空京

校長室

建国の絆(第1回)

リアクション公開中!

建国の絆(第1回)

リアクション



トンネル トンネル探索

 トンネル内はたまにホール状に広い場所もあるが、多くはトンネルと言うにふさわしい細い通路上だ。しかも上下左右にまがりくねり、段差や亀裂も多い。
 油断して空飛ぶ箒で我先にと飛んでいった者は、急に目の前に現れた壁に激突し、そこを邪霊に襲われて戦闘不能になった。トンネルは箒程度のランスとそう変わらない細長さならば持って入れる。しかし箒で思う存分に飛びまわれるなら、小型飛空艇でも進入は可能だろう。
 ローグの北条御影(ほうじょう・みかげ)は慎重に、一行の前方を歩く。
 ヘルメットについたランプの明かりが白いモヤを照らし出す。背後の生徒たちに不安が広がる。
「なんだ? 刺激臭がする。毒ガスか?!」
「皆は下がってくれ。他に行き場所がない。罠なら俺が解除するぜ」
 御影は仲間に後ろに下がるよう支持する。
(しかし、この匂いに感覚……なんか知ってるような気がするんだよな)
 御影はしばらく考え「ったく、しかたねぇな」とボヤく。コンビニで買物してきた者から、透明のビニール袋をもらい、新鮮な空気を入れて頭にかぶる。
「これはお遊びじゃなくて、罠解除のためにやってるんだからな」
(この姿をマルクスが知ったら、またロクでも無い事を言いそうだ……)
 そう言い残して御影は、通路を覆う白煙の中に消えた。
 やがて煙を吐き出す正体を見つけ出す。
(こ、これは……)
 御影は脱力しつつ、害虫が印刷された入れ物を、持ってきた別のレジ袋につっこんだ。

 當間光(とうま・ひかる)は光条兵器を振るい、勇猛果敢に邪霊と戦っていく。先陣を切るように戦う彼に、ミリア・ローウェル(みりあ・ろーうぇる)は心配する。
「光、今からこれでは、この後の消耗が心配です」
 トンネルの奥に向かった一行の中には、戦闘は極力、人に任せて自分は戦わない事を選ぶ者も多かった。精神力に限りのあるウィザードなどなら仕方も無いだろうが、セイバー、ナイトであっても前に出ずに、戦闘に貢献しない者が多い。
 光と双子の當間零(とうま・れい)などは攻撃を連携させる事を訴えて実践しているが、やはり人数は少ない。
 結果、全体の人数が多い割に一行の戦力は低く、従って進行速度は遅かった。
 光は振り返り、後から来る者たちに呼びかける。
「皆! 体力を温存したいのも分かるが、ヘル達が行動を起こす前に追いつかなければ、それも無駄になるぞ!」
 ウィザードのウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)も、戦闘は他の者に任せようと考えて、集団の中ほどにいた。
「まだ何か来ます!」
 ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)が施した禁猟区に一層強い危険を感じ、ウィルネストが呼びかける。
 バチバチと音を立てて、多くの者のヘルメットの明かりが消えた。
「うわっ?!」
 いくつか残る明かりの中で、一行の中間辺り、左右の土の中から無数の人間の手が飛び出し、生徒たちにつかみかかった。
 これも邪霊の一種だ。触られた者は、生気を吸い取られてダメージを負う。
 ウィルネストなどの、戦闘を極力避けようと集団の中にいた者も容赦なく戦闘に巻き込まれる。
 岩盤をすりぬけて幽霊のような邪霊も現れ、頭上や足元の四方八方から生徒たちに襲いかかる。まったく予期していなかった襲撃方法に、一同はパニック状態に陥る。
 魔法を撃てる回数が限られるウィザードには、乱戦はきつい。
(残る精神力で、最大の攻撃を……っ)
 ウィルネストの火術が、トンネルの天井を襲う。邪霊が特に固まっている辺りの上を狙った。
 しかしトンネル内は非常にもろくなっていた。亀裂は周囲にみるみる広がり、轟音を立てて天井部分の土砂そのものが丸ごと生徒たちの上に落ちる。狭いトンネル内に逃げ場はない。
(ま、俺、こういうオチ、多いしね……)
 土砂に飲み込まれながら、ウィルネストは思った。

 かなりの人数が落盤に巻き込まれた。不幸中の幸いか、邪霊も姿を消している。
「皆?! 今、助けるから!」
 美少女格闘家のような姿の雛岸来夢(ひなぎし・らいむ)が、パートナーのドラゴニュートドレイコ・ドライコ(どれいこ・どらいこ)の背中から飛び降り、土砂をかきわけて、落盤の起きた場所に近づく。
「さぁ、行くわよっ!」
「よっしゃ!!」
 二人はドラゴンアーツを駆使して、素手で土砂や岩石をかきわけ、生徒をその中から引っぱり出す。
「あたしも手伝うよ」
 九条夏芽(くじょう・なつめ)も救出作業に加わり、力の限りに土砂をかきわける。
 自力で土砂から抜けようとする者に手を貸し、外に引き出す。
 そのパートナーのルシア・ローゼ(るしあ・ろーぜ)は空を飛びながら、足では入りにくい所に行って救出を行なう。
「大変です。重傷の方が!」
「プリーストの所まで運ぶよ!」
 夏芽はルシアと協力して、重傷者をそっと運ぶ。
「さあ、しっかりして!」
 来夢は、ウィルネストを掘り出した。
「あれ……? 俺、生きてる?」
 どうやらヨヤが、最後の一発分にと温存していた禁猟区で彼を守ったようだ。当の本人は土砂に飲まれて気絶しているのを、来夢に掘り出されている。
 土にまみれた、その顔は
「ウィル……俺は、キサマの保護者をしたいわけじゃないんだが?」
 と言っているようだった。
 當間光(とうま・ひかる)も建設会社から借りて来たシャベルやロープを使って、救助にあたる。
 プリーストのミリアは精神力温存のために、ヒールするのは重傷者に絞り、怪我の程度の浅い者には応急手当で済ませた。
 やがて来夢や夏芽が救出作業に励んだ事で、どうにか落盤に巻き込まれた全員を救助する事に成功した。
 當間零(とうま・れい)はトンネルの外に待機する、パートナーのミント・フリージア(みんと・ふりーじあ)に携帯電話をかけて、救援の要請をする。
 ミントは心配そうに聞く。
「そんなに危険な所で……零は大丈夫なの?
「僕は平気です。それにヘルに聞きたい事もありますからね」