空京

校長室

浪の下の宝剣

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歓迎会場立食パーティ:page03

 前菜類のビュッフェの前で、土方 伊織(ひじかた・いおり)と、そのパートナーのサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)はウェイトレスの制服に身を包んで待機していた。ベディヴィエールがまっさらの取り皿を手に、伊織に向かって言った。

「奥まったところのものや、崩れやすいものなどは、サーブして差し上げるのが良いのです」

「うん。新入生だけど、僕、お手伝いしたいって言ったよ。言ったけど……はぅう……」

「お嬢様がお決めになった事のお手伝いをさせていただいているだけです」

「いや……ウェイターするのは良いですけど、何で僕まで女性用の制服なのですかー。
 間違ってるですぅ」

「いえいえ、お嬢様はそれで合っておりますわ。何せ男の娘ですから良くお似合いですわ」

そこへやってきたマリウス・リヴァレイ(まりうす・りばぁれい)若菜 蛍(わかな・ほたる)が二人の会話を聞きつけた。マリウスが伊織に声をかける。

「おお、新入生なのにお手伝いとは。私は薔薇の学舎のマリウス・リヴァレイだ。
 見かけはヨーロッパ系だが心は日本人に近い。
 だがパラミタに来てしまえば国籍なんか問題じゃないな。気軽に声をかけてくれ。よろしく」

「マリウスのパートナーの蛍だよ〜。アニメとかゲームとか好きなんだ〜」

即座にベディヴィエールが応じる。

「お嬢様をよろしくお願いします」

「男子高だからか薔薇学は閉鎖的になる傾向があるようだが、
 他校とも異性とも交流を大事にしていきたいね」

伊織が言う。

「……僕、男ですけどぉ」

蛍が嬉しそうに言った。

「お、同じ趣味かな〜? え、この格好? 私女装が趣味なんで、気にしないで〜」

アーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)がすっとマリウスらのいるビュッフェのそばに向かった。パートナーのマーカス・スタイネム(まーかす・すたいねむ)は、すこし離れたところから、アーヴィンとは他人といった風情で料理を取りながら4人のの様子を伺っている。

(新入生の方なんだ……パラミタに来るまえはどんなところにいたのかなとか聞いてみたいかなぁ。
 聞いてみたいけど、その、勇気が……うう……)

苦悩するマーカスをよそに、アーヴィンは伊織と蛍に声をかけた。

「どうやらキミたちも新入生のようだな。
 俺様も最近来たばかりだから、新参者同士仲良くしてくれると嬉しいのだが」

「あ、は、はい!」

「あ〜、よろしくね〜」

挨拶を交わすと、アーヴィンは4人へ向き直り、よく通る声で言った。

「ふふふ、この中からいつかカップルへと発展していくのが何組来るぐらいあるのか楽しみなのだよ!
 ……美少年同士の愛。美しいとは思わないか? キミ達」

いきなりの発言にマーカスは飲みかけていたお茶にむせ返った。

「ちょっ……ちょっとアーヴィン! もうなんか妄想するのとかやめてよぉ!」

マリウスがじーっとマーカスを見る。

「あ、僕、アーヴィンとは他人だから! なんの関係もない赤の他人だから!」

涙目になりつつ力説するマーカス。

「俺様のパートナー、マーカス・スタイネムだ。よろしくな」

アーヴィンはしれっと言い放ったのだった。

 デザートビュッフェに程近い位置に置かれた椅子に、藤野 夜舞(ふじの・やまい)が座り込んでいた。首位を流れる生徒達のほうを見つつ、小声でつぶやいている。

「今まで病院で暮らしてたのでお友達って、できたことないんです。
 あの……その……私……出来れば皆様とお友達になれたらいいなって思ってたんです。
 だ、だから……その……よ、宜しくお願いしますっ!」

にぎやかな場所でつぶやいてみても、その声は通らず、夜舞に誰も気づかないまま通り過ぎてゆく。パートナーの仄倉 斎(ほのぐら・いつき)が、あきれたような声を出した。

「あのさぁ、夜舞?
 どうでもいいけど、そんな小声で言っても誰にも聞こえないと思うんだけど」

「あの……誰も……聞いて下さって……ない……?」

仄倉が泣いている夜舞の頭をどこからともなく取り出したハリセンでスパーンとはたく。

「そんなどうでもいいことで泣かなーい!
 あのさぁ、泣いてないでも少し大きな声で喋ってみたらどうなの? ったく」

クロウ・カリバナ(くろう・かりばな)に付き添われたヒララ・アグリフォーリオ(ひらら・あぐりふぉーりお)がやってきて夜舞の隣の椅子にぺたんと腰を下ろし、数回咳き込むと夜舞に向き直って言った。

「あのう……初めまして。わたくし、ヒララ・アグリフォーリオと申します。
 よろしくお願いします」

「あのあのあの……私が見えるのですか?」

思わず返す夜舞に、ヒララはにっこり笑った。

「わたくし……病弱な身で……外出も一切した事なかったのです。
 外の世界の事なんて全く知らなかったのです……ごほごほ。
 だから、わたくしはこのイベントで色々知りたいのです!」

「まああ、ぜひお友達に!」
 
クロウは周囲を見回しながらぶつぶつとつぶやいていた。

「……しかしこないに大勢おるんなら露店でも開いて大儲けできるなぁ……」
 
何か言いかけて、ヒララが咳き込む。

救護班のワッペンを付けた本郷 翔(ほんごう・かける)と、パートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)がすっと近寄ってきた。

「お嬢さん、大丈夫ですか? お顔の色が優れませんね」

診察モードに切り替わったソールが、医者の目で二人の少女を観察する。

「魔法や薬も使いすぎは、あまりよくないけど。んー……君達は体質か〜。
 ……俺は治療のスキルは持っているから、しんどいなら遠慮なく言ってな?」

クロウが挨拶を返した。

「気にかけてくださっておおきに〜。俺はクロウ・カリバナ。
 こう見えて商売人なんやで。
 まあ正確的に言やぁ『商売型男性型機晶姫』やな……ま、細かい事気にせずよろしく頼ま〜」

「こちらのお嬢さんの付き添いさんですか? 私は本郷 翔と申します。
 本日はこちらのイベントでソール・アンヴィルともども、救護担当をさせていただいております」

「これはご丁寧に〜」

名刺交換モードに入っている二人を尻目に、ソールは抜け目なく3人の少女と和気藹々と話していたのであった。

(3人ともかわいいな〜、連絡先交換できたらうれしいな〜)

仄倉はつっかえつっかえ話す夜舞とヒララを横目で見ていた。

(……こんなもんかね。まぁ、大声ではきはき喋る夜舞なんて気持ち悪いし、ま、いっか)

 天井 メロ(あまい・めろ)は、片っ端から男子学生に愛嬌を振りまく荒是山 梨王(あらぜやま・りお)に複雑な表情で付いて歩いていた。メロのそんな表情にも気づかず、梨王はご機嫌だ。

「基本的にはもう誰かと契約してしまってる子ばかりだね、
 とはいえ、人様のパートナーとお近づきになっちゃいけないという訳じゃないしさ?
 私かメロくんを気に入ってくれる人がいるかもしれないよ?」

「いえ……俺は……」

「ほらそんな顔しない!」

ふと気を抜いたメロに、ミルフィーユ・アイバート(みるふぃーゆ・あいばーと)の手にしたコップが触れた。

「あ……ごめんなさい、大丈夫でした? 
 あお、この度、天御柱学院に転入したミルフィーユ・アイバートです。
 えっと……私の、お、お星様になって……くれませんか?」

「あ……ハイ……ええ?」

戸惑うメロの腕をミルフィーユががしっと掴んだ。

「まあ、貴方恥ずかしがり屋さんなのですね、私と同じです」

独走するミルフィーユを見やって、パートナーの聖園 龍之介(みその・りゅうのすけ)はため息をついた。

(お星様になってが友達になっての意味だって分かるヤツがいるのか謎だな。
 ミルに悪気がないのが一番の問題だが……)

そこへシャッター音がした。柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)がデジカメを構えている。梨王とミルフィーユの笑顔を撮影したのだ。

「いや〜ホント賑やかで楽しくて、いつまでも遊んでいたくなるよね?
 ま、せっかくの機会だし、記録に残しておきたいなって思ってさ」

横から柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が声をかける。

「貴瀬、ノートPCちょっと持っててくれ」

「おう」

梨王が輝くような笑みを浮かべる。

「あらすてき」

PCを抱えて貴瀬がミルフィーユに言う。

「『想い出の記録者』って何だか素敵な響きだと思わない?」

「貴瀬、デジカメとPCを少し貸せ。そろそろメモリーいっぱいだろ? データを取り込む」

「わあ、可愛く写ってるかしら」

梨王とミルフィーユが覗き込む。

「……ん? データが欲しいのか? なら、転送するから送り先を教えてくれ」

「……念のため言っておくが、ミルにちょっかいかけるんじゃねえぞ?」

龍之介が釘を刺す。梨王は柚木の肩越しに、頬が触れんばかりの距離でPCを覗き込んでいた。それを見たメロは諦観と悲壮さの漂う表情で、ふらふらとジュースのコーナーへ行き、やけジュースをあおり始めた。

「……梨王様」

「……大変だな」

龍之介はメロの肩をぽんと叩いたのであった。