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リアクション
イリヤ分校2
翌日から、本格的に井戸掘り作業が開始された。
だが、いきなり穴を掘るわけではない。砕音は生徒を伴って分校のまわりで、水が出そうな場所を探す。
「井戸なんてテキトーに掘ってれば、できるもんだと思ってたけどなぁ」
パラ実生の伊達恭之郎(だて・きょうしろう)が素直な感想をもらす。
砕音はなるべく丁寧に説明していく。
「水があがってくる場所を探さないと、穴を掘っても何も出なかったり、より深く掘らないといけないからな」
また井戸ができても、作った位置によっては地盤沈下が起きたり、近隣の井戸や湧き水が出なくなったり、水が汚れる恐れもある。
なおイリヤ分校に水源はなく、毎日、二時間かけて隣村の湧き水を汲みにいかねばならない。今日は手の空いた生徒も分校生と一緒に水汲みに行き、自分たちが増えた分の水を確保している。
十年前までは分校の横にも小川が流れていたのだが、パラミタが地球に出現した以降の気候変動のためか涸れて久しい。
だが、それらの条件から砕音は、分校周辺でも掘れば水が出る見込みが高いと踏んでいた。
荒地の中でも植物が生え、特に高めの木が生えている場所は地下水がある可能性が高い。
「この辺り、ちょこっと掘ってみようか」
砕音がシャベルを土に差し入れると、やはりパラ実生の姫宮和希(ひめみや・かずき)がそのシャベルに手をかけて止める。
「ここは俺が掘るぜ! 病み上がりなんだから無理するなよな!」
「ありがとう」
砕音はちょっと驚いたようだったが、嬉しそうにほほ笑んだ。
すると伊達恭之郎(だて・きょうしろう)も和希と一緒に、猛然と穴を掘り始める。
「姫やんが掘るなら、俺もパラミタの底を掘りぬくまで掘ってやるぜー!」
砕音が苦笑する。
「今は水が出そうか、土の湿り気を確かめるだけだからな? そんなに深くしなくていいんだぞ」
天流女八斗(あまるめ・やと)が恭之郎の張りきりぶりに少々呆れつつ、声をかける。
「これはお勉強でもあるんだから、ちゃんと手順を覚えるんだよ、恭ちゃん。それに砕音先生にも、ちゃんと礼儀正しく聞かなきゃね?」
「おおおおおおお!」
がんがん穴を掘る恭之郎からは、返事なのか、かけ声なのか分からない声が返ってくる。
「おっ、言われてみりゃ、下の方が黒っぽい濡れた土になってきたな」
和希が土を触って、その感触を確かめる。
やはり、その付近が有望だ。
それから工事の安全性や使い勝手を考えて、さらに井戸の位置を絞りこむ。
「へへっ、とりあえず井戸予定地って書いて差しとくか」
和希は井戸を作ると決めた場所に、「井戸建設予定地」と記した板切れを嬉しそうに立てる。
パラ実を復興させるのが、和希の夢だ。だからキマク家やパラ実生徒会、校長会議がパラ実復興に興味を示さない事が、悔しかったのだ。
(俺達で復興を盛り上げて見返してやるぜ)
「井戸建設予定地」の板を見ながら、和希は改めて心に誓った。
その後、砕音は改めて生徒を集めて、井戸をどこに掘ったらいいかの説明を始める。
説明の中で、五千年前にはシャンバラ大荒野も緑あふれる大地だった事を聞き、砂原かけたことパンティー教団団員一号(ぱんてぃーきょうだん・だんいんいちごう)が手をあげた。
「はい、先生、質問です。
あのアトラス火山の噴火が収まれば、この涸れた大地も昔のような緑豊かな世界に変わるんでしょうか……?」
かけたは、砂塵の向こうにかすんで見える巨大火山を指して聞いた。
「うーん、面白い質問だ。
確かに火山の噴煙も植物の成長に影響してるだろうけど、この地方が荒野になったのは、王都シャンバラが破壊された時に一緒にこうなったとか、パラミタ大陸が地球上から消えた時の大規模な気候変動が原因だと言われている。
逆に、現在またパラミタが地球に現れた事で、シャンバラ各地で五千年前の遺跡や地形が突然復活した、という報告もある。ただ、それが必ずしも良いモノとは限らないんだけどな。異常気象や生物の異常発生もそれに関係しているフシがある。
蒼空学園の近くでも夏前に、人間サイズの巨大ガマが急に現れたりしたな。
だから、シャンバラ大荒野にある日突然、五千年前の緑の大地が復活する可能性も無いとは言えないが……そんなあやふやな話をアテにするより、行動した方がいいと思うんだ。たとえ、この場所が復活した湖の底になったとしても、経験で得た事はマイナスにはならないからな」
砕音の説明を聞きながら、かけた=一号は
(このままずっと砕音先生と一緒にいられたら良いのに)
と、遥か昔のシャンバラ女王に願った。
蒼学学園所属ながら【性帝砕音軍】に入った坂下鹿次郎(さかのした・しかじろう)は、ここぞとばかりに、物珍しそうに砕音の話を聞くパラ実の不良や現地人に言う。
「あの人に教われば、他人に頼らずとも地力で行なえるようになるでござる。そして強者に負けない強さを得る為の教えも、きっと請えるでござるよ。
鹿次郎の言葉に、興味を引かれた様子の者もいる。
(人は師と仰げる者にこそついてくるのでござるよ……!)
鹿次郎は、個別に質問者に説明をしている砕音に、心でエールを送った。