空京

校長室

建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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ハロウィン2


「あ! お帰りなさーい!」
 ヘルの偽パートナー黒田 智彦が、ヴァーナーと戻ってきたヘルに手を振る。
「おにいちゃん、つれてきましたよー」
 ヴァーナーは笑顔で報告する。
「ようやく大きな迷子が見つかったようだな」
 早川呼雪(はやかわ・こゆき)が言った。ヘルはヴァーナーを下ろすと、呼雪を抱きしめた。
「寂しかったよー、僕のうさぎちゃん」
 呼雪は三月うさぎの仮装をしていた。
「……おかしいか?」
「すごく可愛い!!」
 臆面もなく言うヘル。
 マッドハッターの仮装をしたドラゴニュートファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、自分の帽子と呼雪の付け耳を指して説明する。
「本当はコユキと逆だったんだけど、ボクが兎の耳付けると何かヘンだったから、我がまま言って変えて貰っちゃった。でも、2人とも似合ってるでしょ?」
「うんっ、我がままGJ!」
 ヘルが拳を固めて言う。ファルは楽しそうに皆を誘った。
「じゃあ全員そろったからハロウィンパレード、見に行こう! 智彦くん、ヴァーナーちゃん、一緒に前の方に行こうよー」
「はーい!」
「パレード、とってもきれいそうで楽しみです〜」
 二人が、ファルのはねる尻尾を追って走っていく。
「うごー! 僕も前で見たい!」
「でっかい魔女ッコが前に立つの?」
 クリストファーが聞くと、ココが「階段にあがれば、ちょっと遠いけどよく見られますよ」と教える。
 ヘルはバタバタと階段の方へ走っていく。
「まったく……図体ばかり大きくて、子供みたいだな」
 呼雪はぼやくが、ヘルを見る視線はいつになく暖かい。
(楽しげな姿を見るのは悪くない、な)

 スガヤキラ(すがや・きら)も「やれやれ」といった態度で、皆の後を追う。
 彼は目立たないように、ヘルの友人が誰かに傷つけられる事がないよう見張っていた。そんな事になればヘルにとって大きなダメージになるからと、ココに頼まれたのだ。
 と、キラは少し離れた場所にいたジャック・オ・ランタンに近づいた。
「おまえ……オレたちに何か用か?」
 そいつとは行く先々で会っている気がした。
 カボチャ男は居丈高な調子で、キラに言った。
「フッ……そんな事が気になるとは、逆に何かあるのかな? 私はただのジャック・オ・ランタンだよ。
 くだらぬ正義感によって、結果的にジェイダスが煩わされるような事態になるのも不愉快だから、こうしているのだがな。
 趣味、思想、種族……虐げられる者の痛みを忘れるようであれば、学舎の存在する意味は無いのかもしれないぞ?」
 キラは納得の口調で言った。
「なーるほど! 人間なんて獲物、と見下してたのに、軽い気持ちで襲った相手に、気づいたらメロメロになったあげくに改心してた事に共感してるのか!」

 がーーーーーーーーーーーん!!!!

 ジャック・オ・ランタン、大ショック。
「ふ……フフフ、ふふふ、……大変、急な話ではあるが、急用ができた! さらばだ!!」
 ジャック・オ・ランタンがマントをバサリと翻すと、無数の薔薇の花弁が風に舞い散る。謎の怪人(?)は高笑いをあげ、花弁をまき散らしながら空を飛び去っていった。
 キラは唖然として、それを見送る。
(逃げた……。しまった。ココを呼んでやればよかったぜ)



 ヘルたちは、園内でアトラクションを楽しむと、パーティールームへ向かった。
 ココが楽しそうに言う。
「皆と相談して、色々お菓子を持ってきてもらったんです」
 彼が持ってきたのは、手作りしたかぼちゃのプリンとクッキーだ。ヘルのために、蛇型のクッキーも用意してきた。
「へえ、ハロウィンらしいね」
 ヘルは上機嫌で、プリンとクッキーを食べ始める。
 一方、クリストファーが出した「お菓子」は、赤いチューブを巻いたような物体だった。
「何これ? ゴムチューブ?」
「リコリスってお菓子だよ」
「ハロウィンらしいと思いますよ」
 二人に促され、ヘルは恐る恐る、ひとかけ口に入れてみた。
「できたてのタイヤを食べてるような気分……」
 彼は口元を押さえ、表情をどんよりと曇らせる。
「そうかい? 美味しいのに。ヨーロッパではよくあるお菓子だよ?」
「うん。タイヤよりおいしいよー」
 クリストファーとファルが、リコリスをもぐもぐ食べながら言う。非常に特徴的な味の菓子なのだが、二人にとっては問題ないようだ。
 クリストファーが笑顔で言う。
「これ、味の好みが分かれるお菓子なんだよ」
「……僕には向いてないみたいだよ」
 ヘルは妙に疲れた様子で言う。
「気に入らなかった? じゃあ、口直しにキッスでも」
 クリストファーに言われ、ヘルはいつもの様に彼の肩に腕を回すが、ハタと気づく。
「リコリス食べた口で、キスをせがむなあああああ!!」
 ヘルは大あわてでクリストファーから離れ、壁ぎわまで逃げる。
「はう〜、呼雪、助けてよー」
 呼雪は、ヘルにミネラルウォーターを渡す。
「ハロウィンの菓子なら、俺も作ってきた」
 彼が作ったのは、南瓜のカップケーキだ。ようやく安心してカップケーキを食べだしたヘルに、呼雪は小さな包みを渡す。
「後、これもあった」
「何これ? ビー玉かな?」
 ヘルは包みの中の飴に首をかしげる。
「京都土産の手毬飴だ。カラフルだったので、つい」
「就学旅行か! 皆で旅行なんて、いいなぁ。でも旅行先で僕を思い出してくれるなんて嬉しいよ。大切にするね」
 ヘルは嬉しそうだ。
「……食べ物だぞ?」
 呼雪は怪訝そうに言った。


 それから、ヘルが作ったバースディケーキを囲んで歌ったり、ロウソクを吹き消すなどセレモニーで盛り上がる。
 その後はプレゼント贈呈だ。
 ヘルは、まずココとキラを呼ぶ。二人には、そろいの毛糸の帽子だ。
「君はココの控え用帽子台とゆーコトで」
「台かよ……」
 むすっとするキラの横で、ココが聞く。
「これって、もしかして手編みですか?」
「うん。僕が編み物男子になって編んでみましたー! ……あ、この前、言ってたモノは前向きに考えるから。せっかく編んだんだし使ってね」
 続いて呼雪には、真っ白いマフラーがプレゼントされた。
「長すぎじゃないか?」
 マフラーは普通に巻いたのでは、両端が彼の足元にまで来てしまう。ヘルは笑顔で解説する。
「僕としては、呼雪には他のあれこれから首筋を守ってほしいので、グルグル巻きにしてもよし。後は、こーやって使う用ね☆」
 ヘルはマフラーをずらすと、その半分を自分の首に巻き、もう半分を巻いた呼雪の肩を抱き寄せる。
「…………」
 呼雪は無言で、されるがままだ。ヘルの所業には、なかば諦めているようにも見えるが。
(そんな使い方をできる時と場所があるのか?)
 だが、ヘルが分かっているにしろ、分かっていないにしろ、今はそれを口に出して言うべきではない、と呼雪は思った。

「あとクリストファーには、これあげるー」
「え? 俺は誕生日じゃないよ?」
「うん。でも君には何かとお世話になってるから、何かあげておきたいと思って。はい、これ」
 不思議そうな顔をしているクリストファーに、ヘルは小さな包みを渡す。中身は金のピアスだ。
「貫通するってのがいいよね。ふふふふふ……」
 ヘルがにまにま笑いながら、クリストファーの耳をなでてくる。
「……俺の誕生日が来たら、またちゃんとプレゼントがもらえると思っていいのかな?」
 クリストファーは不安を押し隠し、聞いた。ヘルはいつもの笑顔で答える。
「祝えれば、また皆でお祝いするし、ちゃんとプレゼントもするよー」

 他にも、ココが呼雪にレターセット、智彦がファルに携帯番号&メールアドレスを贈った。
「……智彦、それってプレゼントかい?」
「ヘルが『お食事会では、友達と番号交換するものだ』って言ったんだよー」
「それは合コンだよ……」
 ヘルは額を押さえる。

 遊園地の池で、盛大な花火が打ち上げられる。
 皆はパーティルームのベランダに出て、花火を見物した。
「僕は幸せだよ」
 ヘルが言った。
 その手に水晶玉のような球体が現れる。球の中には、暖かい光が満ちていた。