空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

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トンネル 傾いたビル

 ヤジロアイリ(やじろ・あいり)は建設現場にあった梯子を運び、穴の中に設置する。穴は深いので、底につくまで、何本かの梯子を降りることになる。
「よし。これで上り下りしやすくなったぜ」
 小型飛空艇や箒を持たない生徒が、大急ぎで梯子を降りていく。
「呼ばれて、飛びでて、いざ参上! 拙者の名は仙國伐折羅(せんごく・ばざら)! 悪党どもッ! いざ尋常に勝負でござる!」
 伐折羅はエンシャントワンドをドラゴンアーツでブンまわし、ゆらゆらと飛んできた邪霊に叩きつける。ワンドの魔法攻撃力で、霊体の邪霊が薄まり、消えていく。
 周囲の者が、物理攻撃の効きにくい霊体相手に苦労する中、伐折羅は痛快な程にバッサバッサと邪霊を凪ぎ払っていく。
「忍術を使うまでもないか! さあ、霊体ども、いくらでも向かってくるがよいぞ!」
 土の中から、ボロボロの鎧をまとった亡者が現れ、伐折羅に襲いかかる。
「ハッ!」
 前田風次郎(まえだ・ふうじろう)がドラゴンアーツで気合を発し、落ち武者のごとき邪霊を砕いた。その姿がグズグズと崩れて、土に潜っていく。
「邪霊と言えど、依り代のある奴は物理攻撃が効きそうだな」
 風次郎は嬉しそうにニヤリと笑う。
「なら、そちらは任せたでござるよ!」
「おう、背中は任せろ」
 伐折羅がワンドを振るって敵の中に切りこんで行き、風次郎は後方から依り代のある邪霊を狙い討っていく。


「怪我した人、いませんかー?!」
 玖瀬まや(くぜ・まや)は崩れた土砂に分け入るようにして、懸命に呼びかける。
(返事は無いけど、返事できないくらい重傷な人がいるかも)
 背後では邪霊との戦闘が繰り広げられている。
「あっ、だいじょう……えっ?!」
 地中から人の手が出てきたので、まやはとっさにその手を引こうとした。が、その手は肉がはげかかり、乾燥していた。地中から出てきたのは、鎧をまとった亡者。
 銃声が鳴り、まやの目の前の鎧亡者が吹っ飛んだ。
「無事か?!」
 銃を構えた、パラ実の御弾知恵子(みたま・ちえこ)がまやに聞く。
「うん! 助かったよ」
「あんたらは救助活動に励んでくんな。襲ってくる奴らは、あたいが殺ってやるよ」
「ありがとうね」
 まやは知恵子に向けて叫び、また土砂に飲まれた者がいないか調べ始める。
 知恵子はふたたび援護射撃に切り替える。
(喧嘩もできてパラ実のイメージも上がる! こういう甘っちょろい協力体制も、嫌いじゃないよ)
 知恵子は唇の端に、かすかに笑みを浮かべた。
 フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が知恵子近づいてきた邪霊を食い止める。
「鏖殺寺院……待ってろ。鏖(ジェノサイド)されるのは、手前らだ!」


 ヴァルキリーのエリアス・テスタロッサ(えりあす・てすたろっさ)は作業員たちに避難を呼びかける。
「皆さんも早く避難しましょう。ここは危険です」
 しかし作業員たちは笑って、彼女に答えた。
「ありがとうよ、お嬢さん。だが仕事仲間を放っては行けないよ。心配しなくても、このビルはすぐに倒れる事はないよ。専門家のワシらが言うんだから安心しなって。あの邪霊がこっちに来ないようにしてくれるだけで十分さ」

 ビルの片隅から、細い白煙があがっている。切断したケーブルから火花が散り、煙が出ていた。
 ヘルメットをかぶり、箒に乗って煙の源をたどってきた渡辺鋼(わたなべ・こう)が、箒を飛び降りてケーブルに走りよる。
「とっとと消えや」
 魔法で火勢を弱める程度でもない。鋼はケーブルを踏みつけて火花を消すと、ケーブルの電源を切りに向かう。
「よっしゃ。火事にならなくて幸いやわ」
 と、鋼の携帯電話が鳴る。同じくビルで人命救助にあたる、パートナーのセイ・ラウダ(せい・らうだ)からだ。
「鋼、鉄骨に挟まれている人がいるんだ。手伝ってくれないか?」
「どこや?」
「地下に降りた右手かな」
 そんな会話をするうちに、鋼は箒で現場についている。崩れた鉄骨に太ももの辺りを挟まれて動けなくなっている作業員がいた。
「今、助けるで」
 鋼は鉄骨に手をかけるが、セイが差しとめる。
「いや、鉄骨は俺に任せてよ。俺が鉄骨を持ち上げた隙に、作業員さんの脚を抜いてくれないか」
「よっしゃ」
 確かに、ウィザードの鋼の腕力では、下手に鉄骨に触れるのは危険だ。
 セイは渾身の力を込めて鉄骨を持ち上げる。
「おりゃああああ!」
「今や」
 鋼は作業員に声をかけ、その脚を引きずりだした。セイが顔を真っ赤にしながら、鉄骨を下ろす。
「もう安心や。すぐプリーストんトコまで運んだるからな」
 鋼は布で患部に応急手当を施しながら、助けだした作業員に言う。その間にセイは、自分と鋼の箒の間に、網目状にロープをかける。
 これを担架代わりに作業員を乗せ、ビルの外まで運びだす。
「怪我人つれてきたで! 他にも行方不明者おるんか?」
 作業員の安否確認をしていたセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)に、鋼が声をかける。
「これで全員だという話ですが、念のために、ビルに取り残された人がいないか確認してきてもらえますか?」
「じゃあ、手分けして行ってくるね」
 セイと鋼は、ロープを外した箒でビルの上へと飛んでいく。
 程なくして、取り残された者はいないと確認される。

「これで作業員全員の所在が確認されましたね」
 セスは現場責任者と共に作業員全員の確認を終えると、空飛ぶ箒で、穴の底に向かった。
「まやさん、作業員全員の居場所を確認しました。土砂に巻き込まれた方はいないようです。ただ怪我人が出ているので、手当てをお願いします」
「はーい! 上までお願いねっ」
 まやは捜索を終え、セスの箒の後ろにまたがる。セスは戦いに巻き込まれないうちにと、素早く地上へと舞い上がる。
 先程、鋼たちが救助した作業員が、一番の重傷者だ。まやがヒールをかけると、それもかなり回復する。
「体のショックもあると思うから、念のために病院にも行ってね」
 まやはそう言って、次の負傷者にもヒールをかける。
 幸い怪我人の数も少なく、程度も軽い。応急手当やヒールを受け、彼らは仲間に付き添われて病院や宿舎へと向かった。