空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

リアクション



トンネル 北トンネル


(さてと、これでトンネル探検の準備は整ったな)
 ライト付きヘルメットを装備し、葉月ショウ(はづき・しょう)はトンネル突入の身支度を整える。
 その時、ショウの見知った顔が妙な方向に歩いていくのに気づいた。
「おーい、玲奈! どこに行くんだ? そっちはヘルたちが行った方じゃないぞ?」
 北側にあるトンネルをのぞきこんでいた如月玲奈(きさらぎ・れいな)が、声をかけられて初めてショウに気づく。彼女の注意は、北のトンネルに注がれていたようだ。
「南には『門』があるみたいだけど、北にもきっと何かある! そんな気がするのよ」
「気がするって、んな適当な……」
 玲奈は頬を膨らませ、ツリ目でショウを睨む。
「適当なんて失礼ね! いいわよ。ジャックと二人で大発見してやるんだから!
 玲奈のパートナージャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が、彼女に腕をとられて、ちょっと困った表情でショウを見る。その訴えるような輝きと、ぷりぷり怒っている玲奈の様子にショウは、ハアと息を吐いた。
「しょうがないな。あっちにだって邪霊やモンスターが出るかもしれないんだぞ」
「そ、そんなコト言ったって、脅しには負けないんだからね!」
 玲奈の言葉にショウは苦笑した。
「違うよ。一緒に行くって言ってるんだ。いいだろ、アク?」
 彼に聞かれて、葉月アクア(はづき・あくあ)は笑顔でうなずいた。
「うん。皆と違って、北に行くのも面白そうだから、いいんじゃない?」
 ジャックが「助かったぜ」と小さく、もらす。敵が出た場合を考えると、戦力的に不安を感じていたのだ。
「あら、皆さんも北に向かわれるのですか? 私たちもご一緒して、よろしいですか?」
 玲奈たちが振り返ると、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が穏やかにほほ笑んでいる。
「もちろんよ! 人が増えて心強いわ」
 玲奈が思わず本音をもらす。
 北のトンネルに向かう者はさらに集まり、最終的に二十人を超えた。
 ハイドラ・佐藤(はいどら・さとう)はその人数に(こいつぁ、まずいぜ)と考える。やにわに携帯を取り出して、パラ実の仲間たちに片っ端から応援要請のメールを打つ。
(お宝を見つけたら、俺たち性帝砕音軍で独占だぜ! これで俺も、の兄貴に正式軍団員に認めてもらえるぜ!)
 ハイドラはみずからの成功を確信し、グッと拳を握り、ニヤリと笑った。
 彼は南鮪(みなみ・まぐろ)率いる性帝砕音軍の見習いだった……


「探検は男のロマンだろ。さあ、行くぜー!」
 空飛ぶ箒に乗ったピンクのカバ、ゆる族のヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)が、北トンネルに入った一行の先頭を進んでいく。
「今んトコ、罠も邪霊も見当たらねーぞ、ヤマモト」
 背後でマッピングに励む山本夜麻(やまもと・やま)が答える。
「うんうん。なんたって鏖殺寺院は南に向かったもんね。こっちには罠とか邪霊は残されてないよ。たぶんね」
「ふ、不安になるような事、言うんじゃねえよ!」
 ショウが言う。
「まあ、敵が出たら俺たちで、どうにかするさ」
「うん、その時はよろしくねー」
 夜麻はあくまでお気楽だ。トンネルの壁や天井を観察していたロザリンドが言う。
 壁は人為的な物には見えないが、なぜこんなトンネルが地中にあるのか、彼女にはちょっと判別がつかない。ロザリンドは念のために、壁の様子も携帯電話のカメラに写しておく。
「ただ落盤だけには気をつけてくださいね。だいぶ土がもろくなっているようです」
 彼女を手伝うテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、岩陰をライトで照らす。
「いきなり天井や足元が崩れたりしそうだから、気をつけてね。特にマッパーさん」
「ありがとう。洞窟は今の所、ずーーーーっと北に向かってるよ。上り下りやちょっとした蛇行はあるけどね」

「ん? 行き止まりか?」
 先頭を行くヤマが、前方を埋める土砂を見て言う。
「いえ、これは土砂崩れではないでしょうか?」
 ロザリンドの言葉に、玲奈が不満げに言う。
「ええぇー。これで終わりなんて、つまらないよ!」
 ショウが持ってきたツルハシを掲げる。
「なら、念のために、危険がない程度に掘ってみるか」
「俺も掘るぜ! なんか出てくるかもしれんねぇしな」
 ヤマも同じように借りてきたシャベルで、土を掘り始める。
「人海戦術で堀りぬけようぜ!」
 銅鑼魂龍一(どらごん・りゅういち)がハイドラと共に、ドラゴンアーツで岩をどけていく。
 しばらく掘っているうちに、ショウが気づいた。
「待て。風が吹きこんできてないか? この土砂の向こうに空間があるみたいだぞ」
「よっしゃ! この土壁、崩れろや!!」
 ハイドラが力任せに土砂をドラゴンアーツで殴りつける。とたんに目の前の土の山が、その向こうへと消えていく。
「うわわわわ!!」
 土砂の向こうは崖だった。土の山が遥か下の雲海へと落ちていく。
「ひゅ〜。カバがいて助かったぜ……」
 ハイドラはとっさに手近な所に浮いていたピンクのカバ(ヤマ)にしがみついて、難を逃れていた。
「ふふん。ヒポポタマス、なめんな」
 ヤマはニヒルなつもりでキメる。
 夜麻がマップと、外の風景を見ながら言う。
「どーやら空京のある島の北端まで来ちゃったみたいだね。ここで行き止まりかな?」
 だが龍一が前方を指し示す。
「いや、待て。もしや向こう側にも、トンネルが続いてるって可能性もあるぞ」


 そして数日後。
 北トンネルに入った一行は、いったん来た道を戻り、空京を出て対岸の崖へと向かった。そこには龍一が予想した通り、同じようにトンネルが続いていた。
 遺跡や宝の入手目的で北に向かった者は、延々と続くトンネルに嫌気がさして脱落していった。そのトンネルもついに終わりを迎えた。
「たどりついたのは……ここ、どこだろ?」
 洞窟から出てきた夜麻が周囲を見回す。まるで土砂崩れの跡地に出たようだ。
 戸惑う生徒たちの中で、龍一だけはある確信を持っていた。
「やっぱりな! ここは魔剣、斬姫刀スレイヴ・オブ・フォーチュンのあった遺跡だぜ! ここは魔法学校のロリ校長にブッ潰された遺跡の跡地だ」
「なにぃ?! じゃあ、探すと何か見つかるかもしれねえな!」
 ハイドラが浮き足立った様子で、何か無いかと走っていく。玲奈がジャックをせかす。
「私たちも探すわよ! キミもせっかくシャベルを持ってるんだから、きばって探してよね」
 ツルハシを持ったショウも、肩をすくめつつ、ジャックを手伝う。

 しばらく手分けして探すうちに、龍一が石版のような物を掘り出した。
「なんか文字が書いてあるな。シャンバラの古代文字か?」
「おぉ! なんか価値があるかもしれねえ! さっそく売っぱらって性帝砕音軍の軍資金にしようぜ!」
 ハイドラと龍一のテンションがあがる。ロザリンドが携帯のカメラをかまえる。
「それでは発見の記念写真を撮りますね。はい、チーズ」
「おっ、すまねえな。チーズ!」

 さらに後日、ロザリンドが写した写真や夜麻が作ったマップなどが研究され、いくつかの事実が判明した。
 空京から魔剣の遺跡まで続く穴は、地脈の流れに沿ってできたものだった。
 南に行った生徒には、こうした記録を取った者がいなかったために確認はできていないが、トンネルは『門』まで続いていると思われる。
 鏖殺寺院のもたらした情報とも合わせれば、魔剣が抜かれ、鎮魂岩が消えた事で、空京地下(おそらく中心域)に『門』の出現が開始。
『門』から漏れだした気が地脈に乗り、その気の性質により土砂が侵食されて消滅したと思われる。
 事実、トンネルに入った者には(バリアに守られた者をのぞいて)、肌荒れや髪の痛み、洋服や装備の劣化が見られた。
 なお、この気の流れは、『門』での出来事により、現在は止まっている。
 また龍一らが発見した石版に書いた文字は、実物は古物商に売り払われたが、ロザリンドの撮った写真を元に解読された。
 破損や劣化により完全解読は不可能だったが、そこには「大切な者を守ろうとする者が魔剣にいざなわれる」という意味の事が書かれていた。



 シャンバラ大荒野に、その古代遺跡はあった。
「ずいぶんと荒らされてるわね。先に発掘されたにしても、ちょっとひどいわ」
 蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)が慎重に歩を進める。
 そこは黄金の鍵が見つかったという古代遺跡だ。
 彼女たちは、黄金の鍵が強奪されたという事件を聞いて、すぐにこの遺跡に向かったのだ。後に、学校に残って、引き続き文献調査にあたっていたヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)から、空京での事件を知った。
「まだ罠が残っていたり、モンスターが入り込んでる可能性があるから気をつけてね!」
 路々奈の警護役に同行する九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が周囲に注意を払う。と、九弓の表情が厳しくなる。
「気をつけて! 何か……いる」
 遺跡の奥から姿を現したのは、マンティコアだった。だが体中が傷だらけで、特徴的な尻尾も切断されている。
「また戻ってきたというのか、盗賊ども」
 路々奈がそれを否定する。
「あたしたちは盗賊じゃないわ。ただ、ここにあった黄金の鍵が何なのか、調べにきただけよ」
「黄金の鍵? 盗賊めらも、そんな言い方をしていたな。たしかに黄金で飾られ、形も役目も鍵と言えない事もない」
「と言う事は、鍵ではないの?」
 不思議そうな路々奈に、マンティコアは答えた。
「あれは力の呼び水。眠れる祭具に目覚めをもたらす物」
 今度は九弓が聞く。
「その祭具って聖冠クイーンパルサー? 『門』を開いたら、何が起こるの?」
「そのような事、私にはどうでもよい。この地にも、それを示す物は何もない。私は番人にすぎぬ」
「本当にそうか調べてもいい?」
 路々奈が聞いた。
「この地から何も持ち出さなければ、好きにするがいい」
 マンティコアはそう答えて遺跡の奥に戻ろうとする。マネット・エェル( ・ )が小首をかしげ、魔物に聞いた。
「先程、あなたが盗賊と呼ばれたのは薔薇の学舎の生徒さんですかしら?」
「薔薇? たしか彼らは『パラ実』や『四天王』がどうとか言っていたが……。トサカのような妙な髪形をした奴等が何人もいたぞ」