空京

校長室

建国の絆 第4回(有料版)

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建国の絆 第4回(有料版)

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寝所への突入


 空京にそびえるシャンバラ宮殿上空に、鏖殺寺院が救世主と崇めるダークヴァルキリーの『寝所』が現れた。
 ここを鏖殺寺院殲滅の絶好の機会と見て、各学校は戦力を空京に集める。特に、シャンバラ宮殿を守るクイーンヴァンガードが、寝所攻略の中核として名乗りをあげた。
 しかし、ダークヴァルキリーを倒した学校が今後の主導権を握りやすいと見て、シャンバラ教導団とイルミンスール魔法学校が、蒼空学園及びクイーンヴァンガードへの協力を拒否。この二校が手を組み、蒼空学園側とは別にダークヴァルキリー打破を目指す事となった。
 残る百合園女学院は、同じく日本に基盤を置く学校として蒼空学園に協力。
 また、薔薇の学舎と波羅蜜多実業高等学校は寝所にまとまった戦力は送らないものの、目立つ働きをした者には相応の評価をする、としている。


「おおぉー! これが噂のハンドヘルドコンピュータか。すげーな」
 クイーンヴァンガードに入隊したばかりの渋井誠治(しぶい・せいじ)は、先輩隊員の銃型HCをのぞきこむ。
 同じく新隊員の前原拓海(まえばら・たくみ)が誠治のテンション上がりぶりに眉をひそめる。
「遠足に行く訳では無いのだぞ?」
「分かってるって。おっ、なんか地図が出てきた!」
 拓海は息をつき、自分の集中を高める事にした。
(日本の生命線であるシャンバラを、なんとしても鏖殺寺院から守らねば!!)
 愛国者の彼は、新日章会の入会を志している。この戦いは絶好のアピールの場だ。
 新日章会を志す仲間と共に寝所突入の準備を進めるフィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)が、拓海に目をやり、その様子にほほ笑む。
「拓海様、張り切っておられますね。ふふ。頼もしいですわ」
 彼らが乗る飛空艇は、今まさに飛び立ち、寝所に向かおうとしていた。

 一方、空京市内ではアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は観測拠点に残り、寝所内のナビゲーションをする。
 クイーンヴァンガードに、これまでの観測でできた寝所内のおおまかな地図を送ったのもアリアだ。
(空京は必ずみんなが守ってくれる。私は私の戦いに集中しないと)
 天穹虹七(てんきゅう・こうな)はフリーズしがちな機晶姫アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)に、ヒールをかけて介抱している。
「砕音先生には……アナンセお姉ちゃんが声をかけてあげて……」
「はい、助かります」
 アナンセの言葉は機能上、抑揚がないままだが、虹七の頭をそっとなでる。



 先に寝所に突入していた蒼空学園教師砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)には、同校校長御神楽環菜(みかぐら・かんな)から救助命令が出ていた。
 ダークヴァルキリーの叫びを受けて、一時重体となっていた砕音は同行する生徒達の手当てを受けて、意識を取り戻していた。
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が処置を終えて、砕音の服のボタンをはめる。
 念のため、刻印や痣のような物が無いか確認したが、そうした痕跡は見つからなかった。クナイは砕音に声をかける。
「気づかれましたか。一応の処置はさせていただきましたが、早く専門の処置を受ける事をお奨めいたします」
 横たえられた砕音は、彼らがいる寝所のコントロールルーム内を目だけで見回した。
「……ここはマズイな。ダークヴァルキリーに目をつけられた」
 彼が視線で差す方向。壁から、本来ありえない生物的な触手が生え始めていた。建物がモンスターへ変じつつあるのだ。
 清泉北都(いずみ・ほくと)は、蠢く壁を呆れたように眺める。
「この部屋に篭城するのは無理みたいだねぇ。やっぱり力自慢のラルクさんに先生をお願いするよ」
「おっし。砕音を運ぶのは任せてくれ!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が太い腕の筋肉を叩いて、ニヤリと笑う。全身を鍛え上げた彼ならば、力士でも軽々と運んでしまいそうだ。
「あぁ、でもあんまりイチャラブな運び方は禁止ね?」
 北都の言葉に、どんな運び方を想像したのか、砕音が頬を赤らめながら言う。
「いちゃらぶ……ははは、生徒の前でそんな破廉恥な事できないぞ」
「まァ、おぶるか姫だっこってトコだな」
 ラルクの提示に、砕音は想像してみる。
「おぶるのは恥ずかしいので……皆の前では、ちょっと」
「分かったぜ。二人きりの時におぶるか」
「え」
 赤くなった砕音を、ラルクは軽々と姫だっこで抱き上げる。
「とにかく逃げるとするぜ。お前は……絶対死なせねぇ。……俺が守る!」
 ラルクは砕音を抱きしめ、彼を守る生徒達と共に部屋を出て行った。


 飛空艇が寝所の穴にたどり着く。生徒達は勇ましい声をあげて、突入していこうとする。
 そこへ奥から、何者かが出てくる。身構える突入者達に、ラグナツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)が呼びかける。
「ちょうど良かった。怪我人を運んできたのですよ。当然、その船で病院へ連れていってもらえるのだろう?」
 ラグナの後から、怪我人に肩を貸した如月佑也(きさらぎ・ゆうや)がやってくる。彼らは寝所が地下にあるうちに突入し、怪我人を救助していたのだ。
 佑也が、新たに寝所に入ってきた者達に言う。
「まだ奥に何人も怪我人がいるんだ。収容を手伝ってくれ」
 出鼻をくじかれた様子の突入者達に、佑也はてきぱきと状況を伝える。ダークヴァルキリー復活儀式までに、すでに多くの負傷者が出ているという。
 佑也の報告に、ダークヴァルキリー討伐を高らかに謳っていた者達が意気を削がれる。 宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)が生徒達に言った。
「ここから先に行くのなら、驕りは捨てていきなさい。建国宣言の時の被害どころじゃ済まないかもよ?」
 誰かが、ゴクリとツバを飲む音が響いた。
「もたもたするな! 行くぞ!」
 クイーンヴァンガード親衛隊長ヴィルヘルム・チャージルが激を飛ばす。生徒達はそれぞれの思いを胸に、寝所の奥へと突入していく。
 祥子は湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)と共にその場に残り、飛空艇からの進入口を守る事にする。
 掘削機が開けた穴から差し込む陽光は、寝所の奥へは届かない。
「ここが現世と常世を結ぶ黄泉比良坂。私たちは悪鬼の軍勢を押し止める桃の木ね」
 祥子がつぶやくように言った。

 突入していくクイーンヴァンガードに反応するように、寝所の壁が蠢き、モンスターが這いずり出てくる。
 ハティ・ライト(はてぃ・らいと)がその様子を仔細に観察する。
「ふむ。壁や天井が魔物に変じるとは……興味深い。
「観察してる場合じゃなさそうだぞ!」
 渋井誠治(しぶい・せいじ)がモンスターにアーミーショットガンを撃ちながら言う。禁猟区の守りが頼みだ。
 激しい戦いが始まる。だが、それは以降の戦いの熾烈さに比べれば、遊びのようなものだった。


 寝所のコントロールルームにヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がやってくる。
「あれぇ? 誰もいないみたいです」
「変ですわね。砕音先生達はここだと思ったのですけれど」
 ヴァーナーはセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)と顔を見合わせる。
 そこに天井から何か大きなモノが落ちてきた。セツカはとっさにヴァーナーにとびつき、使い魔の紙ドラゴンを落下物にぶつけて軌道をずらす。
 落ちてきたのは、トゲだらけのスライムのようなモンスターだった。
「セツカちゃん、上がみんなトゲトゲです」
 ヴァーナーが天井を指す。天井一面に同じようなモンスターが、染み出るように現れ出てきていた。
「なんて量……!」
 トゲスライムが体を波打たせ、二人にずるずると近づいていく。
「助太刀しようぞ」
 突然、背後から声と共にサンダーブラストが飛んだ。雷に打たれ、先頭のトゲスライムがドロドロと溶けていく。
「カナタちゃん!」
 紙ドラゴンの群れを従えた悠久ノカナタ(とわの・かなた)が、ヴァーナー達にほほ笑みかける。
「俺も忘れてもらっちゃ困るな」
「ケイ!」
 カナタの背後から現れた緋桜ケイ(ひおう・けい)に、ヴァーナーが駆け寄り、とびついた。
 セツカとカナタは手早く、付近のトゲスライムを魔法で焦がしつつ、モンスターだらけとなったコントロールルームの扉を閉める。
「さあ、こんな危ない所はすぐに離れようぜ」
 そういうケイに、ヴァーナーは懇願の視線を向ける。
「でもでも、会ってお話したい人がいるんです」
「え?」
 ケイの胸の奥がチクリと痛む。
 だがヴァーナーの話を詳しく聞いて、それが杞憂だったと安堵する。
「砕音先生に、この戦いを止めるヒントを聞きに行くのか。だったら俺も手伝うぜ」
「わぁい☆ ありがとうですっ」
 ヴァーナーは輝く笑顔で、ケイに抱きついた。