるかと思ったんですが」

「せっかくだし、良かったらクッキーをどうぞ」

そこへミアンデリィがクッキーの包みを差し出した。ティアトとリーセは礼を言って受け取った。

「ありがとう」

花京院のパートナーで、どこから見ても愛らしいぬいぐるみといった姿の悪魔、ティラミス・ノクターン(てぃらみす・のくたーん)が、リーセの持ったクッキーの包みを指して言う。

「うわ〜。いいにおい。僕にもひとつ頂戴」」

ミアンデリィ、シャルル、ティアトとリーセが異口同音に叫ぶ。

「うわああ〜、可愛い!!! ゆる族なの?」

それを聞いたティラミスが憤然と言う。

「ぼ、僕は悪魔族だよ。……まったく。僕がゆる族だなんて……ワケが分からないよ。
どこから見ても立派な悪魔族じゃないか」

「でも、可愛いね〜」

「うんうん、すごく可愛いね」

シャルルとリーセがニコニコと微笑む。

「……そっか」

ティラミスはまんざらでもなさそうだった。

 「新入生の一人として、折角開かれる新入生歓迎会に参加しない訳にはいかないでしょう……」

非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、呟きを飲み込んで立ち止まった。立食パーティ会場の規模に驚いたのである。パートナーのユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、そんな近遠の腕を引いた。

「近遠ちゃん、ほら、行きますわよ。美味しいデザートもいっぱいあるわ!」

「……そ、そうね」

近遠はうきうきと目を輝かせるユーリカとは対照的に、完全に飲まれてしまっている。そこに大きなトレイいっぱいにカレーパンを盛って、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)がやってきた。

「よかったらカレーパン、おひとついかが?「」

後ろから舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)もひょこっと顔を出す。こちらは小さなパイがいっぱいのバスケットを持っている。

「ネーお姉ちゃんがカレーパンならあたしはカレーパイなのですよ。
こっちはちょっとだけスパイシーなのですよ」

「わあ、美味しそうですね。ひとつ頂きますわ」

ユーリカが嬉々としてカレーパイを受け取った。

「あ、そちらの方もどうぞ〜」

ネージュが声をかけたのは度会 鈴鹿(わたらい・すずか)と、そのパートナーの織部 イル(おりべ・いる)だった。

「わあ、ありがとう。うわあ、美味しいですね」

カレーパンを一口食べて鈴鹿が言い、織部もうなずいた。

「ほほう。こちらのカレーパイもなかなか美味であるぞ」

ユーリカもカレーパイを口にして言った。

「うわあ、いい香りですわね。ちょっと辛いけど」

近遠もカレーパンを受け取り、口にした。

「カレーパン美味しいですね〜。こっちは辛さはマイルドだわ」

嬉しそうにネージュが言う。

「スパイスをじっくり寝かせて作った本格的なカレーを使っているの。昨日から仕込んだのよ」

「あたしもスパイスをちょっと利かせる感じにブレンドしたんだよ〜」

鈴鹿が感心したように目を丸くした。

「すごいですね。カレーって、飽きないし、いくらでも食べられそう。
 少し頂いて帰ってもいいかしら?」

「もちろんです〜」

アリステルがニコニコと嬉しそうに笑った。織部が言う。

「たいへん美味であるが辛いものであるがゆえ、飲み物が欲しかろう? 
 ささ、遠慮なさらずに好きなものを申し付けてくりゃれ。
 わらわが持ってきて進ぜよう」

わいわいと飲み物のオーダーがされ、織部は飲み物のコーナーへと向かった。楽しげな5人を見ながら彼女は思った。

(今日は施設ごと貸切故、多少羽目を外しても構わぬだろう。楽しく過ごせるとよいのう)

 その朝。佐野 輝乃(さの・てるの)はパートナーの公卿 彼方(くげ・かなた)に言ったのであった。

「新入生歓迎会があるんだって。とりあえず行ってみようと思って」

「なんだって? 輝乃、広いんだろうそこ? 方向音痴なのに。
 それに不特定多数の人間が大勢いるんだぞ? 誘拐されたりしたらどうするんだ」

「小さいからって馬鹿にしたらダメなのですっ! あたしは一人で行くのです!!」

会場内でパンフレットを貰った輝乃は、地図をぐるぐるしながら、関係ないない方向へとどんどん向かっていく。心配のあまりこっそり付いてきていた公卿は、おろおろと物陰から様子を見ていた。

「右も左もわからねえ新入生を楽しく歓迎する! それが俺達の役目ってもんだろ?!」

パートナーの大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の力説に引っ張られたかたちで会場へやってきていた匿名 某(とくな・なにがし)はぼんやりと会場内を見回していた。

「……新入生ってのはみんな初々しい雰囲気全開なんだな。
 俺もちょっと前はこうだったんだろうけどさ。
 ……そう考えたら、俺もパラミタに来て結構経ってるんだなぁ」

大谷地がそんな某の背中をドンとはたく。

「何感慨にふけってるんだよ。おいあの子迷ってるんじゃねーか? 
 スタッフオンリーのエリアへ行こうとしてるぞ」

「あ……キミ、そっちは会場じゃないよ」

声をかけられて飛び上がるように輝乃が振り返った。

「……あ、そうなのでしたか」

「会場はこっちな。俺は匿名 某、こっちは大谷地 康之。よろしくな」

「あたしは佐野 輝乃です。よろしくです」

立食コーナーへと輝乃を誘導する二人。公卿はおろおろとあとを追う。

(やれやれ……何とかなったが……男二人とは……マズイ、非常にまずい状況だぞ)

立食コーナーにやってきた七尾 正光(ななお・まさみつ)は、一人決意を新たにしていた。

「ある程度パラミタに居る身としては、歓迎する側として盛り上げなくては」

パートナーのステア・ロウ(すてあ・ろう)も言った。

「私も歓迎する側として参加するぜ。
 多くの友達ができるといいな。
 ……あと、恋の予感も感じられたら……」

「ステア、お前先走りすぎ」

そこへ輝乃を案内して大谷地と某がやってきた。輝乃を見てステアが言う。

「お、新入生さんだね? 何か食べる? 私はステア・ロウ。よろしくな」

「俺は七尾正光。よろしくな」

「あたしは佐野 輝乃と言います。よろしくお願いします」

某が言う。

「迷ってたんで、こっちに案内してきたんだ」

ハイになったステアが一気に機関銃のように喋り始め、輝乃が目を丸くしている。

「おいおいステア、一方的に喋るんじゃない。輝乃さん、何も言えなくなるだろ」

「……ごめん……つい」

「まあ、こんな雰囲気だし、わからないでもないよ。大丈夫。な?」

大谷地のフォローにしゅんとしていたステアは笑顔を取り戻した。そこへさらに男子生徒が1人増えたことに耐え切れなくなった公卿がやってきた。

「あ、どうも、輝乃がお世話になったようで……輝乃、ステアさんと仲良くなったんだな」

「匿名さん、大谷地さん、それに七尾さんとも仲良くなったよ」

それを聞いて一人おろおろする公卿なのであった。