空京

校長室

建国の絆 第4回(有料版)

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建国の絆 第4回(有料版)

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脱出


 空京市内で観測していたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、モニタを見て歓声まじりに報告する。
「寝所内の異常な反応、すべて消えました! ダークヴァルキリーも、モンスターの群れもすべて消えたようです!」
「……終わったの?」
 天穹虹七(てんきゅう・こうな)が遠慮がちに聞いた。
「ええ! 空京は助かったのよ!」
 アリアは虹七をぎゅっと抱きしめた。アナンセが言う。
「アリアさんもお疲れ様でした。虹七さんも……ありがとう」
 アナンセに頭をなでられ、虹七ははにかんだ笑顔を浮かべた。


 まだ煙がくすぶるシャンバラ宮殿。その上空に寝所が浮かんでいる。
 だが寝所は、見る見るうちに水晶化していく。外壁から備品まで、寝所にあったすべてが水晶と変わる。
 やがて巨大な水晶の固まりと変じた寝所は飛行能力を無くした。
 何トンなのか計り知れない量の、巨大な水晶の塊が直下のシャンバラ宮殿に落ちていく。そして宮殿の庭に轟音を立てて突き刺さり、破片となって崩れていく。
 人々が驚き見上げる先で、一隻の飛空艇が宮殿上空から降下してきた。寝所にあった救命艇だ。
 寿司詰め状態の船内から、寝所の中に残っていた北斗やアイシス達が降りると、人々が何が起こったのか聞こうと取り囲んだ。
 エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)エルサーラサイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)が救命艇の背後から近づいた。エルシュは声を潜めて、船内に言う。
「こっちだ。この先に味方の飛空艇が止めてある」
 救命艇の壁が開く。こちら側にも出口があったのだ。
 船内では、不思議そうな表情の砕音に、ラルクが真剣な表情で言う。
「砕音……今は黙って俺についてきてくれ……」
 砕音は驚いたようだったが、かすかに頬を染めてうなずいた。

「スゴイ騒ぎになってるな?」
 ラルクが砕音を抱きかかえて出てくると、エルサーラが小型飛空艇を示す。
「長話してる暇はないわよ。さあ、後ろに乗って。本当は一緒に乗せてあげたいけど、定員2名なんだよー。ごめんよー。すぐ、そこまでだから」
 砕音はエルサーラの後ろに、ラルクはペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)のバイクの後ろに乗る。
 エルシュが先導して走り出した。

「あれ? 砕音先生?」
 クイーンヴァンガードの一人が、砕音に気づいた。隊員はいぶかしげに追いかけようとする。
 と、その隊員の後頭部に水洛邪堂(すいらく・じゃどう)の拳がヒットした。
「おおっとぉ! 手が滑ったわい!」
「おい、爺さん……」
 ヴァンガード隊員がにらむが、邪堂はうそぶいた。
「ほっほっほ、手が滑るのは年のせいかのぅ?」
 言葉に反して、こんなに丈夫そうなマッチョ老人は、なかなかいない。
「怒りっぽいのは修行が足らんせいじゃな。ちょいともんでやるかね。ひょーっほっほっほっ!!」
 邪堂は手加減しつつ暴れだした。その肩にはドラゴニュートニト・ストークス(にと・すとーくす)がしがみつき、邪堂の死角を取ろうとする者に火の玉を投げつける。
 邪堂が足止めしているうちに、エルシュ達は待機していた味方の飛空艇に辿り着ついた。先回りしたパラ実生が、すでに出発準備を行なっている。
 エルシュはラルクと砕音に笑顔で言った。
「障害があるほど絆は強くなるよ。応援してる。俺の好きな人も同性だからっていうのもあるけどね」
「ありがとう」
 砕音ははにかんだ笑みを見せる。
 エルシュはそれからラルクと砕音それぞれに、薔薇の花束とクッキーの袋をプレゼントした。
 クッキーはディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)の手作りだ。非常食だが、エルシュは無骨に渡すのは趣味じゃないと、綺麗にリボンをかけてある。
「アナンセさんには私が伝えておきますね。後から彼女が合流できるようにします」
「ああ、頼んだ」
 ディオロスの言葉に、砕音がうなずく。
 一方、ラルクにはペシェとエルサーラが言葉をかける。
「すごい筋肉だね。筋肉って一度爆発させてから休ませると、もっと強くなるんでしょ?だったら今は休む時だよ。恋人さんの体の事も心配だしね」
「お前は優しいな。絶対砕音を裏切るなよ」
 エルサーラがラルクの肩を叩く。ラルクはくすぐったそうに笑う。
「みんな、サンキューな!! ……おっさん、感激したぜ。砕音は絶対、守るからな!」
 ラルクは砕音を連れて飛空艇に乗り込んだ。
 飛空艇は大急ぎで離陸し、空京を離れるために飛んでいった。