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リアクション
ヘル・ラージャ 2
ヘルはすっかりコタツの魔力に魅せられていた。
「ぬくぬく〜」
眠りこみそうなヘルの腕を、ドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)がくいくいと引っぱる。
「ねぇねぇ、お話聞かせてよ」
「へ? えー、昔々ある所に……」
「違うよぉ」
ファルはぷくっと頬を膨らませる。ただでさえ呼雪がヘルの世話を焼いている事に、内心複雑なものがあるのだ。
「ボク、昔の事、色々知りたいんだ。パラミタにいた頃の事、ほとんど覚えてないし。
コユキは『もしかしたら古王国は道を誤ったのだろうか?』って言ってたけど……何か思い出せない?」
ヘルは少し考えると、また語りだした。
「昔々ある所に……」
ファルはあきらめて、ミカンに手を伸ばす。しかし、それに続く言葉はいささかファルの予想外だった。
「ある所に、とても豊かな国がありました。
その国の魔法や機械は、とてもスゴいものでした。でもスゴすぎて、今の地球で緑がなくなるように、生き物や人の運命までおかしくしてしまいました。そのままでは、国どころか世界が壊れてしまうかもしれません。
その国のとあるお姫様は、世界を助けようと考えました。でも大変。お姫様は悪い奴らに捕まってしまったのです。
……僕のおかげんが悪いので、つづきはまた今度〜」
ぱたり。ヘルはコタツにつっぷして寝てしまった。
ファルはちょっと迷ってから、彼の背中にどてらをかけた。
「アトラスの傷跡」
「サルヴィン川」
合言葉を確かめ、ファルが扉を開ける。
「お帰りなさーい!」
コンビニに買出しに行っていた七尾蒼也(ななお・そうや)が戻ってきたのだ。
「街が守られたのは嬉しいけど、この辺りも人がたくさん戻ってきてて、この隠れ家がバレないかハラハラするな」
蒼也が、買ってきた物を分けながら言う。
市内のモンスターが退治され、寝所も無くなったため、避難していた市民も家に戻ってきていた。
ヘルは蒼也に買ってきてもらったプリンを、呼雪にまた「あ〜ん」で食べさせてもらう。
その様子を見ていたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がおもむろに切り出した。
「今はこの部屋にお世話になれていますが、今後どちらに行くつもりなのか、予定などありますか?」
「うーん、後の事とか考えてなかったからねー」
ヘルは困った様子だ。そんな彼に、エメはにっこりと笑う。
「予定が立たないなら一緒に考えましょう。しばらく、うちに来ても構わないですよ」
エメの家は、かなりの大金持ちである。
ラーラメイフィス・ミラー(らーらめいふぃす・みらー)がそれに、うなずく。
「しばらく身を隠すのは良いと思いますよ。寺院だって君ばかりを追いかけているわけにはいかないでしょう。逃げ続ければ、いつかきっと……」
ラーラメイフィスはそこで周囲を見てから、ヘルにほほ笑みかけた。
「少なくとも君は、もう一人じゃない」
「ここまで係わった以上、力になりますから、協力できる事があれば言ってください」
エメが鷹揚に笑うと、呼雪もヘルにうなずきかける。
「背負うものがあるなら肩を貸してやる。……まあ、大事なのはヘル自身がどうしたいか、だな」
ココ・ファースト(ここ・ふぁーすと)も言う。
「ボクたち、色々と案を考えますけど、こういう方法もあるよっていうだけで、こうしなきゃいけないって事じゃないんです」
ラーラメイフィスは蒼也の方を見て、ふふっと笑う。
「これからどうされるにしろ、私達はできるだけのお手伝いはしたいです。
ヘルは蒼也の彼女だけでなく、空京全体を救ってくれたんですからね」
「そ、それは今、言わないでも……」
蒼也は照れて、視線をそらす。
「わー、それはおめでとう、かな?」
ヘルまで乗ってきた。蒼也は強引に話を戻す。
「それよりも! 今はヘルが今後、どうするかだろ?」
「そーだった。気分的には、どこか暖かい所に逃げて、何のしがらみもなく、美少年とイチャイチャ暮らしたいけど……数ヵ月後、数年後に世界が終わっちゃいました、とかはイヤなので。色々問題山積みだけど、とりあえず僕に出来る事からしてみようかとー。
知ってる事や立場は利用したいかな」
すると、一応男装しているヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が提案する。
「じゃあ、向こうも混乱してるみたいだし、あたしたちでのっとっちゃうとか。ヘルや私達が鏖殺寺院幹部になって組織の方向性を変えちゃうの。どう?」
ヘルは手を叩いた。
「おー! いいね、それ……って、やっぱダメだ。鏖殺寺院は上に行く程、呪いに捕まるからね。僕は、知識の割りに呪いは薄い方だけど。……ラングレイと回顧派でも結成するかなー。鏖殺寺院が鏖殺寺院になる前の原点に戻すとか。でも当のラングレイが今、負傷療養中なので難しいな。
とりあえずヒダカを探して、彼のスフィアを明るくする手段を探すかなー」
ココ・ファースト(ここ・ふぁーすと)がスフィアと聞いて、ヘルに尋ねる。
「たしか、ヘルが持ってるのは空京のスフィアでしたよね。ヒダカさんは……?」
心配そうなココに、ヘルがうなずく。
「僕も知らないけど、彼がいた所を考えるとね。この後、えー『審判の刻』とでも言おうか。その時にスフィアが暗いと、関係する場所がぐしゃぐしゃぐしゃー」
「そこにいる人って、どうなっちゃうんでしょう?」
ヘルは首を横に振ったのみ。ココは彼に言った。
「このマンションの持ち主さんと繋がりを持てないでしょうか? 食料などの見返りをもらう代わりに、女王様の事とかの知識を提供できいないかなあって思います」
「できたら嬉しいけど、逆にその人、大丈夫かな?」
「それなら、スガヤが聞きに行ってくれますよ」
その頃、スガヤキラ(すがや・きら)はキッチンで、手に持ったカボチャに話しかけていた。そのカボチャには顔がくり抜かれている。
「この隠れ家、役に立ってるぜ。ありがとう」
するとカボチャのどこからか声がした。
「ふぅ……礼を言う割りに言葉遣いを知らない奴よ」
「だって、おまえ、カボチャ男だろ?」
「……。で? この私に何か用かね?」
カボチャは話をそらした。
キラはヘルから聞いた話を、差しさわりない程度に話す。カボチャは唖然とした、ような気がした。
「……つまり最悪、住民もろともグシャグシャな事態が起こりえるという事かね。
もっとも私は別荘がシャンバラ全土にいくつもあるから、別に構わぬのだが、せっかく丹精込めて育ててくれた花々を潰されるのは気に食わぬな」
「え? あの花って誰かがカボチャのために咲かせてたのか?」
「どっ、どーーーでもよかろう、そんなコト!」
また逃げられては堪らないので、キラは話題を戻した。
「今後も、食料などでいい。今回のように協力しあえないか?」
「ふん、貴様は住、食の心配ばかりで衣が無いのは、いただけないな。貴様らに装いという物を勉強させてやるために、何千何万という服、靴、帽子に装飾品を収納した我が別荘に招待してやろう。ありがたく思うがよい。ふっ……」
カボチャが気取った笑いを浮かべても美しくないのだが、そんな事を指摘したら、ショックで割れてしまうかもしれない。キラは黙っておく。
背後でチャランと音がして、地図を巻きつけた鍵がどこからともなく落ちていた。そしてカボチャは黙り、ごく普通のカボチャに戻った。