空京

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建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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略奪阻止1


 シャンバラ大荒野の低空を、小型飛空艇と空飛ぶ箒が飛んでいく。
 長いツインテールを風になびかせて小型飛空艇に乗る小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が、浮かない表情でつぶやいた。
「うぅー、こうしてる間にもリコが手柄を立てたりしないよね」
 美羽はライバル視しているリコの同行が気になるようだ。彼女はリコと同じ班を希望したが、教導団により無常にも別々の班に分けられてしまった。
 箒にまたがる日下部社(くさかべ・やしろ)が、美羽に言う。
「気になるんやったら、陣地に残してきた俺のパートナーに聞いてみよか? 魔剣の主が手柄を立てたっちゅうたら、なんか連絡が入っとるやろ」
「気になるけど、いいや。今は村を守る事に集中、集中」
 美羽は、上空から異変を探す事に意識を戻そうとする。
「あの……あの煙、なんだかおかしくありませんか?
 美羽のパートナーベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、前方を指して言う。
 砂塵にかすんでいるが、目をこらすと黒っぽい煙が何条もあがっているようだ。
「村が襲われてるのかも! 行こう!」
 美羽たちは煙のあがる方角へ急ぐ。
 社は携帯電話で、パートナーの望月寺美(もちづき・てらみ)に連絡し、座標を伝える。
「俺たちは、とにかく略奪を止めに突撃する。頼めるようなら援軍を頼む」
「はぅ〜、無茶しないようにねぇ〜」
 それまで寺美はゆる族らしく、周囲の雰囲気をなごませていたが、さすがに慌てた様子で周囲の義勇兵たちと連絡を取り始める。

 村では、乗り込んできたパラ実の馬賊に住民が追い回されていた。
 上空から、酸の霧がかけられ、馬が棒立ちになる。
「今のうちに逃げろッ!」
 箒で急降下してきた社が、住人に叫びながら馬賊に飛び込むようにして雷術を放つ。
 ベアトリーチェは攻撃を避けつつ、社にパワーブレスで祝福し、さらに美羽にもパワーブレスをかける。
 光条兵器を構えた美羽は、先頭に立ってパラ実馬賊と切り結ぶ。
「略奪なんて、させないんだから! 村から出ていきなさーい!」


 他の村では、蛮族の襲撃を受けていた。
 押し寄せた蛮族と村の出入口で鉢合わせ、踊り子姿のヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)が驚いた様子で立ちすくむ。
「きゃあっ?! なんなの、あなたたちは?!」
 肌も露なヨーフィアの衣装に、蛮族がゴクリと生唾を飲む。
「おぉぉ〜、なかなか色っぽい姉ちゃんじゃねえか、へへへ」
「いやよ、近づかないで」
 ヨーフィアは小走りに、村の中央広場の方へ走っていく。薄い衣ごしに、たわわな胸が、尻が揺れる。
「待ちなよ、姉ちゃん、ゲヘヘ〜」
 広場には村娘らしい二人がいた。
「何奴じゃ?!」
 御厨縁(みくりや・えにし)は背後にサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)をかばうように立ち、聞きただす。
 走ってきたヨーフィアも不安そうに、彼女に身を寄せる。
「へっへっへ、姉ちゃんたち、上玉じゃねえか」
 蛮族たちはニヤニヤ笑いながら迫る。その時。
「今ッスよ!」
 民家の屋根の上に身を隠していたサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が叫ぶ。彼女と同じように屋根にあがっていた村人たちが、次々と蛮族に網をなげつける。
 サラスは自分と縁の背後に隠していたグレートソードを抜き放ち、暴れ出ようとする蛮族に切りかかる。
「略奪なんてするコには、おしおきだよっ!」
 縁やヨーフィアも正体を現して、攻撃に移る。
 しかし蛮族も網越しに暴れようとする。
「網からは出させませんわよ」
 和泉真奈(いずみ・まな)がパワーブレスで自身を強化し、網を押さえにかかる。
 そしてミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が屋根の上に立ち、蛮族が網を破らないうちにスキル《子守歌》を歌う。
(黙って見てるだけってのが一番ダメじゃない! だったら、あたしにできることを精一杯やるだけだよっ!)
 子守歌を聞くうちに、蛮族がバタバタと倒れだし、寝てしまう。
「やったッスよ! あ……」
 思わず歓声をあげたサレンが、ミルディアに唇の前で指を立てて「しー」と言われ、あわてて口を押さえる。子守歌の眠りは、周囲がうるさければ普通に起きてしまう。
 サレンは声を潜めて、生徒や村人たちに言う。
「……こほん。今のうちに網ごと奴らをグルグル巻きに縛るッスよ」
 皆は手分けして、略奪者を縛り上げる。
 ミルディアはケガをした者がいないか確認するが、作戦が上手く行ったため、皆ほぼ無傷だ。
 縁が満足そうに言う。
「教導団に奴らを突き出したら、また襲われそうな村を地図で探して向かった方が良さそうじゃな。この手はまだまだ使えそうじゃぞ」


「あの砂煙は……とうとう来たようじゃな」
 小型飛行艇で村の周囲を警戒していたセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が、村を守る義勇兵の仲間の元に飛ぶ。
 教導団員デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)がランスをかまえる。
「来やがったか! 村には入らせないぜ!」
 義勇兵の監視という名目で来てはいるが、彼の一番の目的は村々の防衛だ。
 村の中では、シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)がまだ家に残っていた老人などを、村中央にある村長の家に送り届ける。
 すでにシャンテの案で、食料や財産にあたる物はその家に集められている。
「大丈夫、ここまで略奪者には来させません。皆さんは、けして家の外に出ないでください」

 そうこうするうちにパラ実の略奪部隊が押し寄せてくる。
 先制とばかり、敵が密集している所に向け、セシリアのサンダーブラストが飛ぶ。
 デゼルが仲間にディフフェンスシフトで仲間を守りつつ、バイクにランスで敵の間に飛び込んでいく。
「尋常に勝負しやがれ! 悪党どもが!」
 デゼルは派手に相手を挑発し、敵を引きつける。
「我が身はセシリア様の剣にして盾。……参ります」
 機晶姫ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)は突撃で散ったパラ実生の足を止め、後方のセシリアを守る。
 守護天使空菜雪(そらな・ゆき)が、激しくやりあって傷を負ったデゼルにヒールを飛ばす。そしてパートナーの葉山龍壱(はやま・りゅういち)に心配げに視線を戻した。
 龍壱は激情こそ表さないものの、いつになく鬼気迫る様子で剣を振るっている。
(村を襲うなどとは許せんっ……! 俺の様な思いは絶対にさせないっ)
(ご主人様……ご無理はなさらないように)
 戦争を嫌悪し戦い続ける龍壱に、雪はそっと願った。

 義勇兵の攻撃に、略奪部隊の一部が彼らを避けて、直接に村の入口へと突進する。
 だが泥水を満たした堀に足を取られて、次々と転倒する。そこに堀を作ったリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)の雷術が襲う。
シャンテ、次はおまえの番だ」
 堀に気づいたパラ実生がそれを避けて進むと、そこを塞ぐように現れたシャンテが、チェインスマイトで向かえ討つ。
 前がつかえて足が止まった所に、ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)が怒りの表情で斬りかかる。
「略奪しようなんて屑は、遠慮無しにブチのめしてやるよ!」

「ええい、情けないぞ、お前たち! パラ実の意地を見せてやらねえか!」
 苦戦する略奪部隊に、一人だけ豪華な鎧をつけた馬に乗った男がわめいている。
 ファルチェセシリアに目配せする。
「あの男がリーダーのようです」
「うむ、倒すぞ」
 ファルチェのSPリチャージを受け、セシリアの魔力は回復する。
 ファルチェはリーダーに突撃し、セシリアの魔法が続けざまに飛ぶ。
「おぬし達の好き勝手にはさせぬ!」
「グハッ! ……引け、引けい!」
 略奪部隊は勝ち目無しと見るや、一気に引いていく。
「チッ、逃げ足の速い奴らだ」
 デゼルは舌打ちするが、今、村を離れてまで追う気は無い。
 ルケトと龍壱は村の周りをまわって被害の確認を始める。シャンテは村長の家に集合していた村人たちに、略奪部隊撤退を知らせに行く。
「ご安心ください。パラ実の部隊は去りました」
「……もう、こわい人、いなくなったの?」
 不安そうに聞く子供に、シャンテはにっこり笑いかけた。人々を癒すために、今度は彼のリュートが役に立ちそうだ。


 中には、義勇兵とは別の立場で、シャンバラ大荒野の村を巡る者もいた。
 二人組の吟遊詩人が、慰問としてある村を訪れる。二人は、地元の古着屋で購入した服で変装した蒼空学園生徒リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)とアリスのシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)だ。
 電気が通っておらず、テレビもコンピュータも無く、携帯電話も通じない村では、そのような旅人の話が、唯一、村の外の世界について知る機会だ。好奇心の旺盛な若者や子供が、ヨソの話を聞かせてくれ、と群がってくる。
「少なくとも、皆さんに情報が必要なのは確かなようですね」
「そうなんだよ。ここいらは地球人ってのも、なかなか来ないからな。ウチの村にもコンピーターとか言う魔法の箱があれば、どんな物でも一瞬で呼び出せるのに……コンピーターってのは高いのかい?」
「……あなたがたは色々と誤解されています」
 リュースは丁寧に説明するのだが、科学文明に生まれてこの方触れたことの無い人々には、どこまで通じているか分からない。
 この地の民が、予想以上に素朴でリュースは内心、不安を深める。シーナが子供たちと遊びながら、リュースを見上げて言う。
「リュース兄様、この村の人たちにとって地球は、遥か遠くの夢の国として受け止められているようです」
 子供がそんなシーナの腕をくいくいと引っ張る。
「ねえねえ、チキューの人たちは大昔の女王様を連れてきて、皆がいっぱいゴハンを食べられる国ができるって本当?」
 シーナは微苦笑を浮かべて、たしなめる。
「誰かが国を作ってくれるのを待つのではなく、あなたたち一人一人が努力しないといけませんよ?」
「ええー」
 だが、その様子を年配の大人たちは冷ややかに見ている。
「子供は気楽でいいねぇ」
 木の実や藁の加工作業で忙しそうな彼らに、リュースが歩み寄る。
「あなたがたは、地球には期待や反発は抱かれていないのですか?」
「ドージェ様やパラ実に関わってる地球人は、一応、味方なんじゃないかい? まあ、ツァンダだのヴァイシャリーだのの悪い奴らとツルんでるような地球人は、どーせロクな奴じゃないさ」
 シャンバラ大荒野の民は、リュースが危惧したような反地球思想は持っていないようだ。そもそも、彼らが崇めるドージェは地球人である。
 ただリュースは、村人の発言に気になる点があった。
「あなたは、なぜツァンダやヴァイシャリーを敵視するのですか?」
「そいつらだけじゃなく、イルミンの魔法使いどもやタシガンの魔族だって同じさ。あいつらは昔っから『シャンバラを復活させる』って適当な事を言って、私ら遊牧民や荒野の民を利用してきた、本当に悪い奴らだよ。
 エリュシオン帝国や他の国から、何かと言っちゃ真っ先に侵略を受けて苦しんできたのは、この地方なのに」
「戦争をすれば、更に生活が脅かされますよ」
 リュースの言葉に、村の大人たちは笑った。
「この地方はずーっと何百年も何千年も争いが続いてるようなもんだ。生活が苦しくなったら、富を独占して肥え太った悪い奴らからブン取りゃいいのさ」


 村に、スパイクバイクに乗った棚畑亞狗理(たなはた・あぐり)が突撃してくる。
「ヒャッハー! その食料を種籾に植えろォ!」
 村人が思わず逃げかけるが、実は亞狗理は食料を土の中に埋めて隠せとアドバイスに来たのだ。
「蛮族とはいえ、既に作付け後の籾まで略奪して食うとも思えんしのう」
 波羅蜜多実業高等学校農業科生徒らしい助言に、村人たちも「なるほど」と納得して畑を掘り起こす。亞狗理のパートナー、守護天使バウエル・トオル(ばうえる・とおる)もそれを手伝った。
 と、亞狗理が畑の一角に突進し、そこに生えてあった植物をむしり取る。
「むむっ?! これは麻薬! いかん、こんなモノを植える農地があったら、パラミタトウモロコシの方が、安全に稼げるきに」
 そして畑作業を終えると、バウエルは一部の村人と共に家畜を連れて、略奪の被害を受けなさそうな地域へと避難に出ていく。
 亞狗理の方は、パラ実生としての立場を生かして「あの村は、もう他の部隊に略奪された後で、何も残ってないきに」などと、略奪部隊に偽情報を流してまわる。

 蒼空学園から義勇兵に志願した浅葱翡翠(あさぎ・ひすい)も同じように、村々に食料等を隠すようにアドバイスして回っていた。
 もっとも翡翠は口下手であるため、実際に村人と話すのは、パートナーのヴァルキリー北条円(ほうじょう・まどか)である。
「怪しまれないよう、ある程度の食料は隠さずに、そのまま置いておいた方がいいわ。残りは袋に詰めて、埋めてしまいましょう」
 二人は、村人と共に食料を隠す穴を掘った。
 円は体格の小さい翡翠を助け、積極的に力仕事に従事する。

 食料を守る、という点においては、これら食料を隠す方法を助言、協力する手法が効率よく効果をあげていた。