空京

校長室

建国の絆(第1回)

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建国の絆(第1回)

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校長会議 警備


 会場周辺でも教導団員が警備に当たっている。
 欧陽マリー(おうやん・まりー)も小さな体で、草むらや垣根に不審物が置かれていないか目を配っていた。
 マリーとお互いに禁猟区をかけあったトックス・トーテンター(とっくす・とーてんたー)が、上空に飛び上がる。
 空京に働きに来ているらしいシャンバラ人や地球人が、ある方角に向かって多数、歩いていくのが見える。
 トックスは地面に戻り、マリーに様子を伝える。
「だいぶ民衆が集まっているようです。皆、デモの会場に向かっていますね」
「平日だというのに、動員でもかけているのだろうな。念のために本部に連絡しよう。トックス、今後も民の動きには気をつけろ」
 トックスの表情に憂いが浮かぶ。
「分かりました。何も起こらないといいんですけどね」
「何かあった時のために、わしらがいるんだ。しっかり見張れよ」
 熱心に仕事に励むマリーに、彼女の安全のためにも何も起こらないといい、とトックスは思った。


 ジェイド・翡翠(じぇいど・ひすい)はフォーラムの地下の警備に当たっていた。サーシャ・セレン(さーしゃ・せれん)と共に、壁のヒビを探したり、壁を叩いたりしている。
「これも警備なんでしょうか」
 サーシャがつぶやく。ジェイドは壁を調べながら言う。
「ええ、昨日、巨大な地下トンネルが見つかったそうです。直接、それがこちらに伸びてはいないのは確認しましたが、同じようなトンネルがこのフォーラム近くで発生していないという証拠はないでしょう?」
 テロリストが壁を破って現れるのを想像し、サーシャは厳しい表情になる。


 一方曖浜瑠樹(あいはま・りゅうき)はビルの上の方の階の警備にあたっていた。
 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も一緒だ。
「ゆる族が上の階、見回ってても……だいじょーぶです、多分」
「注意しろよなぁ。あえて上階に魔法とかで転移したりとか、あるかもしれないからねぇ。まぁ、実は既に潜んでます、とかがありえそうでねぇ」
 瑠樹は窓の外に広がる空京の町並みを眺めながら言った。
 今日は二人とも、ぴっちり教導団の制服を着こんで、いかにも軍人さん……と軍猫さん(?)といった雰囲気だ。


 百合園女学院の控え室前には、関羽雲長(かんう・うんちょう)の人形が置かれている、ように見えるが、実は教導団のうんちょうタン(うんちょう・たん)だ。今日は警備のために人形になりきり、微動だにしない。
 もっともフォーラムの豪華ホテルのような廊下では、かなり目だっている。
 クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)も部屋には入らず、周辺警備にあたっていた。部屋の周囲をゆっくりと歩きながら、異変を逃さぬまいと目を配る。
 室内では、以前の作戦等でラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)と面識のある皇甫伽羅(こうほ・きゃら)が、改めて警護を担当する教導団員【ノイエ・シュテルン】のメンバーをラズィーヤと桜井静香(さくらい・しずか)校長に紹介していた。
「静香校長とラズィーヤ様は、このノイエ・シュテルンのメンバーでお守りいたしますぅ。フォーラムの中では、どうぞご安心くださねぇ」
 伽羅は意識して柔和な笑顔で言う。
 百合園女学院スタッフの秋月葵(あきづき・あおい)が校長の代わりに、ハートマークが飛びそうな程のにこにこした笑顔で答える。
「警備ご苦労様です。頑張ってくださいね☆」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は葵が空気を読まずに行動しないか心配そうだ。
 ラズィーヤは落ち着き払っているが、静香は表情も固く、落ち着かない様子だ。
 無理もない。昨日は、鏖殺寺院のテロが宿泊地の近くであり、会う予定だった人物が殺害されたのだから。
「ささ、ひとまず、お茶と茶菓子でリラックスされてくださいねぇ」
「い、いただきます……
 伽羅が優しい笑顔でお茶を勧めると、静香もぎくしゃくしながらも、ティーカップに手を伸ばす。
 ノイエ・シュテルンを率いるクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は自然な仕草で、ラズィーヤに歩み寄る。
「先日のご無礼に対し、極めて穏便なやり方で処理して下さった事に感謝いたします」
 ラズィーヤは優雅に微笑んだ。
「まあ、ご丁寧に。わたくしたちはそれぞれの学校も、地球の方々とシャンバラの民も、お互いに対話し、融和して行かなければなりませんもの。お互いを許しあう事も大切な事ですわ」