空京

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建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

リアクション



ドージェ3


 ドージェを狙ったミサイルが派手に空中爆発した事で、義勇兵やそれぞれの事情でドージェを探していた者たちが、その方面に集まってくる。
 彼らは教導団の情報を元に、その周囲でドージェを探していたのだ。
 教導団陣地には幻奘(げん・じょう)が残り、パートナーの風間光太郎(かざま・こうたろう)に携帯電話で連絡する。
「ドージェは余裕で進行中だそうアル。サル(光太郎)も何かしらの発見があったら報告を頼むアル。特に美人の女性を発見したら、名前を聞いた上で絶対報告……」
 ぷち。光太郎は最後まで聞かず、携帯を切った。

 義勇兵の風祭隼人(かざまつり・はやと)は、取り巻きがまだ混乱から醒めないうちにドージェに近づき、頼んだ。
「教導団とパラ実との戦いを止めるための協力してくれないか? せめて参戦をしないでくれ」
 彼に気づいたパラ実生が「勝手な事、言ってんじゃねえ!」と隼人につかみかかる。隼人は押さえつけられながらも、声を張上げる。
「パラ実の信仰対象であるドージェ・カイラスがパラ実側として参戦してしまったら、今回の戦争を始め、キマク家やS級四天王の暴走を止められなくなって、大きな悲劇を生む事になるんだ! 頼む!」
 しかしドージェの返答はない。
 アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が仲間と共に、取り巻きから隼人を助けにかかる。
「隼人ったら無謀なんだから!」



「ついに神ドージェ・カイラスと拳をあわせる時が来たッ!」
 老いて尚、武の向上を目指す水洛邪堂(すいらく・じゃどう)が感動の面持ちで、ドージェに歩み寄っていく。
 その背後に光太郎が現れ、気絶させようと雷術を繰り出す。
(下手にドージェ殿を刺激されては堪らん)
 彼はドージェと戦おうとする者を止めようとしていた。しかしニト・ストークス(にと・すとーくす)が割って入る。
「御爺さんはやらせないよっ! どっか行けーっ!」
 ニトは邪堂の代わりに雷術を受け、ビリビリしびれながらも一生懸命にワンドを振り回す。
「水洛邪堂、いざ……参るッ!」
 邪堂はバーストダッシュで一気に飛び込む。太い腕で、軽く打ち落とされた。
 邪堂はその腕に取り付こうと考えていたが、考えてはいても実力はまったく及ばない。ニトは気絶した邪堂を引きずって、逃げにかかる。
 光太郎はさらに、ドージェに向かおうとする者を止めようと戦うが。
「腰巾着どもめ。邪魔なのだよッ!」
 イクレス・バイルシュミット(いくれす・ばいるしゅみっと)が彼を、その行動からドージェの取り巻きと判断してバイクで轢きにかかる。
 ドージェに挑もうという者は、やはり腕に覚えのある猛者ばかりだ。光太郎には、とても対処できない。
 邪堂の突っこんだ後に、教導団のナイスガイ(自称)セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が軍用バイクで突撃する。
(神と崇められるドージェと一戦まみえるチャンス! これを逃す手はありません!)
 だがセオボルトは驚愕の事実に気づく。
 彼はメイドだった。
 先日「男も家事くらい出来ないとダメだ」と思い立ち、メイドの修行を始めたのだが。
 セオボルトはドージェとの戦いに高揚し、着替えるのを忘れてメイド服を着込んだまま最前線にやって来ていた。
 だが今さら引く事はできない。
「自分は、誉れ高きシャンバラ教導団士官候補生セオボルト・フィッツジェラルド! 武神ドージェに戦いを挑みましょう!」
 エペを天に掲げ、メイド服をたなびかせ、高らかに名乗りをあげる。そして一太刀浴びせんと、踊りかかる。
 あまりの速さに見えないドージェの拳が、セオボルトを叩き飛ばし、一撃でノックアウトする。セオボルトはやり遂げた漢の顔で(?)、気絶した。メイド服がまぶしい。

「……?」
 ドージェが自身の背中をのぞきこんだ。
 何者かが、そこにしがみている。パラ実のクー・ポンポン(くー・ぽんぽん)だ。
 ドージェと目があって、クーは嬉しそうに、にっこり笑う。
「ドージェ! クーとあそぼっ! 岩みたいな、すっごい背中だね!」
 クーはドージェを大きな動物か何かだと思っているようだ。ドージェは片手でクーをそっと抱き上げると、少し離れた所に下ろす。そして彼を無邪気に見上げるクーの頭を大きな指でなでようとし、自分の手指が血まみれなのに気づいて、手を引っ込めた。
 代わりにマレーナが、クーの両肩を軽く押さえ、ほほ笑みかける。
「今、ドージェ様のまわりは危険ですから、下がっていましょうね」
「あっ、マレーナおねえちゃん、こんにちはー」
 マレーナはクーについた返り血を拭き取りながら、彼を下がらせる。
 離れた草むらで、通りすがりのアライグマのフリをして事の顛末を見ていたクーのパートナー、アーライ・グーマ(あーらい・ぐーま)は目を丸くしていた。
 クーをドージェに向かってブン投げた後、お星様になったクーを回収しようと待機していたのだが、どうやらその必要は無いようだ。


 その間に、ドージェはふたたび戦いに戻っていた。
「くっ……強い! だが、ここで奴を止めなければ、また何処かで被害が出る。必ず止めてみせる!」
 ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)が拳を固める。
 ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)が皆に呼びかける。
「バラバラに攻撃してもやられるだけだ! 皆で協力して、かかろう!」
 真口悠希(まぐち・ゆき)が凛とした口調で言う。
「ええ。戦場では生きたいという者が死に、死を覚悟したものが生き残ると言います。諦めずに頑張りましょう!」
 前田風次郎(まえだ・ふうじろう)が不敵に笑う。
「団長に傷を負わせた男だ。俺が挑んだところで勝ち目はないだろう。だからこそ面白いのではないか!」
 強大なドージェを前にして、風次郎たちの戦意はむしろ上がっている。
「よし! 行くぜ!」
 ベアが口火を斬り、一同は一斉にドージェへ突進していく。
 しかし彼らをアシッドミストが襲う。魔法を放っのは、先日に四天王を拝命したばかりのガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)
 彼女はドージェについて知りたいと、彼と行動を共にしていた。
 ガートルードが雅刀をかまえ、ドージェに向かおうとする生徒たちを見据える。
「そう簡単にドージェと拳を交えられると思わないことですね」
 彼女に従う舎弟たちも「ドージェ様と戦おうなんて百万年、早えぇんだよ!」などと怒鳴りながら、生徒たちに向かっていく。
 マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が舎弟に大鎌で斬りかかる。
「ベアの邪魔はさせないよっ!」
 ハロウィンの死神のごとく大鎌を振るうマナに、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)がライトブレードで応戦する。
「それは、こっちのセリフじゃえけのう!」
 シルヴェスターは(わしがガートルードの盾になっちゃるけん)と、パートナーの防衛に徹する。

 縁の下の庶民派ヒーロークロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、ドージェの背後に走り寄る。狙うは弁慶の泣き所だ。
(卑怯上等ッ! 最強相手なら反則技ぐらい使わないと、怯ませる事すらできないでしょうからね!)
 クロセルはドラゴンアーツで、ドージェの足に襲いかかる。
(ここだけは……獲ります!)
 ドージェが足を上げ、大地を踏みしめるように下ろした。

 ぷち。

 クロセルは、ドージェの足の下の庶民派ヒーローとして、人々の眼前から消えた。
 その様子を空飛ぶ箒に乗って見ていた彼のパートナー、チビッコドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は大きくため息を吐いた。
「はぁ〜、やはり自身の雑魚っぷりをアピールする結果に終始したな」
 マナは後でぺっちゃんこになったクロセルを回収するために、網の準備を始めた。

 前田風次郎(まえだ・ふうじろう)は舎弟の攻撃をかいくぐり、ドージェに近づいた。
 仙國伐折羅(せんごく・ばざら)と視線を交わす。互いの存在が心強い。
(死力を持って奴に挑み、一撃をかます。そして勝つ!)
 風次郎がヒロイックアーツをドージェに放ち、呼応するように伐折羅がドージェに拳を突きこんだ。
「唸れェッ!拙者の魂よォッ!!」
 しかしドージェは風次郎の攻撃をものともせず、振るった腕で伐折羅を凪ぎなおす。ドージェの腕は止まらず、さらにジェイコブも凪ぎ払う。ベアはディフェンスシフトを使い、仲間を守る事に努める。
 真口悠希(まぐち・ゆき)上杉謙信(うえすぎ・けんしん)と共に、ドージェの眼帯を狙う。ヒロイックアサルトで猛攻をかけるが、ドージェの頭突きで二人ともあえなくノックアウトされる。
 影野陽太(かげの・ようた)はドージェの強さに怯えつつも、遠距離からドージェにスナイパーライフルを撃ち続ける。
 パートナーのエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、彼の周囲を守って魔法を飛ばしている。エリシアもドージェの強さに興味があったが、今は戦慄を覚えていた。
 確かに陽太の弾はドージェに当たって血も飛んでいるが、ドージェがダメージを感じている様子は無い。戦ううちに、弾も体内から押し出されて飛び出していく。
「な、なんですか、あれは……ッ」
 ドージェが腕を振り回すと、巻き起こった衝撃波が陽太とエリシアを巻き込み、遥か彼方へと吹き飛ばす。
 フィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)を小型飛空艇に乗せ、ドージェの背後へと周りこむ。
(今だ……!)
 ドージェが腕を振るった瞬間を見計らい、レイディスはその背に向けて轟雷閃を放とうと跳びかかる。ありえないスピードで戻ったドージェの肘が、レイディスを迎撃する。
「レイディスッ……ああ、もう」
 フィーネは半ば予想していたとは言え、少々あわてた様子で吹っ飛ばされたレイディスの元に急ぐ。

 気づくと、ドージェに戦いを挑んだ者はすべて大地に伏していた。
 ドージェは辺りをつまらなそうに見る。もはや誰も立ち上がってこないのを確認すると、やにわにマレーナをつかみとり、歩み始める。

「待ってくれ、ドージェ!」
 駿河北斗(するが・ほくと)がドージェの背中に叫ぶ。戦いに巻き込まれて傷ついていたが、それでもドージェの元に駆けつけた。
 ドージェに憧れ、パレ実にやってきた彼には聞かずにいられなかったのだ。
「教えてくれ!! あんたはこの戦いに何を見てるんだ?! あんな、下衆野郎の麻薬業者を守りに来たんじゃないよな!? 答えてくれ!!」
 ドージェは無言で歩いていく。ガートルードたちが彼に従う。
 北斗は声を限りに問いかける。
「答えてくれ! アンタは最強なんだろ!? そのアンタが何を守ろうとしてるのか! 教えてくれよ! ドージェ!!」

「強き者が目覚めるからだ」

「え……」
 ただ一言、返事があった。
 ドージェは振り返ることなく、先を進む。腕につかんでいたマレーナを、肩に担ぎ上げる。彼女が「きゃっ」と思わず声をもらすが、気にかける様子はない。
 ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)が北斗にヒールをかけながら、そっと息をつく。
(……何考えてるんだか知らないけど……。パートナーなんて苦労ばかりよね……)
 ドージェに運ばれていくマレーナに、どこか自分を重ね合わせてベルフェンティータは思った。


 リーズ・マックイーン(りーず・まっくいーん)が倒れ伏した者たちに、応急手当したり、水を飲ませて回る。
「しっかりしてください。歩けそうですか? 教導団に連絡しましたから、衛生兵の方が来るまで少しの辛抱ですよ」
 リーズは怪我人たちを、優しく励ましてまわる。
 マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)
「やれやれ、ドージェに特攻などと考える阿呆が、案外たくさんいるものだな」
 とボヤく。そしてペラペラになった(?)クロセルや、伸びている者たちを網に引っかけて自身の乗る箒で引きずり運んでいく。
 ちょっと手荒な運び用に、リーズがかけてきて、彼らを運ぶのを手伝った。