空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

リアクション



病院 謎の美女


 聖アトラーテ病院周辺では、不穏な空気が流れていた。

「危ないっ!」
 そう叫んで飛び込んだソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)に、学友から雷術が飛んだ。小さな悲鳴があげる。
「ご主人! おまえら、ご主人に何しやがる?!」
 雪国ベア(ゆきぐに・べあ)の怒鳴り声に、ソアに魔法を当ててしまった生徒たちがひるむ。
 ソアは自身がかばった男たちに言う。
「は、早く逃げてください……」
 かばわれて唖然としていた彼らも、目の前で魔法の炸裂を見ては、そこに留まれない。バラバラと逃げ散っていく。
「おい、ソア! あいつら、リコの事を探って何かたくらんでるぜ! なんで、かばうんだよ?!」
 不満そうな生徒の一人に、ソアは言う。
「契約者の力は、それ以外の人に使ったらいけませにょ。この力は使い方を間違えれば、ただの暴力ですからね……」
 いきなり攻撃する者がゴロゴロいたために、ソアは説得する間もなく男たちをかばうハメになっていた。

 しばらく後、怪我も居合わせたプリーストのヒールで治り、ソアとベアが街を歩いていると、先程の男の一人が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、さっきはすまなかったな」
 ベアがソアの前に立ち、彼をにらむ。
「おい、おまえ、反開発団体の奴か?」
「いや? 高根沢を狙うなんて反日運動だけだろう? まあ、パラミタが現れて、世界トップの軍事力を持った日本に反感を持ってる人間は多いからな。
 守られた恩もある。今回は手を引いてやるぜ。じゃなかったら『高根沢家は街中でいきなり凶器をブンまわす殺人鬼養成学校に肩入れしてる』と写真付きで、地球のネットに流しまくってたトコだ」



 病院周辺、消える謎の美女を探す者は大勢いた。
 しかし目撃するまではできても、近づけば姿が消えるので、誰も接触できずにいた。
 「おーい、そこの美人のおねーさーん!!俺とちょっとお話しないかーっ!?」

 鈴木周(すずき・しゅう)の大声が響く。
 洋風のドレスの上に中華風の鎧をつけた奇妙な美女は「またか」という顔をする。周は彼女が消えるかどうかギリギリの辺りから、大声でナンパしてくるのだ。
 周の大声に、付近で捜索していた生徒たちが集まってくる。だが彼らは周とは異なり、攻撃的だった。街中にも関わらず、いきなり正体不明の美女に攻撃をしかけようとする。
「うわっ! 足がすべったぜー」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がつまずいたフリをして、攻撃しようとする生徒に体当たりする。
「何するんだ?!」
「しょうがないだろ、すべったんだから」
 そうこうするうちに、美女は姿を消している。

 しばらく後。周とトライブは、おたがいが美女に敵対心が無いと知って、意気投合していた。
「やーれやれ。こんなんじゃナンパもロクにできないぜ」
「まったくだよな。あんなんじゃ話をするヒマもないぜ」
 美女とお近づきになりたい二人は、はぁとため息をつく。
 少し離れた所に待機しているトライブのパートナー千石朱鷺(せんごく・とき)ですら、油断していると美女に攻撃をしかけかねないような気がする。
(頼むから、そのまま猫をかぶっていてくれ)
 トライブは思う。
 と、二人の背後に気配が現れた。当の美女の方から、テレポートか何かで出現したようだ。
 周は小躍りする。
「お〜! おねーさんの方から会いに来てくれるなんてっ! おねーさん、じゃ寂しいから、まずは名前から教えてほしいな!」
 何度も大声でナンパしてくる周は、さすがに彼女の方が覚えてしまったようだ。
 固い声で、だがなかば諦めたような口調で答える。
「……林 紅月(りん・ほんゆぇ)」
「紅月ちゃんかー。ここで何してたんだい?」
「主の命で、仇敵の砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)を見張り、我らに取り、よからぬ動きをせぬよう牽制していた」
 トライブが紅月に言う。
「俺で良かったら協力するぜ。なんでも言ってくれ」
「それはせぬ方が良いだろう。貴公らの立場のためにもな」
「立場? 俺、そんな役職とか持ってないぜ?」
 不思議そうなトライブに、紅月は言う。
「私は鏖殺寺院鮮血隊が将軍、林 紅月だ」
 周たちは彼女の周囲に、暗いオーラが渦巻いたような気がした。
 紅月はどこか、すまなそうに二人に言う。
「茶番につきあわせて悪かったな。次に会うとしたら戦場だ。その時は容赦しない」
 紅月の姿が消える。
 唖然としている二人に、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が駆け寄ってくる。
「周くーん! まだナンパやってるの? この辺り、校長会議で警備が厳重なんだから……って、あれ? どうかした?」
 レミが不思議そうに周に聞く。
「いや……まさか、こんな街中でそういう人をナンパしてしまうとは。俺の【勇敢なるナンパ師】の呼び名は伊達じゃないなっ!」
「……何、言ってるの、周くん?」
 レミはいぶかしげに周を見た。
 それ以降、病院周辺で謎の美女が姿を現す事はなかった。