空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

リアクション



デモ 主張


「まーまー、お近づきのシルシにいっぱいドーゾ」
 金髪巨乳のレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)に笑顔で酒をススメられ、男の鼻の下がのびる。
「これから行進しなきゃなんないだから、少しにしといてくれよ。とっとっとっと」
「さー、イッキイッキ♪」
 レベッカが楽しげに手を叩く。
 女のコにいい所を見せようと、男は並々と注がれた酒をレベッカに促されるままに飲み干していく。
 そこはデモ隊が集合場所のひとつとした公園だ。ここには反日系や一部の反開発団体など、共闘を断ったグループが集まっている。
 もともと酒を振舞うのは昼食時にしようと考えていたレベッカだが、デモ隊に潜入していたアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)から、不穏な空気が高まっていると聞いて、決行を出発前に早めていた。
「さあ、どんどん飲むネ! まだまだお酒はあるヨー!」
「てても男らしい飲みっぷりですわ。お酒に強い方って素敵ですわね」
 アリシアも、うっとりしたフリをして調子をあわせる。
 その公園の、土管のような遊具の上に立ち、吉永竜司(よしなが・りゅうじ)は感動していた。
「オッ、オレのリサイタルにこんなにオーディエンスが集まるなんてっ!!」
 実は偶然、デモの集合場所と彼が勝手にリサイタル会場と決めた場所が同じだったのだ。
「張り切って歌うぜ〜〜〜!」

ぼえぼえぼえぇ〜

「うっ、うるせー! なんだ、この怪音波はっ?!」
「止めろ止めろ!」
 竜司の「歌」を止めようと、耳をふさぎながら土管に集まるデモ隊。しかし自分の世界に入っている竜司には、まるで感動してステージに詰め寄せるファンに見えた。
「てめぇらー! そんなにオレの歌を聴きたかったかー!」
 トロールとすら称される竜司の体が宙に舞った。感動した彼は「観客」に向けてダイブしたのだ。

ぐしゃ。


 やがてデモが始まる。
 だが過激な活動が予想されていた、反日団体や反開発の自然保護団体の元気がイマイチ無いようだ。
 彼らの集合場所だった公園には、酔いつぶれたり、何かの下敷きになったデモ隊のなれの果てが転がっていた。
「そろそろ取り押さえて大丈夫ダヨ」
 レベッカに言われ、酔いつぶれていたフリをしていた比島真紀(ひしま・まき)が身を起こす。
「ご協力、感謝するであります」
「ノンノン、気にしない〜。パラ実のためでもあるヨ。これで危険分子はイチコロネ」
 レベッカは楽しそうだ。
 真紀につきあって酔ったフリをしていたサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、そこらに転がる男たちの顔を確かめて回る。
「こいつが危険行為で手配された奴だ。酔ったり目を回している間に拘束しちまおう」
 真紀たちは団体に潜入して、その中に、過去に反対運動で手配や監視されていた者を何人も探しだしていた。
 それら危険人物を選んで拘束すると、真紀は空京警察に危険人物拘束の連絡をした。


「うーむ。耳栓の売り上げは良かったのですが、グッズの赤字とでトントンですな」
 アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)が電卓を叩きながら、うなる。
 彼は竜司のリサイタルを計画し「伝説の耳栓」を売りまくったのだ。もちろん、どこでも売っている耳栓に大層な売り文句をつけて売りさばき、けっこうな儲けが出た。しかし。
 アインはため息をついて、売れ残った竜司グッズの山を見る。
 トロールまんじゅう、トロール団扇、トロール目薬、トロールTシャツ……
「空京名物とでも言って、観光客に売りつけますかな」
 アインはつぶやき、グッズの山を運んで観光名所へと向かった。


 カレン・ドレッドノート(かれん・どれっどのーと)は警備を行なう空京警察の警察官に訴えていた。
「デモ隊には、ギリギリまで手を出さないでよ。きっと地球側勢力による武力的な占領統治っていう鏖殺寺院のプロパガンダに説得力を持たせ……あれ?」
「我々は空京警察です。何かお間違えでは?」
 カレンは、デモの警備を行なうのを教導団だと勘違いしていたようだ。
 デモが通る沿道には、物々しい装備の警察官が並んでいる。
 そんなピリピリしたムードの中、デモの行列が進んでいく。


 パラ実デモ隊の戦闘を行くのはシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)だ。
武尊さんが先頭を切ってしまっては、無用な誤解を招き、武力衝突に発展する可能性も考えられますから!」
 と強引に国頭武尊(くにがみ・たける)を後ろに下がらせ、自分が先に立ったのだ。
 パラ実の取材にやってきた鈴虫翔子(すずむし・しょうこ)が、マイクを手に言う。
「おぉー、来ました! あれがパラ実のデモ隊のようです! 先頭は女性のようですねぇ。さっそく話を聞いてみましょう」
 シーリルの目論見通り、取材がやってきた。
「すいませーん。デモ隊の皆さんのお話、聞かせてください」
 待ってましたとばかりに、武尊が翔子からマイクを分捕り、八神ミコト(やがみ・みこと)
が構えるカメラに向かって言う。
「自分達の学校から一部の生徒をパラ実に追放する等、散々利用してきた連中が、今更パラ実を取り締まりだと……笑わせんなよ。そういう事は、自分等の学校で綱紀粛正を行なってから言ってみろ。特に教導と蒼空。一部の生徒の素行の悪さはパラ実以上だぞ」
 そこにパラ実の姫宮和希(ひめみや・かずき)が飛んでくる。
「おっ、いいモン持ってるじゃねえか。ちょっと貸しな」
 和希は、翔子が「あうあう」言うのも聞かずに、武尊からマイクをもらう。
「えー、おほん。
 俺はなんとかしパラ実を復興させたい。校長会議には、パラ実の意見も取り入れるように言いたい。具体的には、次の事を要求、又は約束していきたい。
 1:校長会議でのパラ実の発言権を要求。代表選考の実施。
 2:パラ実生主体によるパラ実復興活動。
 3:パラ実の自警組織による自称パラ実生の野党行為等の取り締まり。
 以上だ」
「マイク返してー! いっ、以上、現場から鈴虫がお送りしましたー!」
 翔子はどうにかマイクを取り返し、無理やり中継を終わらせる。和希の話が終わるまでガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)にブロックされていたのだ。
「おい、今のどこで流れるんだ?」
 和希が翔子に聞く。
「えっと自主制作のニュース番組をネットで流したり、映像を買ってくれる所に売ったりするよ!」
「そっか。校長たちにも届くといいが……」

 パラ実のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)弁天屋菊(べんてんや・きく)はいつになく真面目な服装で、デモ行進に参加していた。
 髪は三つ編みおさげに、前髪をピン止め。セーラー服に膝下10センチのスカート、紺の靴下にローファーと、正統派の学生服姿だ。
「なかなか似合ってますよ。もっと嫌がるかと思ったのに」
 ガートルードに言われ、菊はわずかに頬を染める。
「べ、別に普通校にあこがれてたとか、そういうんじゃないからな!」
 ガートルードはくすりと笑うと、表情を改めて、行進しながら訴えかけた。
「大きな問題を起こすパラ実は、馬賊空賊蛮族と四天王を名乗るマフィアグループです。学生自体は精々不良程度。全部取締りは厳し過ぎます」
 一方羽高魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は素っ裸で横断幕を持って行進する。
 いや、よく見れば裸のように見える肌色のレオタードだ。
 二人が持つ横断幕には「パラ実生にも人絹を!」とある。どうやら「人権」と書きたかったようだ。
「ラブ&ピースだぜヒャッハー! 校長会議は、パラ実シカトすんな!」
「そーだそーだー!」
 二人は誤字に気づかず、そのまま練り歩いていく。

「皆、色々と考えてるんだね」
 カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)は感心し、また同じパラ実生として嬉しく思いながら、その場の風景をさらさらとスケッチに取っている。
 パートナーのメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)はメモを取るのに忙しい。
 後日、カリンはそれらスケッチやメモを元に瓦版を作り、分校やパラ実生がよく集まる店にぺたぺた貼ってまわった。
 デモに関わらなかったパラ実生も、カリンの瓦版を読んでこの日、何が起きていたか知る助けとなった。

 デモの中でガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は、意気消沈していた。
 彼女はキマク家に関わる人間にデモに協力してもらえないか連絡を取ったのだが、答えは
「一般学生の遊びにつきあうヒマは無い」
 ガガと電話で話したキマク家従者は、彼女たちの無抵抗主義での訴えに対し、強い嫌悪感を示した。


(裸と見せかけてレオタードとは……! だが、それがいい。……惜しむらくは胸のボリュームが少々物足りませんね)
「黎明様、何かおっしゃいました?」
 携帯電話ごしにネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)に聞かれ、朱黎明(しゅ・れいめい)は穏やかなほほ笑みを浮かべた。彼らもまたパラ実だ。
「どうやらパラ実のデモ隊は、本当に非武装非抵抗を謳っているようですね。驚きです。ドージェ様を頂点にかかげるパラ実にとって、もはや失態と言ってよいでしょう」
 彼はデモを見下ろせる建物の屋上、看板の陰に身を隠しながらデモの様子をうかがっていた。
 一方のネアは、今まさにデモの真っ只中にいた。彼女も参加者の一人として、列に加わっている。
「このまま平和的にデモが行なわれた場合、いかがいたしましょう?」
 ネアの質問に、黎明は軽く笑った。
「それは無いでしょう。デモ隊の方々は、シャンバラの現状を理解してはいないようですから。方々がどのように平和的なデモを行なおうとも、いずれ火種は炎を上げ始めるでしょう。後は、それが野火のように広がる手助けをするだけです」
 黎明の口調は確信に満ちていた。


 パラ実のデモ隊の中には、パラ実を憂う他校生もまじっている。
 その一人高潮津波(たかしお・つなみ)
「私だってキージャ族の人と友人になれる。それは幻想じゃなくて未来の指針だと思う! とにかく、ここを暴発させちゃだめ」
 ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)もパラ実生にお願いする。
「自治できる素地がある事を校長会に示しましょう」
 その行進の最中、津波に少年が声をかけてくる。年齢は十歳を越えたくらい。デモに参加するには年が若い。顔立ちなどからインド周辺の出身だろう。少年は人懐こい笑顔を浮かべ、挨拶した。
「お姉さんがツナミさんだね?」
「ええ、何でしょう?」
「ボクはテトラ・プカ。鎮魂岩の代理人の、そのまた代理人として来たんだ」
 津波は唖然として、少年を見た。
「岩の……? ゆるパークの関係者の方?」
 戸惑う津波に、テトラは笑った。
「違うよ。あの鎮魂岩は旧シャンバラ時代の騎士が姿を変えたものだったんだ。役目を果たした事で、成仏して消えちゃったんだけど、身を清めてくれたツナミさんたちに自分の代わりにお礼をしてくれって頼んでったんだ。で、お礼は何がいい? って、聞いても、すぐには出てこないよね」
 津波はほほ笑んだ。
「お礼なんていいんです。その騎士様が喜んでくれたなら良かったです」
 テトラは「うーん」と首をひねる。
「それは鎮魂岩に代理人を頼まれた、ボクの上司がちょっと困っちゃいそうだな。まあ、何か協力してほしい事とかできたら言ってくれれば、ボクたちに出来る範囲でだけど協力するよ……っていうお礼でいいかなぁ?」
「あなたは、どこかの団体に入っているの? だったら一緒に協力しませんか、と代表の方に伝えてくれませんか?」
 津波の言葉に、テトラは苦笑する。
「それは無理だと思うな。今回のデモには一切、関わらないって話だから。じゃあ、ボクの連絡先の電話番号を教えておくよ。たいていルス録だと思うけど、メッセージを残してくれればいいから」
 テトラは小さい手で、携帯電話らしき電話番号の書かれたメモを津波に渡す。
 そして「じゃあねー」と手を振り、走り去ってしまう。きょとんとした表情の津波が、後に残される。