空京

校長室

建国の絆(第1回)

リアクション公開中!

建国の絆(第1回)

リアクション



校長会議 情報屋


 蒼空学園のスタッフ裏椿理王(うらつばき・りおう)は、下見としてフォーラムを訪れた。控え室に持ち込む機材の接続合性や、議場でのスペース等を確認したいというのだ。
 メイド姿の朝霧垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が理王の対応につく。「まず蒼空の控え室なら、こっちだぜ。ついてきな」
(随分な口調のメイドさんだな……)
 理王な戸惑いながらも、垂に案内される。彼女は教導団員にしてメイドなのだ。
 やがて控え室に通され、理王は周囲を見回す。
(さて、どこに盗聴器をしかけようか?)
 実は彼は、会場に盗聴器をしかけて情報を得ようと狙っていたのだ。
 ふと見ると、垂がテキパキと室内を見て回っている。
「そんなに警戒する事はないぜ。この部屋は俺がきっちり、不審物や危険物が無いか見てまわってるからな。当然、会議開催直前や最中にも見て回るから、安心していいぞ」
 笑顔で言われ、理王はここに盗聴器はしかけるのは無理だと悟る。しかも垂が見ていない時はライゼが、というように理王から目を離してもらえない。
「次は議場を見せてもらえますか?」
「おう、もういいのか。会議場はこっちだぜ」

 校長会議が開かれる会議場では、一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)が机や機材を調べてまわっていた。
「よっ、こっちもチェック、しっかりやってるようだな」
 垂に声をかけられ、アリーセが顔をあげる。
「ええ、こうした会議場には盗聴器がしかけられる可能性も大きいと推測しますから」
 アリーセにつきあって点検をしていた久我グスタフ(くが・ぐすたふ)が、理王に目を止める。
「会議開催前に下見か。精が出る事だな」
 理王はグスタフに睨まれているような気がした。
(しかたない。盗聴器がダメなら、壁内部の有線コードあたりからデータを盗み取るだけとしようか)
 そこに高らかに笑い声を響かせながら青野武(せい・やぶ)が、黒金烏(こく・きんう)を伴って入ってくる。
「ぬぉわははははははは! 失礼するぞ! 百合園の席はどちらかな?」
「そちらです。何をするんですか?」
 アリーセに問われ、野武はさっそくその一角に向かう。机にはモニタや情報機器接続用のボードなどが埋め込まれている。
「こうした机や壁における電路のチェックも必要であろう。非常識な分岐など、もっての他!」
「不審物を発見したら即、上に報告するであります!」
 金烏も張り切った様子で、コードのチェックを始める。
 理王は万策尽きた、と思った。パートナーの桜塚屍鬼乃(さくらづか・しきの)は面倒くさがって、ついてきていない。
 ここは大人しく引き下がるしかない。シャンバラ教導団は、甘くは無かった。




 警備の教導団員林田樹(はやしだ・いつき)の視線が、会場スタッフのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)に注がれる。
 樹の調査では、薔薇の学舎生徒のクリストファーは先日、鏖殺寺院に操られて学校側に敵対したと言う。
 逆にクリストファーは同じように操られた生徒たちを「失われた信頼を取り戻すために頑張ろう」と誘って、皆で校長会議の会場スタッフに早々と立候補したのだ。そしてトイレ掃除やドブ掃除等の汚れ仕事を率先して真面目に行なっていた。
 一方で樹は「過去に鏖殺寺院側に操られた事があり、この校長会議に関係する者についてリストを作成。集中的に見張ってはどうか」と進言していた。
 これに会場警備の人事にあたる教導団第一師団憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)が許可を出した。
(鏖殺寺院が動くなら、過去に操られた人間がまた操られる危険もあるからな……)
 樹はジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)と持ち場を交換し、今度は教導団内で操られた前歴のある者を見張りにいく。
「林田様、後はお任せください」
 じー。
 主のために頑張るジーナの視線が、クリストファーに突き刺さる。
 かわいらしい機晶姫の熱視線とは言え、それは疑いの視線だ。
「うわーっ! 悪事の汚名をそそぐべく皆で努力してるのにっ、信用して貰えないならグレてやるぅーッ!!」
 クリストファーは泣きながら、フォーラムから走り去ってしまった。


 それから少し後、薔薇の学舎のスタッフとして働いていたクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、パートナーのクリストファーに連絡がつかない事に気づいた。
「まさか……裏切られた……?」
 青ざめたクリスティーは、ジェイダス観世院(じぇいだす・かんぜいん)の元に駆けつけた。
「先生ッ、ボクを、ボクを殺して!」
「いきなり何を言うのだね?!」
 さすがのジェイダスも、涙を浮かべるクリスティーの発言に驚いた顔をする。
 クリスティーはクリストファーを連絡がつかない事を話し、言う。
「きっと鏖殺寺院の、ヘルの所に行ったんだ……。これ以上、暴走が酷くなるなら……クリストファー・モーガンを行動停止に追い込むために、ボクを殺してください……」
 ジェイダスはクリストファーを優しく抱きしめた。
「落ち着きなさい。まだそうと決まった訳ではないのだろう? それに彼を止めるために安易に君を犠牲にする事など許される事ではない。何か事件に巻き込まれているのかもしれん。今は、何か分かるまで彼を信じて待つのだよ」