空京

校長室

建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

リアクション



ハロウィン1


 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がテレポートで、ココ・ファースト(ここ・ふぁーすと)の元に現れる。
「今度、遊園地で君たちの誕生パーティ、開こうよ。今ならハロウィンイベント中だから、仮装で僕も正体を隠せるしね」
 ココは少し考えると言った。
「プレゼントに欲しいものがあるんですけど……」
「へえ、なんだい?」
 ヘルはにこにこしながら聞く。だがココは表情を引き締め、言った。
「キミの苦痛を貰えませんか?」
 なぜかヘルは焦った表情になる。
「そ、それってもしや、ココが女王様ルックで僕に鞭をピシピシみたいな……?!」
「シャンバラの女王様って、鞭が武器だったんですか?」
 ココは意外そうだ。彼のパートナースガヤキラ(すがや・きら)がうなるように、ヘルに言う。
「ココがそんな事したがるワケないだろ!」
「ハハハ、そうだよねー。ああ、びっくりした。ココに、僕がイヤな影響を与えちゃったかと焦ったよ。
 えーと。女王はおしとやかそうに見えて実は活発な人だったから、色んな武器を使えたんだよー」
「さすが女王様ですね」
 ココは素直に感心している。ヘルはもう一度、考え直す事にした。
「で、僕の苦痛と言うと……僕が頭をゴツンとぶつけると、ココが『痛い!』って頭を押さえるとか?
 ダメ! だめだめだめ! そんなのお兄さんが絶対、許しませんよ!」
「いつ、おまえがココの兄貴になったよ……」
 キラがぼそりと言う。
 ココは苦笑して、ヘルの誤解を解きにかかる。
「キミの痛みをもっと軽減したいんです。本当は、痛みの理由も教えて欲しいけど……無理には聞きません」
 ココはヘルの胸にそっと手を添える。
「ココ……」
 ヘルはすまなそうに笑い、彼の髪をなでた。
「僕は白輝精の分身だからね。そこにパートナーが関わってくるから、ややこしくなってるんだよ。……痛みは今後、考えていくからさ。実はもうプレゼント、用意し始めちゃってるんだよねー」
「用意し始める?」
「後は当日のお楽しみっ」


 そして当日がやってくる。
 空京の遊園地にあるパーティールーム。
 ヘルはクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)と共に先に来て、誕生日パーティの準備をしていた。
 クリストファーが心配そうに聞く。
「何か放置している仕事無いの? 大丈夫? 代わりにやっておこうか? サボタージュが原因で鏖殺寺院から抹殺指令とか出されたら、洒落にならないよ?」
「大丈夫。大事の前の休暇だもーん。今日は心配性だね? もしかして仕事したかった?」
 クリストファーは悲しげな顔をする。
「……俺は、ヘルが好きだから協力しているんだ。ヘルの手柄にならないんじゃ意味無いよ」
 ヘルは満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう。……僕さー、記憶の九割が女の子なんだよね。だから君には、なんか親近感を感じるんだよねー」
 ヘルはそう言って、クリストファーをぎゅっと抱きしめた。
「親近感?」
「うん、ワル友★ 一緒にワルワルするの♪」
 悪友とワル友が同じものかどうかは不明だ。
(一緒、か……。一人で死ぬのは無しだよ)
 クリストファーは声に出さずに思った。



(男装で色仕掛けなんて……どうなっても知らないわよ)
 男装して美少年然としたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、心の中で大きくため息をついた。彼女のパートナーリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、ヘルを誘い出すためにヘイリーを男装させたのである。
 ヘルがいるだろう遊園地内を、美少年として歩き回り、彼をおびき寄せる作戦だ。
「ねー、君、僕を呼んだでしょー。お茶でも一緒にどうー?」
 開始早々、ヘルが釣れた。
 なにやら魔女ッコの仮装をしているが、ヘルだと思って見れば、やはり彼だ。
 パーティで使うグッズを、園内の売店まで買い出しに来たのだ。
「パートナーと一緒に遊びに来てたんだけど、呼んでもいいよね?」
 ヘイリーはリネンを呼んだ。
 喫茶店に入り、席に着くとリネンは切り出した。
「塵殺寺院が女王を嫌う理由を教えて欲しいの。そして女王についての情報全てを」
 ヘルは何かを思い出すような表情で話し出す。
「女王はねー。まずは名前がアムリアナ・シュヴァーラ、性別は女で、種族はヴァルキリー。気品があって心優しいイイ子ちゃんだけど、政治になると手厳しい所もあったかな。おしとやかそうに見えて、実は戦ってもメチャ強い。
 あと、今のシャンバラで似てる人は、百合園のラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)ちゃん。見た目っていうより、持ってる雰囲気がね。ただ、女王はあそこまでお茶目さんじゃないと思うよ。
 後はー。うー。思い出そうとすると、数千年前の記憶は出てこないっ。ので、次。
 鏖殺寺院が女王を嫌う理由だっけね。
 そりゃ建前上は鏖殺寺院を滅ぼした人だし、女王ならシャンバラ王国を復活させる事もできそうだから、かな」
「建前上は、とはどういう事?」
 リネンが聞いた。
「女王は、シャンバラ王国の最高権力者であり軍の最高指揮権を持ち、宗教的最高権威者でもある、って事だよね。『女王様のご命令により鏖殺寺院を倒す』みたいな。
 ただまあ、裏を見てるとねぇ。公人だから、そういう立場になっちゃって大変だねぇ、とか僕は思うんだけどな。
 で、僕個人的には、女王は鏖殺寺院との和解手段を探していた、と思いたい。
 その辺りの事は、今『鏖殺寺院の崇高な理想のためにー!』とか言って爆発してるコたちは知らないんじゃないかな。知っても知らんフリとか」

 ヘルたちから少し離れた、喫茶店の席。
 吸血鬼ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は聞こえてきた話の内容から、やたらと大きい魔女ッコの正体がヘルだと気づいた。
 そして一緒にいるヘイリーを、美少年だと思い込んだ。
「あ、あいつは! 鏖殺寺院の分際で、美少年と戯れるとは!! うらやま……いや、許さない!」
「単に、うらやましいだけでしょ……」
 パートナーの雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が呆れた様子で止めるが、ベファーナは聞いていない。猛然とヘルに突き進む。
「その少年を離しなさい!この外道めが!」
「てい」

 どぼーーーーーーーーーん!!!

 遊園地の大きな池に、盛大な水しぶきがあがった。ベファーナが、池の上に強制テレポートされたのだ。
「あーあ。言わんこっちゃない」
 リナリエッタは呆れかえる。
「まぁまぁ『君も美少年のナンパ、がんばれ』って伝えといて」
 ヘルは、カボチャ模様のタオルをリナリエッタに渡す。
 彼がパーティ用に大量の買物をしたところ、ハロウィンキャンペーンのスクラッチカードを何枚ももらって、それで当てた物らしい。

「いたじゃない、ヘル」
 水音を聞きつけてやってきた蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)が、喫茶店の中にヘルを見つけて足早に彼に近づいた。
 路々奈はヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と共にマントにトンガリ帽子をかぶり、そろいのギターを持った仮装をして、遊園地内でヘルを探していたのだ。
「黄金の鍵を返して欲しいのよ。それを守っていた遺跡のマンティコアに返したいの」
「鍵? 使用済みだけどいいの?」
 路々奈は、黄金の鍵の遺跡での事を話した。
 ヘルは手の中に、黄金の鍵を現した。『門』を開けた事で、そこに充填されていた魔法エネルギーは消えている。
「なら使っちゃった後だけど、持ってってあげなよ。あと、これ」
 ヘルは路々奈に、巻物を渡す。呪文書のようだ。
「鍵の使用代の代わりと言う事で。この呪文は、遺跡と守護者の関係を断つものね。いらないって言われるかもしれないけど、遺跡が壊れたら一緒に死んじゃうとか、遺跡から離れられないっていう制限は、これで無くすことができるよ」
「これって取引かしら?」
 路々奈が聞く。
「いやー、美少年だったら『代わりにデートでも』って誘うんだけど、女の子は別にいいよー。早くマンティコアにそれを持ってってあげて」
 路々奈はさっそく、そうする事にするが、どうも調子が狂う。
「うまく行って良かったですね」
「うう、開けっ広げなのは交渉楽でいいんだけど。なんかやりにくいわ」
 路々奈はヒメナにこぼしながら、遊園地の出口へ向かった。



 ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)はハロウィンの仮装をして、遊園地内を回っていた。
「はー、人がいっぱいで賑やかだねぇ」
 頭上に飾られた魔女やカボチャランタンの飾りに目を楽しませる。と、いきなり背後から抱きすくめられた。
「もー、一人でどこ行くのさ。ふらふら歩いてると襲っちゃうぞー?」
「ふえぇっ?! ごっ、ごめんなさいぃいいーッ!」
 ティエリーティアは訳も分からずに謝ってしまう。
「ええッ?!」
 抱きすくめた方のヘルも、ティエリーティアの顔を見て、ひどく驚いた様子だ。
「えーとえーとえーと……うさぎ?」
 ヘルは口走る。ティエリーティアは、ウサ耳ヘアバンドにシッポで仮装中だった。
「えへへ、ボクこれ似合いますか?」
 ヘルは、コクコクとうなずく。
 そこにウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が走ってくる。こちらは犬耳ヘアバンドにシッポで、狼に仮装中だ。
「おーい、ティエル! オバケ屋敷から逃げようったって……お?」
 ウィルネストとヘルの目が合う。

『トリック・オア・トリート!』

 ウィルネストとヘルは、たがいの持つお菓子を交換した。
「いいなー。僕もお菓子交換したいです。トリック・オア・トリート〜」
 ティエリーティアがヘルに言う。
「えー、人まちが……うさぎ間違いして驚かしちゃってゴメンナサイ。トリック・オア・トリート」
 ティエリーティアとヘルもお菓子交換をした。

「あー、おにいちゃん、やっとみつけたです」
 魔女の仮装をしたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、たたたと走ってきて、ヘルに飛びつく。セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)に手伝ってもらった、とても可愛いらしい魔女衣装だ。
「どこにいっちゃったのかなって、みんな、さがしてますよぉ」
「えええ? 僕の方が迷子になってた?」
「でっかい魔女ッコの次は、ちっこい魔女が登場だな!」
 ウィルネストとティエリーティアが、今度はヴァーナーとお菓子を交換する。
「おにいちゃんにもトリック・オア・トリートです」
 ヴァーナーが可愛い笑顔をヘルに向ける。
「ぬう! 全力で、いたずらしてほしー!!」
 あほな事を叫ぶヘル。
「そんなこと言ってるとー、えいっ」
 ヴァーナーはヘルの口に、手作りしてきた甘いマシュマロを入れる。
「みんなのとこに戻るです?」
 もぐもぐ。ヘルはマシュマロを食べながら、うなずいた。

 ウィルネストとティエリーティアは、彼らと分かれると、今度は屋台の方に引き寄せられていった。
「あ、うまそーなにおい! あの屋台覗いていいか!?」
「あー、なんかあまーい匂いがする……。ウィル、ボクあのチュロスほしいですー」


 遊園地内の広場に、たくさんの可愛らしいイスと机が並んでいる。
 ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)がテーブルについて、ファンシーな紙コップに入った飲物を飲んでいる。
 二人ともに美青年なのだが、この可愛らしい空間に二人で座っていると、妙な違和感が醸し出される。
「こんな作戦、上手くいくはずがなかろうに……」
 ヨヤがつぶやく。スヴェンも額に線が入った調子で言う。
「ティティの身が危険に晒されているかと思うと……うう……胃が痛い……」
 二人のパートナーは、ヘルを誘い出して懐柔する作戦なのだ。
 何かあったら携帯電話に連絡が入るはずだ。ヨヤとスヴェンは携帯電話に全神経を集中させ続けた。

 その頃、ヨヤとスヴェンのパートナーはというと。
「ふひひひ……今度こそオバケ屋敷入ろうぜ、ティエル!」
「や、いやですっ! オバケ屋敷は絶対に、やーですう!」
 作戦の事など、すっかり忘れて遊園地を満喫していた。


 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はヘルの手を引いて、皆のいる方へ連れていく。だがヴァーナーは表情を曇らせて言った。
「あのね……呼雪おにいちゃんがなんだかへんなんです。
 おにいちゃんの友達がわるいことをしてるのかも?
 鏖殺寺院の人かな? どうしてわるいことをするの? たいせつなコトのため?
 むかしのきまりとか、うんめいなら、かえちゃえばいいのに」
 ヴァーナーはしょんぼりとうつむき、目には光るものがある。
 ヘルは、ヴァーナーの頭をそっと抱き寄せた。
「そうだね。変えられるものなら……変えられるといいね」
 ヴァーナーは何かを感じたのか、小さく首をかしげた。
「おにいちゃんも、なやんでるの? 元気だしてね」
 ヴァーナーはヘルにハグした。ヘルはほほ笑み、ヴァーナーを抱き上げると、自分の肩の上に乗せた。
「そろそろ皆と合流しようか。迷子で呼び出されちゃう前に」