空京

校長室

建国の絆(第1回)

リアクション公開中!

建国の絆(第1回)

リアクション



トンネル 侵入


「押し合わないで! 数はあるんだからな!」
 建設会社から借り受けた、大量のライト付きヘルメットやロープ、ツルハシなどを、借りようとする生徒たちに配りながら、ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)が声を張り上げる。
 道具の山の周りでは、道具を借りるだけでなく「ロープをありったけくれ」だの「聖水はないのか?!」と好き勝手な事を求める生徒でごった返している。
 ジェラルドはツルハシをかつぎ渡しながら、それら生徒の相手をしていく。
「皆で使う物だぞ。何に使うかハッキリさせなきゃ、ありったけなんて出せないからな。それに、ここに邪霊に効くようなアイテムは無いぞ。ほら、シャベル、お待ちどう」
 その脇で東間リリエ(あずま・りりえ)は、皆に訴えかける。
「聖冠の所有権は、場所と日時を改めて各学校対抗で勝負して決めることにして、今回は皆で協力しませんか? 各学校で勝負して正式に所有権が決まるまでは、各学校で持ち回りで保管する、とか、できないでしょうか?」
「ちょぉっと待ったぁ」
 薔薇の学舎の大男麻野樹(まの・いつき)が妙にノンビリした口調で異議を唱える。
「黄金の鍵が薔薇の学舎の物だったんだからぁ、すなわち聖冠クイーンパルサーも薔薇の学舎の物だよねぇ。聖冠は、ジェイダス様にこそ相応しい物なんだよぉ!」
 だが、そこにさらに異を唱える者が現れた。同志を集めて【六学の絆】というグループを結成したイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)だ。
「我々は手に入れた女王器を元にパラ実の代表を立て、校長会議と交渉して、これを認めさせなければならないのです」
 すでに彼のパートナーカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)を始めとするメンバーが、それに向けて準備に入っている。
 それを聞いた樹がイレブンを睨みつける。
「何を言ってるんだよぉ。志がどうこうじゃなくて、所有権の問題だろぉ」
 しかしイレブンも引く訳にはいかない。
「そうやって一校だけが力を得ようとする事が、学校間の不和を生むのです」
 リリエはどうにか二人の間に、割り入ろうとする。
「それについては、たとえばそちらのグループからも代表者を出してもらうとか、後で考えましょう」
「そんな事、言ったら、各学校の代表にぃ、この人たちの仲間が出てきたりして不公平じゃないかぁ」
「そもそも、そんな対抗勝負に乗る気は我々にはありませんよ」
「薔薇の学舎だってないよぉ!」
 などと言い合っていると、お嬢様ゆる族のキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が口をはさんでくる。
「冠の形をしたロマンチックな女王器は、キャンティの頭を飾るのこそお似合いなのですぅ。ねぇ、ひじりん〜、そう思いますでしょうぅ?」
 キャンティの言葉に聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が苦笑しながらも、目を細めてうなずく。
「ええ、お嬢様の仰る通りでございます。冠をかぶられたお嬢様は、さぞかし、お可愛らしい事でしょう」
 それぞれが自己主張するばかりで、まとまる気配は一切ない。
 そして、この話題に加わらずに、密かに聖冠を自分の物にしようと狙っている者も、何人もいそうだ。
 おそらく、そう考える者なのだろう。無理に邪霊をつっきって、トンネルの奥に進もうとする者たちもいた。だが、邪霊に群がられて、あっと言う間に戦闘不能に陥る。
 なし崩し的に、生徒たちは装備を固めて南トンネルに入っていく事になった。
 自称パンダのゆる族マルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)が白いハンカチを持って泣きマネをしながら、一行を見送る。
「頑張ってくるアルよ。みんなのことは絶対に忘れないアルよ〜」
 不吉な事を言いながら、マルクスは声援を送る。自分が一緒に行く気は、もちろん微塵も無い。


 トンネルに侵入に際し、六学の絆のメンバーに戸惑いが生じる。
 彼らの目的は、手に入れた聖冠を足がかりに校長たちと交渉する事にある。
 だが聖冠を母校の物に、または自分の物にしようという、六学の絆と明らかに目的が対立する生徒たちとも、肩を並べていかなければトンネルは進めない。
 だからと言って、トンネルを自分たちで独占するのも無理だろう。グループ内の裏切り物は簀巻きにする構えだったが、別の目的を持って同じ場所を進むしかない相手にどう対応するのか。
 のぞき込んで見ても、トンネルは一本がずっと奥に続いているだけのようだ。

 ドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は不安な様子できょときょとしていたが、生徒たちの中に友達の姿を見つけて、嬉しそうに小走りで近づいた。
「ヴァーナーちゃん、ボクも一緒につれてって! コユキを追っかけたいんだ」
 【六学の絆】に加わるヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は目を丸くする。
「あっ、ファルちゃん。呼雪おにいちゃん、どうかしたんですか?」
「あのね、コユキってば『ヘルを止める』ってヘルと一緒に行っちゃったんだ。ボクは危ないからって置いてきぼりにされたよ……」
 ヴァーナーは驚愕する。
「えっ?! えええぇぇーっ! そんな危険な……。操られちゃったりして、すごく危険じゃないですかっ」
 ファルはこくこく、うなずく。
「うん。いつもボクの事をたしなめる癖に、コユキの方がよっぽど無鉄砲だよ! コユキを止めるのに、一緒に行ってくれる?」
「もちろんですよ。一緒にコユキおにいちゃんを助けましょう! セツカちゃんもいいよね?」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は優しく、ほほ笑む。
「わいがフォローしますわ。おぬしの好きにして良いですわ」
 なおセツカの言葉遣いは、彼女に言葉を教えた者が冗談半分で適当に教えた為による。
 グループの中で、ヴァーナーのような心優しい者たちは、ファルほど切迫した理由が無いにせよ、一緒に協力しようという者とは共に行く事を選んでいた。



 剣の花嫁ニニフ・エスタンシア(ににふ・えすたんしあ)は周囲の雰囲気に気おされぎみだ。
「な、なんだかピリピリしたムードですね、やっぱり」
 彼女のパートナー大宮金平(おおみや・こんぺい)は不敵に笑った。
「フッ、俺の目指すは目指すは女王器にあらず……。女王その人よ!」
 いつになく真面目な調子の金平に、ニニフは目を丸くする。
「おぉー。女王様を見つけて、どうするんですか?」
「決まっているだろう! うどんの国からやってきたうどん騎士として、女王陛下に俺の打ったうどんを召し上がっていただくんだよ!!」
 麺打ち棒を構え、高らかに告げる金平。
 ニニフはがっくりと肩を落とした。
「はいはい……。やっぱり、いつもの金平さんでしたね。……ああ、アイドルになるという私の夢がかなえられるのは、いつ〜」
 その様子に吸血鬼ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)が、少々厳しい表情で言う。
「だが女王陛下に喜んでいただく事を考えているだけ、他の奴よりマシであろうよ」
(まったく……陛下の冠を悪用されるくらいなら、いっそ壊してしまいたいとすら思える)
 ギルベルトは言葉の後半を飲み込み、頭の中だけで思った。
 彼のパートナー東雲いちる(しののめ・いちる)がニニフに笑いかける。
「女王様に郷土の料理をご馳走したいなんて、素敵なパートナーさんじゃないですか」
「お二人は金平さんの事を思いっきり過大評価してます……」
 ニニフは遠い目をしながら答えた。