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リアクション
百合園看護隊1
後方陣地には、百合園女学院が中心に設置した通称百合園看護隊が置かれた。
百合園女学園に娘を通わせる有力者が組織し、パラミタ人医師やプリースト、数少ない契約者の医師を集められている。
また百合園の生徒にも、看護士の補佐として協力が求められた。
これには、教導団や周囲の予想よりも多くの百合園生が志願し、前戦から運ばれる負傷者の手当てにあたっていた。
「あの……お薬と……水ですぅ」
百合園女学院生の如月日奈々(きさらぎ・ひなな)が遠慮がちに、怪我人に薬と水の入ったコップを渡す。人見知りの激しい日奈々だが、自分にできる事を頑張ろうと看護隊に参加していた。
患者と目を合わせる事ができないながらも、傷口を丁寧に消毒し、包帯を巻く。
「ありがとうな、お嬢さん」
「……お、お大事に……ですぅ」
笑顔で礼を言われ、日奈々は恥ずかしそうに答える。
看護隊に参加しているのは百合園生だけではない。他校から参加するプリーストもいる。イルミンスール魔法学校のラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)もそんな一人だ。
「ほら、もう治ったよ」
ラキシスは怪我人にヒールをかけ、天使の笑顔を浮かべる。
同じくプリーストの冬蔦千百合(ふゆつた・ちゆり)が彼女に言う。
「おつかれ様! 次に怪我が重い人が運ばれてきたら、あたしがヒールする番だよ。キミはしばらく休んで、SPを回復させてね」
千百合は、ヒールする順番を重傷の者からにしたり、SP切れで誰もヒールできない事態にならないよう切り盛りする。
「うぅ〜む、お嬢様だらけのイイ眺めっ」
教導団員アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は口元を緩めながら、つぶやく。
彼はここ後方陣地で看護隊の護衛を行なう任についていたが、何事も起こらないので、見張るフリをして目を楽しませていた。
「ほほう、君も同好の志のようですね。このような好立地を押さえるとは」
突然、アクィラの背後で声がした。空飛ぶ箒に乗って、備品の双眼鏡で「何か」を熱心に観察する譲葉大和(ゆずりは・やまと)がそこにいた。
二人は熱心に観察を続けながら、言葉をかわす。
「何の事だい? 俺は敵の奇襲に備えてるんだよ。この後方陣地だって、いつ襲われるか分かったもんじゃないからね」
「これは奇妙な事を。俺もパラ実の魔手から麗しい女性たちを守るために、こうして任務に励んでいるのですよ。……ん?」
大和は背後に、気配を感じて動きを止める。隣のアクィラも同様だ。二人の額を、たらりと汗が流れ落ちる。
「あなたたちぃ、な〜にをしているのですぅぅぅ……?」
「アクィラ、あんたねぇ……」
背後に現れた二人が、地獄の底から聞こえてくるような恐ろしい声で言った。
同じく看護隊警護の任にあたる皇甫伽羅(こうほ・きゃら)とアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)だ。
大和は精一杯、格好をつけた仕草で振り返る。
「これはこれは、お二人のような美しい方に見つけ出していただけるとは……」
伽羅とアカリは皆まで聞かなかった。
『真面目にやれえぇぇぇ』ですぅ」
どがしゃーーーーーーん!!!!
「真面目にやってるんだけどなぁぁぁぁ……」
アクィラの悲鳴が遠く消えていった。
大和とアクィラは、ぼこぼこにされてしまったようだ。
定位置で見張りをする関羽の影武者うんちょうタン(うんちょう・たん)が、はぁとため息をつく。
(まぁ、何事もなく、ああしてふざけていられるのは良い事でござるよ。気を張りっぱなしにしていては、ギスギスした雰囲気を振りまくだけでござるからな)
緊張が高まっている時ならば、大和やアクィラだって女性陣が惚れ直すぐらい真面目にシリアスに哨戒任務に取り組んでいるのだ。
(敵襲の気配が無く、あんな調子なのは……うむ、良い事だと思っておくでござるよ)
タンはそっと苦笑を浮かべた。
看護用のテントで、ガシャン! と派手な音が響く。
「もう! 暴れないでよっ!」
続いてマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)の怒声と、格闘するようなドタバタという物音。
「何事ですぅ?!」
伽羅がテントに飛び込むと、マリカが暴れる患者を柔道技で押さえつけている。
「あ……! この患者さん、治療が痛いから嫌だって暴れだしちゃって」
「あらら、そうでしたかぁ」
伽羅は安堵しつつ、マリカと協力して医者が治療する間、患者を押さえる事にする。
治療が終わると、マリカは伽羅に礼を言う。
「協力、ありがとう」
「いえいえ、このくらいお安い御用ですぅ」
笑顔で返す伽羅に、テレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)が興味をかきたてられた様子で聞く。
「伽羅様は、あの金鋭峰団長の恋人候補でしたわね。金団長って普段はどんな方なんですの?」
「他の校長先生に比べると地味ですけどぉ、すごく真面目な方ですぅ」
楽しそうに噂話を始めた二人を見て、マリカは教導団への不信感が薄まっていくのを感じた。
「うふふ、早く良くなるといいわね」
妹尾静音(せのお・しずね)は包帯を替え終えると、そうほほ笑んで別の患者の元へ行く。
笑顔で彼女を見送った患者の青年は、静音の残していった薬の間に一枚のメモを発見する。そこにはメールアドレスが書かれ、静音のプリクラ写真が貼られていた。
とっさに彼女の方を見た青年に、静音はウィンクすると、何事も無かったような顔をして、また他の患者の看病を続ける。
静音は、看護隊に運ばれてくる者たちの中からイケメンを見繕っては、プリクラ付きのメアドをそっと渡していたのだ。
「連絡くるかしら……」
救護テントを出た静音は、ちょっと不安げな顔で携帯電話を取り出す。
だが心配する必要はなく、何通ものメールが届いている。それを見た静音は、にっこりと笑顔になった。素敵な彼氏ができる予感に、心が弾む。
一方で男たちにとっても、女子校生からのメアドプレゼントは、ある意味どんな薬よりも良く効く薬だったようだ。
彼女のパートナーで、百合園女学院で養護教諭とも思われているフィリス・豊原(ふぃりす・とよはら)がその様子をながめ、うなずく。
(あらあら、静音も妙な手を考えますわね。やはり彼女の本質は、わたくしとと同じなのですわ)
フィリスは納得の表情で、負傷者の手当てを再会する。
「はいはい、この程度で泣き言を言ってはいけませんわ。……ちなみに、これはわたくしのアドレスです。気が向いたら連絡を下さいな」
フィリスに耳元で言われ、患者の青年士官が思わずニヤつき、頬を赤らめる。
(これから楽しい事になりですわ)
フィリスも艶やかな笑みを浮かべた。
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