空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

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トンネル 聖冠の行方

 トンネルに戻ってきたヘルたちは、鏖殺寺院の一行に合流する。
 それからすぐに地下トンネルはホールのような場所で終わっていた。だが周囲は岩盤に覆われ、洞窟内といった様相だ。
「さぁて、まずは聖冠を起動させなきゃね。皆はちょーっと離れてて」
 ヘルがその空間の中心に行く。その手に黄金の鍵が現れた。どこかに保管してあった物をテレポートで呼び寄せたのだろう。
 ヘルは不可思議な呪文のような言葉をつむぐ。
 鍵がまばゆい光を発して消滅する。その光が消えると、辺りの景色が変わっていた。
 石畳が地面を埋め、周囲には怪物や戦士を模したレリーフのついた柱が何本もそそりたつ。
 石畳の中央には、人より少し背が高い程度の透明な柱が立ち、その中には輝く王冠が埋め込まれていた。
 ミシミシと岩をこすり合わせるような音を響かせながら、レリーフに刻まれた怪物や戦士が動き出す。
「寝所ニ立チ入ラントスルノハ何者カ?」
「はい? 僕だよー」
 ヘルが手を掲げ、レリーフのひとつに何か衝撃波のような物を打ち込んだ。
「失礼イタシマシタ……」
 レリーフは、元の石の彫刻へと戻った。
 ヘルは透明な柱の前まで行き、聖冠をのぞきこむ。
「はーい、聖冠クイーンパルサー、起動完了確認。うんうん」
 ヘルは満足げに冠を見る。だが、この場に門のような物はない。
 早川呼雪(はやかわ・こゆき)は聖冠をじっと見つめる。
(この冠だって、どうせ曰くつきの代物なんだろ。これ以上、誰かにおかしな運命、背負わせて堪るか……!)
 しかし決意を固めていると、ヘルに無造作に頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
「あのねー君ねー。どーしてこー僕は、貧乏クジを引きたがる奴ばっかり……。外見重視のハズなのに、なんで、こうなるかと。
 そうそう、言っておくけど聖冠を託されるとしたら、早いもの勝ちでも運でも無いよ。斬姫刀の時だって、そうでしょ?」
 ヘルの言葉にクリストファーがいぶかしげに言う。
「あれは、むしろ偶然、最初に魔剣を手にしたラッキーさと『イエスイエス』って騒ぐ無茶っぷりだけだったような気がするけど……」
 ヘルは当然のように答える。
「なに言ってんの。あの剣って、大切な人のために命をかける心に反応して、その持ち主を引き寄せ、語りかけるって聞いたよ。そうじゃない人は剣に縁がないし、もし手にしても何も起きないよ。
 ……ありゃ? 知らなかったの? ……もしかして僕、鏖殺寺院的に言わなくていい事まで言っちゃった?」
 やっちゃった顔のヘルに、呼雪が言う。
「お前から見た『魔剣の時と同じ』と、学校側から見たそれは違う、という事か」
「なんだか、そうみたいねぇ。
 ちなみに聖冠は、もう探してる人物を見つけたみたいだよ。呼雪やクリストファーがそうなら僕も今後、楽チンだったんだけど、さすがにそれは無理だったみたいね。
 ……しかし、誰も来ないなぁ。トンネル探検、そんなに難航してるのかな? 基本、一本道のハズなんだけどねー」


「……?」
 ドラゴニュートのファルは何か気配を感じて、トンネルの暗闇を見た。そこには闇しか無い。
 また歩き出そうとして。
 べしっ!
 尻尾で何かを叩いた。はね飛んだ黒い物体に、はっしと飛びかかる。
「なんだろう、これ?」
 ファルは知識欲に輝くような瞳で、蠢く細い物体をしげしげと見た。まるで影のように見えるが、実体は有り、こうしてつかむ事ができる。蛇のようにも見える形だ。
「ウナギかな?」
 ぱくり。ファルは口の中に、その動く影を放り込んだ。味はなく、スッと消えるように無くなってしまう。
「?」
「どうしました、ファルちゃん? 皆から遅れちゃいますよ?」
「あっ、待ってー」
 同行するヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)に呼ばれ、ファルは小走りに彼女の元に走り寄った。


 ヘルは頭を抱えた。
「呼雪、僕の使い魔兼分身が君の相棒のおちびさんに食べられたんだけどー」
「おかしな物を食べさせるな。……トンネルにファルが来てるのか?」
「うん。そりゃー闇の精霊力の塊だから、十匹、二十匹と食べたら、体調は崩すと思うけどさ」
 ヘルがブツブツ言っていると、呼雪の携帯が鳴り出した。見るとファルからだ。
 ヘルが「出ていい」と言うようにうなずくので、呼雪は電話に出た。

「もしもし」
「あっ、コユキ! 迎えに来たよ!」
「呼雪おにいちゃん、無事ですかっ?!」
「ヴァーナーか。他にも誰か一緒なのか? 伝えて欲しい事がある」
 呼雪は、黄金の鍵で聖冠が起動した事や、そこで聞いた事などを伝える。
 あらかた話し終わった時、ヘルが電話に割り込んだ。
「ぬははははー! そうか、君はスパイだったのかー! とゆー訳で、捕まえたぞー。
 追手の君たち、僕らに剣を向けたら、人質の呼雪君の貞操は無いと思ってねー」
 ヘルは問答無用で電話を切ってしまう。呼雪はヘルに聞きただす。
「人質? 下手な芝居だ。それに貞操も何も……」
「まあまあ、そういう事にしとこーよ。
 それにしてもご一行が来るのは、まだかかりそうだし、一気にテレポートで呼ぶのは無用心だし、ヒマだな。……そうだ、美少年を呼ぼう♪」
 奇妙な論理展開をして、ヘルは何者かを呼び寄せた。

 空中にココ・ファースト(ここ・ふぁーすと)が現れ、ヘルの腕に抱き止められた。
 突然のテレポートに、ココは目がまん丸になっている。だが自分を抱きかかえる者がヘルだと気づき、その表情がパアッと明るくなる。
「ヘル! 会いたかったです!」
 飛びついてくるココを、ヘルは笑顔で抱きしめる。
「久しぶりー。僕も会えて嬉しいよ。かわいいなー、ココは」
「ボクも会えて嬉しいです。すごく心配したんですよ。でも無事で良かったです」
 再会を喜び合う二人の横で、ボソリと声がする。
「……そっちから呼ぶながら、もっと早く呼んでおけよ」
 戦闘でけっこうボロボロになったスガヤキラ(すがや・きら)だ。ヘルは意外そうな顔をする。
「あれっ? ココだけ呼んだつもりだったんだけど。使い魔分身アイを基準にしたテレポートはイマイチ精度に欠けるなぁ」
「なんだと?!」
 キラは睨むが、ココが止めに入る。
「ケンカしちゃ駄目ですよ」
「べ、別にケンカしようって訳じゃない」
「そうですか。よかった」
 笑顔になるココに、キラは複雑な表情だ。
 ヘルは、へへーんと笑いながら、ココをひざに乗せて座る。ココは彼に熱心な調子で話しだした。
「破音先生は、各学校が生徒を戦わせているのを好ましく思ってないそうです。それは鏖殺寺院と考えが一致してると思うんです。でも、それ以上に寺院が人を傷つけるのを良くないと思ってます。
 だから、そこの所をクリアできたら、状況次第では生徒を守るために寺院側に来て、ヘルとも仲良くなれるんじゃないでしょうか?」
 ココの口調から、ヘルに訴えるために一生懸命に考えてきたのだろうと思われる。ヘルは穏やかな表情でそれを聞いていた。
「う〜ん、だったらいいんだけどね。ただ鏖殺寺院の中でも色々な意見があって、報道官ミスター・ラングレイと僕や白輝精でも、また違うんだよね」
 ヘルはどこか、すまなそうに言う。
 ココはしょぼんとするが、またヘルを見つめ、言う。
「ボクも、寺院側が人を傷つけないなら、むしろ味方したいです。ヘルが、人を傷つけたり、攻撃される所は見たくないんです」
 ココの言葉に、ヘルはにっこり笑う。
「それ、告白みたいだよ?」
「えっ」
 ココの頬が赤くなる。
 キラは(まずい! 話をそらさねば!)と大きな危機感を持った。このままではココが、色々な意味でアッチの世界に行ってしまいそうだ。
 だがヘルは言う。
「僕にも目的とかあるからねぇ。そのためには戦う事にもなっちゃうよ?」
 ココはハッとする。
「目的って……もしかして門を開けて、向こうに行っちゃうんですか?! 心配だからボクも一緒に行かせてください! ヘルのこと、ほっとけないです。このまま遠い存在になるなんて嫌です!」
 涙を浮かべ、真剣な表情で訴えるココを見て、ヘルは思い切り笑った。
「あはは! もうー! ココはほんと、かわいいなー!」
 そしてココをぎゅうっと抱きしめる。
「安心していいよ。あの『門』は、向こうから出てくるために開けるものだから。僕は、しばらく空京にいるつもりだしね。そんな心配だったら、とりあえずメアドと携帯番号の交換しておこうか?」
 ヘルはココの額に軽くキスし、携帯電話を取り出す。
 赤外線通信をしている二人を見て、キラはもう居ても立ってもいられなくなった。
「ヘル! おまえと話したいって奴が、他にもいたんだが、話を聞いてくれないか?!」
「なに、急に?」
「えーと、話せばココの心配も少しは薄れないかと思ってな」
「ふうん?」
 ヘルは少々考える。
「そうだねえ。ちょっとクリストファー、来てー」
「なんだい?」
 ヘルは片腕にココ、もう片腕にクリストファーは抱いた。
「こうやって両手に美少年してるとー」
 ヘルの下半身が、薄い緑色の大蛇へと変わる。太さは人間の胴ほどだが、長い。
「ほーら、でっかく長ーくなっちゃったー★」
「うわっ?!」
「わぁー」
「びっくりした? 砕音によると、僕の隠し芸のひとつだよー」
 クリストファーもココも唖然としている。
「ヘルくんは、ヘビくんだったのか……」
 驚いたクリストファーが動揺のためか、いつになく妙な事を言う。
「そんなコト言うと、しおしおに縮むよ。ぷしゅう」
 ヘルは元の姿に戻った。幸い服は変身で破れるのではなく、どこへともなく消え、どこからともなく現れるようだ。
 キラは驚きつつも、怒りに震えている。
「オレの話は無視か……」
「そうじゃないよー。話する前に、一発芸を先にやっておきたい気分だっただけで。
 話ができそうな人を集めて呼ぶから、皆は少し離れてて。使い魔アイだと、間違って、斬りかかってくる人を呼んじゃう危険があるから」