空京

リアクション

戦いの結果


　今回の戦いで、蒼空学園とクイーンヴァンガードには多数の死傷者が出た。
　戦いの矢面に立たされた事に加え、怒り狂ったエンプティが吐き出したり、一部の教導団員が誘導したモンスターの群に襲われた事が大きい。
　蒼空学園はシャンバラ教導団に魔物をけしかけられた件を厳重に抗議した。しかし教導団の返事はこうだ。
「複数の命令系統が交錯する、混乱した戦場で起こった不幸な事故である。貴校の犠牲者には心から哀悼の意を表する」
　おそらく、この判断は体調の悪い金鋭峰（じん・るいふぉん）団長ではなく、代わって団の運営を担う上層部の何者かが下したものだろう。
　なお教導団では、ダークヴァルキリー戦では成果は得られず、モンスターとの戦いや鏖殺寺院の長アズールの強襲で、一般兵に多数の死者が出ていた。
　一方で、技術科や秘術科では、黒乃音子（くろの・ねこ）率いる黒豹小隊や、ノイエ・シュテルンの香取翔子（かとり・しょうこ）と青野武（せい・やぶ）が寝所で回収してきた、端末などの物資から成果を得ていた。
　実際の部品やレアマテリアルとしての価値に加え、動く機械としての構造や働きを知れた事が大きい。今後の戦いに投入すべく教導団が開発を進めていた兵器にも、それら技術が転用できるだろう。
　
　またモンスターに襲われた空京市長マーガレト・ベルモンドは、重傷を負って数ヶ月の入院となった。
　それを報じるニュースでは、実際に市長を助けたのは蒼空学園の風森巽（かぜもり・たつみ）であるのに、空京警察が守った事になっていた。
　市長がなぜ庁舎で一人になったのか、また何事をしようとしていたのかは、不明とされたままだ。

　散々な状態の蒼空学園だが、少ない成果は蒼空寺路々奈（そうくうじ・ろろな）が古代遺跡から連れ帰ってきたマンティコアだ。寝所とは関係ない。
「運が悪いわね。砕音先生に会いに来れば、当の先生は誘拐？されてるし」
「砕音先生、早く見つかるといいんですけど……」
　ヒメナ・コルネット（ひめな・こるねっと）がそう話しながら、マンティコアのたてがみをブラシでとかす。
　マンティコアは当面、蒼空学園で世話をする事が認められた。かなりの部分を忘れているとは言え、彼の古王国時代の記憶は役に立つはずだ。
「そういえば、君の名前、なんて言うの？　学園で暮らすなら名札くらいいるわよね」
　路々奈は特大サイズのネームプレートを用意して聞く。
「生活の場での我が名、という物は無い。役目のままに『守護者』と呼ばれるのみだ。魔法名はあまりに長く、普段の暮らしには向かぬからな」

　同じ頃、御神楽環菜（みかぐら・かんな）校長の前に、ふたたびクイーン・ヴァンガード親衛隊隊長ヴィルヘルム・チャージルと、彼のパートナーで新日章会の北条真理香（ほうじょう・まりか）が集っていた。
「申し訳ありません。砕音・アントゥルース（さいおん・あんとぅるーす）をパラ実生にさらわれるとは……なんたる不覚！」
「やはり、あの男は引っ立てて、どんな手段をもってしても情報を吐き出させるべきでしたわ」
　環菜は冷たい口調で言った。
「彼も拷問や薬に対処する方法ぐらい学んでいるでしょう。
　少なくとも、イルミンスールや教導団、それに鏖殺寺院に彼を押さえられるよりはマシよ。当面は、タチの悪いパラ実生に拉致された、として捜索するしかないわね」


　パラ実では生徒会が、駿河北斗（するが・ほくと）を「ダークヴァルキリーを倒した英雄」としてＢ級四天王に、それを手伝った朱黎明（しゅ・れいめい）をＣ級四天王に任命した。
　パラ実生徒会としても、そこまでの活躍をされれば四天王に任命するしかない。
　ただベルフェンティータは北斗に、ぼそりと警告する。
「あの生徒会のことだもの。絶対、後で何かあると思うけどね……」



　百合園女学院。
　桜井静香（さくらい・しずか）校長と共に、ゆったりとお茶会を楽しんでいたラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）の元に、ヴァーナー・ヴォネガット（う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと）が駆け込んでくる。
「ラズィーヤさま、砕音せんせいに、これを渡してって頼まれたです」
　ヴァーナーは、石のついた指輪と書状を差し出す。
「見事な指輪ですわね。これは……！」
　アクアマリンのはまった金の指輪だ。石の中に、シャンバラ王家の紋章が浮かび上がる。現在の文明では再現できない工法で作られたようだ。
　指輪をはめると、古代シャンバラ語が頭の中に響く。
　その声は、こう告げていた。

「偉大なるシャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラは（聞き取り不可）を封じるため、我が身を犠牲に眠りについた。
　我々は女王が復活するその日まで、彼女を鏖殺寺院から守らねばならない。
　女王に忠実な神子（みこ）達が、女王の封印を託された。神子達が（聞き取り不可）に集まり、（聞き取り不可）によって女王に呼びかけた時、初めて偉大なるアムリアナ・シュヴァーラは目覚め、我々を導くだろう。
　偉大なる王国の子孫達よ。我らが女王を目覚めさせるため、まずは神子達を探して欲しい」

　一方、書状には鏖殺寺院の紋章が刻まれていた。
　長アズール・アデプターが、シャンバラ各地で活動する幹部に、神子を探し出して抹殺するように命じた内部文書のようだ。

　さすがのラズィーヤも驚きを隠せないようだ。
「ヴァーナーさん、これらをどうやって？」
「それは……」
　ヴァーナーは寝所であった事を、一部始終ラズィーヤに話した。
　すぐに経験豊富な魔術師や細工師、騎士が集まり、指輪や書状を鑑定したが、すべて本物だと結論づけられた。


　その頃、自称アズーズは行くアテが無かったため、寝所から避難した後、ヴァイシャリーのとある屋敷で世話になっていた。
　真口悠希（まぐち・ゆき）が静香校長に相談したところ、ラズィーヤのツテでその家を紹介されたのだ。静香は、反対のケース(？)に共感を覚えたらしい。

「それにしても何故ゴクモンファームに居たんだ？」
　改造人間パラミアントこと五条武（ごじょう・たける）が自称アズールに聞いた。
「ふっ、あそこではメシが出てきたからな！　それを突然、役立たずだから出ていけなどと……ひどい奴らめ！」
　辛抱強く聞いていくと、自称アズールはずっと、どこかに閉じ込められていたらしい。だが、ある日突然、魔力が強くなってテレポートできるようになり、そこを脱走。とりあえず食べ物を探してテレポートしまくるうちに、偶然、ゴクモンファームに行き着いたようだ。
　そんな話をしている所に、百合園から使者がやってくる。
　例の指輪や書状について「アズール・アデプター」を名乗るからには何か知らないか、と言う訳だ。
（無駄だと思うがなぁ）
　武は思う。すでに、なぜ鏖殺寺院の長アズールを名乗るのか聞いたが、返事は「周りから、そう呼ばれていたから」だ。
　案の定、書状については「こんなもの、知らん！」の一言だった。
　しかし、指輪の最初の聞き取れない所にひどく反応する。
「うわあああああ！　怖いぃぃぃぃ！」
　真っ青になって暴れだす自称アズールを、武が抱きとめる。
「大丈夫だ。守ってやるから心配すんな」
「うわあああああ！　気安く触れるなあぁぁぁ！」
　自称アズールは今度は真っ赤になって、悠希の背後に逃げこんだ。
「大丈夫です。それが何か教えてくれれば、ボク達もあなたを守れます。ね？」
　悠希に頭をなでられ、自称アズールは泣きそうな顔ですがる。
　怖がっているのは、シャンバラ女王が我が身と引換えに封じた何かだ。
「あ、あれは何か分からんが、すごく怖いぞ！　世界なんか、あっさり壊されてしまうぞ！」
「あなたは、それを知ってるんですか？」
　悠希は自称アズールの手を握って、落ち着かせながら聞く。
「……知ってるかもしれないが……よく思い出せない」
　しかし「世界を壊す存在」など聞き捨てならない。使者は、それを校長達に報告する事にした。
（これから面白い展開になりそうだぜ）
　女王候補ミルザムに反感を抱く武は、ニヤリと笑った。


　ヴァイシャリー家は、指輪の言葉を公開し、シャンバラ女王を目覚めさせるため、その忠実な臣下である神子（みこ）を探すよう、シャンバラ全土と各学校に呼びかけた。
　神子達が集まって、なんらかの儀式をすれば古王国の女王が蘇る、と言うのだ。
　また、すでに鏖殺寺院が神子の存在を知って狙っており、彼らに先を越されないよう捜索を急ぐ事を求めた。

　神子に関する発表を、六首長家の中でヴァイシャリー家が行なった事は、今後のシャンバラ建国の動向にも影響するだろう。