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建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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麻薬農場2

 やがて、ゴクモンファームに教導団と義勇兵による攻撃が開始された。
 アサルトカービンの一斉射撃が、ファームの外壁を守る舎弟に浴びせられる。それを支援に、教導団兵士や義勇兵たちが外壁である柵に一斉に突進していく。
 義勇兵の鈴城想葉(すずしろ・そうは)もパートナーのピアストル・レイリ(ぴあすとる・れいり)を気遣いながら走る。柵を乗り越え、後から来るピアストルに手を貸し、農場内部に引っ張りこんだ。
「なるべく舎弟を倒すようにしようか。組長は他の生徒にまかせよう」
「わかったよ、想葉」
 想葉は、チェーンソーを振り上げて迎え出た舎弟と、カルスノウトで対峙する。
 にゃんこ型ゆる族カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)は空に向かって銃を撃ちまくり、とにかく強襲作戦が大きいように見せかける。
「御用にゃ! 手入れにゃ! ワーワーにゃー!」
 さらに騒ぐだけ騒いで、より大人数に見せかけてみる。


 マフディー・アスガル・ハサーン(まふでぃー・あすがるはさーん)は舎弟と共に、ゴクモンファーム側で戦っていた。
 舎弟の一人が、銃弾に腕をやられながらも飛び出していこうとする。彼をマフディーが止めた。
「待ちたまえ。怪我を負ったのなら、後方で労働者の守りに努めるのだ」
「こんな怪我で教導団にナメられてたまるかよ!」
「ここで無謀ゆえに死んでは、誰が家族を守るのだ?」
 マフディーの言葉に、舎弟は足を止める。
「わ、わーったよ、先生。お袋の事も心配だしな」
 舎弟は、言われたように労働者が避難する方に向かう。彼の家族は、この農場で働く労働者だ。もとは一家で労働者としてファームに身を寄せたが、舎弟の方が稼ぎが良いからと、体格や腕っぷしを生かして舎弟に加わったのである。
「良いパラ実」と「悪いパラ実」とに、簡単に分けられる訳ではないのだ。
(農場を壊すだけでは問題が根深くなるだけである。追い出された農民らはそのまま野盗となるであろう)
 マフディーはそう考え、労働者を守って戦う。

 労働者がまとまって避難している所では、シャンバラ人のアルフライラ・カラス(あるふらいら・からす)が守りについていた。
 そこに教導団のフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が近づくが、アルフライラが立ちふさがる。
「引きなさい。民を傷つける者がどのような正義を語るか!」
 しかしフェイトは、攻撃はせずに呼びかける。
「私は民を攻撃しに来たのではございません。麻薬を使って麻薬依存症になった労働者がいるのなら、保護して百合園看護隊で手当てさせていただくつもりです」
 アルフライラは固い口調で返す。
「ここには、そのような者はいません。教導団の『保護』などいりませんよ。お帰りなさい」
 事実、雷雲殿道組長は労働者や舎弟に、いっさいの麻薬使用を禁じている。そういう事もあって、彼は尊敬されているのだ。
 単に、大事な商品に手をつけるのは許さない、とか生産性の維持の問題もあるだろうが。


 五条武(ごじょう・たける)が雷雲殿道を討ち取ろうと動いた。もともと彼は、パートナーのイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)と共に
「自称アズールよりは役に立つぜ」
 とアピールし、舎弟としてファームに入り込んでいた。
「殿道、覚悟ッ!!」
 だが武は、C級四天王をあまりにナメすぎていた。自分がC級四天王になった後に何をするかばかり考えて、混乱に乗じるだけで何の策も無く襲う。これではE級四天王ですら討ち取る事は不可能だ。
 武はイビーもろとも、殿道の一撃でグシャリとやられ、戦闘不能になった。
 もっとも、これは隠れて組長狙撃の機会を伺っていたヴィンセント・ラングレイブ(う゛ぃんせんと・らんぐれいぶ)には絶好の好機となる。
(もらった)
 ヴィンセントは勝利を確信して引き金を引いた。しかし
「組長、危ねえッ!!」
 一人の舎弟が殿道をかばい、身代わりになった。
 ヴィンセントと共に隠れていた飛鳥が「えー?! なんでー?」と思わず声をあげる。
「伏兵がいるぞ! 引きずり出せ!」
 何人もの舎弟が弾が来たと思しき方角へ走る。
 だがヴィンセントは、すでに対応して移動を始めている。そのまま陰に潜み、単独でやってきた舎弟を撃ちとり、また移動する。


「あら〜? なに面白い格好で寝てるのかしらぁ?」
 幾嶋冬華(いくしま・ふゆか)は空き部屋に放り込まれていた自称アズールを見つけていた。パートナーのテレシア・ラヴァーズ(てれしあ・らう゛ぁーず)が感心した様子で言う。
「なんだか騒ぎになってるから隠れようと思ったら、見つかるなんて……やっぱり冬華ちゃんの運命のお相手なのかもー!」
 二人がロープを切ると、どこに持っていたのかローブから水晶球のような丸い物体が転がり出る。透明な球の中に、雷雨の前の黒雲のような闇が蠢いている。
「何かしら、これ。あまり綺麗じゃないけど〜」
 冬華が球体を指先でつつくと、それは自称アズールの胸の中に吸い込まれるように消えてしまった。
「むうぅ〜、もう朝かー? なんだか騒がしいな……?」
 それが刺激になったのか、自称アズールは眠そうに目を開けた。
「なぜだか教導団が攻めてきたのよ〜」
 状況を理解していない冬華が答える。自称アズールはむくりと起きた。
「ほほう、教導団となれば我が鏖殺寺院の敵。強大なる私の魔法でぶーっつぶしてくれよう! はーはははは……ふぁ〜」
 大あくびをすると、自称アズールはふたたび眠ってしまった。
「あらあら、しょ〜がないわねぇ」
 冬華は目を回している自称アズールを、つぴつぴ突つく。



 組長、C級四天王の雷雲殿道や多くの舎弟が迎撃のために表に出ている。
 その間に、百合園女学院からの義勇兵ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が、農場の事務所に忍び込んだ。
 隠れ身と光学迷彩を併用し、金庫がある奥の部屋まで近づく。
 廊下の陰から手鏡でそっと様子をうかがうと、さすがに見張りが残っている。
(不意打ちだったら黒騎士でも倒せるんだぜ!)
 ミューレリアはスキルを使って見張りの背後に移動すると殴り倒した。
「ふっふっふ……チャンス到来だぜ!」
 ミューレリアは金庫に向かい合った。思わず含み笑いを浮かべてから、また真剣な表情に変えて金庫を探る。
 屋外からは、銃撃や怒鳴り声が響いてくる。ミューレリアは念のためにSPリチャージで、自身のSPを回復させておく。
 ふたたび金庫に向かい合う。トラッパーの技術でしばらくの後、金庫は開いた。
 重要書類と思しき物を、彼女は片っ端から持ってきた袋に詰め込む。
 書類の回収が終わると、ミューレリアは組長の部屋に移動する。机の上のパソコンを、手早く分解にかかる。ハードディスクごと持っていこうと言うのだ。
(これで中身が、えっちな動画ばっかりだったら笑うぞ)
 戦いが激しくなっている様子を感じ、多少の焦りを覚えながら、ミューレリアはHDDを抜き取った。
 突然、バタンと物音を立てて何者かが走り込んでくる。ミューレリアは飛び上がるが、味方の教導団員松平岩造(まつだいら・がんぞう)だった。
「証拠品は確保できましたかッ?」
「もちろんだぜぃ」
 ミューレリアはビッと指を立てる。
「では、この建物はもう危険ですから出ましょう。私が援護しますから、証拠を持って先に脱出してください」
「頼んだぜ」
 岩造は光条兵器の大剣バスターソードを振るい、舎弟と戦って道を切り開いた。


 ゴクモンファームの規模、舎弟の数やC級四天王に対して、教導団と義勇兵の戦力は少なかった。
 攻め込んだ時の勢いも徐々に奪われ、劣勢になっていく。
 義勇兵として戦う鈴城想葉(すずしろ・そうは)も、すでに傷だらけだ。パートナーの吸血鬼ピアストル・レイリ(ぴあすとる・れいり)が建物の陰に引き込む。
「想葉、ボクの血を吸って! 怪我を回復させなきゃ」
「な、何を言ってるんだ?! ピアスを傷つけるなんて、できる訳ないだろ」
 想葉は驚いて断るが、ピアストルはそっと拳を握る。彼がこんなに傷を負ったのは、彼女をかばい、盾となって戦ったからだ。
「いつも守ってもらってるだけじゃ嫌だから、今回はボクが守るよ」
 言い募るピアストルに、想葉はそれでも渋る。
「だからってピアスの血を吸ったら本末て、イテッ!」
 ピアストルはいきなり想葉に抱きつくと、彼の耳を噛んだ。
「あまりイジメると、耳、噛むからねっ……!」
「もう噛んでるじゃ……」
 ピアストルの瞳に涙が浮かんでいるのを見て、想葉は言葉を引っ込めた。
「分かったよ。これで回復したら、すぐ撤退するからね」
 想葉が見上げる先で、撤退を知らせる信号弾が空にあがっていた。


ちゃん、こっち」
 緒方章(おがた・あきら)が林田樹の手を取って、農場の外へ向かう。
「お、おい……」
 いつになく力強いパートナーに、樹が少々戸惑う。そこに舎弟が飛びかってくる。
「教導団員がッ、死ねやぁ! ぐうっ」
 章のランスに、舎弟が悶絶して転がる。
「僕の樹ちゃんに何かしたら、タダじゃおかないよ〜。さ、急ごう」
「……ふん、格好をつけるな」
 樹はあえて怒ったような顔をして、撤退していく。


 教導団と義勇兵は、ゴクモンファームを攻め落とす事ができずに撤退を強いられた。
 一見、作戦は失敗にも見えた。だがミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が農場から、麻薬栽培や売買に関する証拠を確保していた。
 これにより教導団は、対麻薬戦争としての物的証拠を手に入れたのだ。
 後日、第一師団では式典の際にミューレリアを「教導団に現れた救いの女神」であるとして、大々的に表彰した。
 金団長から表彰状を渡された後、兵士たちが口々に彼女の名前を連呼する。
「ミューレリア! ミューレリア!!」
「ミューレリア! ミューレリア!!」
 台の上からその様子を見て、ミューレリアはひきつった笑みを浮かべる。
(証拠を見つけて、うまくすればボーナスゲットだって思ってたけど……これは逆にビビるぞ……)
 どうやら、これは戦意高揚の一環のようだ。
 ミューレリアは今後、第一師団では士官待遇として厚遇される事も決められた。


 その後、教導団はキマク家に、麻薬生産販売の証拠を手に入れたと迫る。
 しかし、キマク家は頑なな姿勢で、これを「でっちあげだ」とつっぱねた。
 だがその一方で、ゴクモンファームの生産品が急いで麻薬から他の作物に変えられた、という。


 また、戦闘に巻き込まれた事で、ゴクモンファームを離れようという労働者も出てくる。
 狭山珠樹(さやま・たまき)が労働者に呼びかける。
「S級四天王に言われるがままに麻薬を作ったり、偽装に野菜を作ったりなんてしているようでは、今後もまたいつ戦いに巻き込まれるか分かりませんわ。強制はしませんが、新しい道を探した方が良いと思います」
 パラ実生のクラウンファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)が、珠樹を胡散臭そうに見る。
「上から目線での指示はゴメンだしぃ。狭山珠樹的に、そこんとこどーなの?」
 珠樹はにっこりとほほ笑んだ。
「ご安心くださいまし。我はイルミンスール生ではありますが……」
 珠樹はバッと服を脱いだ。イルミンスール制服の下には、波羅蜜多タイタンズのユニフォームが。
「我は栄光の波羅蜜多タイタンズナインですわ!」
「おぉ〜、どうりで胡散臭いと思ったぜ」
 ナガンウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が納得したように言う。たぶん褒め言葉だ。
「どうせ野菜を作るなら、こんなアブねぇ上に四天王にあーだこーだ口出しされる所じゃなく、自分たちでやっていける所に行こうぜ!」
 ナガンの言葉に、労働者たちが聞く。
「しかし、どこか行くあてがあるのかい?」
「なぁに、目星はとっくに付けてあるぜ。打ってつけの場所があるんだ」
 ナガンがにやりと笑う。
 珠樹のパートナー新田実(にった・みのる)が、デカいリーゼントを振って、うなずく。
「移動の間は、ミーが護衛としてついて行ってやるぜ! 元気づけに、あの波羅蜜多タイタンズの歌でも歌っちゃうぜ!」
 こうして総勢百人近くの労働者とその家族が、ゴクモンファームを出ていった。