空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

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デモ 準備

 関口文乃(せきぐち・ふみの)はデモに参加する者たちから、校長会議への不満など、又はあるならば地球人の蛮行などの「痛い話」を集めようとした。
 だが漠然と会場で意見を集めたところ、積極的に持論を展開する者たちの被害妄想を延々と聞かされる事になった。
 文乃は痛い話に見切りをつけて、新日章会について聞いて回る事にしたが、デモ関係者まわりで話を集めようとしても、情報は何も無かった。

 七瀬歩(ななせ・あゆむ)は回収したアンケートに目を通し、考えこんでいた。デモに参加を表明する者に配ったのだ。
「歩、何か分かりましたかしら?」
 彼女を手伝うチュウ・蓮華院(ちゅう・れんげいん)が尋ねた。
「……なんだか地球人の回答ばっかりだよ」
 アンケートの質問には次のような物も含まれる。

・地球人に知り合いはいますか?
・知り合いがいた場合、その人に対する印象は?

 つまりシャンバラ人向けのアンケートだったのだが。実際に回収できたアンケートは予想以上に地球人の物が多かった。
 おそらくアンケートという物に、シャンバラ人は地球人ほど馴染みがなく、それが回答率に影響を与えたのだろう。
 今回のデモ参加者には、地球から出稼ぎに来ていた者や、このデモのために地球から乗り込んできた者も多いのだ。
 それでもシャンバラ人の回答を探して、現在の心配事を抜き出すとこんな感じだ。
「我々の町を空京のような景観にされては堪らない」
「地球と同様に環境破壊が進むのでは?」
「若者が皆、街に出てしまい、畑を耕す物がいなくなる」


「うひゃぁ、思った以上に日本て嫌われてるねぇ」
 シルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)は、メモ帳を持ってチョコチョコとついてくるエルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)にささやいた。
 彼女たちは、デモに集まった反日団体の集会に潜入していた。ひとつの団体ではなく、各国からあちこちの団体が集まってきているようだ。
 シルエットが耳をそばだてると、聞こえてくる言語だけで相当な種類がある。
 パラミタの登場によって世界第一の超大国となった日本に対し、危機感を抱く者は地球の各国にいるようだ。もっとも浮遊大陸の住人らしき姿は見当たらない。
(パラミタが領内に転がり込んできた日本への嫉妬があるのかねぇ。これは、どこか一国が裏で糸を引いてるって感じじゃないな)
 陰謀の匂いは感じないので、シルエットはエルゴを連れて集会をそっと出ていった。


「しかし困りましたねぇ。デモの各団体がほぼバラバラで、互いを牽制していようとは……。おまけに期待していたパラ実の皆さんまで、まるで優等生のようです」
 蒼空学園臨時講師にして新聞記者のエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)は空京の街路を歩きながら言った。内容の割りに困った響きが無い。
 対照的に静かに控えるファティマ・シャウワール(ふぁてぃま・しゃうわーる)が聞く。
「これならデモはバラバラに小さくまとまると思うけど、まだ何かやるつもり?」
「他にも、怒っている人がいそうだと噂を聞いてね」
 エドワードは、シャンバラ人が働く工事現場に入っていく。
 空京で働く彼らは、開発賛成派だ。
「働き口を守るためには、黙って仕事をしている場合ではありませんよ」
 エドワードはアドバイスをするようにシャンバラ人労働者たちに話を始めた。