空京

校長室

建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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パラ実校長


 イリヤ分校。
 地元パラ実生と支援にやってきた生徒たちが、井戸作りに必要な石を集め、運んでくる。
 石が採れる場所には、パラ実生の白菊珂慧(しらぎく・かけい)が案内した。もっとも珂慧は方向感覚が鈍いので、実際には同行するパートナークルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)が案内したようなものだ。
 珂慧は、砕音から聞いた井戸内に埋め込むのに適した石の条件についてメモし、それに従って石を探している。
 石を運ぶ者のうちでは特に、薔薇の学舎アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)が白馬に石を積んで、大量に運んでいた。パートナーのスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)の白馬も一緒に連れて行き、二頭がかりで運ぶ。
「お待たせしましたー。石の到着です」
 地面に石を並べて仕分けしていた、学友の瑞江響(みずえ・ひびき)がアレフティナを出迎える。
「随分と持ってきてくれたようだな。助かる」
 響はアレフティナと協力して、石の入ったカゴを馬から下ろす。
「アイザック、新しい石が来たぞ」
 石を大きさ別、さらに質や色ごとに丁寧に分けていたアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)が熱中した様子で「うむ」と返事する。響のために、と始めた支援活動だが、いざ始めてみると几帳面な性格を、存分に発揮しているようだ。

「みんな、そろそろ休憩にしないか? おいしい紅茶と茶菓子を用意したぞ」
 バトラーのスレヴィが、スキルのティータイムでお茶の用意をする。
「へえ、こじゃれたお菓子だな」
 珂慧がのぞき込み、さっそく菓子を口の中に放り込む。
 他の者も誘われたように、用意された紅茶のまわりに集まってくる。
 アレフティナがパラ実生に聞く。
「皆さんは、普段はどういう物を食べてるんですか? ……ウサギ肉とか言いませんよね?」
 ちなみにアレフティナは、丸っこいウサギのゆる族だ。
「なんでも食うけど、最近のイナゴはあんまり、うまくないなぁ」
「イナゴ、ですか?」
「デカいだけで、固いしマズいんだよー。元々この辺りにいるイナゴは、けっこうウマいんだけどな」
 アレフティナはイナゴの味について考えこんでしまうが、代わって響が言う。
「この地方の人は質素な暮らしをしているのだな。俺の故郷でも、イナゴの佃煮と言う物があるが……たしかパラ実の校長は日本人じゃなかったか? その人が、そうした習慣を持ち込んだのだろうか?」
 パラ実生は首をかしげる。
「どうなんだろうなぁ? けっこうな爺さんだったから、それもあるかもな」
 同じパラ実生の珂慧が聞く。
「君は校長先生を見たことあるんだ? どんな人だったのかな? パラ実生をまとめられてたなら、スゴそうだけど」
「案外、人の良さそうな爺さんだったよ。もっと怖いのかと思ってたんだけどな。でも取り巻き連中は、前科何十犯みたいな凄みのある奴らだったから、裏じゃスゴかったのかもしれないな」
 スレヴィが紅茶のお代わりを注ぎながら言う。
「そんな人なら、実は生きていた、なんて事もあるかもな」
「それも有るかもしれないね」
 珂慧はお茶を楽しみながら、そう答えた。


 キマクオアシス近くにある波羅蜜多実業高等学校の壊れた校舎は、ドージェ信仰の聖地として賑わっていた。
「ワシこそがパラ実校長の石原なのじゃよ」
 声を潜めて言う老人がいる。
 このキマク周辺だけで、自称石原肥満はいったい何人いるだろうか。
 露店では「石原肥満50歳の時のしゃれこうべ」といった類の怪しい石原グッズが、まことしやかに売られている。
「商魂逞しいと言うべきでしょうかね……」
 蒼空学園の樹月刀真(きづき・とうま)は呆れた様子だ。
 同行するパラ実生の性帝砕音軍見習いハイドラ・佐藤(はいどら・さとう)が、露店のしゃれこうべに食いつく。
「ヒャッハー! ちょうどいいッ。これでパラ実校長の死んだ証拠にならねぇか?」
「なりませんよ。それは、おそらく猿の頭蓋骨でしょう」
 刀真は冷静に返す。
 これもパラ実生の緋月・西園(ひづき・にしぞの)が言う。
「『死んだ証拠』らしきモノがあればいいんでしょう? 誰も真実など欲しがってはいないわ」
 しかし、それをパートナーの泉椿(いずみ・つばき)が否定する。
「生きてるかもしれねえ奴を死んだことにしていいのかよ! 一人くらい泣く奴がいるかもしれねえだろ。寂しいじゃねえか」
「そうですね。校長を心配している人達の為にも生死をはっきりさせた方がいいはずです」
 刀真は言う。多少の前途多難を感じないではない。
 しかし蒼空学園生の身で、キマクオアシスにて石原肥満について聞きまわって無事なのは、ハイドラや椿が一緒に行動するからだろう。彼らパラ実生は、砕音のために石原校長の消息をつかみたいと考えていた。
 椿がふと思いつく。
「そういえば、石原校長のパートナーって、どうなったんだ?」
 それには刀真のパートナー漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が答えた。
「資料によれば、校長は契約者ではない、パートナーのいない人間よ。学者や観光客が時々使っている、持ち運べる小型結界を常時使用していたようね」
 銅鑼魂龍一(どらごん・りゅういち)がそれを聞いて声をあげる。
「なにぃ?! それじゃ校長は弱かったのか?! ……ドージェは、強い奴と戦って校舎を壊したと思ったんだがなー」
 刀真が言う。
「戦闘力では契約者には及ばなかったでしょうが、それでも開拓を行なうという強い意志があった人物、と日本ではされているようです」
 ハイドラが、危ない手つきでバイクのハンドルを握る。
「やっぱ、ここは這い出てきた校長をオレがバイクではねちまって、怖くなってそのまま埋めたって言い張るぜ! 性帝砕音軍見習いM(マゾ)系四天王のこの俺が、アニキのために犠牲になるぜぇ〜。どんな拷問にも耐えて見せるッというか喜んでッ!」
「なんのカミングアウトよ」
 緋月が呆れた調子で、ハイドラを見る。
 その時、脇の露店商がつぶやく。
「やれやれ……肥満様はご存命だというのに、何を言うておるのやら……」
「ハッ、もうその手は食わねぇぞッ! おまえが石原肥満だってなら、オレのバイクが火を噴くぜ!」
 自分では格好よく決めたつもりのハイドラに露天商が言う。
「……ここで自爆されても困るのだが。南の方のオアシスで肥満様を見かけた、というだけの話だしの。証拠もない」
「おっさん、それはいつの話だ?」
「半年程前だな」
「おおおおおお! そいつぁ、行ってすぐバイクではねねぇとッ!」
「はねんな! 見つけ出して、キマク家の鼻を明かしてやるんだろ!」
 生徒たちの間に興奮が広がる。
 だが刀真は露店商を見据えた。
「なぜ、その事を俺たちに教えてくれたのですか?」
 露店商はニヤリと笑った。
「なぁに、あんたらの先生には昔、私の仇を吹っ飛ばしてもらったからのう。この機会に恩ぐらいは返しておこうと思うてな」

 その後、刀真は御神楽環菜(みかぐら・かんな)校長に、椿はアナンセ経由で砕音に電話して、石原肥満生存の可能性を伝えた。
 環菜は言う。
「石原校長が生きていたと言うの? ……その人物が本当に石原氏であるなら、即刻、保護しなければならないわね」
 だが露天商が石原校長を見たと言うオアシスは、教導団とパラ実の戦闘が激化している地域にあった。