空京

校長室

建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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補給線


 十台余りの馬車が、ヒラニプラ方面から北へと向かう。
 シャンバラ教導団の補給部隊だ。
 教導団には輸送トラックもあるが、今回のような大規模作戦にはまだまだ台数が不足している。それを埋めるために、多数の馬車が投入されていた。
 なお瓜生コウ(うりゅう・こう)が作成した募集チラシで義勇兵に集まったシャンバラ人も、この補給部隊に大勢、参加していた。

 だが、この補給部隊は、略奪をもくろむパラ実生にとっては、カモがネギをしょって行進しているような物だ。
 しかも、先の校長会議やデモにより、教導団はパラ実に対して厳しく取締りができない現状にある。そのためパラ実の部隊は、周辺の農村やヒラニプラ方面からすら現れる恐れがあった。
 【ノイエ・シュテルン】を率いるクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)はこうした現状を心得て、補給部隊の護衛に重点的にあたっていた。

「どこまで行っても、荒地が続いているばかりですねぇ」
 監視を行なうジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)がぼやく。それを聞いたウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)がたしなめる。
「ブツブツ言わない。皆で笑顔で帰る為には皆で困難を乗り越えなきゃ、だぜ」
「自分の方こそ、準備を怠らないでくださいよ」
 ジュノは諦めたように息をつくと、ウォーレンにスルメを渡して監視に戻る。
 教導団輸送科のエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)は、馬車に詰まれたダンボール箱をながめ、首をかしげた。
「捕虫網? 戦争って虫取りもするのかな?」
 ジーベックのパートナークリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)がエリーズの疑問に答える。
「大型の蝗が食料を荒らすので、要望があったようですわね。もともと、シャンバラ地方にはいなかった種類だそうですけれど、略奪者の連れる乗用動物や荷物に付いて入ってきているようですわ」
「へえ〜、じゃあ大きな蝗さんを見たら捕まえていいのかな?」
「害虫ですから駆除するのは喜ばれると思いますわ。でも、それで任務がおろそかになっては本末転倒ですわよ」
「はーい!」
 エリーズは楽しそうに返事する。輸送科士官候補生のレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は御者台で手綱を握りながら、遠足気分のエリーズの様子に内心ハラハラしていた。
 だが、そんな穏やかな空気も一瞬で凍りつく。
「敵、来襲! 右後方より敵来襲!!」
 周囲の監視を行なっていたジュノが叫ぶ。
 低い木立に身を隠していた蛮族が、姿を現して襲いかかったのだ。その数、およそ百。地面を素早く走るサソリに乗っている。
 スルメをかじっていたウォーレンが、バイクで敵の進路に入る。
「敵さん!よく来たな!!」
 スプレーショットで弾をばらまいた。
 レジーヌは防御に徹し、ナイトシールドで味方をかばう。エリーズも機会を伺って、突入してきた蛮族にツインスラッシュを放つ。

 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は危険物や燃えやすい物資を積んだ馬車を内側に移動させる。
「敵の足を潰すのです」
 マーゼンはランスを構え、突進する。それをクレーメックらソルジャーが銃撃で支援する。
 アム・ブランド(あむ・ぶらんど)は火術で味方を支援するが、敵の多さの前にあっと言う間にSP切れを起こした。しかしレジーヌからSPリチャージを受ける。
「頑張って持ちこたえましょう」
 アムは軽く目礼で返し、ふたたび魔法で戦闘に集中する。

 なかなか陣を突破できず、パラ実部隊は諦めたように撤退を始める。
「物資は無事ですな? 増援を呼ぶ恐れもありますから、すぐに出発しましょう」
 マーゼンが言う。彼自身も重い怪我を負っている。ヴァルナがヒールして癒す。
「行くぞ。これらの補給物資は、なんとしても無事に前線へ送り届ける」
 クレーメックが言い、まだ襲撃のショックが冷めないシャンバラ人義勇兵をせかし、補給部隊を出発させた。


 その後も、補給部隊はパラ実の襲撃をしばしば受けたが、厚い守りにより物資は守られた。クレーメックはその働きを認められて、第一師団少尉へと昇進する事になる。