空京

校長室

建国の絆(第2回)

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建国の絆(第2回)

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ドージェ4

 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が鏖殺寺院の林 紅月に電話をかける。
「ドージェが見つかったぜ! 義勇兵とやりあった後、教導団の部隊を蹴散らしながら軍の本陣に向かってるようだ」
 トライブが詳しい場所を教える。
「協力、痛み入る。この礼は、後にまた改めて返そう」
 紅月は礼を言い、ドージェが見つかったと鏖殺寺院の長アズール・アデプターに報告を入れる。


 シャンバラ大荒野に、なかば壊れかけた小屋が建っている。昔は住人もいたのだろうが、今は廃墟同然だ。
 近くの集落から食料を入手してきた真田 幸村が、小屋に入る。
「食べ物と水を持ってきたぜ」
 彼の主ヒダカ・ラクシャーサは、干草の山に寝転がったまま、返事も見向きもしない。
 頭痛を覚えながら幸村は、彼に近づく。
「ヒダカ、少しは人間の食べ物を食べた方がいい。吸血鬼ではないのだから」
「……何を食べたところで、同じ味だ」
 ぼそりとヒダカが返す。

「やれやれ、まさか大荒野の真ん中で引きこもってるとはな……」
 小屋の外で声がして、幸村とヒダカははね起きる。
「何奴?!」
 現れたのは神城乾(かみしろ・けん)だ。
「声をかけたんだから、いきなり襲うって訳じゃないのは分かるだろ?」
 乾は肩をすくめて見せる。
 幸村が「何か用なのか?」と聞くが、ヒダカは乾に殺気を感じないので、また寝転がろうとする。
「そっちのヒッキーに話があって来たんだが。体調でも悪いのか?」
「いつもの事さ……。死霊の力の悪影響か、精神的な物かは分からぬがな」
 幸村が諦めた調子で言い、ヒダカを引き起こし、壁に寄りかからせる。なかば介護だ。
「こちらの兄さんが何か話があるそうだよ」
 ヒダカは乾に視線だけ向ける。乾の真剣な表情を見て、多少は話を聞く気になったようだ。
「ヒダカには話しておきたい事がある……」


(まったく乾ってば、すーぐワタシの事をのけ者にするんだからぁ。失礼な話よね、プンプン!)
 乾のパートナーアニア・バーンスタイン(あにあ・ばーんすたいん)は、そんな事を考えながら小屋をこっそり見張っていた。
 自分を置いてきぼりにした乾を尾行してきたのだ。
 とは言え、シャンバラ大荒野は今日も晴れている。
「……眠い〜」
 アニアはいつの間にか、草の上で昼寝をしていた。

 乾はヒダカに自身の過去を語った。
 彼はテロで家族や大切な人を失っていた。
「ヒダカがやっている事は、ヒダカと同じ境遇の人を作り出すだけだ。分からないのか?」
 ヒダカは暗い声で答える。
「……今、人々を殺そうとしているのはシャンバラ王国だ。最凶の兵器を蘇らせ、過去にしたように地球とパラミタ、全世界を相手に戦争を始めようとしている。……おまえは学校側に騙されているんだ」
 乾はもどかしさに拳を握り締めた。
 ヒダカも乾も、同じモノを憎んでいるように感じる。
 乾は聞いた。
「シャンバラ王国を復興させようという者が、そんな兵器を発掘している証拠があるのか? いや、そもそもシャンバラ王国がそんな物を持っていたのか?」
 ヒダカはうなずいた。
「……俺の村は……その兵器のひとつで滅ぼされた。空を埋め尽くす量の飛空戦艦や大都市を一撃で壊滅させる兵器を、シャンバラは持っていたんだぞ。何のために、そんな物を持つ必要がある……」
 ヒダカは声を震わせた。
 と、場違いな時代劇のテーマ曲が辺りに鳴り響いた。
 幸村があわてて自分の携帯電話に出る。しばらく話し、彼はヒダカに言った。
「ドージェが見つかった。長アズールを警護せよ、とのお達しだ」


「やれやれ……何してんだ、こいつは」
 そんなボヤキが聞こえて、アニアは目覚めた。
「ふわぁぁ〜っ……よく寝たぁ」
「こんな何も無い退屈な野ッ原、とっとと帰るぞ」
 アニアは小首をかしげた。
「あれぇ? ヒダカって人の事は、もういいのぉ?」
 乾は携帯電話を見せる。
「目付け役の兄貴の番号をもらったからな」


「なんなの? このふざけたメール」
 鏖殺寺院幹部、白輝精(はっきせい)が自身の携帯電話を見て、つぶやく。メールには、こうあった。
「組織人間や女子には、ドージェ様のかかげる漢の浪漫なんて分からんのですよ」
(わたしは、ドージェをうまく丸め込む方法を聞いたのだけれどね。休みの日にまで別口の仕事をやりすぎたせいで、壊れたのかしら? あのニコチン中毒)
 これはメールの送信者が「おまえと協力する気はない」という事なのかどうか、白輝精は考えこんだ。


 パラ実生のカート・樺林(かーと・かんばりん)は、地面に落ちている教導団員を回収してまわる。もちろん捕虜にするためだ。
 周囲の不良は、身ぐるみはいで放り出す方針だったが、
「それよりも捕虜として交換させた方が、よっぽど儲かりますよ」
 なにしろドージェの後をついて歩くだけで、面白いように教導団員の捕虜が手に入っていた。
 だが、さすがに教導団団長金鋭峰(じん・るいふぉん)が、無駄に戦力を失うだけだと士官たちにドージェへの攻撃をやめさせた。
 立ち向かう者もなくなり、ドージェはずんずんと先に進んでいく。
 その前方の空間が突如、揺らいだ。
 漆黒の闇をまとい、鏖殺寺院の長アズール・アデプターが現れた。立派な髭をたくわえた壮年男性だが、目つきは異様にギラついているように見える。
 その背後には、長の護衛役としてヒダカと真田幸村も控えていた。
 アズールがドージェに言う。
「力が欲しいのだろう? 我らと共に来るがいい」

 ドージェにはべっていたベントレイ・田中(べんとれぃ・たなか)が、鏖殺寺院に向けて怒鳴る。
「ドージェ様に協力してもらいたいのならば、それなりの力を見せてみろ! 力なき者に協力などせんわ!」
 それに応じるように、ドージェが両の拳を上げた。
 ベントレイはドージェの心情を勝手に推測して叫んだのだが、どうやら合っていたようだ。
 ヒダカと幸村が武器を構える。
 ドージェがアズールと睨みあった。
 やがてアズールが吐き捨てるように言った。
「……愚かな奴よ。交渉と言うものを知らぬ、所詮は蛮族の頭か」
 先程と同様に空間が揺らぎ、アズールとその護衛者は消えた。
 ベントレイは高々と宣言する。
「やはりドージェ様は神であり、何者にもなびかぬ至高の存在である!」
 周囲で固唾を呑んで状況を見守っていた、ドージェの取り巻きたちが、ベントレイの言葉に共鳴して雄たけびをあげる。
 ドージェは見返る事もなく、ふたたび歩み出した。