空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

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校長会議 準備


 校長会議会場スタッフの面接を行なったのは、シャンバラ教導団第一師団憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)だ。中肉中背ながら、いつも険しい顔で人を威圧するような雰囲気を放っている。
 開催事務局の電話で、今も誰かに、かみついていた。
「フォーラムの警備に、教導団以外を加えろだと? 下らん。組織として動けぬ烏合の衆を引き入れるなど、テロリストに加担するのと同義だ。鏖殺寺院のテロ予告が無ければ、各校融和の茶番劇の出し物として警備ゴッコをさせてやったかもしれんが、今は実戦の最中でな」
 玄豺は冷たい口調で言い捨てて、ガシャンと電話を切った。

 校長会議の会場スタッフアスタ・クロフォード(あすた・くろふぉーど)は、花をかきわけ、それを活けた花瓶の中をのぞきこんだ。
(よし、何も不審物は入ってませんね)
 そう思った時、背後で恨めしそうな声がした。
「ああ、お花が〜。せっかく綺麗に活けられたのに、ひどいわ」
 アスタが振り返ると、同じく会場スタッフをしている百合園女学院の美術教師ヘルローズ・ラミュロスだった。校長会議に合わせたのか清楚なタイトスカートのスーツを着ているが、胸が大きく色っぽい。
 その花を活けたのは彼女らしい。
「す、すみません」
 アスタは焦って花を直そうとするが、逆にグチャグチャになってしまう。ヘルローズは肩を落として、それを止めた。
「花が潰れてしまうから、私が活けなおします。あなたは宮坂さんを手伝って、お掃除でもお願いね。皆、ピリピリしすぎよ。警備なら専門の教導団員さんがいるのに……」
 ヘルローズは悲しげにつぶやきながら、花を美しく見えるように整える。
 ルーク・グレン(るーく・ぐれん)がアスタをこづきながら、そこを離れる。
「怒られたねぇ」
「他のスタッフの邪魔しないよう気をつけます……」
 一方、宮坂尤(みやさか・ゆう)は清掃スタッフとして、窓拭き、床磨き、トイレ掃除、ゴミ箱のごみの回収、果ては観葉植物の水やりに照明の交換と、忙しく働きまわっていた。
 パートナーのスヴァン・スフィード(すう゛ぁん・すふぃーど)もそれを手伝う。
「さあ、次は上の廊下のモップがけです。行きますよ!」
 疲れを見せない尤には、スヴァンは引っ張って階段を昇っていく。


「そのテーブルはもう少し右の方ねぇ。そう、そのくらいで」
 校長や各スタッフの控え室用の部屋では、エレオノーレ・ボールシャイト(えれおのーれ・ぼーるしゃいと)待田イングヒルト(まちだ・いんぐひると)にアドバイスしている。
「こんな感じ、かなっ?」
「そうだねぇ、配置はこれでオッケーかな。次はこの部屋の装飾をしなきゃねぇ」
 二人は壁に、各学校の校章を飾ることにした。
 エレオノーレが自分で描いた校章をイングヒルトに渡す。
「実は飾りつけを用意してきたんだけどぉ……これ! 私の描いた、校章とかどう?」
 イングヒルトは目が点になる。エレオノーレは見事なまでに絵がヘタだった。
「いやっ、それは止めた方がいいと思いますっ。どう見てもただの落書きですっ、確実に侮辱に取れますよっ」
 イングヒルトに全力で止められ、エレオノーレは首をかしげて、自作の校章を見る。
「え、駄目? そんなに、ただの落書き? ……頑張ったんだけどねぇ」
 そこに背後から声がかけられる。
「あら、飾りつけの仕方を工夫すれば、案外いいんじゃないかしら?」
 美術教師のヘルローズだ。
「イングヒルトちゃんが集めた普通の校章は、正面にバシッと飾りつけて。その下の方にエレオノーレの校章をぺたぺた貼ると、ちっちゃな子が頑張って描いたみたいになって、なごむじゃない?」
 ヘルローズは笑顔で、さっくりヒドイ事を言う。
「ちっちゃな子て……」
「うーん、美術の先生が言うなら、そういうのもアリなのかなっ?」
「じゃあ、さっそく飾りましょう」
 三人は協力して、壁に各校の校章を飾りつけた。


「皆さん、お疲れ様です。そろそろお食事にしてはいかがですか?」
 深見ミキ(ふかみ・みき)がワゴンに、コーヒー、紅茶などの飲み物やサンドイッチ、お菓子などの食べ物を乗せて、会場を回ってくる。
 毒見仲間となったアスタ・クロフォード(あすた・くろふぉーど)がほっとした様子で言う。
「では、さっそくコーヒーをいただきます」
「コーヒーや紅茶には疲労感を軽減する働きがあると聞きますから、仕事でストレスや疲れが溜まった時にはよろしいですよ」
 ミキはアスタに、紙コップに注いだコーヒーを手渡す。
 イングヒルトたちも、ワゴンのまわりにやってくる。
「私たちも、いただきまーす。サンドイッチ、おいしそうっ」
 ヘルローズはワゴンの菓子に目をつける。
「あらっ、ここのお店のマカロン、美味しいのよね。いただくわ」
 さらに掃除に大車輪だった宮坂尤(みやさか・ゆう)も来る。
「仕事しまくったら、おなかすきました。何か食べさせてくださいー」
「今、配るから、しばし待てい」
 忙しくなり、ミキを手伝うアーチボルド・ディーヴァー(あーちぼるど・でぃーう゛ぁー)が食べ物や飲物を急いで配布していく。

 会場スタッフたちは忙しく、またテロの危険に緊張しながらも、楽しみつつ仕事に励んでいるようだった。