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建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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戦場2/百合園看護隊2


 パラ実部隊に、軍隊的なまとまりは無い。四天王たちは互いの覇権を争って、戦い始めるほどだ。
 今も、巨大甲虫に乗った部族と恐竜に乗った部族が戦っていた。恐竜は、地球では太古に絶滅したステゴサウルスに似ている。
 甲虫と恐竜が押し合い、その上に乗った部族の戦士がたがいに槍で戦っている。
 そこに一匹のトロール、ではなくパラ実生吉永竜司(よしなが・りゅうじ)が近づく。光学迷彩で姿を消し、機会を伺う。
 と、ステゴサウルスの足元が崩れ、恐竜が地面につんのめる。竜司があらかじめ掘っておいた穴だ。アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)がアサルトライフルで、背中から落ちた戦士たちに弾丸を浴びせる。
 その混乱に乗じ、竜司は血煙爪(チェーンソー)を振り上げて突進した。
「うぉらぁぁぁあ! 暴れさせろやぁッ!!」
「グハッ!」
 竜司が血煙爪をぶんまわすと、甲虫を率いていた長が血をまき散らして甲虫から転げ落ちる。
「オレ勝ちだ! 今から、てめえはオレの舎弟だぜぇ!」
 勝ち誇る竜司。だが怪我はさせても殺しはしない。
「むむ……貴様の勝ちだ。今からE級四天王を名乗るがよい」
「おおおおお! 下克上を果たしたぜッ!」
 竜司が勝利の雄たけびをあげ、むんずと甲虫の角をつかんだ。
 ぶびびびびび〜
「うおわっ?!」
 巨大甲虫は竜司を角にぶらさげたまま、空の彼方へ飛び立った。
 唖然とそれを見送ったアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)がつぶやく。
「巨大甲虫……いくらぐらいで売れるでしょうなぁ」



 まとまりに欠け、なかなか大規模な攻勢のなかったパラ実軍だが、ついに大軍勢となって押し寄せる時が来た。
 その数、およそ五万。教導団側の三倍だ。

 教導団第一師団少尉曖浜瑠樹(あいはま・りゅうき)は部下に声をかける。
「死ぬなよ。でもって、絶対諦めるな」
 兵士たちは「はい!」と声をそろえる。
「何としても侵攻させるわけにはいかねぇ。皆で食い止めて見せようなぁ!」
 瑠樹は意気をあげつつ、士気の高い部下たちに逆に励まされるのを感じていた。
 他の部隊でも、ベテランが率先して新兵たちをまとめようとしている。
「敵を倒すよりも、掻き乱す事に集中しろ!」
 鷹村真一郎(たかむら・しんいちろう)は【シャンバラの獅子】にして騎兵科として、軍用バイクで敵軍勢への突撃を敢行する。味方と隊列を整え、進軍速度を合わせつつパラ実のバイク部隊に迫る。
「味方を犠牲にしても陣を崩すな! これだけ守れば死なずに済む!」
 真一郎は大きく声をかけ、陣の維持を少しでも図ろうとする。
 サイドカーに乗った姜維(きょう・い)が努めて冷静に、敵や味方の動きに目を配る。
「兄者、あちらに遅れが」
 突出してきたパラ実兵にてこずるシャンバラ人兵士がいた。真一郎はディフェンスシフトを引いて、ガードにあたる。
 「味方を犠牲にしても……」と言ってはいても、真一郎はそんな事ができる性格ではなかった。

 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は軍勢が交錯した際、すり抜けて背後に向かおうとするパラ実兵に弾を浴びせていた。瑠樹の部下も一緒だ。
「りゅーきが、ゆっくり前進してーって言ってます」
「了解しました、マティエさん」
 マティエは、彼らが瑠樹を信用している様子を見て、嬉しくなる。
 瑠樹も
「部下の人も戦ってるんだから、オレだって踏ん張るべきだろうねぇ!」
 とばかりに、敵軍に射撃していく。

 戦部小次郎(いくさべ・こじろう)も共に軍用バイクを走らせる。運転するのはパートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)の方だ。小次郎自身はサイドカーからアサルトカービンでスプレーショットを用い、広範囲の敵を掃射する。
「あいつがボスのようですね」
 小次郎はショットガンに持ち替え、改造バイク部隊を率いる四天王らしき男に弾を浴びせる。だが互いの激しい動きの中では当たらない。
「奴の相手は、私に任せろ」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が光条兵器の剣を抜き放ち、四天王へと迫る。
 剣の花嫁エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)がハウスキーパーを駆使して、イリーナの露払いをした。
「イリーナの邪魔をするなら、お掃除いたしますわよ?」
 エレーナが作った道を走り、イリーナは光条兵器で四天王に斬りかかる。
「シャンバラの獅子の力、その身に味わうが良い」
「教導団の犬に負けるかぁ!」
 四天王が振り回す斧と、イリーナの光条兵器が打ち合わされる。イリーナの腕から血が飛んだ。エレーナがヒールを飛ばし、その傷を癒す。
 数度、剣をあわせた後、四天王が苦悶の声があげて地面に転がる。周囲のパラ実生に驚きが広がった。
「な、なにぃッ?! D級四天王が倒された!」
「なんだって?! じゃあ、あの教導団の女が今からD級四天王?!」
 エレーナは彼らが驚いているうちに、戦いで消耗したイリーナを引きづるように味方が固まる方向へ下がっていく。早くイリーナの手当てをしたかった。

 【隻眼の獅子】レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)は、この戦いでは実戦経験の少ない新兵が多い事に注意を払っていた。
 彼は全体の士気を高めるために、新兵を鼓舞する。
「此度の戦いは、多勢に無勢。なればこそ、常日頃からの鍛錬の成果を見せる時。教導団の底力、しかと見せてやろう!! 同じ一人でも我ら教導団員、一騎当千の働きをしてみせよう。団長に、教導団に、勝利を!!」
 これが初陣の義勇兵五十嵐理沙(いがらし・りさ)はそれを聞いて、仲間と共に声をあげ、拳を振り上げる。
 攻撃が始まると、彼女もパートナーのセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)と共にカルスノウトを抜いて果敢に突撃していく。
(初陣でも、心意気だけは歴戦の勇者には負けないわよッ!)

 秘術科フリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)はランスをかざして敵陣に切りこんでいきながら、敵の過密した場所を探す。
(やはり烏合の衆。統制はまったく取れておらんな)
 フリッツは敵の集まった場所まで来ると、光精の指輪で呼び出した人工精霊に点滅させる。
「おっ、合図が来たよ!」
 義勇兵の魔法兵部隊に加わるクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が砲撃の煙の向こうに、点滅する光を認めて仲間に呼びかける。
 それは、あらかじめ決めておいた点滅パターンだ。
 カールッティケーヤたちウィザードが、点滅の前方に向けて魔法を浴びせかける。固まっていたパラ実兵が次々と魔法の餌食になった。
 フリッツは味方の弾にやられないよう防御に徹しつつ、魔法使いを守るために後退する。念のために、パートナーのサーデヴァルから禁猟区も受けていた。
 彼の指導もあり、義勇兵による魔法兵部隊も的確な攻撃ができるようになっている。
 戦果に喜ぶ者もいるが、カールッティケーヤは昔の事を思い出して、少々悲しい気持ちになる。
「油断するな。まだまだ敵はいるのだぞ」
 フリッツが激を飛ばし、カールッティケーヤも生き残るために周囲の戦闘に意識を戻した。


 教導団のサーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)は義勇兵の後方から、おかしな行動をする兵がいないか目を光らせる。
「隊列を崩すと、そこからやられるぞ! 飛ばしすぎるな、遅れるな」
 幸い、今はアドバイスを飛ばすだけで済んでいる。
 もし不審な行動をする者がいたら、サーデヴァルはすっとんでいって止める構えだ。

 やはり後方では、プリーストのエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が衛生兵として手当てに駆け回っている。
 重傷者にヒールをかけ、励ましの言葉をかける。
「ヒールしたから、もう平気だ。後は、百合園看護隊と医者の先生がしっかり治してくれるさ」
「こちらにも手当てをお願いいたしますわ」
 セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)がパートナーの五十嵐理沙(いがらし・りさ)を連れてくる。敵の槍に、腕を傷つけられていた。
 エースは手早く理沙の腕の傷を確かめる。
「これなら応急手当で大丈夫そうだけど……跡が残っちゃコトだからヒールした方がいいかな?」
 エースは女性である理沙を気遣って聞く。
「平気だよ。本当はこんな傷、ツバつけとけばいいって言ったくらいだもん」
「無茶を言ってはいけませんわ。傷口が化膿でもしたら大変ですのよ」
 からからと笑う理沙を、サーデヴァルがたしなめる。
「だったら念入りに消毒して、包帯をちゃんと巻いておけば心配ないよ」
 エースは笑って、応急処置を進めた。


「衛生兵! 衛生兵、頼む!」
 兵士の声に、義勇兵の四方天唯乃(しほうてん・ゆいの)が駆けつける。傷を負った仲間を抱えた兵士が、彼女にすがるような目を向ける。
「すぐに応急手当するわ。しっかりするのよ」
 唯乃は負傷者にキュアポイズンをかけ、ヒールをする。その間、エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)がいつでも火術を放てる構えで、周囲を警戒する。
「唯乃、あまりゆっくりしている時間はありませんわ」
「分かってるわ。……あなたも怪我しているわね」
 唯乃は、負傷者を連れる兵士の怪我を見咎め、素早く止血をする。

 重い傷を負って戦闘不能になる者も、次々と出てくる。
 シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)は、復帰できそうな者にはヒールしていたが、戦闘不能者は担架に乗せる。


 百合園看護隊として負傷者の後方搬送を担当するロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、女性兵士を優しく抱き上げた。
「こんなに傷ついて……安心してくださいませ。わたくしが命を賭けてあなたをお守りしますわ! わたくしに全てを任せて胸の中でお眠りになって……」
「ありがとう……」
 不安に顔を曇らせていた女性兵士は、安堵してロザリィヌの腕に体を預けた。
(わたくしの魅力の前に、彼女もうっとりですわ。おーほっほっほっ!)
 ロザリィヌは満面の笑みを浮かべ、心の中で高笑いをあげる。もちろん運ぶ仕草は、非常に丁寧にして優雅だ。
 一方、次に男性の負傷者が連れてこられるが。
「こちらの方は、あなたが運んでくださいな」
 ロザリィヌは彼をパートナーのシュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)に押しつけた。
 黒山羊の格好をしたゆる族シュブシュブは、エリ元を噛んで、ずーりーずーりと引きずりながら運んでいく。
「イテテテテッ!」
 負傷者が悲鳴をあげる。シュブシュブは申し訳程度に傷口を舐めてみる。
「メェ惑な話ですまなかったな。せめてもの慰みに、我にもふもふしてもいいぞ」
「う、うむむ」
 負傷者はとりあえず、シュブシュブをふかふかの枕代わりにする事にした。


 看護隊では、一気に負傷者が大量に送られてきて大忙しになる。
 待田イングヒルト(まちだ・いんぐひると)はあまりの負傷者の多さに、パニックになる。百合園女学院美術教師のヘルローズ・ラミュロスに助けを求める。
「せ、先生! ど、ど、どうしたら良いですかねっ!? 助けてください、先生!」
 あわてて自分が包帯ぐるぐる巻きになっているイングヒルトに、ヘルローズは苦笑する。
「落ち着いて、待田さん。あなたが倒れちゃいそうよ」
「でで、でもっ、こんなに皆、痛がっててどうしたらいいのかっ」
 ヘルローズは少々心配そうに、イングヒルトの頬をごく軽くぺちぺちと叩く。
「もー、しょうがないわねー。かわいい女の子たちに、とんだ修羅場だわよ」
 怪我人で一杯になったテント内に向き直り、ヘルローズは魔法を唱える。彼女の手から広がった光が、周囲を満たして消えた。
「あれ……? 痛くない?」
「なんか元気が出てきたぞ?」
 今の今まで重傷でうめいていた兵士たちが、むっくりと起き上がり、医者が唖然とする。
 全体に対する戦闘不能解除だ。
「あ〜、強力な魔法を使って疲れたから、美容のために寝るわねー。はい、邪魔邪魔」
 ヘルローズは、元気になった怪我人をベッドから追い出し、そこに横になって寝てしまう。あまりそうは見えないが、けっこう高位のプリーストであるらしい。
 エレオノーレ・ボールシャイト(えれおのーれ・ぼーるしゃいと)がそれに呆れつつも、呆然としている元負傷者たちに言う。
「後は適当に絆創膏でも貼っておく? 私、そんなに優しくないからぁ。と、いう訳で邪魔邪魔ぁ」
 まだまだ後から負傷者が運ばれてくる気配だ。エレオノーレは元気になった者は、とっとと帰らせる。



イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)さんがパラ実送りになりました」

 イリーナが陣地にさがって休息を取ろうとしていると、そんな声がする。
 振り返ると、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が、くつくつと笑っていた。
「……レオン、笑えない冗談はやめて欲しい」
 戦いでD級四天王を倒したイリーナは、D級四天王の座についた。もちろんパラ実との戦いにおける戦果であり、教導団上層部も問題にしていない。
 レオンハルトは真面目な口調に戻って言う。
「中には四天王と聞いて、妙な誤解をする者もいるであろうからな。パラ実生に対しても、盲目的に平伏す者もいれば、憎悪をたぎらせて向かってくる者もあるだろう。注意を怠るべきではないな」